異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

作戦会議

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「あ、いたいた石動健一! 心の友よ!」

「はぁはぁ……よっ、ようやくたどり着いた……」

「お前ら! 一緒だったのか!」

 数分経ってようやくキルバス、ゲルニカの二人がやってきた。どちらも何かから逃げてきたかのように息が荒くなっている。

「いやはや、大変だったよ。上級生に狙われて……って、そこのお嬢ちゃんは誰だい?」

「初めまして先輩。クロバ・ユーリシアと言います」

 キルバスの問いかけに、スカートの裾を掴んで丁寧に自己紹介をする。そんな様子に違和感がフルで仕事をして、自分の目と耳が信じられなくなる。

「え、なんでお前けい―——ごぉっ!?」

 指摘を遮るように手の甲に痛みが走る。

 俺の時と態度が違くないか? こいつ……猫被ってやがる。

「かっ、かわいいじゃないか。ぼっ、僕ちゃんはゲルニカ・ユーストンだ。たっ、頼りにするがいいぞ」

 脂汗をギラつかせながらゲルニカは手を前に差し出す。握手…なのだが、クロバはそれに答えずに、

「はい、頼らせてもらいますね」

 と笑顔を炸裂させ、早くも一人懐柔した。

 ゲルニカ……お前は騙されているぞ……

「俺さんはキルバス。よろしくな、嬢ちゃん」

「…………」

 キルバスの自己紹介にクロバは突然黙る。何か悩んでいるような顔だが、傍から見ていればキルバスがガン無視されたようにしか見えない。

 行き場を無くしたキルバスのスマイルは引き攣ったまま彷徨い、俺の元へとやってくる。

「どうした、クロバ?」

「いえ、その……」

「嬢ちゃん、あんま顔背けられると俺さん傷つくぞ? 可愛い目を見せておくれよ」

「お前……それキモイぞ」

「ぐはっ!? だが、俺さんはめげない、しょげない! なんてったって俺さんは、希代のエンターテイナーだからね!」

 大袈裟なポーズで天を仰ぎ、キルバスはしてやったと言わんばかりの顔をする。何かムカつくな。

「それ理由になってるのか?」

「ももももちろん! あらためて、よろしくだ。クロバ殿」

 キルバスがよくわからないキャラの口調のまま握手を求め、クロバは今度こそ、それに応じた。

「はい、よろしく、お願いします」

 また再び猫かぶり状態に戻っている。さっきのあの間はなんだったんだ?

 ▷▶▷

「てな感じで、この四人で動こう。流石にここまでの人数を揃えてる生存者はいないはずだ」

 クロバが仲間になった経緯をぼかしながら教えて、今後の方針を決める。

 他のクラスの生徒を仲間に入れることに反対されるかと思ったのだが、ゲルニカもキルバスもあっさり承諾してくれた。キルバスはともかく、もう一人はきっと、男だったら認めなさそうだが。

 作戦会議で固い地面に座っているのだが、クロバのスカートの中がチラチラと視界の端に映る。絶対分かってやっていそうだが、めんどくさいので口は出さない。
 てかそれ、ゲルニカがガン見してるぞ。

