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第三章 王立学校

学生寮≒ホテル

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 道中、特に何事もなく……はないが、無事に王国に着いた。すでに外は茜色に染まっていて、予定よりも遅い入国にため息を漏らす。

「お前のせいだからな……」

「いやぁ、ボクが迷ったわけじゃないんだよ。君たちがボクから離れていったんだ」

「屁理屈言うんじゃねぇ!」

「とにかく急いで学校へと向かいましょう。手続きはまだ間に合うと思うので」

「そうするかぁ」

 三人と共に、俺は王立学校のある、都市の中心部へと向かった。

 ▷▶▷

「あの、寮の手続きってまだ大丈夫ですか?」

「はい、平気ですよ。郵送された証明書を提示してもらえますか?」

「あ、はい。……これですね」

 前に伝書鳩から送られてきた合格証明書を手渡す。吸血鬼の領地宛てにするわけにもいかないので、そこらへんの調整は少々面倒だった。

「……はい、確認できました。イスルギ・ケンイチさんですね。それで、後ろの方々は奴隷でしょうか?」

「そうです」

「シャロさんにティアさんですね。念のため、奴隷紋を見せてもらってもいいですか?」

 シャロとティアはそれぞれ、手の甲に刻まれた奴隷の証を見せる。

「はい、大丈夫です。こちらがお部屋のカードキーになります」

 そう言って、クレジットカードのようなものを渡された。

「イスルギ様のお部屋は12階の1208号室です。荷物も運ばれていますので、そちらのエレベーターを使ってお部屋に向かって下さい」

「ありがとうございます」

 この一連のやりとりで、本当にここは学生寮なのか?と疑問が浮かんでくる。豪華な内装に巨大な建物、そして丁寧な受付。挙句の果てに、エレベーターまであるときたもんだ。こんなの、寮というよりむしろホテルだ。

 王国の名門校ということでここまでの待遇だと思うのだが、いきなりの発展具合に頭が追い付いてこない。これまでは中世という世界観だったが、いきなり現代に戻されたみたいな感覚に襲われる。

「ファンタジーどこいったんだよ……」

 不満を溢しながら、俺達はエレベーターに乗り込んだ。

 12階へと着き、部屋の番号を探す。割とエレベーターから遠くない位置に俺の部屋を見つけた。一見普通の扉だが、ドアノブがビクともしない。

 そんなセキュリティに関心しつつ、先程渡されたカードをそこにかざした。

「おおお……!」

 少量の光が発せられ、おそらくだがロックが解除された。

「お邪魔しまーす」

 扉を開け中に入ると、想像通り、いや以上の内装が広がっている。

「すごい……おい、キッチンもあるぞ!」

「結構狭いかと思いましたけど、実際に見ると案外広々としてますねぇ」

 事前の情報通り、この部屋は3LDKの間取りになっている。屋敷の生活に慣れている俺らからすると手狭に感じるかと思いきや、いらない心配だったらしい。

「ねぇ健一、ボクの部屋ってどこだい?」

「あーそれなぁ……」

 ここの寮の最大の部屋が三人用なのだ。人型の使い魔を持っている人がそもそも少ないらしく、それに常に顕現させておくことも珍しいようで、俺達に最適な部屋がなかったのだ。

「ない……ってのもかわいそうだし、俺と共同になんのかな」

「えええ、ボク一人部屋がいいなぁ~」

「そう言われてもだな……」

 寝るときはどうせ俺の中に入ることになるだろうし、それでいいと思っていたのだが。

「駄目です。それは認められません」

「シャロ?」

「それならわたくしの部屋を差し上げるので、シャロとご主人様の相部屋……ということでいいんじゃないでしょうか?」

「え、ちょっ———」

「いいのかい? じゃあそれで頼むよ」

「待て待て待て! それは流石に無理があるだろ!」

 いくら俺でも、シャロとの相部屋はハードルが高すぎる。それに自室が欲しいという気持ちもある。雷鳴鬼は……まぁうるさいだけで気にならなそうだし、くらいでおさまるがシャロならそうはいかない。

「いいじゃないですかぁ。シャロはご主人様と一緒に居たいんですよぉ。学校に行っている間は会えないですし、せめて家にいる時はずっと傍に居たいんですよ」

「で、でもさ、ほら、俺だってずっと自室にいる訳じゃないしわざわざ同じ部屋にしなくても……」

「そうだぞ。それにイスルギだって一人になりたいときくらいあるだろ」

 俺が反論しているところに、キッチン周りを見ていたティアが援護しにきてくれた。

「だからアタシとシャロは同室、それでいいだろ」

「いいのか?」

「ああ。シャロとはもう何年も同じ部屋に住んでるから別に良い」

 ティアはそう提案するが、

「ちょっとティア? 勝手に決めないで」

 シャロはあまり納得のいかない表情を見せている。その様子にティアは何かを耳打ちした。

「…………」

「……それで、交代で……」

「……それにどんなメリットが?」

「……向こうから……無理やり……」

「……なるほど。確かにそれは魅力的です」

「……そのために……一人にして……」

「……ほうほう」

 何やらあやしい会話をしているが、断片的すぎて何を話しているかが分からない。しばらく経って、

「わかりました。シャロはティアと相部屋で構いません」

「そ、そうか?」

 不気味なくらいニコニコしているシャロにはあえて触れないことにした。

「よし、決まりだね。と、そろそろお腹が空いたような……」

「確かに。時間も時間だし、どっか食べ行くか」

「そうしましょう」

 荷物の解体は後回しにし、とりあえず腹ごしらえをすることにした。

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