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第三章 王立学校
日本語
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少し色黒で、強面な顔。常人よりも一回り大きい体。そして、何よりも覚えのあるこの威圧感。かつて村に居た、あの優しい男を想起させる。
男はこちらを気にも留めず、そのまますれ違っていった。
「……どうした? イスルギ」
「―――ぁ、悪ぃ。なんでもない」
あまりの衝撃に呼吸を忘れていた。まさかそんなはずはない。彼はもう死んだんだ。他人の空似だろう。
それでもなお頭からそのことが抜けず、形容し難いモヤモヤを胸に抱えたまま部屋の扉を開けた。
▷▶▷
ティアが作ってくれた昼食を食べ、午後は一人でぶらぶら街散策をすることにした。
例のキャベツだが、味は本当に良かった。生のままで出てきたのだが、臭みもなく、味付けがいらないくらいに塩味が備わっていた。マヨネーズなんかとも合いそうだな。
「さて、どこに行くか」
最優先事項は風呂だが、面白い店があれば立ち寄ってもいいかもしれない。
入学試験の時に泊まったホテルの風呂という選択肢もあるが、新規開拓するのが風呂好きというものだ。
寮を出て、先程とは違う道を歩いていく。
「魔具店に武器屋……ファンタジーの鉄板だな」
付近にはごっつい見た目の男や、魔女のような恰好をした女性がいる。彼らはきっと冒険者だろう。ギルドというものもあるらしいので、いつか覗いてみたいという気持ちがある。
俺、結構王道ファンタジー好きなんだよなぁ。
足を止めてその店を眺めていると、「おーい!」と何やら後ろから呼びかけられた。
「ん?」
「おーい、そこの坊主。久しぶりだなぁ!」
「あのおっさん……」
どこかで見たことがある気がするが、思い出せない。誰だっけ?
ひとまず、そちらの方に足を運んだ。
「よぉ、坊主。俺のこと覚えてるか?」
「えっと……」
「なんだい、忘れちまったのかい。ほら、露天風呂で会った」
「あー!」
試験の時に泊まったホテルの風呂場で話したおっさんだ。正直顔は記憶に残っていなかった。
「ま、そっちからしたらこんなおっさん、忘れてても仕方ねぇか。それよりそうだ、奴隷見ていかねぇか?」
「奴隷……ですか……」
前に奴隷市を見てから、あまりいい印象がない。シャロとティアが奴隷になったことも、必要なことだからと割り切ってはいたが、気持ちのいいものではない。
「まぁまぁ、物は試しだ。とりあえず入れよ」
そのまま半ば強引に連れられ、俺はその奴隷商の店に入った。
「な、なんか想像と違うな……」
中に入ると、多種多様な獣人が出迎えてきた。もっと殺伐とした雰囲気を想像していたが、ここはまるで獣人のコンセプトカフェみたいだ。
「こいつらは上澄みも上澄み、かなり高品質な奴隷だぜ?」
「そうみたいですね」
皆顔色もよく、絶望している感じもない。待遇はそこまで悪くなさそうだ。しかも美男美女だらけで、おっさんが高品質と言ったことも頷ける。
「一人買っていかないか? 少しまけといてやるぜ?」
「いやぁ、お金もそんな無いですし……」
そもそも、奴隷を欲しいとは思わない。というか思えない。おっさんのメンツを潰さないように金銭を理由に断ろうとしたのだが、
「うーん……じゃあ、ちょっと付いてこい!」
「え?」
すぐに店の奥へと進んで行ってしまったので、やむなく後に続く。
「な……!?」
「少々ランクは落ちるが、その分安く買える。前に罪人が勝手に逃がしちまったから、ここまで数揃えるのに苦労したんだぜ?」
おっさんは、さも誇らしげな顔をしてそう紹介するが、さっきの奴隷とはうってかわって、そこにはあまりにも酷い光景が広がっていた。牢に閉じ込められたやせ細った獣人たち。普通の人間も混じっている。
「最低で一万からだ。見た目は汚いが、磨けば光る掘り出し物もあるかもな」
そう淡々と物を説明するように告げるおっさんが、今はとても恐ろしく見えた。
「そん……なの……」
勘違いしていた、心のどこかで俺は同じだと思っていた。でも違う。この世界の倫理と俺の居た国の倫理はまるで違う。
「ん、どうした坊主」
「いや、何でもない……です」
ここで激昂して、奴隷販売を糾弾したところでなんの意味もないことは分かっている。これがこの世界の常識で、あたりまえのことなのだ。俺には、どうすることもできない。
「そうか。まぁこれを機に検討してくれや。いつでも歓迎するからよ。……っと、あれもそろそろ消してぇなぁ」
「アレ?」
「あの壁に刻まれた言葉だよ。十大罪人の野郎が前に来た時の」
そう言って、おっさんは近くの壁に剣かなにかで刻まれた文字を指さす。
「……っ!?」
その文字をみて、俺は目を見開いた。驚きが脳を支配し、手に変な汗が滲む。
「どういう……ことだ!?」
そこには、『俺は十大罪人の1人だ。俺は俺の罪を知っている』とこの世界の言語で書かれている。これは前に野次馬に紛れていたティア達から聞いたものと同じだ。
しかし、問題はそこではない。そのすぐ下に小さく書かれた文字、それが問題なのだ。
「……なんで、日本語が?」
