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第三章 王立学校
占いの館
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「ねぇ、次はどこいこっか!」
「街って言ったら後は……」
この街に度々来ることはあったが、買い出しがほとんどであったので娯楽にはあまり精通していない。人と行くのに適していて、女の子が好きそうな場所。何かあったか?
記憶を遡っていくうちに一つが頭に浮かぶ。
「あ、占いなんてのはどうだ?」
▷▶▷
例の如く人気の少ない路地を歩いていく。薄暗くて集客に向いてなさそうな立地、その点ではマイナス評価をつけざるを得ないが、腕は確かだ。まぁ、俺はよく分からないって言われたけど。
「ね、ねぇ。本当にこっちで合ってるの?」
「た、たしかそうだった気がするんだけどな……」
来たのは随分と前だ。おおまかには覚えているが確信はない。不安を抱えつつ進んでいくと、記憶の通りの小さな店が見えてきた。
「よ、よかった。焦ったぜ……」
胸を撫でおろし、その扉を開く。定休日とかじゃなくて良かった。
「おや、アンタはたしか……」
「あ、ども。久しぶりっす」
「なんだい、前とは顔ぶれが違うようだね」
占い師は相も変わらず顔の見えないローブを着て、テンプレのような口調で話しかけてくる。
「それで、何を占って欲しいんだい?」
「えっと、あー……メア、何がいい?」
「えっ、な、なんだろ。何がいいのかな……」
来ることだけ考えていたので肝心の内容を考えていなかった。
「特になさそうなら、私が勝手に占ってもいいかね?」
「お、お願いします」
占い師の目の前にメアは座り、占いが始まる。
「それじゃあ、こちらの目をよく見つめな」
そう言ってフードを少し上げ、青い瞳が覗きこむ。メアはその眼に意識が吸い込まれるように、急に雰囲気が変わった。眼が虚ろで、焦点が定まっていない。傍からみたら、あの時の俺もこんな感じだったのかと少々恐怖を覚える。
しばらく経って、「はい、おしまい」と、占い師の手の叩く音と共に占いが終わった。
「ふぅ……これはまた……」
「どう、でした?」
「アンタ、吸血鬼の王の娘かい」
「えっ!?」
身分を一切明かしていないにも関わらず、正体をあてたことにメアが心底驚いた表情を見せる。
「安心しな。別に何を思ったりもしないさ。とにかく、大変だっただろうに。こんな若い年齢で、大きな運命の分かれ道に立たされるなんてねぇ」
「運命の分かれ道……」
「まぁ、もう乗り越えたようだから大丈夫だよ。心配はいらない。未来へ良いように進んでいる」
「本当ですか!?」
「ああ、ただ……」
それまで良い反応を示していた占い師の言葉に陰りが出る。
「アンタの身近な者、そうだね、家族や配偶者といった類の者に不幸が訪れるかもしれない」
「ふ、不幸ですか……」
「これは何もすぐにじゃない。それに起こらない可能性だって十分にある。でも、私にはその未来が見えたのさ」
メアの周囲の者、これはつまり俺かフリードかのどっちかだろう。普通に考えればまず間違いなく俺だ。フリードが死ぬなんて、世界が滅ぶのも同然だ。
「なぁ、その不幸ってのは具体的にどんな事なんだ?」
我が身であれ、フリードであれ、聞いていて損はない。それに曖昧にされるより、よっぽどマシだ。
「そんなもの、一つしかないだろう……死、さ」
単語が虚空に響き、冷たい静寂をつくりだす。想定通りではあるが、受け入れがたいほどに大きい。
「そんな……死んじゃうの?」
「改めて言っておくが、これは確定した未来じゃあない。あくまで占いさ。今、こうしてあんた達二人に話したことで変化した可能性だってありえる。だから、気にしつつも、あまり気負わないことだね」
「……」
そうフォローをするが、流石に楽観視することはできないだろう。メアの心中を想像すると胸が痛くなる。
「あー……そうだ。この子が外にいる未来とかって、見えてたりしないか?」
場の空気を取り戻すべく、俺はそう質問した。
「ああ、見えたとも。外に遊びに行っている、というよりかは旅をしているように見えたね」
「それって……おい、メア!」
「ってことは、私は……!」
その話を聞いて、俺とメアは目を合わせて喜ぶ。それはきっと、メアの夢の実現の一部分だろう。将来のメアは、お母さんとの約束を果たしたのだ。
「そんなところさ。それで、そっちの見にくいアンタの方はいいのかい?」
「見にくいって、なんか別の意味に聞こえそうだけど……ああ、俺は別にいいかな」
見てもらいたい気持ちもあるが、ロクな結果が出なそうだ。そんなことをして、デートの雰囲気をこれ以上壊したくない。
「そうかい。それならいい。どうやら以前に言った、二つの障害も乗り越えたようだしね」
二つの障害。なんか障害だらけすぎてどれか分かんないけど、乗り越えたって言うなら安心だ。
そうして占い師に礼を言い、俺達は館を後にした。
「街って言ったら後は……」
この街に度々来ることはあったが、買い出しがほとんどであったので娯楽にはあまり精通していない。人と行くのに適していて、女の子が好きそうな場所。何かあったか?
