異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
90 / 138
第三章 王立学校

魔法実践

しおりを挟む
 次の授業は魔法実践だ。名前から想像するに、魔法を教わって試し打ちするのかなと思いきや、なんとただの模擬戦闘だった。

 キリヤをはじめ、クラスメイト達が各々の武器を手に闘技場へと集まる。剣を持つ者は少なく、それ以外はみな杖を扱うようだ。

「使う武器まで同じかよ……」

 視線の先にいる大男はその体に似合う太刀を携えている。その姿がヘルドと重なり、彼が関係者であることに信憑性が増していく。

「はい、皆来たね。今年は最初から実戦になるけど、内容は去年と変わらないから安心してほしい。じゃあ二つのグループに分けるから、呼ばれた人はもう一個の方に行ってね」

 そう言って次々に名前が呼ばれ、キリヤも向こうの闘技場へ行ってしまった。幸いにもグラントはこちらだったので、一人にならずに済んだ。

「グラントは杖なんだな」

「僕は光魔法が使えないからね。流石に自己強化なしでは戦えないよ」

「な、なるほどな……」

 俺も光魔法は使えないのに近接武器で来てしまった。まぁそもそも杖を使わないしな。

「じゃ、ここには初めての人もいるし、皆も忘れてるかもしれないから説明するね。基本的にくじで同じ数字の人と戦ってもらう。制限時間は五分。先に相手の人形を壊した方の勝ちね」

 そう言って、先生はその手に木で作られた人形を見せる。

「で、それがこの人形。試合前に自分の魔力を流して登録してね。じゃないと大怪我しちゃうから」

 どこからどうみてもただの木製の人形にしか見えない。近くのグラントにそれを聞いてみる。

「登録ってなんのことだ?」

「そっか、ケンイチは見るの初めてだったね。あれはこの学校の校長お手製の木人形さ。この闘技場だけって縛りはあるけど、登録した人の傷を肩代わりしてくれるんだ」

「へぇ、便利だな」

「でも普通に痛みはそこそこ感じるから慣れは必要かも」

 そうしていよいよ運命のくじだ。先生の用意した箱にある紙を一人ずつ取っていく。俺の番号は5だった。つまり、一番最後だな。

「何番だった?」

「僕は一番。はぁ、しょっぱなって緊張するから嫌なんだよなあ」

「頑張ってくれ。初めてだし参考にさせてもらうよ」

「うっ……じゃあなおさら下手な試合はできないね……よし、行ってきます」

 一番の人以外は上の観客席に移動する。

 おお、なんだか陸上部の時のスタジアムを思い出すな。

 グラントの相手は細見の男だ。金髪が太陽の光を浴びて輝いて見える。どちらも杖を持っているから魔法合戦が見れそうだ。

「それじゃ、ジャック対グラントの試合を始める。双方構えて」

 先生の声に二人の顔つきが変わる。さっきまでの温厚な表情が一瞬にして険しくなり、殺気とも言える刺々しい雰囲気を纏っている。

「———始めっ!」

「——————ストーンキャノン!!」

 合図とともに仕掛けたのはグラント。彼が詠唱すると周囲に拳ほどの大きさの石が無数に浮かび上がり、ジャックという男目掛けて飛んでいく。

 だが、その石が生み出された時と同刻、ジャックの体に風が巻き付き、飛んできた石を全て弾き飛ばした。まるで鎧のようだ。

 その一瞬のやりとりを経て、攻守が入れ替わる。

「——————ウィンドバレット!」

 風の球体が浮かび、そして先程の石の礫のように向かっていく。それをグラントが無詠唱で生み出した土の壁で遮る。

「——————ウィンドカッター!」

 壁の裏に隠れたグラントを狙い、横薙ぎの風の刃がその障害ごと真横に一刀両断する。あれは俺も食らったことがある。しかも二回。

 しかし、それを予測していたのか、グラントは土を魔法で掘り進め、ジャックの反対側に出てきた。これはジャックが魔法を行使したのとほぼ同じタイミングだ。
 そのため、反応が遅れたジャックの隙を捉え、

「——————ファイヤーアロー!!」

 杖の先から発生した火の矢がしっかりと敵を補足し、直撃する。それに対応して、先生の傍にある木人形が爆発した。

「やめっ!」

 終了の合図が掛けられ、火の中からジャックが出てきた。どうやら本当に無傷になるらしい。

 二人は握手を交わし、試合が終わった。周りのクラスメイトが試合を讃え、拍手を送っている。なので俺もそれに倣って手を叩いた。

 それにしてもすごい試合だった。所詮学生だろ?と舐めていた自分を殴りたい。二人とも攻撃こそ詠唱をしていたが、無詠唱による防御の判断がとても早かった。
 それに、魔法の練度も中々のものだったと思う。屋敷の奴と比べると天と地ほどの差はあるが、少なくとも俺が勝てるかどうか分からない。

 試合を終えたグラントが帰ってきた。

「おつかれ。かっこよかったぜ?」

「ありがとう。でも、まだまだだよ。僕もこのクラスじゃ下から数えた方が早いくらいだしね」

「ま、まじかよ……」

 謙遜とも思えたその発言は、どうやら事実らしい。その後の三試合は一試合目よりも遥かに上のレベルの戦いだった。

 こうして俺の番が巡ってくる。

「えっと……残ってる奴は……」

 周囲をキョロキョロしていると、あの大男と目が合う。その手には、5と書かれた紙が握られていた。

「ははっ……笑えねぇ冗談だな……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...