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第三章 王立学校
鬼は修羅場を運んでくる
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長い道中、これといったトラブルもなく、ようやく屋敷が見えてきた。そのデカさは遠目で見ても街の建物と比べても引けをとらない。俺はこんな豪華なところに住んでいたのかと、あらためて思う。
入り口には出迎えとして、ロイドにレイズ、ジェイルさん達使用人の姿が見える。一か月も経っていないが、その顔ぶれがとても懐かしい。
門の中に入り、馬車から降りる。ずっと座りっぱなしだったので、足腰がバキバキだ。
「帰還。お疲れ様です」
「おう、お前の顔もなんか久しぶりで安心するわ」
「石動様。お帰りになられてばかりで申し訳ないのですが、フリード様がお呼びですのでそちらに向かって下さい。荷物は私どもで片づけますので」
「分かりました。よろしくお願いします」
この物腰が低い老紳士はジェイルさんだ。彼はこの屋敷に来たばかりの俺に、とても親切にしてくれた。屋敷の襲撃で一時期重傷を負って休んでいたが、また戻ってきてくれた。ケガをした理由も同僚をかばってとの事だったので、そんなところもカッコいい。俺の尊敬する人だ。
言伝の通りにフリードの部屋に向かう。屋敷の中は来る前と変わっていない。それもそうかと思いながら、扉の前に来た。後でメアの部屋にも顔を出そう。
「帰ってきたぜ」
部屋に居たのはフリードとシルバーの二人。相変わらずの様子だ。
「ご苦労だった。まずは結果から聞かせてもらおうか」
「おうよ。ちゃんと筆記実技どっちも合格したぜ。危ない場面はちょいあったけどな」
「そうか……よくやった」
「へへっ」
無愛想に思える返事だが、ただ不器用なだけだ。俺はそれを最大の誉め言葉として受け取った。
「それで、そっちの奴は鬼か?」
「ああ、なんか使い魔を持った方がいいって言われて、俺が呼び出した。えっと……何かまずいか?」
「いや、むしろいた方がいいだろう。鬼の戦闘能力は非常に高い。護衛としても役に立つ」
「ま、まじか……」
吸血鬼の王にそう言われ、雷鳴鬼はニヤニヤした顔でこちらを見てくる。これは勝負を受けたのは間違いだったか?
「ねぇ? 言っただろ? ボクは強いのさ」
「わかったわかった。でもまだ戦ってないからな」
こいつが特別弱いなんてこともあるかもしれない。だってポンコツだし。仮に強かったとして、調子に乗られるのは面倒くさいが、安心はする。
「取り合えず今日はもういい。自室で休め。明日の夜は盛大に祝おう」
「おっけーだ。楽しみにしてるぜ」
▷▶▷
フリードの部屋を離れ、なつかしの自室に来た。埃や塵一つない、とても綺麗な状態のままだ。きっと毎日欠かさず掃除をしてくれていたのだろう。
「ここが健一の部屋かい?」
「ああ。めっちゃ広いだろ」
「そうだねぇ。君にはもったいないくらいだ。特にベッドは、何でこんなに大きいのかなぁ? 一体ナニに使うのかなぁ?」
「寝るだけだよ。しょうもない下ネタ言うんじゃねぇ」
「あれぇ? ボクはそんなこと一言も言ってないよ。ねぇねぇ、どこが下ネタなんだい? ボクに教えてくれよ」
「くっ……お前……」
絶対に分かってやっているだろうが、あくまで無知を貫く。その態度に何かこう、湧き上がる何かを感じる。
「ほらほらぁ、早く言ってみなって。何と勘違いをしたのかを、さ?」
「何もしてねぇよ」
「うっそだぁ。ボクは単にベッドが大きいことにしか触れてないんだよ? いくら君の頭が煩悩の塊だからって、なんでもそういう発想になるのはねぇ?」
「……」
「このままだとボクの貞操も危ないかもね。君に押し倒されたら、か弱い乙女のボクは成すすべなく初めてを奪われるんだろうなぁ、ねぇ?」
「……」
「ほらほら。何か言ったらどうなんだい? それともやっぱりボクに欲情しちゃうのかな? まぁ、それも無理ないか。だってボクの魅力は世界一だもんねぇ」
