異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

酒と鬼と両手に花

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「な……な……」

 頬が赤く染まり、足元もおぼつかない。言葉もいつもの喋り方とは少し違って違和感がある。簡単に言えば呂律がまわっていない。

「しゃ、シャロが酔ったのか?」

 飲む姿は度々見ていたし、弱そうなイメージはなかった。「自分の限界は大体分かっているので」なんて前は言っていたし、そこら辺の調整はできるタイプだった。
 が、今の目の前にいるこの子は間違いなく酔っている。

「シャロを……ぎゅってして?」

「えっ」

「ほらぁ~こうやってぇ~」

「なっ!?」

 周りの目を全く気にせずシャロが俺の背中に腕を回してくる。そのまま倒れるように体重を俺にかけ、仕方なくそれを受け止めるのだが、

「あっ、ちょっ! 危ないって!」

 グラスが落ちないように取り上げ、それを近くのテーブルに置く。中身は先程飲んだあのクソ高いワインだ。度数は控えめだった気がする。
 まさか……

 食事会場の飲み物のところに目をやる。そこにはワインだけじゃなく、ウイスキーや果実酒など様々な種類のお酒が提供されていて、飲み比べコーナーみたいになっていた。

「おい、絶対原因あれだろ……」

 たくさんのお酒が飲みやすいサイズに分けられている。それぞれは少量だが、それでも全部飲めば相当な量のアルコールを摂取することになる。
 シャロはお酒が好きだと言っていたから、きっと喜んで全部を味わったのだろう。

「ごしゅじんさまぁ、ほらぁ~撫でて撫でて?」

 耳をぴょこぴょこさせて撫でるように促す。猫耳を使うのは卑怯だ。そんなの撫でるしかない。

「敬語じゃないシャロってのも、いつもと違っていて破壊力ハンパねぇな」

 これがギャップというやつなのだろう。そして、まんまと俺はそれに、今現在ひっかかっているわけだ。

「えへへぇ~、じゃあ次はぁ~……」

 抱きついた姿勢から少し距離を取り、人差し指を口元にあてる。小悪魔のような笑みを浮かべ、

「キス……して?」

 思いっきりぶっこんできた。そのあまりのあざとさに理性が一瞬吹き飛びかける。二人きりだったら俺は変貌していたところだ。とろけるくらいに甘い、甘い声と顔で誘惑をしてくる姿に、胸をドギマギさせながらも、

「そ、それはさ……ここではしにくいというか、できないというか」

 さっきから使用人の人達がチラチラとこちらの様子を横目で見ている。俺自身の酔いが全く回っていないせいで、恥ずかしさがひたすらに勝る。まぁこの場合、理性がなくなっていなくて良かったとは心の底から思う。

「なんでなんでぇ~、いつもはいっぱいしてくれるじゃん!」

「ば、ばかっ!」

 大声で……というわけではないのだが、近くの人には確実に聞こえているだろう。もうほんとに恥ずかしい。

「だからぁ~、ね? しよ?」

「い、今はだめだ。あとでな」

 ここでするには俺の勇気が足りない。小声で耳打ちをするのだが、

「隙あり~」

「……!?」

 不意に唇を奪われる。その決定的瞬間を見ていたのか、「きゃー!」とか「ふふふ」なんて使用人の人達がヒソヒソしてるのが聞こえてくる。

「くっ……だから今はっ!」

「もっかいしたい」

「え?」

「へんじはだいじょぶ」

「……!!??」

 離れたと思ったら再び唇が重なる。しかも今度は大人のアレだ。いつの間にか首の後ろに腕があり、逃げることを封殺される。ここまで攻めが強いシャロは初めてかもしれない。

「おーおー健一。随分としあわせそうだねぇ~」

 手に酒を持った雷鳴鬼が、絶賛身動きの取れない俺をニヤニヤしながら見てくる。

「見てないで助けろ」と言いたいのだが、口は完全に塞がれている。侵入してきた舌が俺のと絡み合って離そうとしない。そんな状態が数十秒続いた。

「はぁ……はぁ……やっと……」

「皆の前で堂々とこんなことをするなんて、君も中々だね」

「別にわざとやったわけじゃねぇからな!」

「でも内心嬉しいんだろ。両手に花じゃないか」

「両手って……いつのまに!?」

 シャロが来たタイミングでどこかへ行ったと思われたティアが俺の懐にいた。がっしりと両腕を二人に占領され、シャロは甘えた様子で、ティアはムスッとした表情でこちらを見つめる。

「いするぎはぁ~、まだ食べたりないだろ~?」

「だったら~、シャロを……たべる?」

「お、お前ら……」

 普段とは違う。あまりに違いすぎる。

「じゃ、楽しんでよ」

「おい待て! 手を貸してくれ!」

「いやいやぁ、お二方はそんなこと望んでなさそうだよ?」

「いっちゃ……だめ」

「逃げたらゆるさんからな~」

「ほら」

「ほら、じゃねぇ!」

「大人しく連行されたら~」

 二人に引っ張られて部屋の外に連れ出されそうになる。

 まだちゃんと料理も味わえてないし、話したい人とも話せていない。こんなところで離脱なんて嫌だ。しかも二人の目つきがなんか違う。これはそう、獲物を狙う目だ。

「待て! まだ俺は———」

「ごゆっくり~」

 と、ここで救世主が現れる。

「二人とも! 今日の主役を勝手に連れてっちゃだめでしょ!」

「め……メア!」

 今この瞬間、俺の目には確かにメアが女神に見えた。
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