異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

リーリヤ

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 第一印象は「変な奴」だった。

「殿下、この人間が我々の領地に侵入してきていました」

「だったらなんで連れてきた。国に帰してやれ」

「ですが……」

「いいよいいよ。私から説明するから」

 その女は燃えるような赤い髪をしていた。俺を前にしても一切動じず、むしろその眼に輝きが増しているようにさえ見えた。

「初めまして、吸血鬼の王。私はリーリヤ・セブンス。世界を旅する研究者よ」

 胸に手をあてて堂々と自己紹介する様に呆れつつも、俺はあることが気にかかっていた。

「……それで、何の用だ?」

 シルバーには人間を見つけ次第、国へ帰らせるように指示してある。命令に忠実な奴が、それを無視して連れてくるなど、よほどの事なのではないかと踏んでいるのだが、

「是非、私に君たち吸血鬼を研究させてほしいの!」

「なんだと?」

「あーでも、解剖したりとかそういうのじゃなくって、もっと文化的というか、生活を見たいんだ」

「……」

「だから、私を一年間くらいここに住ませて!」

「話にならん。シル、さっさとそいつを元の場所に帰してこい」

「いいの? それならこっちにも手があるんだよ」

 リーリヤはそう言うと、上の服を取り、その体に巻き付いたおびただしい量の爆弾を見せてくる。

「何の真似だ?」

「君たちが人間をあまり積極的に傷つけないことは知ってるの。だからこれが有効だと思ってね」

「シル……」

「という訳です。かなり厄介そうな雰囲気が出てたので、殿下におまかせしようかと」

 仮に外で大爆発を起こし人間に気付かれると、それはそれで良くないからひとまず連れてきたのだろう。後は単に面倒くさいから俺に押し付けようとしたと見える。

「それに君たちにとっても悪い話じゃない。私が吸血鬼の正しいイメージを伝えてあげるよ」

「……ふむ」

 この場で有無を言わさず殺すこともできる。人ひとり殺したからといって、弊害がでるわけでもない。だが……

「いいだろう。お前の滞在を許可する。ただし、俺の屋敷からは出るな。外出の際は必ず俺の許可をとれ」

 これはただの気まぐれだ。こうまで肝が据わっている女は初めて会ったから、単なる興味本位にすぎない。

「もちろん! これからよろしく、フリード君にシルバー君!」

「殿下……」

「別にいい。好きに呼ばせておけ」

 こうして、頭のネジが外れた女との共同生活が始まった。

 ▷▶▷

「フリード君、また頼んでもいいかな?」

「今度からはシルを頼れと言ったはずだが?」

「それが断られちゃって。それに私は吸血鬼の王を徹底的に知りたいの!」

「……はぁ。これが片付いたらな」

 あれから数週間、この女は落ち着く様子もなく、俺たちを観察してくる。それだけじゃない、吸血鬼の領地内を散策したいと無理に連れ出されることが多々あった。

「ねぇ、君たちは直接血を吸ったことはあるの?」

「ある。ずいぶんと昔の話だがな」

「まぁ今は不干渉条約があるからね」

「別に直接じゃなくても構わん。多少味は落ちるが微々たる差だ」

「ほうほう……味の感じ方は摂取の仕方で異なるのか……」

 どこから取り出したのか分からないメモ帳に、博士のような口調でボソボソと聞いたことを次々と書き込んでいく。自分勝手でやかましい……だが、そんな姿を面白いと感じている自分がいる。

「着いたぞ、ここが俺の城だ」

「うわぁ、なんか随分とボロいんだね」

「今はもう攻めてくる者もいない。直すだけ無駄だ」

「まぁ、それもそっか……中は案外綺麗じゃん」

「直さないだけで手入れをしない訳ではない」

 とはいえ、使わない城を掃除させ続けるのも気が引ける。頃合いを見て壊すか。

「うんうん。いいんじゃないかな! やっぱ王には城がないとね! そうだ、あそこの玉座に座ってみてよ」

「……面倒くさい」

「そう言わずにさぁ、ほらほら~」

 無理やり連れられ、座らされる。ほぼお飾りで座ることなど滅多にない椅子。座り心地はいいはずなのに、どこか居心地が悪い。

「いいねいいね! フリード君は顔がいいからすごい映えてるよ」

「はぁ……もういいか?」

「うーん……でもなんか足りないなぁ」

 人に座らせておいて文句を垂れ流す。本当にこんな奴は初めてだ。

「あっ、わかった!」

 何かを思いついた様子でリーリヤは俺の周りをぐるぐる歩き、「ここだ!」と椅子の左斜め後ろで立ち止まった。

「何をしている?」

 彼女は両手を前で重ね、足を揃えて直立している。

「なんか私、王妃様になったみたい!」

「…………」

 何を言い出すかと思えば、くだらない。

「ちょ、ちょっと……何か言ってよ」

 くだらなくて、予想外で、俺を楽しませてくれる。

「………ふ」

「今笑ったよね」

「いや、笑ってない」

「嘘だ! 絶対笑った!」

「断じて笑ってなどいない」

「いやいやいや、無理があるでしょー。もう私の脳内フォルダに刻まれたからね!」

「もういいだろ、帰るぞ」

「えー、早くない?」

 文句を言いつつも俺の後を子のように付いてくる。頬を膨らませ、精一杯の不満を表しているようだが、それを無視して俺は門を開いた。

「ねぇ~もっと楽しみたいんだけど。せっかく君と来れたんだし……」

「……そしたら、また来れば良い。時間はある」

「本当!? 約束だからね!」

 さっきまでのが演技かのように、一瞬で笑みを取り戻した。そのはじけるような表情に何か込み上げてくるものを感じつつ、ゆっくりと帰路に着いた。


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