「おまッ———」
「わぁッ!」
うるさい口を黙らせようとした矢先、何かに躓いて雷鳴鬼と共にベッドに倒れこむ。俺が半ば押し倒すような形になり、仰向けの雷鳴鬼と目が合う。いつもと同じような表情なのに、頬を少し赤らめて見つめるその姿に思わず心が揺れる。
「何だい? 照れてるのかい?」
「馬鹿言え。お前こそ顔が赤いぞ」
「そっちこそ。ボクには発情しないなんて言っておいてこのザマか。本当はエッチなことしたいんだろ?」
「んなわけあるかよ。これっぽっちも興味ないね」
「またまたぁ。いいんだよ、素直になっても。みんなには秘密にしてあげるからさ」
「だとしても心に響かねぇな」
「強情な奴だね。ドキドキしてるんだろう? 見れば分かるよ」
「はっ、自分の心音の間違いだろ」
「いや、君はドキドキしてるね」
「あっ、おい!」
雷鳴鬼の体の一部が粒子になって俺の体に入り込んでいる。二人の意識が混ざり合って、思考が妨げられる。
「認めたら、キスくらいはしてあげても良いよ?」
「誰がお前なんか。そっちこそ認めたらどうなんだ」
「いいや、これはボクの感情じゃないね。君はやっぱりボクを意識しているのさ」
「そんなわけあるか。俺は動じないね」
「……こうしても?」
「ッ!?」
腕が頭の後ろに回され、顔と顔が近づく。その瞳が、唇がだんだんと吸い込まれるように距離が縮まってくる。
「おい、これはさすがに……」
「やっぱりボクの魅力には逆らえないのかい? ま、分かり切っていたことだけどね」
「やろぉ」
頭がボーっとしてくる。思考が何かに操られ、支配されているようだ。お互いに一歩も引かず、ゆっくりと、しかし着実に間の空間が無くなっていく。吐息が聞こえる。心音がうるさい。雷鳴鬼は目を瞑り、受け入れる態勢をつくる。
これ以上はいけない。なのに何故か引き返せない。近づいて、近づいて、近づいて、唇と唇が重なる———
「おかえり、イスルギ。受かったんだっ―——」
「あ」
「———てぇ……」
「はは、修羅場かな……」
「ご主人様?」
「イスルギ?」
俺は死を悟った。
入り口には出迎えとして、ロイドにレイズ、ジェイルさん達使用人の姿が見える。一か月も経っていないが、その顔ぶれがとても懐かしい。
門の中に入り、馬車から降りる。ずっと座りっぱなしだったので、足腰がバキバキだ。
「帰還。お疲れ様です」
「おう、お前の顔もなんか久しぶりで安心するわ」
「石動様。お帰りになられてばかりで申し訳ないのですが、フリード様がお呼びですのでそちらに向かって下さい。荷物は私どもで片づけますので」
「分かりました。よろしくお願いします」
この物腰が低い老紳士はジェイルさんだ。彼はこの屋敷に来たばかりの俺に、とても親切にしてくれた。屋敷の襲撃で一時期重傷を負って休んでいたが、また戻ってきてくれた。ケガをした理由も同僚をかばってとの事だったので、そんなところもカッコいい。俺の尊敬する人だ。
言伝の通りにフリードの部屋に向かう。屋敷の中は来る前と変わっていない。それもそうかと思いながら、扉の前に来た。後でメアの部屋にも顔を出そう。
「帰ってきたぜ」
部屋に居たのはフリードとシルバーの二人。相変わらずの様子だ。
「ご苦労だった。まずは結果から聞かせてもらおうか」
「おうよ。ちゃんと筆記実技どっちも合格したぜ。危ない場面はちょいあったけどな」
「そうか……よくやった」
「へへっ」
無愛想に思える返事だが、ただ不器用なだけだ。俺はそれを最大の誉め言葉として受け取った。
「それで、そっちの奴は鬼か?」
「ああ、なんか使い魔を持った方がいいって言われて、俺が呼び出した。えっと……何かまずいか?」
「いや、むしろいた方がいいだろう。鬼の戦闘能力は非常に高い。護衛としても役に立つ」
「ま、まじか……」
吸血鬼の王にそう言われ、雷鳴鬼はニヤニヤした顔でこちらを見てくる。これは勝負を受けたのは間違いだったか?
