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第三章 王立学校
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「……」
「……」
「……」
「んー! これ、美味しいねぇ」
「……」
「……」
「……」
「こっちも中々に……」
「……」
「……」
「……」
「ん? 皆食事中は話さない派かい?」
「お前……やっぱポンコツだろ」
「また言ったぁ!」
俺含めシャロとティアの間には何とも気まずい空気が流れている。鈍感なのかわざとなのか、このポンコツ厄介鬼は死んだ空気の中で食事の感想を1人で話し続けている。
「でも、元はと言えば健一が悪いんだろ? 待たせるなんて男らしくないぞー」
「うるせぇ! 分かってるよ!」
それにしたってタイミングってのがあるだろう。試験が終わったら真剣に考えようとしてたのだが、まさか終わった日にそれがあるとは思っていなかった。しかも間接的な告白とか本当に……もう……
「はぁ……どしよ」
「まぁまぁ。あ、それもらうね」
「おい、俺の肉!」
それからもシャロとティアは一言も喋らず、結局俺と雷鳴鬼の会話のみが部屋に響いて食事を終えた。
「えぇーと、俺は風呂に入ってくるけど3人はどうします?」
「……少し話したい事があるので先に行って下さい」
「あ、はい」
一体何を話すのかすごい気になるが、混ぜてなんて口が裂けても言えない。なんならこの空気からさっさと退散したい。
「じゃあボクも―――」
「雷鳴鬼さんは残ってください」
「え、でも―――」
「いいですね?」
「は、はい……」
シャロは平坦な口調で言ってのけるが、かえってそれが謎の威圧感を増してる。ふざけた態度の雷鳴鬼がこんなにも圧倒されてるのがその証拠だ。
仕方なく1人でトボトボとお風呂へと向かった。
▷▶︎▷
「はぁぁぁぁ……」
今日はどっと疲れた。そういえば帰ってきてから試験の事なんてちっとも話さなかったな。別に褒めてもらうためだとか、そんなことのためにやっていた訳ではないが、全くないのは少し寂しい。
だって勉強と同じくらい、いや、それよりも力を入れていたのだ。まぁ、帰ったらフリードが「よくやった」くらい言いそうだし、それでいいんだけどさ。
熱々の露天風呂に肩まで浸かりながら空を見上げる。今日は雲がなく満点の星空だ。星座のことはあまり知らないが、この世界にも星の名前とかあるのだろうか。
視界に映る星々は全てが一等星に思えるくらいの光を発している。幻想的で綺麗な一つひとつの輝きが湯に降り注ぎ、曇った心が安らぐ。その中でもやはり月が一際目立っていて、そこはかとない懐かしさを感じさせる。
地球への未練は無くなったわけではない。確かに心の奥に存在し、小さく、それでいて強く燃え盛っている。友達にも、家族にも別れを言うことができなかった。特に母親には迷惑をかけた。感謝も謝罪も、親孝行さえも、何もできていない。
『お母さんは健一に無理してほしくないの。大学受験、やめてもいいんだよ?』
不登校になり、俺が塾に行けなくなった日の朝、母がかけてくれた言葉が甦ってくる。
それはきっと本心であって、それでもやっぱり俺への期待はあっただろう。
小さい頃は運動も勉強も一番だった。田舎に住んでいたこともあって、小中は同じクラスで同じメンバーだった。皆が俺の昔を知っている。テストで一番でなくても、あいつは勉強してないだけ、やればできる奴だと勝手に思われていた。
努力なしに周りからチヤホヤされるのは気持ちが良かった。だが反面、その状況が俺に努力という選択肢を奪ってしまった。ゆっくりと熟成された怠惰が俺の底に根を張り、こうも堕落した。
結局は嫌なことから逃げている自分自身のせいだって事は分かっている。けど、こうして異世界に来て、一つの目標を達成したということは、俺に確かな一歩を感じさせてくれる。成長……と言ってもいいのかわからないが、間違いなく俺にとっては大切で、かけがえのないものになった。
