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第三章 王立学校
俺を知る罪人
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「おい、どうした坊主。急に驚いて」
「あの……そこに書いてある文字って読めますか?」
「文字? これって文字なのか? 俺には何かのマークに見えるぜ」
「そう……ですか……」
間違いなく漢字で、『石動 健一』としっかりと書かれている。
俺以外の地球人はこの世界で生きてはいけないはずだ。何せ、適応できない。それに、どこで俺の名前を知ったのかも不明だ。それならなぜ、接触してこない?
「十大罪人の一人……罪を知っている……」
誰に宛てたかも分からないメッセージ、これは俺に向けたものなのだろうか。
「……くそ、意味わかんねぇ……」
考えれば考えるほど謎は深まる。
思いつく可能性は、十大罪人の中に俺を知る日本人がいるということだ。目的は定かではないし、敵意か何かも分からない。しかし、ロクでもないことに巻き込まれそうなのは確かだ。
「無視ってわけにもいかねぇし、気にしながら生活するしかないか……」
「さっきからボソボソとどうした、何か分かるのか?」
「……いや、物騒だなぁって思っただけです」
「ふぅん、そうか? ま、坊主も気をつけろよ。最近また若い男が消える事件も増えてきてるらしいしな」
「はい。ありがとうございます」
結局、何一つ分からないまま俺は奴隷店を出て、ゆったり一人散策という気分にもなれず寮へ帰った。
▷▶▷
「ただいまぁ」
「おかえり……って、早いじゃん。どうした?」
「んー、ティアの顔が見たくなって帰ってきたわ」
「なっ!?」
俺の軽口に顔が赤くなる姿を見てほっこりしながら、部屋を見渡す。
「あれ、シャロ達は?」
「あ、あの二人か? さっきスイーツ店に行くって出てったぞ」
「そっか。ティアは一緒に行かなかったのか?」
「アタシはまだ部屋の荷物が片付いてないからパスした」
「にしては、違うことやってるな」
片付けと言いつつ、キッチンで物を広げ、何かを作っている。
「し、仕方ないだろ! スイーツかぁって考えてたら、いつの間にかキッチンに立って作り始めちゃってたんだから」
「ははっ、なんだそれ」
無意識に作ってるってやばくないか、なんて思いつつ、しかしそんなこともティアらしいと言えばらしいな。
「にしても、今思い返すとティアが付いてくるって言いだした時は、驚いたよ。ほんと」
ここの学校は特別に二人まで奴隷を連れてくることを許している。学習に専念してほしいという学校の意向とのことだ。
奴隷じゃなくてはならない理由は、部外者が侵入するリスクを減らすためということらしい。最悪の事態になっても、奴隷であれば抑えられるからだろうな。
主人と共に反抗した場合は考慮してなさそうだが、きっとそこら辺は入試段階で弾いているだろう。
「あの時は……その、シャロも行くならって感じで……」
「ま、俺はすげぇ嬉しかったけどな」
「……からかってるだろ」
「ちげぇよ。本心だ」
「う、うっさい!」
照れ隠しで俺の口に何かを突っ込む。
「……ッ!」
口の中に広がる芳醇なバターの味、これはクッキーだ。
「どうだ、美味しいだろ」
「ああ、悔しいけど、めっちゃ美味い」
「へへっ、そっか」
お菓子を作ることが好きだったとはいえ、流石にティアには勝てそうにないな。もう一つクッキーをもらい、俺は自室に入った。
「十大罪人で男は……と」
あの壁に書かれていた一人称から男の可能性が高い。女という線も捨てきれないが、ひとまずは男に焦点を当ててもいいだろう。
使い慣れた王国史の教科書を広げ、その一覧を見る。
「うーん、剣を使う奴はパッ見じゃ分かんねぇな」
それぞれの犯した罪を見ても、ヒントになりそうなものが無い。ここの国で事件を起こした罪人は『盲目の黒蛇』と『狂人』、『異形の怪人』の三人だ。強いて言えば、その『異形の怪人』が怪しいくらいか。
「クラリスとビスカは一人称が『俺』じゃねぇしな」
とにかく、この教科書では得られる情報が王国基準だ。何か別で手に入れるしかないな。
男の名前を今一度頭に入れ、教科書を閉じた。
脳内を整理しつつ、部屋の荷物をいじっていると扉からノックが聞こえる。それに返事をすると、ティアが入ってきた。
「ん、どうした?」
「いや、その……」
何か用があるのかと思ったが、ティアはそこから先の言葉に詰まる。
「……あの、さ。昨日の夜ってさ、シャロと一緒に寝ただろ」
「まぁ、うん」
どうやらティアにはバレていたらしい。
「だからさ、その、今日はアタシの番でいいかなーって……」
「そういうことか。いいよ、一緒に寝るか」
「でも、明日イスルギ学校だろ? 睡眠に支障が出るのは良くないからって思って」
「睡眠に支障って……」
一体何をどれくらいやるつもりなのだろうか。とはいえ、確かに次の日が記念すべき登校初日だから、万全の状態で行きたいのも事実。
「じゃあ、明日とかにするか?」
「それは駄目だ!」
「お、おう」
俺の提案が食い気味に却下された。
「まだ、シャロ達は帰ってこないから、たぶん。だから、さ」
もじもじと恥ずかしそうに濁しながら、そう遠回しに伝えてくる。その意図を察したが、単に一緒に寝るという事を無くすつもりはない。
「ふぅ……その代わり、今晩は添い寝してくれよ」
「ああ……!」
ドアの前にいたティアとの距離がゆっくりと縮まり、重なり合う。結局、シャロ達が帰ってくるまで、ソレは続いた。
「あの……そこに書いてある文字って読めますか?」
「文字? これって文字なのか? 俺には何かのマークに見えるぜ」
「そう……ですか……」
間違いなく漢字で、『石動 健一』としっかりと書かれている。
俺以外の地球人はこの世界で生きてはいけないはずだ。何せ、適応できない。それに、どこで俺の名前を知ったのかも不明だ。それならなぜ、接触してこない?
