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第三章 王立学校

恨み、憎悪、嫉妬

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『雷鳴鬼、こっからはガチで勝ちに行く。だから手伝ってくれ』

『いいのかい? たぶん、雰囲気に流されてハイになってるだけだと思うけど』

『んなことわかってる。でも、やりたいんだ』

『ま、別にいいけどさ。で、何をすればいいんだい?』

『まずは敵を探さないとな。頼めるか?』

『仕方ないなぁ』

 文句を垂れながらも顕現し、周囲を索敵するために目を閉じて感覚を研ぎ澄ます。こうやって見ると、コイツも顔は良いんだよな。まるでどっかの姫様みたいだ。

「ちょっと、変な事考えないでよねー。集中できないから」

「悪い悪い。そんで、見つかったか?」

「ええと、あっち。あっちで二人戦ってる」

「よし、じゃあそこに行くか」

 雷鳴鬼を再度取り込み、足早に駆けていく。魔力もフル、因子もいつでも稼働できる。それに、雷鳴鬼を通したパワーアップも出来る。準備はこれ以上ないくらいに完璧だ。

「あれは……」

 雷鳴鬼の示した先にいたのは、赤髪の男と見慣れた小太りの男。戦闘と言うにはあまりにも一方的で、小太りの男がまるで玩具のように弄ばれている。

「—————————纏雷」

 雷を宿し、地に伏している男を庇うように二人の間に割り込む。

「あ? なんだてめぇ」

 思いもよらない乱入者に眉をひそめる赤髪の男。体格はガルドほどではないがしっかりしている。サッカーとかスポーツをやってそうな感じだ。

 目の前の男を警戒しながら、

「大丈夫か、ゲルニカ」

 ゲルニカは泥にまみれ、苦悶の表情を浮かべている。土に深く爪を立て、憎悪をその眼に宿し、

「いす……るぎぃ……」

 助けてなんて頼んだ覚えはない、と言わんばかりの態度だ。俺も別に助けたつもりはない。ただ、近くにいたのがこの二人だったというだけだ。

「てめぇ、イスルギ・ケンイチか」

「俺のこと知ってんのか?」

「Aに入った編入生ってやつで、俺のクラスじゃ有名人だぜ?」

「有名人……」

 普通なら喜ぶところかもしれないが、この男の顔を見るにそうも言えない。まるで、得物を見つけた飢えた獣だ。

「俺様はジャッカル・フェロー。2のDだ」

「ジャッカル……ジャッカル?」

 聞き覚えがある。そう、たしか、

「お前、クロバに振られた奴か!」

「あぁん?」

「そんで逆恨みでクラス巻き込んで、バカみたいに対立する原因つくったって奴だろ!」

「て、てめぇ……!」

 現在も続いているという二年AとDの争い。なんでも、入学後このジャッカルという男がクロバに一目惚れをしたが、あえなく玉砕。
 その後、あること無い事を周りに言いふらし、挙句の果てに同じクラスの女子を巻き込んでクロバへの復讐を始めたらしい。

 その行為にキリヤをはじめとしたうちのクラスも反発し、結果この構図になったと聞いた。

「いやダサすぎるだろ、お前。振られた腹いせとか中学生でもしねぇぞ」

「……ぶっ殺す!」

 俺の言葉で沸点に到達し、怒りの形相でこちらに走ってくる。両手に短刀が二本、陽の光できらりと光る。

 風でブーストされたジャッカルはそれなりの速度が出ているが、対応可能な範囲だ。動きも単調。こんなんでよく決勝にあがれたな。

 刀で全ての攻撃を弾いていると、さらに顔から血管が浮き出てきて、鬼の形相になる。

「うぉら!」

 大振りで右手を払い、生まれた空白に左の短刀を投げつけてくる。しかし、かつて似た攻撃は受けたことがある。無詠唱で『雷撃』を行使し、撃ち落とした。

「なっ!」

 驚きで歪んだ顔に蹴りを一発、慣性のままに吹っ飛んでいく。

「くっ……そがぁ……!」

「終わらせるぞ」

 手を前に突き出し、『雷槍』を三本。それを全て一つに集約し、一回り大きいモノを作り出す。
 逃げられないように、防ぐ時間を与えないようにすぐに放ち、

「があぁぁぁぁ!!」

 叫びと共に木人形の爆発音が響き渡った。

「ふぅ、これで二点か」

 ランキングを見ると、一位の人はすでに9ポイント所持している。生存ポイント4に撃破ポイント4、撃破ボーナスで1ポイントってかんじだな。

 二位はイコ・ユーリシア。一位との差はわずか一ポイント。同率二位が他に三人、俺の順位はこれで六位だ。

 あと一ポイントで二位に躍り出られる状況で、俺は今すぐそれができる。

 後ろに目をやり、倒れたままのゲルニカを見下ろす。

「きっ、貴様ぁ……」

「そんな敵意向けんなよ。同じクラスだろーが」

 個人の勝ちを優先するか、クラスとしての勝ちを拘るか。どうせこのまま放置しても誰かがとどめを刺すだろう。他の人に点を取られるくらいなら、と考える。

「なぁ、どうしたい?」

「……」

 とはいえ、同じクラスメイトにこうも残酷なことはしたくはない。その判断はゲルニカ自身に任せよう。

「このまんまだと他の奴に見つかって即敗退だぞ」

「———くれ」

「ん?」

「まっ、まだ負けるわけにはいかない……だっ、だから助けてくれ」

 もっと反発すると思ったが、案外素直に助けを求めてきた。

「……分かった。ひとまず人に見つかりづらいとこに行こう」

 倒れたゲルニカの腕を取り、俺の肩に乗らせる。見た目から分かる通りかなり重い。

 ゲルニカは確か光魔法が使えたはずだ。安全なところで回復に専念させれば再び動けるだろう。その間に俺は敵を狩りに行って、また合流すればいいか。

 そんな先の指針を考えていると、

「——————」

 不意に耳元で響く声。それが示す意味を考える間もなく、

「がぁっ!」

 左腕に激痛が走り、俺の木人形の左腕が消失する。何が起こったか分からない。だが、さっきまで動けていなかったゲルニカが、そこには立っていた。

「殺してやる……いするぎぃ」

 ありったけの憎悪を込めて俺の名を呼び、自ら開戦の火蓋を切るのだった。
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