異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

魔法実践

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 次の授業は魔法実践だ。名前から想像するに、魔法を教わって試し打ちするのかなと思いきや、なんとただの模擬戦闘だった。

 キリヤをはじめ、クラスメイト達が各々の武器を手に闘技場へと集まる。剣を持つ者は少なく、それ以外はみな杖を扱うようだ。

「使う武器まで同じかよ……」

 視線の先にいる大男はその体に似合う太刀を携えている。その姿がヘルドと重なり、彼が関係者であることに信憑性が増していく。

「はい、皆来たね。今年は最初から実戦になるけど、内容は去年と変わらないから安心してほしい。じゃあ二つのグループに分けるから、呼ばれた人はもう一個の方に行ってね」

 そう言って次々に名前が呼ばれ、キリヤも向こうの闘技場へ行ってしまった。幸いにもグラントはこちらだったので、一人にならずに済んだ。

「グラントは杖なんだな」

「僕は光魔法が使えないからね。流石に自己強化なしでは戦えないよ」

「な、なるほどな……」

 俺も光魔法は使えないのに近接武器で来てしまった。まぁそもそも杖を使わないしな。

「じゃ、ここには初めての人もいるし、皆も忘れてるかもしれないから説明するね。基本的にくじで同じ数字の人と戦ってもらう。制限時間は五分。先に相手の人形を壊した方の勝ちね」

 そう言って、先生はその手に木で作られた人形を見せる。

「で、それがこの人形。試合前に自分の魔力を流して登録してね。じゃないと大怪我しちゃうから」

 どこからどうみてもただの木製の人形にしか見えない。近くのグラントにそれを聞いてみる。

「登録ってなんのことだ?」

「そっか、ケンイチは見るの初めてだったね。あれはこの学校の校長お手製の木人形さ。この闘技場だけって縛りはあるけど、登録した人の傷を肩代わりしてくれるんだ」

「へぇ、便利だな」

「でも普通に痛みはそこそこ感じるから慣れは必要かも」

 そうしていよいよ運命のくじだ。先生の用意した箱にある紙を一人ずつ取っていく。俺の番号は5だった。つまり、一番最後だな。

「何番だった?」

「僕は一番。はぁ、しょっぱなって緊張するから嫌なんだよなあ」

「頑張ってくれ。初めてだし参考にさせてもらうよ」

「うっ……じゃあなおさら下手な試合はできないね……よし、行ってきます」

 一番の人以外は上の観客席に移動する。

 おお、なんだか陸上部の時のスタジアムを思い出すな。

 グラントの相手は細見の男だ。金髪が太陽の光を浴びて輝いて見える。どちらも杖を持っているから魔法合戦が見れそうだ。

「それじゃ、ジャック対グラントの試合を始める。双方構えて」

 先生の声に二人の顔つきが変わる。さっきまでの温厚な表情が一瞬にして険しくなり、殺気とも言える刺々しい雰囲気を纏っている。

「———始めっ!」

「——————ストーンキャノン!!」

 合図とともに仕掛けたのはグラント。彼が詠唱すると周囲に拳ほどの大きさの石が無数に浮かび上がり、ジャックという男目掛けて飛んでいく。

 だが、その石が生み出された時と同刻、ジャックの体に風が巻き付き、飛んできた石を全て弾き飛ばした。まるで鎧のようだ。

 その一瞬のやりとりを経て、攻守が入れ替わる。

「——————ウィンドバレット!」

 風の球体が浮かび、そして先程の石の礫のように向かっていく。それをグラントが無詠唱で生み出した土の壁で遮る。

「——————ウィンドカッター!」

 壁の裏に隠れたグラントを狙い、横薙ぎの風の刃がその障害ごと真横に一刀両断する。あれは俺も食らったことがある。しかも二回。

 しかし、それを予測していたのか、グラントは土を魔法で掘り進め、ジャックの反対側に出てきた。これはジャックが魔法を行使したのとほぼ同じタイミングだ。
 そのため、反応が遅れたジャックの隙を捉え、

「——————ファイヤーアロー!!」

 杖の先から発生した火の矢がしっかりと敵を補足し、直撃する。それに対応して、先生の傍にある木人形が爆発した。

「やめっ!」

 終了の合図が掛けられ、火の中からジャックが出てきた。どうやら本当に無傷になるらしい。

 二人は握手を交わし、試合が終わった。周りのクラスメイトが試合を讃え、拍手を送っている。なので俺もそれに倣って手を叩いた。

 それにしてもすごい試合だった。所詮学生だろ?と舐めていた自分を殴りたい。二人とも攻撃こそ詠唱をしていたが、無詠唱による防御の判断がとても早かった。
 それに、魔法の練度も中々のものだったと思う。屋敷の奴と比べると天と地ほどの差はあるが、少なくとも俺が勝てるかどうか分からない。

 試合を終えたグラントが帰ってきた。

「おつかれ。かっこよかったぜ?」

「ありがとう。でも、まだまだだよ。僕もこのクラスじゃ下から数えた方が早いくらいだしね」

「ま、まじかよ……」

 謙遜とも思えたその発言は、どうやら事実らしい。その後の三試合は一試合目よりも遥かに上のレベルの戦いだった。

 こうして俺の番が巡ってくる。

「えっと……残ってる奴は……」

 周囲をキョロキョロしていると、あの大男と目が合う。その手には、5と書かれた紙が握られていた。

「ははっ……笑えねぇ冗談だな……」

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