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第三章 王立学校
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「ふぅ~、食った食った。食後にこんな豪華な風呂に入れるなんて、罪悪感……」
夕食会も終わり、久々の屋敷でゆっくりお風呂タイムだ。慣れ親しんだこの温泉たちは、もはや俺の人生に欠かせないものになっている。ここを作った人には是非とも直接お礼が言いたいくらいだ。
「にしてもこの後は……」
例の雷鳴鬼との賭けでやらなければならないことを思い出す。
「はぁ……メアはまだ16だ。俺がしっかりしないでどうする」
前の世界の倫理観が残っている以上、どうしても躊躇いが生じてしまう。むしろそれでいいのだが、この世界に順応しすぎてしまうのは少し怖い。
手で肩に湯をかけ、温泉を全身で感じていると、ピチャッピチャッと足音が聞こえてきた。
まさか、と思い目を向けたら、そこには予想と違った人物が、普段の堅苦しい服装を脱いで、局部をタオルで隠した状態で立っていた。
「ふむ。お前と入るのも久しぶりだな」
「なんだフリードか……おどかせやがって」
イケメンの裸体。写真集が出たら相当に売れそうなほどのその体。俺が男だとはいえ、その眩しさに目がつぶれそうになる。
「お前の裸って目に毒だわ」
「気にするな。それで死ぬことはない」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
フリードは賢いが、たまに天然をだしてくるときがある。そしてそのギャップはまさに凶器だ。顔が良いというのはこれほどまでに全ての要素をプラスに魅せるのか、と心底実感する。
「そういや、お前って人間の国には行ったことあんの?」
「数回ほどだが、立ち寄ったことはある」
「え、それってバレたりしないのか?」
たしか、吸血鬼が立ち入ると人間に絶対気づかれるようになっていると言っていたはずだ。
「普通なら感知される。しかし、数分間の時間制限付きで、その眼を搔い潜る術はある」
「ど、どうやって……」
「お前にはまだ話していなかったな。吸血鬼には全員、ある特殊能力が備わっている」
「特殊能力?」
「それを『蒸血』と言う。血を蒸発させ、爆発的な力を引き出す技だ」
「血を蒸発って……なんか怖いな……」
「代償はその分大きい。並みの吸血鬼ならば十数秒ともたないだろう。そして、使用後は一時的に吸血鬼ではなくなる」
「吸血鬼じゃなくなるってどういうことだ?」
「イメージとしては、血を蒸発させるというより、吸血鬼としての力を薪にして燃やすようなものだ。そうして、疑似的に人間に近い状態になる」
「なるほどな……」
要は瞬間的に強い吸血鬼になれるけど、反動で人間と同じになっちゃう感じか。そしてその代償を逆手に取って人間に紛れる、といったところか。
「人間に近い状態の継続時間は、『蒸血』を使用した時間に比例する。故に、この方法を使って人の街に繰り出すのはあまり有用ではない」
「そっか、だからか……」
フリードがもしそれを利用して、人間の国に紛れ込んだとしても、すぐに吸血鬼に戻ってしまうのなら意味がない。
「それってもしかして、俺でも使えるのか?」
フリードの因子があって半吸血鬼の俺ならばという純粋な疑問だ。
「おそらくだが使える。が、やめておけ。どうなるかが予想できん。それに、使用時にはとてつもない痛みが生じる。俺でさえ、避けたいほどのな」
「そ、そうか……」
あのフリードの口からそんな言葉が出るなんて、きっと常人では耐えられないのだろう。使うにしても、あくまで最終手段だな。
「それで……わざわざ同じタイミングで入ってきたってことは、何か話でもあるのか?」
意図的に調整しない限り、俺とフリードの入浴時間が被ることはない。以前に俺から誘ったことはあったが、こいつ自身が被せてくるのは初めてだ。
「ああ。お前が人間の国に行く前に話しておこうと思ってな」
「……?」
「どこから話したものか……」
ヘリの部分に両腕を乗せ、目を閉じたまま天を仰いでいる。その様子からは諦念のようなものが感じられるが、俺は次の言葉を待った。
「……学校に行く目的は覚えているな?」
「もちろんだ。メアのお母さん……お前の奥さんの研究資料をって話だったよな」
「そうだ。お前にはまだ、そこに至る経緯を詳しく話していなかったな」
「いいのか?」
