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第三章 王立学校
プレゼント
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街の中心へと戻ってきた。昼間と比べると人の数が少し減ったかな、という印象を受けるがそれでも多い。流石、ここらでは一番大きい街なだけはある。
中央の広場には屋台がいくつも出ていて軽いお祭り会場のようだ。いつ来てもここはこんな様子なので、どれくらい栄えているかがよくわかる。
見渡していると、アイスクリーム屋が目についた。
「メア、あれ食べない? ていうか俺が食べたい」
「いいよ、行こ! 私もちょうど気になってたの!」
デザート代わりのアイスを買って、ベンチに座って食べる。陽気な天気の下で、冷たいものを食べるこの時間、とても好きだ。
俺が頼んだのはこの抹茶アイス。スプーンで掬って口に運びながら、懐かしい味を楽しむ。そういえばこの世界に抹茶があることを知ったときは死ぬほど喜んだな、と記憶が思い出される。
屋敷では抹茶が好きな人がほとんどいなかったのだが、ジェイルさんがよく好んで飲んでいた。あの人が俺に抹茶という存在を教えてくれたのだ。以来、たまにジェイルさんの部屋に行き、茶をもらうことが俺の密かな楽しみとなったのだ。
「んん~、おいしい。イスルギも食べる?」
「おい、わかって言ってるだろ……」
「えへへ~、そんなことないよぉ~」
メアが食べているのはストロベリー味だ。そして、俺の一番苦手な食べ物は苺だ。匂いですら、あまり嗅ぎたくない。
抹茶とは正反対に、屋敷の苺信者は多い。マイノリティな俺の意見は中々通らず、面白がって無理やり食べさせてくるやつもいた。しかし、俺は断固とした態度でそれを跳ね除け、なんとか身の安全を確保していたのだ。
「苺の何がそんなにいいのかね」
そう一言不満を零し、少し溶けかかったアイスの最後の一口を口に入れた。
▷▶▷
買い食いをしたり、芸を見たりと広場付近の店を制覇する勢いで回っていく中、メアがある店の前で足を止めた。
「わぁ……」
「おぉ嬢ちゃん、何かいいのが見つかったかい?」
どうやらアクセサリーの出店のようだ。店主をしている男は大柄で、言っちゃ悪いがアクセサリーを売るのに適していないほど顔が強面だ。
店に並んでいる商品はシンプルだが、なかなかに悪くないデザインだと思う。俺のセンスはあてにならないが、メアが目を奪われている様を見ればあながち間違っていないだろう。
「これ、すごい可愛い……!」
そう言って手に取ったブローチは、小さいながらその輝きをもって迫力というか存在感がある。淡いピンク色をしたそれは、まさにメアのためにあるのではないかと思うほどにピッタリだ。
「いいセンスだ。それは遥か遠方の国でしか取れない魔石で出来てるんだ。お嬢ちゃんの雰囲気にもぴったりだと思うぜ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、もちろん。そこの坊主もそう思うよな?」
店主のおっさんはウィンクをして、俺にパスを回してくれた。商売上手だなとおもいつつ、
「もちろん。メアにすげー合ってると思う。せっかくだし俺が買ってプレゼントするよ」
「いいの!? やった! ありがとう、イスルギ!」
か、かわいすぎる……
喜びが全身に表れている姿にほっこりする。孫についついおもちゃを買ってしまう全国のおじいちゃんの気持ちが少しわかった気がする。
「せっかくだしあの二人のもお土産で買うか。メア、何が良いと思う?」
「うーん、私が選んでもいいけど……あの二人ならやっぱり、イスルギに選んでほしいんじゃない?」
「うっ……そ、そうか……」
確かにそんな気はするが、俺のセンスに任されると思うと気が重くなる。どれだ、どれがいい?