「ねぇ? 言っただろ? ボクは強いのさ」
「わかったわかった。でもまだ戦ってないからな」
こいつが特別弱いなんてこともあるかもしれない。だってポンコツだし。仮に強かったとして、調子に乗られるのは面倒くさいが、安心はする。
「取り合えず今日はもういい。自室で休め。明日の夜は盛大に祝おう」
「おっけーだ。楽しみにしてるぜ」
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フリードの部屋を離れ、なつかしの自室に来た。埃や塵一つない、とても綺麗な状態のままだ。きっと毎日欠かさず掃除をしてくれていたのだろう。
「ここが健一の部屋かい?」
「ああ。めっちゃ広いだろ」
「そうだねぇ。君にはもったいないくらいだ。特にベッドは、何でこんなに大きいのかなぁ? 一体ナニに使うのかなぁ?」
「寝るだけだよ。しょうもない下ネタ言うんじゃねぇ」
「あれぇ? ボクはそんなこと一言も言ってないよ。ねぇねぇ、どこが下ネタなんだい? ボクに教えてくれよ」
「くっ……お前……」
絶対に分かってやっているだろうが、あくまで無知を貫く。その態度に何かこう、湧き上がる何かを感じる。
「ほらほらぁ、早く言ってみなって。何と勘違いをしたのかを、さ?」
「何もしてねぇよ」
「うっそだぁ。ボクは単にベッドが大きいことにしか触れてないんだよ? いくら君の頭が煩悩の塊だからって、なんでもそういう発想になるのはねぇ?」
「……」
「このままだとボクの貞操も危ないかもね。君に押し倒されたら、か弱い乙女のボクは成すすべなく初めてを奪われるんだろうなぁ、ねぇ?」
「……」
「ほらほら。何か言ったらどうなんだい? それともやっぱりボクに欲情しちゃうのかな? まぁ、それも無理ないか。だってボクの魅力は世界一だもんねぇ」
「おまッ———」
「わぁッ!」
うるさい口を黙らせようとした矢先、何かに躓いて雷鳴鬼と共にベッドに倒れこむ。俺が半ば押し倒すような形になり、仰向けの雷鳴鬼と目が合う。いつもと同じような表情なのに、頬を少し赤らめて見つめるその姿に思わず心が揺れる。
「何だい? 照れてるのかい?」
「馬鹿言え。お前こそ顔が赤いぞ」
「そっちこそ。ボクには発情しないなんて言っておいてこのザマか。本当はエッチなことしたいんだろ?」
「んなわけあるかよ。これっぽっちも興味ないね」
「またまたぁ。いいんだよ、素直になっても。みんなには秘密にしてあげるからさ」
「だとしても心に響かねぇな」
「強情な奴だね。ドキドキしてるんだろう? 見れば分かるよ」
「はっ、自分の心音の間違いだろ」
「いや、君はドキドキしてるね」
「あっ、おい!」
雷鳴鬼の体の一部が粒子になって俺の体に入り込んでいる。二人の意識が混ざり合って、思考が妨げられる。
「認めたら、キスくらいはしてあげても良いよ?」
「誰がお前なんか。そっちこそ認めたらどうなんだ」
「いいや、これはボクの感情じゃないね。君はやっぱりボクを意識しているのさ」
「そんなわけあるか。俺は動じないね」
「……こうしても?」
「ッ!?」
腕が頭の後ろに回され、顔と顔が近づく。その瞳が、唇がだんだんと吸い込まれるように距離が縮まってくる。
「おい、これはさすがに……」
「やっぱりボクの魅力には逆らえないのかい? ま、分かり切っていたことだけどね」
「やろぉ」
頭がボーっとしてくる。思考が何かに操られ、支配されているようだ。お互いに一歩も引かず、ゆっくりと、しかし着実に間の空間が無くなっていく。吐息が聞こえる。心音がうるさい。雷鳴鬼は目を瞑り、受け入れる態勢をつくる。
これ以上はいけない。なのに何故か引き返せない。近づいて、近づいて、近づいて、唇と唇が重なる———
「おかえり、イスルギ。受かったんだっ―——」
「あ」
「———てぇ……」
「はは、修羅場かな……」
「ご主人様?」
「イスルギ?」
俺は死を悟った。
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