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第三章 王立学校

来る祭り

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 編入して約一か月が経過した。

 人間、そのくらいの期間があれば新生活にも慣れるもので、日々の緊張もすこしずつほぐれてきた。

 友人も増えた。キリヤ達以外のクラスメイトともそこそこ話すようになり、着実に交友関係を広げられている。

 なのでそろそろ本来の目的のために動こうと考えたのだが……

「武闘祭が近づいてるから、出場選手を決めようかなって思うんだけど」

 そんなことを言いながら先生が教室に入ってくる。

 武闘祭……まぁ体育祭みたいなものだ。しかし、単に足の速さを競うといったものではもちろんない。

 その名の通り、武を競う。つまり、天下一武道会みたいなやつだ。

 トーナメント形式やサバイバル戦、団体戦だったりと色々な形式で試合が行われ、それをクラス単位で競う。勝ち上がったクラスは卒業後の進路が優位に進むとのことで、ほとんどの生徒が躍起になっている。

 国のお偉いさん達も見に来るそうで、お眼鏡に適えば卒業後の進路に大きく影響するとのことだ。

 俺は別に気にしなくてもいいのだが、必ずどこかに出場しなければならない。緊張しそうだし、やめたい。

「じゃあまず始めに個人戦の方から決めようかな。えーと戦績で言ったら……ガルド君にトウヤ君、健一クンにカペラ君だね」

 先生は魔法実践の結果を振り返りながら上位の生徒の名を読み上げる。俺はこのクラスで三位の位置づけになっているようだ。

 ここで言う個人戦は選抜リレーと似たような雰囲気が醸し出されている。組の全てを背負い、なおかつ一番盛り上がる競技だ。そして、注目度も相まって、他の生徒も出たいと考えるだろう。

「四人の中で出たい人はいるかなー?」

 一瞬にして静寂が教室を包む。まさかの誰もやりたがらないという事態に隣のキリヤが囁いてくる。

「おい、ケンイチいけって。お前なら俺も任せられる」

「いやだ。俺は責任を負いたくない」

「でも強いんだから仕方ないだろ! 俺が代わってやりたいわ!」

「ハナビにいいとこ見せられるチャンスだしな」

「ちがっ! くはねぇけども、その……」

 この世界にも体育祭マジックのような考えはあるのか。でも、あれは嘘だ。結局は誰が一位を取ったかが重要なのであって、実際には黄色い声援は思ったほど飛んでこない。

「やっぱクラスが勝つことを考えると、個人戦が得意な人が行ったほうがいいかなぁ」

 先生は名簿とにらめっこしながら、首をかしげる。

 確かに、何も試合はそれがすべてではない。重要度の違いはあれど、四人の内、集団戦に向いている人は別競技に出るべきだろう。あとは連携とかの相性もあるしな。

 団体戦はもちろん、サバイバルも自クラスの生徒との協力が不可欠だ。なにせ全学年が入り乱れた乱闘となる。

「ん、じゃあ私は団体戦、いきます」

 静寂を切り裂くようにカペラが手を挙げ、個人戦を譲る旨を伝える。俺もそれに便乗させてもらうとしよう。

「俺も、別の競技がいいです」

「ほんとかい? ふむ、確かに二人はこの中でも集団戦向きだね。残りの二人は個人戦でいいかな?」

 ガルドとトウヤはそれに頷き、組の代表者が決まった。

 その流れで団体戦もメンバーが決まっていき、出場種目の振り分けが完了した。

 ちなみに、俺はサバイバルの座を勝ち取った。とはいっても、ここは団体戦にも個人戦にも出ない人の寄せ集めみたいなものだから、団体のメンバーが決まった時点で確定したのだが。

 団体戦の選手は六人。
 うちのクラスはカペラを中心に集まり、カペラ、ハナビ、キリヤ、マリア、グレイ、カイとなった。戦闘スタイルからしても、最善のチョイスだと思う。

 俺達A組は20人いる。サバイバルは残りの12人となるので、それが四つのブロックに分割され、同じタイミングで出るのは三人だ。しかし、これは運営がランダムで振り分けるから、メンバーは完全に運だ。

 えっと、残りの生徒は……

 俺、グラント、ゲルニカ、ルクシオ、ジャックの男子五人。
 レイン、リスカ、ラキ、ルゥ、アメリア、コトノ、キノの女子七人だ。

 この中ならグラントと一緒だとありがたいか。

「イスルギケンイチ。俺さんと一緒になった時のために合図を決めておかないか?」

「あ、そういやいたっけか」

「どういう意味だい!?」

 こいつはキルバス・クロムウェル。最近話すことが多い。黒髪に……と、あまり特徴のない顔だから忘れてしまいそうになる。

 あれ、こいつをいれたら何人だ?

