異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
70 / 139
第三章 王立学校

王の根底

しおりを挟む
 話し終えたフリードの顔は決して晴れ晴れとしたものではなかったが、俺にはどこかすっきりしたように見えた。そう思いたいのは、話したことで少しでも肩の荷を下ろしてほしいと願う俺の勝手な妄想だろうか。

 頼りがいがあって何でも出来そうな、無敵で不敵な吸血鬼の王の根本に初めて触れた気がした。

「これがお前と出会う前の話だ」

「そう……か……」

 果たして、俺はなんて声を掛けるべきだ?
 メアのお母さんと俺は実際に会ったわけじゃない。フリードが彼女をとても愛していたことは話を通して痛いほど伝わってきた。だからこそ、俺の勝手な想像で決めつけたくはないと思った。

「内容が内容だ。お前はそう深く考え込まなくていい」

「……」

 そう言うが、無関係をだと割り切るのも違う気がする。今の俺にできること、結局のところ、俺の当初の考えは変わらない。

「……俺、絶対リーリヤさんの残した物持って帰ってくるよ」

 愛した者の最後に立ち会えないという絶望は想像もつかない。想像すらしたくないものだ。

「一応手がかりとして、彼女が元々所属していた研究会を教えておこう」

「研究会?」

「王立高校では、二年次から研究会への所属が勧められる。リーリヤもその中の一つに所属していた」

「ああ、だから編入なのか」

「今となっては急ぐ必要もなかったのだがな」

「まぁまぁ。で、その研究会ってのは?」

「生態研究会というらしい。もっとも、当時はそこまで参加人数がいなかったらしい、今も残っているかは分からん」

「おいおい……なかったら困るぜ……」

 研究会が無ければ実質、手がかりがリーリヤさんの名前のみになる。最初はそれだけで臨むつもりだったが、他にヒントになりそうなものがあるなら別だ。

「とにかく、研究会があれば参加しろ。そこに恐らく金庫があるはずだ」

「仮によ、金庫が見つかってもどうやって持ち帰ればいいんだ?」

「壊せ」

「いやいやいや! 流石にそんな大胆にはできないだろ!」

「残っていたとしても、開けられる奴はもういない。気にせず無理やりこじ開けろ」

「たしかに……そうだけどさ……」

 向こうのシステムがいまいちわかっていない以上、ここであれこれ考えても無駄か。金庫が部屋になってたり、なんてこともあるかもしれない。俺に求められてるのは臨機応変に対応することだ。

「後は……そうだな、人間には気をつけろ」

「それは安心してくれ。これでもバレないようにするのは得意な方なんだ。それに、お前の強制命令もあるしな」

「いや、それもそうだが、そちらではない」

「うん?」

「俺が懸念しているのは人間自体の事だ」

「どういうことだってばよ?」

「あの国の人間は正直頭のおかしい連中が多い。王立の学校だと、その色はさらに濃いだろうな」

「頭がおかしいって……」

「これは比喩でもなんでもない。とにかく、危機管理だけは怠るなよ」

「お、おう……」

 最後に釘を刺して、フリードは先に風呂を出た。随分と長話を湯の中でしていたから、指がふやけてしまっている。それに、のぼせる寸前だ。流石にここまで長湯をするのはキツイ。

 火照った体を水風呂でクールダウンして、俺も風呂を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

処理中です...