記憶を遡っていくうちに一つが頭に浮かぶ。
「あ、占いなんてのはどうだ?」
▷▶▷
例の如く人気の少ない路地を歩いていく。薄暗くて集客に向いてなさそうな立地、その点ではマイナス評価をつけざるを得ないが、腕は確かだ。まぁ、俺はよく分からないって言われたけど。
「ね、ねぇ。本当にこっちで合ってるの?」
「た、たしかそうだった気がするんだけどな……」
来たのは随分と前だ。おおまかには覚えているが確信はない。不安を抱えつつ進んでいくと、記憶の通りの小さな店が見えてきた。
「よ、よかった。焦ったぜ……」
胸を撫でおろし、その扉を開く。定休日とかじゃなくて良かった。
「おや、アンタはたしか……」
「あ、ども。久しぶりっす」
「なんだい、前とは顔ぶれが違うようだね」
占い師は相も変わらず顔の見えないローブを着て、テンプレのような口調で話しかけてくる。
「それで、何を占って欲しいんだい?」
「えっと、あー……メア、何がいい?」
「えっ、な、なんだろ。何がいいのかな……」
来ることだけ考えていたので肝心の内容を考えていなかった。
「特になさそうなら、私が勝手に占ってもいいかね?」
「お、お願いします」
占い師の目の前にメアは座り、占いが始まる。
「それじゃあ、こちらの目をよく見つめな」
そう言ってフードを少し上げ、青い瞳が覗きこむ。メアはその眼に意識が吸い込まれるように、急に雰囲気が変わった。眼が虚ろで、焦点が定まっていない。傍からみたら、あの時の俺もこんな感じだったのかと少々恐怖を覚える。
しばらく経って、「はい、おしまい」と、占い師の手の叩く音と共に占いが終わった。
「ふぅ……これはまた……」
「どう、でした?」
「アンタ、吸血鬼の王の娘かい」
「えっ!?」
身分を一切明かしていないにも関わらず、正体をあてたことにメアが心底驚いた表情を見せる。
「安心しな。別に何を思ったりもしないさ。とにかく、大変だっただろうに。こんな若い年齢で、大きな運命の分かれ道に立たされるなんてねぇ」
「運命の分かれ道……」
「まぁ、もう乗り越えたようだから大丈夫だよ。心配はいらない。未来へ良いように進んでいる」
「本当ですか!?」
「ああ、ただ……」
それまで良い反応を示していた占い師の言葉に陰りが出る。
「アンタの身近な者、そうだね、家族や配偶者といった類の者に不幸が訪れるかもしれない」
「ふ、不幸ですか……」
「これは何もすぐにじゃない。それに起こらない可能性だって十分にある。でも、私にはその未来が見えたのさ」
メアの周囲の者、これはつまり俺かフリードかのどっちかだろう。普通に考えればまず間違いなく俺だ。フリードが死ぬなんて、世界が滅ぶのも同然だ。
「なぁ、その不幸ってのは具体的にどんな事なんだ?」
我が身であれ、フリードであれ、聞いていて損はない。それに曖昧にされるより、よっぽどマシだ。
「そんなもの、一つしかないだろう……死、さ」
単語が虚空に響き、冷たい静寂をつくりだす。想定通りではあるが、受け入れがたいほどに大きい。
「そんな……死んじゃうの?」
「改めて言っておくが、これは確定した未来じゃあない。あくまで占いさ。今、こうしてあんた達二人に話したことで変化した可能性だってありえる。だから、気にしつつも、あまり気負わないことだね」
「……」
そうフォローをするが、流石に楽観視することはできないだろう。メアの心中を想像すると胸が痛くなる。
「あー……そうだ。この子が外にいる未来とかって、見えてたりしないか?」
場の空気を取り戻すべく、俺はそう質問した。
「ああ、見えたとも。外に遊びに行っている、というよりかは旅をしているように見えたね」
「それって……おい、メア!」
「ってことは、私は……!」
その話を聞いて、俺とメアは目を合わせて喜ぶ。それはきっと、メアの夢の実現の一部分だろう。将来のメアは、お母さんとの約束を果たしたのだ。
「そんなところさ。それで、そっちの見にくいアンタの方はいいのかい?」
「見にくいって、なんか別の意味に聞こえそうだけど……ああ、俺は別にいいかな」
見てもらいたい気持ちもあるが、ロクな結果が出なそうだ。そんなことをして、デートの雰囲気をこれ以上壊したくない。
「そうかい。それならいい。どうやら以前に言った、二つの障害も乗り越えたようだしね」
二つの障害。なんか障害だらけすぎてどれか分かんないけど、乗り越えたって言うなら安心だ。
そうして占い師に礼を言い、俺達は館を後にした。
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