悩んでいると、その中の二つが俺の目に留まった。
「これと、これ……」
手に取ったのは、雪の結晶の形をした髪飾りに、月の形をしたネックレス。それぞれ、シャロとティアのイメージと脳内でマッチした。
「うん、いいんじゃない!」
「よし、じゃあすみません。この3つをください」
「毎度あり」
会計を済ませ、ブローチをメアに、そして残りは袋に丁寧に入れてもらった。
「にしても、坊主モテるんだなぁ。まぁ顔も結構良いし、そりゃ女が放っておかねぇか!」
「ははは、そう言われると照れますね」
お世辞だとしても嬉しいものは嬉しい。おっさんの思うつぼかもしれないが、機会があったらまた来たいな。
帰り道、メアはさっそくそのブローチを服につけていた。物をプレゼントするのは初めてだが、こうやって喜んでくれると言語化できないような幸せな気持ちが奥から湧き上がってくる。
「今日は楽しかった! また、来たいね」
「そうだなぁ。ま、少し我慢すればいつでも来れるようになるから。な?」
「期待……していい?」
「大船に乗ったつもりでいてくれ。なんなら、もっと遠くだって行ってやろうぜ!」
「うん! 約束!」
夕日に照らされ、二つの影が繋がれる。胸に膨らむ幸せな気持ちを噛み締めながら、俺達は屋敷へと帰った。
▷▶▷
「おお、いいのか!?」
「すごい、綺麗です……」
「二人にもってことで俺が選んだんだが……」
「ありがとな! すごい気に入った!」
「ええ、すっごく。大事にしますね」
選んだ二つのアクセサリーはかなりの好評だった。その日から毎日つけてくれるようになり、俺としてもかなり満足だ。おっさん、ナイス。
中央の広場には屋台がいくつも出ていて軽いお祭り会場のようだ。いつ来てもここはこんな様子なので、どれくらい栄えているかがよくわかる。
見渡していると、アイスクリーム屋が目についた。
「メア、あれ食べない? ていうか俺が食べたい」
「いいよ、行こ! 私もちょうど気になってたの!」
デザート代わりのアイスを買って、ベンチに座って食べる。陽気な天気の下で、冷たいものを食べるこの時間、とても好きだ。
俺が頼んだのはこの抹茶アイス。スプーンで掬って口に運びながら、懐かしい味を楽しむ。そういえばこの世界に抹茶があることを知ったときは死ぬほど喜んだな、と記憶が思い出される。
屋敷では抹茶が好きな人がほとんどいなかったのだが、ジェイルさんがよく好んで飲んでいた。あの人が俺に抹茶という存在を教えてくれたのだ。以来、たまにジェイルさんの部屋に行き、茶をもらうことが俺の密かな楽しみとなったのだ。
「んん~、おいしい。イスルギも食べる?」
「おい、わかって言ってるだろ……」
「えへへ~、そんなことないよぉ~」
メアが食べているのはストロベリー味だ。そして、俺の一番苦手な食べ物は苺だ。匂いですら、あまり嗅ぎたくない。
抹茶とは正反対に、屋敷の苺信者は多い。マイノリティな俺の意見は中々通らず、面白がって無理やり食べさせてくるやつもいた。しかし、俺は断固とした態度でそれを跳ね除け、なんとか身の安全を確保していたのだ。
「苺の何がそんなにいいのかね」
そう一言不満を零し、少し溶けかかったアイスの最後の一口を口に入れた。
▷▶▷
買い食いをしたり、芸を見たりと広場付近の店を制覇する勢いで回っていく中、メアがある店の前で足を止めた。
「わぁ……」
「おぉ嬢ちゃん、何かいいのが見つかったかい?」
どうやらアクセサリーの出店のようだ。店主をしている男は大柄で、言っちゃ悪いがアクセサリーを売るのに適していないほど顔が強面だ。
店に並んでいる商品はシンプルだが、なかなかに悪くないデザインだと思う。俺のセンスはあてにならないが、メアが目を奪われている様を見ればあながち間違っていないだろう。
「これ、すごい可愛い……!」
そう言って手に取ったブローチは、小さいながらその輝きをもって迫力というか存在感がある。淡いピンク色をしたそれは、まさにメアのためにあるのではないかと思うほどにピッタリだ。
「いいセンスだ。それは遥か遠方の国でしか取れない魔石で出来てるんだ。お嬢ちゃんの雰囲気にもぴったりだと思うぜ」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、もちろん。そこの坊主もそう思うよな?」
店主のおっさんはウィンクをして、俺にパスを回してくれた。商売上手だなとおもいつつ、
「もちろん。メアにすげー合ってると思う。せっかくだし俺が買ってプレゼントするよ」
「いいの!? やった! ありがとう、イスルギ!」
か、かわいすぎる……
喜びが全身に表れている姿にほっこりする。孫についついおもちゃを買ってしまう全国のおじいちゃんの気持ちが少しわかった気がする。
「せっかくだしあの二人のもお土産で買うか。メア、何が良いと思う?」
「うーん、私が選んでもいいけど……あの二人ならやっぱり、イスルギに選んでほしいんじゃない?」
「うっ……そ、そうか……」
確かにそんな気はするが、俺のセンスに任されると思うと気が重くなる。どれだ、どれがいい?
悩んでいると、その中の二つが俺の目に留まった。
「これと、これ……」
手に取ったのは、雪の結晶の形をした髪飾りに、月の形をしたネックレス。それぞれ、シャロとティアのイメージと脳内でマッチした。
「うん、いいんじゃない!」
「よし、じゃあすみません。この3つをください」
「毎度あり」
会計を済ませ、ブローチをメアに、そして残りは袋に丁寧に入れてもらった。
「にしても、坊主モテるんだなぁ。まぁ顔も結構良いし、そりゃ女が放っておかねぇか!」
「ははは、そう言われると照れますね」
お世辞だとしても嬉しいものは嬉しい。おっさんの思うつぼかもしれないが、機会があったらまた来たいな。
帰り道、メアはさっそくそのブローチを服につけていた。物をプレゼントするのは初めてだが、こうやって喜んでくれると言語化できないような幸せな気持ちが奥から湧き上がってくる。
「今日は楽しかった! また、来たいね」
「そうだなぁ。ま、少し我慢すればいつでも来れるようになるから。な?」
「期待……していい?」
「大船に乗ったつもりでいてくれ。なんなら、もっと遠くだって行ってやろうぜ!」
「うん! 約束!」
夕日に照らされ、二つの影が繋がれる。胸に膨らむ幸せな気持ちを噛み締めながら、俺達は屋敷へと帰った。
▷▶▷
「おお、いいのか!?」
「すごい、綺麗です……」
「二人にもってことで俺が選んだんだが……」
「ありがとな! すごい気に入った!」
「ええ、すっごく。大事にしますね」
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