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第三章 王立学校
父の背中と信念
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「………」
「すぐには受け入れられないってのも分かる。でも、これが真実だ。契約で嘘はつけねぇ」
村の騒動、そして俺がこの国に来た目的、ほぼ全てを打ち明けた。吸血鬼が関わっていることも含めて、だ。
そこまで言ってしまっていいのか、と思ったのだが、他でもないフリードの判断なので俺はそれに従う。
「ガルドは……吸血鬼が憎いか?」
「……いや、どうだろうな。まだ、俺の中で上手く飲み込めていない」
「そっか。まぁ、そうだな」
実の父を殺した相手に激昂するのではなく、動揺はあれど冷静にそう言う。俺ならきっとすぐに激怒し、恨みを吐き出すだろう。
あまりにも内容が濃密すぎるのは俺も重々承知だ。俺の存在、村が襲われた真実、父の死。どれをあげても頭が理解を拒むのは理解できる。
「……だが、話してくれて感謝する。ありがとう」
ガルドは深く頭を下げ、感謝を伝えてくる。
そんな姿が俺には深く突き刺さり、どうしようもない後悔の念が滲み出す。
村人達は分からないが、ヘルドは間違いなく善人だった。死ぬべき人ではなかった。
今になって思うが、微かに記憶の片隅にある、ヘルドとゲイル夫妻が言い争っていたあれはきっと夢なんかじゃない。彼は俺を庇ってくれていたのだ。
たとえ、俺が長く生きられないことが分かっていたとしても。
「ヘルドが……お前のお父さんが死んだ原因は俺が作ったようなものだ。それは、本当にごめん」
俺があの村にたまたま行きつかなければ、ヘルドが巻き込まれることはなかった。今もきっと村の護衛として、生きて働いていただろう。
「……いや、いい。お前が今こうして生きていることを、父は喜ぶはずだ。そしてその責任を吸血鬼に求めるつもりもない」
ガルドはそう言うが、少し複雑そうな気持ちが見て取れる。
「父は信念を貫いた。そんな父を俺は誇りに思う」
「ガルド……」
「お前も大変だっただろう。訳も分からずこの世界に紛れ込んで」
「まぁな。でも今は充実してるよ、すごく」
俺の言葉にガルドは微笑み、続ける。
「いずれこの国の腐敗した道徳を正す。元々、俺は父の意志を継ぐためにこの学校に来た。イスルギ、お前の為だけじゃない、他の人間の命も踏みにじられないよう奮闘する。それが俺の出す結論で、変わらない信念だ」
彼の父を想起させるような真っすぐな瞳で言い放つ。それが彼の人生の意味をあらわしているのだと、俺はそう感じた。
「もし、俺にできることがあるなら遠慮なく言え。手を貸そう」
「本当か!?」
「ああ……それに、父ならそうする」
父の背中を追いかけ、自分なりに昇華し体現する、『善』を描いたような男があらためてブレない芯を確認する。
その人生の岐路とも言える決断の場にいたことを、俺はこれからも誇りに思うだろう。
「そうだな……そんな気がするわ」
だからこれは、本当に心の奥の奥から発せられた共感の言葉だった。
「これからよろしく頼む」
「こっちこそ。よろしくな、ガルド」
彼と強く握手を交わす。試合の時とは別の、もっと奥深くで互いを認め合った、そんな握手だった。
▷▶▷
(はぁ、どうなるのかヒヤヒヤしたわ……)
『だが、これで情報が漏れる心配はなくなった。それに協力者が生まれたのが大きい』
(確かにそうだけど……)
俺としてはヘルドの子と争わずに済んだということへの安心感の方が大きい。
『引き続きそっちは頼むぞ』
役目が終わると淡泊な感じで早々に会話を切り上げようとする。久しぶりにゆっくり話でも……と思ったが、
(ああ、任せておけ)
不満は口には出さず、俺は自信を持ってそう返事をした。
『では、代わるぞ』
(かわる?)
気を引き締めようとした矢先、プツンと接続が切れたと思ったら、
『や、やっほ。イスルギ……元気?』
(メア!?)
『何か久しぶりに話した気がするね……えっと……そっちはどうかな?』
話さない期間がぎこちなさを作り出しているのか、メアが少し緊張している気がする。
(まぁ、ぼちぼちだ。知らない奴ばっかで、正直毎日気が休まらねぇ)
『そうなんだ……でも、イスルギなら平気でしょ?』
(ああ。このくらいどうってことねぇさ。俺はギリギリ人見知り人間の枠組みに入るくらいだからな)
『それって人見知りなんじゃん……』
(メアほどじゃねぇけどな)
『もうっ! バカにして!』
からかってやると、前の雰囲気が段々と戻ってきた気がする。これからもっと、というところであまりにも早い終わりが訪れる。
『本当はもう少し話したいけど、そろそろ魔力がなくなりそうだから……』
無理もない。俺がガルドと話している間もずっと『念話』を使っていたのだ。フリードが使用していたとはいえ、負担がないわけじゃないからな。
(了解だ。声聞けて良かったよ)
『……私も。大好きだよ』
(ぐっ……!?)
不意に囁かれた愛の言葉に思わず声が漏れる。
可愛いか? 可愛すぎか?