「十大罪人の一人……罪を知っている……」
誰に宛てたかも分からないメッセージ、これは俺に向けたものなのだろうか。
「……くそ、意味わかんねぇ……」
考えれば考えるほど謎は深まる。
思いつく可能性は、十大罪人の中に俺を知る日本人がいるということだ。目的は定かではないし、敵意か何かも分からない。しかし、ロクでもないことに巻き込まれそうなのは確かだ。
「無視ってわけにもいかねぇし、気にしながら生活するしかないか……」
「さっきからボソボソとどうした、何か分かるのか?」
「……いや、物騒だなぁって思っただけです」
「ふぅん、そうか? ま、坊主も気をつけろよ。最近また若い男が消える事件も増えてきてるらしいしな」
「はい。ありがとうございます」
結局、何一つ分からないまま俺は奴隷店を出て、ゆったり一人散策という気分にもなれず寮へ帰った。
▷▶▷
「ただいまぁ」
「おかえり……って、早いじゃん。どうした?」
「んー、ティアの顔が見たくなって帰ってきたわ」
「なっ!?」
俺の軽口に顔が赤くなる姿を見てほっこりしながら、部屋を見渡す。
「あれ、シャロ達は?」
「あ、あの二人か? さっきスイーツ店に行くって出てったぞ」
「そっか。ティアは一緒に行かなかったのか?」
「アタシはまだ部屋の荷物が片付いてないからパスした」
「にしては、違うことやってるな」
片付けと言いつつ、キッチンで物を広げ、何かを作っている。
「し、仕方ないだろ! スイーツかぁって考えてたら、いつの間にかキッチンに立って作り始めちゃってたんだから」
「ははっ、なんだそれ」
無意識に作ってるってやばくないか、なんて思いつつ、しかしそんなこともティアらしいと言えばらしいな。
「にしても、今思い返すとティアが付いてくるって言いだした時は、驚いたよ。ほんと」
ここの学校は特別に二人まで奴隷を連れてくることを許している。学習に専念してほしいという学校の意向とのことだ。
奴隷じゃなくてはならない理由は、部外者が侵入するリスクを減らすためということらしい。最悪の事態になっても、奴隷であれば抑えられるからだろうな。
主人と共に反抗した場合は考慮してなさそうだが、きっとそこら辺は入試段階で弾いているだろう。
「あの時は……その、シャロも行くならって感じで……」
「ま、俺はすげぇ嬉しかったけどな」
「……からかってるだろ」
「ちげぇよ。本心だ」
「う、うっさい!」
照れ隠しで俺の口に何かを突っ込む。
「……ッ!」
口の中に広がる芳醇なバターの味、これはクッキーだ。
「どうだ、美味しいだろ」
「ああ、悔しいけど、めっちゃ美味い」
「へへっ、そっか」
お菓子を作ることが好きだったとはいえ、流石にティアには勝てそうにないな。もう一つクッキーをもらい、俺は自室に入った。
「十大罪人で男は……と」
あの壁に書かれていた一人称から男の可能性が高い。女という線も捨てきれないが、ひとまずは男に焦点を当ててもいいだろう。
使い慣れた王国史の教科書を広げ、その一覧を見る。
「うーん、剣を使う奴はパッ見じゃ分かんねぇな」
それぞれの犯した罪を見ても、ヒントになりそうなものが無い。ここの国で事件を起こした罪人は『盲目の黒蛇』と『狂人』、『異形の怪人』の三人だ。強いて言えば、その『異形の怪人』が怪しいくらいか。
「クラリスとビスカは一人称が『俺』じゃねぇしな」
とにかく、この教科書では得られる情報が王国基準だ。何か別で手に入れるしかないな。
男の名前を今一度頭に入れ、教科書を閉じた。
脳内を整理しつつ、部屋の荷物をいじっていると扉からノックが聞こえる。それに返事をすると、ティアが入ってきた。
「ん、どうした?」
「いや、その……」
何か用があるのかと思ったが、ティアはそこから先の言葉に詰まる。
「……あの、さ。昨日の夜ってさ、シャロと一緒に寝ただろ」
「まぁ、うん」
どうやらティアにはバレていたらしい。
「だからさ、その、今日はアタシの番でいいかなーって……」
「そういうことか。いいよ、一緒に寝るか」
「でも、明日イスルギ学校だろ? 睡眠に支障が出るのは良くないからって思って」
「睡眠に支障って……」
一体何をどれくらいやるつもりなのだろうか。とはいえ、確かに次の日が記念すべき登校初日だから、万全の状態で行きたいのも事実。
「じゃあ、明日とかにするか?」
「それは駄目だ!」
「お、おう」
俺の提案が食い気味に却下された。
「まだ、シャロ達は帰ってこないから、たぶん。だから、さ」
もじもじと恥ずかしそうに濁しながら、そう遠回しに伝えてくる。その意図を察したが、単に一緒に寝るという事を無くすつもりはない。
「ふぅ……その代わり、今晩は添い寝してくれよ」
「ああ……!」
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