まるで、何かのサインのように、
『石動 健一』
そこには、そう刻まれていた。
男はこちらを気にも留めず、そのまますれ違っていった。
「……どうした? イスルギ」
「―――ぁ、悪ぃ。なんでもない」
あまりの衝撃に呼吸を忘れていた。まさかそんなはずはない。彼はもう死んだんだ。他人の空似だろう。
それでもなお頭からそのことが抜けず、形容し難いモヤモヤを胸に抱えたまま部屋の扉を開けた。
▷▶▷
ティアが作ってくれた昼食を食べ、午後は一人でぶらぶら街散策をすることにした。
例のキャベツだが、味は本当に良かった。生のままで出てきたのだが、臭みもなく、味付けがいらないくらいに塩味が備わっていた。マヨネーズなんかとも合いそうだな。
「さて、どこに行くか」
最優先事項は風呂だが、面白い店があれば立ち寄ってもいいかもしれない。
入学試験の時に泊まったホテルの風呂という選択肢もあるが、新規開拓するのが風呂好きというものだ。
寮を出て、先程とは違う道を歩いていく。
「魔具店に武器屋……ファンタジーの鉄板だな」
付近にはごっつい見た目の男や、魔女のような恰好をした女性がいる。彼らはきっと冒険者だろう。ギルドというものもあるらしいので、いつか覗いてみたいという気持ちがある。
俺、結構王道ファンタジー好きなんだよなぁ。
足を止めてその店を眺めていると、「おーい!」と何やら後ろから呼びかけられた。
「ん?」
「おーい、そこの坊主。久しぶりだなぁ!」
「あのおっさん……」
どこかで見たことがある気がするが、思い出せない。誰だっけ?
ひとまず、そちらの方に足を運んだ。
「よぉ、坊主。俺のこと覚えてるか?」
「えっと……」
「なんだい、忘れちまったのかい。ほら、露天風呂で会った」
「あー!」
試験の時に泊まったホテルの風呂場で話したおっさんだ。正直顔は記憶に残っていなかった。
「ま、そっちからしたらこんなおっさん、忘れてても仕方ねぇか。それよりそうだ、奴隷見ていかねぇか?」
「奴隷……ですか……」
前に奴隷市を見てから、あまりいい印象がない。シャロとティアが奴隷になったことも、必要なことだからと割り切ってはいたが、気持ちのいいものではない。
「まぁまぁ、物は試しだ。とりあえず入れよ」
そのまま半ば強引に連れられ、俺はその奴隷商の店に入った。
「な、なんか想像と違うな……」
中に入ると、多種多様な獣人が出迎えてきた。もっと殺伐とした雰囲気を想像していたが、ここはまるで獣人のコンセプトカフェみたいだ。
「こいつらは上澄みも上澄み、かなり高品質な奴隷だぜ?」
「そうみたいですね」
皆顔色もよく、絶望している感じもない。待遇はそこまで悪くなさそうだ。しかも美男美女だらけで、おっさんが高品質と言ったことも頷ける。
「一人買っていかないか? 少しまけといてやるぜ?」
「いやぁ、お金もそんな無いですし……」
そもそも、奴隷を欲しいとは思わない。というか思えない。おっさんのメンツを潰さないように金銭を理由に断ろうとしたのだが、
「うーん……じゃあ、ちょっと付いてこい!」
「え?」
すぐに店の奥へと進んで行ってしまったので、やむなく後に続く。
「な……!?」
「少々ランクは落ちるが、その分安く買える。前に罪人が勝手に逃がしちまったから、ここまで数揃えるのに苦労したんだぜ?」
おっさんは、さも誇らしげな顔をしてそう紹介するが、さっきの奴隷とはうってかわって、そこにはあまりにも酷い光景が広がっていた。牢に閉じ込められたやせ細った獣人たち。普通の人間も混じっている。
「最低で一万からだ。見た目は汚いが、磨けば光る掘り出し物もあるかもな」
そう淡々と物を説明するように告げるおっさんが、今はとても恐ろしく見えた。
「そん……なの……」
勘違いしていた、心のどこかで俺は同じだと思っていた。でも違う。この世界の倫理と俺の居た国の倫理はまるで違う。
「ん、どうした坊主」
「いや、何でもない……です」
ここで激昂して、奴隷販売を糾弾したところでなんの意味もないことは分かっている。これがこの世界の常識で、あたりまえのことなのだ。俺には、どうすることもできない。
「そうか。まぁこれを機に検討してくれや。いつでも歓迎するからよ。……っと、あれもそろそろ消してぇなぁ」
「アレ?」
「あの壁に刻まれた言葉だよ。十大罪人の野郎が前に来た時の」
そう言って、おっさんは近くの壁に剣かなにかで刻まれた文字を指さす。
「……っ!?」
その文字をみて、俺は目を見開いた。驚きが脳を支配し、手に変な汗が滲む。
「どういう……ことだ!?」
そこには、『俺は十大罪人の1人だ。俺は俺の罪を知っている』とこの世界の言語で書かれている。これは前に野次馬に紛れていたティア達から聞いたものと同じだ。
しかし、問題はそこではない。そのすぐ下に小さく書かれた文字、それが問題なのだ。
「……なんで、日本語が?」
まるで、何かのサインのように、
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そこには、そう刻まれていた。
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