今すぐ帰ってメアを抱きしめたい衝動を抑え、我を取り戻した。
『えっと……イスルギ?』
(おっと、悪い悪い。あまりの威力に耐えられなかったわ。俺も好きだ。大好きだ。愛してるぜ、メア)
『えへへ、ありがとう。それじゃあ、また』
(ああ、またな)
『念話』が切られ、誰もいない教室に一人ぼっちになる。
俺はしばらくの間、会話の余韻に浸り続けた。
「すぐには受け入れられないってのも分かる。でも、これが真実だ。契約で嘘はつけねぇ」
村の騒動、そして俺がこの国に来た目的、ほぼ全てを打ち明けた。吸血鬼が関わっていることも含めて、だ。
そこまで言ってしまっていいのか、と思ったのだが、他でもないフリードの判断なので俺はそれに従う。
「ガルドは……吸血鬼が憎いか?」
「……いや、どうだろうな。まだ、俺の中で上手く飲み込めていない」
「そっか。まぁ、そうだな」
実の父を殺した相手に激昂するのではなく、動揺はあれど冷静にそう言う。俺ならきっとすぐに激怒し、恨みを吐き出すだろう。
あまりにも内容が濃密すぎるのは俺も重々承知だ。俺の存在、村が襲われた真実、父の死。どれをあげても頭が理解を拒むのは理解できる。
「……だが、話してくれて感謝する。ありがとう」
ガルドは深く頭を下げ、感謝を伝えてくる。
そんな姿が俺には深く突き刺さり、どうしようもない後悔の念が滲み出す。
村人達は分からないが、ヘルドは間違いなく善人だった。死ぬべき人ではなかった。
今になって思うが、微かに記憶の片隅にある、ヘルドとゲイル夫妻が言い争っていたあれはきっと夢なんかじゃない。彼は俺を庇ってくれていたのだ。
たとえ、俺が長く生きられないことが分かっていたとしても。
「ヘルドが……お前のお父さんが死んだ原因は俺が作ったようなものだ。それは、本当にごめん」
俺があの村にたまたま行きつかなければ、ヘルドが巻き込まれることはなかった。今もきっと村の護衛として、生きて働いていただろう。
「……いや、いい。お前が今こうして生きていることを、父は喜ぶはずだ。そしてその責任を吸血鬼に求めるつもりもない」
ガルドはそう言うが、少し複雑そうな気持ちが見て取れる。
「父は信念を貫いた。そんな父を俺は誇りに思う」
「ガルド……」
「お前も大変だっただろう。訳も分からずこの世界に紛れ込んで」
「まぁな。でも今は充実してるよ、すごく」
俺の言葉にガルドは微笑み、続ける。
「いずれこの国の腐敗した道徳を正す。元々、俺は父の意志を継ぐためにこの学校に来た。イスルギ、お前の為だけじゃない、他の人間の命も踏みにじられないよう奮闘する。それが俺の出す結論で、変わらない信念だ」
彼の父を想起させるような真っすぐな瞳で言い放つ。それが彼の人生の意味をあらわしているのだと、俺はそう感じた。
「もし、俺にできることがあるなら遠慮なく言え。手を貸そう」
「本当か!?」
「ああ……それに、父ならそうする」
父の背中を追いかけ、自分なりに昇華し体現する、『善』を描いたような男があらためてブレない芯を確認する。
その人生の岐路とも言える決断の場にいたことを、俺はこれからも誇りに思うだろう。
「そうだな……そんな気がするわ」
だからこれは、本当に心の奥の奥から発せられた共感の言葉だった。
「これからよろしく頼む」
「こっちこそ。よろしくな、ガルド」
彼と強く握手を交わす。試合の時とは別の、もっと奥深くで互いを認め合った、そんな握手だった。
▷▶▷
(はぁ、どうなるのかヒヤヒヤしたわ……)
『だが、これで情報が漏れる心配はなくなった。それに協力者が生まれたのが大きい』
(確かにそうだけど……)
俺としてはヘルドの子と争わずに済んだということへの安心感の方が大きい。
『引き続きそっちは頼むぞ』
役目が終わると淡泊な感じで早々に会話を切り上げようとする。久しぶりにゆっくり話でも……と思ったが、
(ああ、任せておけ)
不満は口には出さず、俺は自信を持ってそう返事をした。
『では、代わるぞ』
(かわる?)
気を引き締めようとした矢先、プツンと接続が切れたと思ったら、
『や、やっほ。イスルギ……元気?』
(メア!?)
『何か久しぶりに話した気がするね……えっと……そっちはどうかな?』
話さない期間がぎこちなさを作り出しているのか、メアが少し緊張している気がする。
(まぁ、ぼちぼちだ。知らない奴ばっかで、正直毎日気が休まらねぇ)
『そうなんだ……でも、イスルギなら平気でしょ?』
(ああ。このくらいどうってことねぇさ。俺はギリギリ人見知り人間の枠組みに入るくらいだからな)
『それって人見知りなんじゃん……』
(メアほどじゃねぇけどな)
『もうっ! バカにして!』
からかってやると、前の雰囲気が段々と戻ってきた気がする。これからもっと、というところであまりにも早い終わりが訪れる。
『本当はもう少し話したいけど、そろそろ魔力がなくなりそうだから……』
無理もない。俺がガルドと話している間もずっと『念話』を使っていたのだ。フリードが使用していたとはいえ、負担がないわけじゃないからな。
(了解だ。声聞けて良かったよ)
『……私も。大好きだよ』
(ぐっ……!?)
不意に囁かれた愛の言葉に思わず声が漏れる。
可愛いか? 可愛すぎか?
今すぐ帰ってメアを抱きしめたい衝動を抑え、我を取り戻した。
『えっと……イスルギ?』
(おっと、悪い悪い。あまりの威力に耐えられなかったわ。俺も好きだ。大好きだ。愛してるぜ、メア)
『えへへ、ありがとう。それじゃあ、また』
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『念話』が切られ、誰もいない教室に一人ぼっちになる。
俺はしばらくの間、会話の余韻に浸り続けた。
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