「攻撃する、ということでいいのかね?」

「ああ。たぶんだが、追加される魔導人形は隠れている奴を中心に狙っていくはずだ。俺が運営ならそうする」

 魔導人形という介入は、場を動かすのが目的だ。ならば、膠着しているところ……要は逃げ回って戦わない奴を積極的に表に出そうとすると考えられる。

 魔導人形の操り手はうちの学校の教師陣だ。人形相手とはいえ、大人とやり合うのは現実的じゃない。

 だったら、この数的有利を貫いて孤立している奴を狙っていった方が得策だ。

「できれば先に相手を見つけたい……この中で索敵ができるやつはいるか?」

 見渡すが誰も名乗りをあげない。

「まじかよ……グループとして欠陥じゃねぇか」

 こういうのは役割分担が大事だが、重要な係が誰もいないと来たもんだ。

「おっ、お前が先頭を歩け! そして、もう一人のお前は一番後ろだ! そっ、それで僕ちゃんとクロバたんがまっ、真ん中でいい、いいだろ!」

 魂胆が透け透けだが、悪くないかもしれない。この中で一番強いのはおそらく俺だ。そして、次点はたぶんキルバス。

 クロバの実力の程は分からないが、強ければ援護ができるし、弱いなら中で攻撃を受けないようにしてもらった方がいい。まだ例の糸は繋がったままだしな。

「分かった、それでいこう」

 クロバが「え?」とあからさまに嫌そうな顔をしているが無視する。少しは俺を雑に扱った罰を受けろ。

『雷鳴鬼、少し手伝ってくれ』

『周囲を見ればいいのかい?』

『ああ、俺よりかはお前の方が反応できるだろ』

『仕方ないなぁ~』

 事前にできる限り機嫌を取っておいたのですんなり命令を聞いてくれる。いつもこんなならいいのに。

 ともあれ、俺の内部で雷鳴鬼がアンテナを張ってくれているので少しはマシなはずだ。

 顕現させた方が良いのかもしれないが、できればこの試合では雷鳴鬼を出したくない。決勝を考えるならば手の内は隠しておくべきだろう。

「よし、じゃあ行くぞ」

 ▷▶▷

 俺→クロバ→ゲルニカ→キルバスの順で隊列を組む。

 今は人が集まってそうな中央へ移動中だ。乱闘になっていれば経過を見守ってから襲撃すればいい。疲弊したところを一気に、だ。

 近づくにつれ、戦闘音が聞こえてくる。何かを燃やしたような臭いと、終わりのない轟音の歓迎に肌がピリピリとする。
 予想通り、乱戦地帯となっているようだ。

「———アクア・バレット!!」

「———ファイヤーアロ―!!」

 見た感じのところ一年生が三人、そして三年生が一人生き残っている。

 一年生は同じクラスなのか、三人がかりで三年生を攻撃しているのだが、

「甘ちゃんやわ。期待外れもええとこやな」

「何ッ!?」

 三人の全力をあざ笑うかのように鉄の壁が全てを跳ね除ける。あまりの実力差に顔を青白くし、

「俺が抑える! お前らは逃げろ!」

 リーダーと思われる一人が声を張り上げ、指示を伝える。彼は自身の犠牲を分かった上で判断を下した。そしてそれは、実際にこの上ない最適解だったのだが、

「だめだーめ。逃がさんね」

 先ほどの鉄の壁が二人の後方に出現し、退路を塞ぐ。

「ほな、これで仕舞いやわ」

 鉄の弾丸が風に乗せられ、三人を無常にも貫いていく。圧倒的な理不尽、暴力、これが三年生か……

「強すぎだろ……」

 灰色の髪を靡かせ、余裕の表情の三年生に俺は思わず言葉を漏らしていた。

「あの方は『鉛姫』ですね。三年の中でも上位にいる人です」

「おっかねぇ二つ名だな。てか、強いなら個人戦にいけよって話だよな……」

「三年生の強い方はこの競技に集まりやすいですからね」

 俺の呟きにクロバが声を添えてくる。

「どういう意味だ?」

「ほら、三年にもなると何としても国の方々に自身の力を見せつけようとするんです。なので、少しでも戦いの機会が多い競技に集中する……というわけです」

「なるほどな……」

「それに個人戦では生徒会長が出ますからね。運が悪いと彼の引き立て役になって終わりですよ」

 たしかに、個人戦の方では上澄みの人間が集まる。そこで勝てればいいが、対戦カード次第では一回戦負けもありうる訳だ。

「ひとまずここは逃げよう。三年には勝てる気がしねぇ」

「賛成です」

 仕方なく俺らは撤退することにした。不意を突けば、もしかしたら勝てたかもしれないが、危ない橋は渡るべきではない。



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