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第三章 王立学校

妄想と邂逅

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 なかば強引にレインと行動することになり、敵を探して歩いて行く。レインは相も変わらず俺の腕に、自身の腕をぴったり密着させている。

『そのまま雷流しちゃえば?』

『それなぁ……一応考えたけど、腕が治ってない以上味方がいると心強いからなぁ』

 やった後、どうなるのかが分からないっていう恐怖もある。ほら、この子何考えてるか分からないし。

『君……強力な味方を忘れてないかい?』

『強力な味方? そんな奴いたか?』

 味方になりえたかもしれないゲルニカは脱落したし、友人はそもそも決勝にあがっていない。クロバも落ちてしまったしな。

『ふっふっふ……それはね、このボクさ!!』

『……さて、これからどうしたものか』

『ちょいちょい! 無視しないでよ!』

『試合前に言ったろ? お前にはギリギリまで俺の中にいてもらうって』

『そうだけどさぁ、状況が状況じゃん。もう残り20分もないんだし、呼び出してもいいんじゃない?』

『駄目だ。三年ともし出会った時に二人で本気が出せるようにしたい。それに……』

『それに?』

『その、なんだ……お前って結構目立つだろ。見た目の良い人型の使い魔って』

 注目の的になるのは初めこそ悪くなかったが、段々と面倒くさくなったのだ。なんか変な妄想されたりなんだり、そんなことを全校規模でやられたくはない。

 俺の裏の理由を聞くないなや、雷鳴鬼は腹立つほどニンマリとした邪悪な笑顔を浮かべる。

『あれれぇ~? あれあれ~? ひょっとしてボクのことー、超絶可愛い美少女って言ったー?』

『う、うぜぇ……』

『ねぇねぇ~言ったよね~』

『うるせぇ! とにかく、その時が来るまで出るなよ。いいな?』

『分かったよ、仕方ないなぁ。可愛くて物分かりのいいボクは、主人の命に従うよ』

「……はぁ」

 脳内空間で少し相手をしただけで、かなり疲れた。なんかこう、変にテンションが噛み合ってないせいで、こちらの負担が重くなるのだ。そりゃため息も出る。

「どうしたの?」

「ああ。いや、なんでも……って、そろそろ離してくれ。咄嗟に動けないから」

「大丈夫だよ。その時は私が身代わりになるから、ね」

「……はぁ」

 何度ため息をついただろうか。これに似たやり取りを五回はした気がする。それに伴って、俺の記憶にない、二人の思い出話も語られた。初めて行ったデートの場所とか、学校で二人で会ったこととか。
 驚くべきことに、何一つ心当たりがない。完全に妄想の世界だ。

 肉体的にではなく、精神的に疲れた。

『あ、健一。右斜め前の方に誰かいるよ』

 脳内で雷鳴鬼が索敵の結果を知らせてくる。

『何人だ?』

『一人っぽい』

『一人か……』

 さて、ここからどう動くか。怪我しているとはいえ、レインと二人がかりなら勝つ可能性は高い。

 レインは、「私は勝ちに興味はない、から」と言っていたので、ポイントは俺がもらえることになっている。じゃあなんで決勝に……と思ったが、聞かないでおいた。なんとなく想像できるし。

「レイン、あっちに誰かいる。戦えるか?」

「う、うん。もちろん! 47回目の共同作業だね」

 後半部分は聞かなかったことにして、レインと人がいる方に向かっていく。

「あら、お客さん?」

「げ、まじかよ……」

 移動先にいたのは、薄暗い灰色の髪の女性。前の試合で覗き見たことがある、『鉛姫』だ。

「しかも二人……これは幸運やわ」

 狩人のような目つきで舌を唇に這わせる。ゾクッと、蛇に睨まれた蛙のように一瞬怯むが、すぐに我を取り戻し、

「あーえっと、お姉さん。一回話し合わないか?」

 無理そうだとわかっていても、とりあえず平和的和解策を提示するのだが、

「うーん……せやけど、もぉ時間あらへんし―――」

 そう言いながら俺達の背後に鉄の壁を作り出す。あまりにも自然に、しかも驚異的に早い速度で魔法を操る姿におもわず声が漏れる。

「くそ……」

 俺達が逃げられないように退路を封じたところで、

「ほんなら軽く自己紹介。ウチはサカキバラ・サヤノ、三年生や。そんで、君たちは?」

「俺は石動健一、二年。それでこっちが……」

「れ、レイン……です……」

 人見知りが発動し、届くか届かないかくらいの声でレインも自己紹介をする。

「ってことで、今日はこのへんで―――」

 流れのままに帰ろうとするが、すぐ目の前を弾丸が通り過ぎる。一歩前に歩いていたら、今頃こめかみを貫かれていた。

「逃がさへんよ。君たち二人倒せば、一位に躍り出ることになる。そんなチャンス、みすみす見逃すおもてる?」

「ですよねぇ~」

 こうして、俺とレインの即席コンビ対、三年生の通り名持ちの戦いの火蓋が切られるのだった。
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