「構わん。どちらにせよ、お前には知っておいてほしい」
「……分かった。それなら最後まで聞くよ」
「少し……長くなるぞ———」
夕食会も終わり、久々の屋敷でゆっくりお風呂タイムだ。慣れ親しんだこの温泉たちは、もはや俺の人生に欠かせないものになっている。ここを作った人には是非とも直接お礼が言いたいくらいだ。
「にしてもこの後は……」
例の雷鳴鬼との賭けでやらなければならないことを思い出す。
「はぁ……メアはまだ16だ。俺がしっかりしないでどうする」
前の世界の倫理観が残っている以上、どうしても躊躇いが生じてしまう。むしろそれでいいのだが、この世界に順応しすぎてしまうのは少し怖い。
手で肩に湯をかけ、温泉を全身で感じていると、ピチャッピチャッと足音が聞こえてきた。
まさか、と思い目を向けたら、そこには予想と違った人物が、普段の堅苦しい服装を脱いで、局部をタオルで隠した状態で立っていた。
「ふむ。お前と入るのも久しぶりだな」
「なんだフリードか……おどかせやがって」
イケメンの裸体。写真集が出たら相当に売れそうなほどのその体。俺が男だとはいえ、その眩しさに目がつぶれそうになる。
「お前の裸って目に毒だわ」
「気にするな。それで死ぬことはない」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
フリードは賢いが、たまに天然をだしてくるときがある。そしてそのギャップはまさに凶器だ。顔が良いというのはこれほどまでに全ての要素をプラスに魅せるのか、と心底実感する。
「そういや、お前って人間の国には行ったことあんの?」
「数回ほどだが、立ち寄ったことはある」
「え、それってバレたりしないのか?」
たしか、吸血鬼が立ち入ると人間に絶対気づかれるようになっていると言っていたはずだ。
「普通なら感知される。しかし、数分間の時間制限付きで、その眼を搔い潜る術はある」
「ど、どうやって……」
「お前にはまだ話していなかったな。吸血鬼には全員、ある特殊能力が備わっている」
「特殊能力?」
「それを『蒸血』と言う。血を蒸発させ、爆発的な力を引き出す技だ」
「血を蒸発って……なんか怖いな……」
「代償はその分大きい。並みの吸血鬼ならば十数秒ともたないだろう。そして、使用後は一時的に吸血鬼ではなくなる」
「吸血鬼じゃなくなるってどういうことだ?」
「イメージとしては、血を蒸発させるというより、吸血鬼としての力を薪にして燃やすようなものだ。そうして、疑似的に人間に近い状態になる」
「なるほどな……」
要は瞬間的に強い吸血鬼になれるけど、反動で人間と同じになっちゃう感じか。そしてその代償を逆手に取って人間に紛れる、といったところか。
「人間に近い状態の継続時間は、『蒸血』を使用した時間に比例する。故に、この方法を使って人の街に繰り出すのはあまり有用ではない」
「そっか、だからか……」
フリードがもしそれを利用して、人間の国に紛れ込んだとしても、すぐに吸血鬼に戻ってしまうのなら意味がない。
「それってもしかして、俺でも使えるのか?」
フリードの因子があって半吸血鬼の俺ならばという純粋な疑問だ。
「おそらくだが使える。が、やめておけ。どうなるかが予想できん。それに、使用時にはとてつもない痛みが生じる。俺でさえ、避けたいほどのな」
「そ、そうか……」
あのフリードの口からそんな言葉が出るなんて、きっと常人では耐えられないのだろう。使うにしても、あくまで最終手段だな。
「それで……わざわざ同じタイミングで入ってきたってことは、何か話でもあるのか?」
意図的に調整しない限り、俺とフリードの入浴時間が被ることはない。以前に俺から誘ったことはあったが、こいつ自身が被せてくるのは初めてだ。
「ああ。お前が人間の国に行く前に話しておこうと思ってな」
「……?」
「どこから話したものか……」
ヘリの部分に両腕を乗せ、目を閉じたまま天を仰いでいる。その様子からは諦念のようなものが感じられるが、俺は次の言葉を待った。
「……学校に行く目的は覚えているな?」
「もちろんだ。メアのお母さん……お前の奥さんの研究資料をって話だったよな」
「そうだ。お前にはまだ、そこに至る経緯を詳しく話していなかったな」
「いいのか?」
「構わん。どちらにせよ、お前には知っておいてほしい」
「……分かった。それなら最後まで聞くよ」
「少し……長くなるぞ———」
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