「まぁまぁまぁ、俺さんは寛容な心で許しちゃうけど」

「そりゃどうも。で、お前って何ができたっけ」

「あれぇ!? 俺さんと戦ったことあるでしょーに!」

「すまん、なんか忘れてた」

「ショーーーーック!! でもめげない、しょげない! なんてったって、俺さんは希代の! 希代の……」

「そこで詰まるなよ……」

 ま、話しやすいからコイツでもいいな。

 ▷▶▷

 日は進み、ブロックのメンバーが発表される。

 俺は……Aブロックか。一番最初かよ……

 一日目はA、Bブロック。他は二日目。そして勝ち残った各ブロック十名が三日目の決勝へと進む。

 とはいえ、一発目はどうしても緊張しそうだ。

 おっと、重要なのは他のメンツだ。俺のクラスの他のやつは……

 キルバス、ゲルニカ、アメリアか。

 いや、濃すぎだろ!?

 アメリア・アダムズ、個性の強いこのクラスでも、割と浮いている存在だ。いや、俺が単にそう感じているだけで、他の生徒はあまり気にしてなさそうだが。
 彼女はいわゆるギャルといった感じで、いつもやる気のなさそうな雰囲気を漂わせている。俺は苦手だ。

 そしてゲルニカ。こいつの家名はユーストンだ。そう、あの豚貴族の息子だ。まさか俺と同じ学校に通っているとは思わなかったので、知ったときはかなり驚いた。
 向こうは俺と奴の父、ヘッジとのいざこざを知らないから気にする必要はないのだが、プライドからかよく俺にちょっかいを掛けてくる。

「……はぁ」

「大変そうだね、ケンイチ」

 ため息をつく俺の肩に手を置き、グラントは慰めの言葉をかけてくる。

「まぁ最初は皆バラバラだしいいけどさ。お前はどうだったんだ?」

「僕はBブロックでコトノちゃんとルゥちゃんと一緒だった」

「あー……まぁ二人とも静かなタイプか」

「でも、たぶんCブロックが一番やばいと思う」

「C?」

「ラキちゃん、リスカちゃん、それにレインだ」

「うわぁ……やばいだろそれ」

 我の強い人間の闇鍋のようなメンバーに思わず声が漏れてしまう。

「協力とか無理そうだよね……」

「想像できねぇな……」

「ま、それに比べれば僕達は良い方だよ。じゃ、僕は同じブロックの人と話してくる」

「おう、いってら」

 ルゥ達の元へと行くグラントを見送り、俺も話さなきゃなとひとまずキルバス元へと行く。

「やぁ石動健一! 念願叶って俺さんと一緒だねぇ」

「きもいきもい、頬をすり寄せるな!」

「つれないなぁ、同じブロックの仲間じゃないか」

「それとこれとは話が別だ。てか、俺らも他のやつと作戦組もうぜ。流石に孤立すんのはまずいだろ」

 もちろん他学年も参加するわけで、一ブロックの人数は47人もいる。そんな中で一人でいるのは恰好の的だ。

「ふぅむそうだねぇ……あっ、あそこにアメリアがいるぞ」

 キルバスはすごい速度でアメリアのとこへと行き、俺はその後ろについていく。

「アメリア! 俺さん達と作戦を———」

「きもっ」

「うぐぅっ!」

 一瞬にして言葉の刃に両断される。キルバスは膝から崩れ落ち、彼の生命活動は幕を下ろした。

「おい、アメリア。いくら本当のことだからって、キルバスが可哀想だろ」

「石動健一!? 君まで何を言い出すんだい!?」

「あーしは別に誰かと協力する必要とかないし、生き残れるから」

「でもなぁ……」

「なに?」

「流石にあの人数の中を一人でって訳にも―——」

「うざっ」

「ぐっ……!」

「てかさー、あーし去年普通に決勝行ってるし。だから今年初めて出るよそ者が偉そうに言わないでくれる?」

「そ、れは……」

 完全に図星を突かれて思わず先の言葉が出なくなる。その一瞬の隙に、

「じゃ、あーし行くから」

「おい、ちょっ―——」

 こちらの事などおかまいなしにアメリアは行ってしまった。

「くそ、次行くぞ」

「石動健一、君ってやつは……」

「いつまでグチグチ言ってんだ、行くぞ!」

「……やれやれ、仕方ないな」

 ▷▶▷

「てっ、提案に乗ってやろう。たっ、ただし。しっ、しっかりと僕ちゃんをまっ、守ることだ」

「はいはい、それでいいから。ひとます合流の仕方を決めるぞ」

「俺さんが空に花火を打ち上げるのはどうだい?」

「んなもん他の奴らも集まるに決まってるだろーが……」

「いっ、いいか? 僕ちゃんが決勝に行くのは、ぜっ、絶対だからな!」

「だー! 分かってるって! いいから決めるぞ!」

 ゲルニカは横柄な態度でこそあったが、意外にもすんなり受け入れてくれた。ま、最悪三人集まれれば良い。
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