異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

VSガルド

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 闘技場へと降り、木人形の登録を済ませる。その時、人形を持つ自分の手が震えていることに気が付いた。

「落ち着け……まだ何も確定してねぇんだ」

 震える手をなんとか抑え、先生に手渡す。

「あれ、雷鳴鬼クンとは一緒に戦わないのかい?」

「あー、まだ寝てるっぽいんで、今回は俺だけでいきます」

「そっかそっかぁ。彼女の戦いが見れるって楽しみにしてたんだけどなぁ」

 残念そうにそう零す先生に謝りながら、中央へと歩いていく。

 すると突然肩を叩かれた。

「……よろしく頼む」

 振り向いた先に居た大男は柔らかい表情で握手を求めてきた。その姿がどうしてもあの男と似ていて心がざわつくが、それを悟らせないようにして握手に応じた。

 手がデカい。俺の二倍くらいはありそうだ。ガタイ、風格、そして余裕。どれも負けてる気がする。

 いかんいかん。試合前に弱腰になるな。

 お互い位置につき、合図を待つ。

「じゃ、五試合目。ガルド対健一の試合を始める」

 ガルドって言うのか。名前までそっくりだな。

 彼は太刀を下段に構え、学生とかけ離れた顔つきになっている。その姿はさながらライオンの如き王者の風貌だ。彼からすれば俺なんて狩られる草食動物にすぎないと思わせてくる。

「ふぅ……集中しろ。俺はもっとやべえ奴らと戦ってんだ」

 刀を逆手に持ち、自己暗示をかける。

 因子を意識しろ。血を回せ。

「———始めっ!」

「—————————纏雷」

 体全身を覆う雷、それを携え走り出す。このスピードはおいそれと対応できるものではない。初見殺しを謳っている。
 しかし、そう甘くはいかず、体勢どころか表情を崩すまでもいかない。繰り出された雷光の如き一閃は容易に太刀で防がれ、弾き飛ばされる。

 ガルドはすかさず吹き飛ぶ俺の後を追い、気づいたときには目の前で太刀を振り下ろしていた。

「くっ……!!」

 かろうじて刀で受け止めはしたが、その重さに腕が引きちぎれそうになる。足が地面に埋まりそうだ。

 どうにかそれを受け流し下へと落とす。そして、刀を顔目掛けて一振り。
 だが、頬にかすったぐらいで決定打とはならず、蹴りをお見舞いされた。

「っ!?」

 なるほど、確かに痛みは軽減されているようだが、感じないわけではないな。

 さて、どうする。ガルドには黄色のオーラが取りついている。おそらくだが身体強化を施しているのだろう。そして、さっきの力比べで分かったが、彼のパワーは俺の遥かに上だ。一撃でも食らえばお陀仏だ。スピードはまだ負けていないが、対応されてる。

「近接はきついか……」

 ガルドは地面に刺さった太刀を抜き、再び構える。魔法をぶち込むしかない。しかし、そんな隙が作れるか?

 いや、やるしかねぇんだ。

「—————————雷槍!」

 突き出した左手を中心に三本の雷の槍が生み出される。それらが音を轟かせ、ガルドの方に突き進んでいく。

「……む」

 全て弾かれたが、一瞬表情が曇る。そこを狙い、低姿勢のまま槍に紛れて急襲する。

 刀と太刀が互いにぶつかり金属音が響く。魔法の陽動の甲斐があって、彼の姿勢が崩れた。

「—————————雷霆!」

 前に雷鳴鬼から食らった掌底を再現し、空いた胴へ叩きこむ。

 吹き飛ぶガルドの顔に苦悶の表情が浮かぶのが見えた。

 だが、これだけでは決定打にならない。やはりただの魔法だけじゃ無理か。こうなったらアレを使うしかない。

 最終兵器をどうやってぶち込むかを考えていると、ガルドが先程とは違う構えをし始める。

「——————烈火」

 上段から振り下ろされる太刀、そこから炎が飛び出し、空間をその熱で焼却する。

「うぉっ!」

 間一髪で避けたが、反らした胸の表面が焼かれた。視界の端にはさらにスピードが上がった人影が写りこむ。このまま一気に決めるつもりだろう。

「くっ、そがぁ!」

 咄嗟に刀を俺とガルドの中間へと投げ、

「—————————遠雷!」

 それを起点に雷が無差別に周囲へと攻撃を始める。

 一瞬足を止めることに成功したが、すぐにその範囲を察し、回り込んでくる。

「——————雷砲」

 近づいてくる脅威に怯えず、イメージを形作るように丁寧に唱える。

「——————雷槍」

 後、おそらく数歩で間合いに入る。それでも、ただただ唱え続ける。

 振りかぶる刹那、準備が整った。

「——————疾雷照破ぁ!!」

 世界へ発せられた言霊が、その紡がれた音が、確かな輪郭と轟音をもってして目の前の障害を破壊せんと光輝く。

「……ッッ!!」

 その雷光が彼の姿を飲み込み、決着へと———

「うっそだろ!?」

 大男は満身創痍の状態のまま、短剣を片手に光の奥から現れる。

 魔法を使った反動で体が上手く動かない。回避はできない。迎え撃つしかない。

「「うぉぉぉぉぉ!!!」」

 互いが互いを捉え、咆哮する。

 雷の拳と執念の短剣が入れ違いで牙をむき、そして———

「———そこまでっ!」

 先生の終了の合図がかけられた。その傍らには木人形だったものが二つ、粉々になって戦いの結果を示していた。





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