この世界での努力が、それによって生まれた余裕が、俺に恋愛というものを与えてくれたように思える。高校に入ってからは、いつも心のどこかで焦っていて、そんなことを考えることが出来なかったのだろう。だから恋をしなかった。だから愛がわからなかったんだ。
今は驚くくらい視界がクリアだ。向き合わなかったのは未知を恐れていただけで、迷いはない。
もう、風呂を出よう。
▷▶▷
「みんなも風呂に行ったのか?」
部屋には三人の姿がない。改めて話を、と思ったのだが……まぁ少ししたら帰って来るだろう。
試験も終わったので明日の朝にはもうチェックアウトして、とりあえずこの街とはおさらばだ。どうせ一か月後くらいには来ることになるんだし、観光はその時でいいか。
荷物を整理していると、ガチャと扉が開く音が聞こえた。
「お、おかえり……え?」
入ってくるなり電気を消された。
「しゃ、シャロ? ティア?」
暗闇に目が慣れておらず、誰が入ってきたのかも分からない。
「お、おい……返事くらい―――」
言いかけたところで、不意に強い力に押され、そのままベッドへと倒れる。
「なッ!?」
ぼんやりとだが、その姿がようやく分かる。
「ふ、二人とも……」
「イスルギ……」
「少し……話をしましょうか」
「……」
「……」
「んー! これ、美味しいねぇ」
「……」
「……」
「……」
「こっちも中々に……」
「……」
「……」
「……」
「ん? 皆食事中は話さない派かい?」
「お前……やっぱポンコツだろ」
「また言ったぁ!」
俺含めシャロとティアの間には何とも気まずい空気が流れている。鈍感なのかわざとなのか、このポンコツ厄介鬼は死んだ空気の中で食事の感想を1人で話し続けている。
「でも、元はと言えば健一が悪いんだろ? 待たせるなんて男らしくないぞー」
「うるせぇ! 分かってるよ!」
それにしたってタイミングってのがあるだろう。試験が終わったら真剣に考えようとしてたのだが、まさか終わった日にそれがあるとは思っていなかった。しかも間接的な告白とか本当に……もう……
「はぁ……どしよ」
「まぁまぁ。あ、それもらうね」
「おい、俺の肉!」
それからもシャロとティアは一言も喋らず、結局俺と雷鳴鬼の会話のみが部屋に響いて食事を終えた。
「えぇーと、俺は風呂に入ってくるけど3人はどうします?」
「……少し話したい事があるので先に行って下さい」
「あ、はい」
一体何を話すのかすごい気になるが、混ぜてなんて口が裂けても言えない。なんならこの空気からさっさと退散したい。
「じゃあボクも―――」
「雷鳴鬼さんは残ってください」
「え、でも―――」
「いいですね?」
「は、はい……」
シャロは平坦な口調で言ってのけるが、かえってそれが謎の威圧感を増してる。ふざけた態度の雷鳴鬼がこんなにも圧倒されてるのがその証拠だ。
仕方なく1人でトボトボとお風呂へと向かった。
▷▶︎▷
「はぁぁぁぁ……」
今日はどっと疲れた。そういえば帰ってきてから試験の事なんてちっとも話さなかったな。別に褒めてもらうためだとか、そんなことのためにやっていた訳ではないが、全くないのは少し寂しい。
だって勉強と同じくらい、いや、それよりも力を入れていたのだ。まぁ、帰ったらフリードが「よくやった」くらい言いそうだし、それでいいんだけどさ。
熱々の露天風呂に肩まで浸かりながら空を見上げる。今日は雲がなく満点の星空だ。星座のことはあまり知らないが、この世界にも星の名前とかあるのだろうか。
視界に映る星々は全てが一等星に思えるくらいの光を発している。幻想的で綺麗な一つひとつの輝きが湯に降り注ぎ、曇った心が安らぐ。その中でもやはり月が一際目立っていて、そこはかとない懐かしさを感じさせる。
地球への未練は無くなったわけではない。確かに心の奥に存在し、小さく、それでいて強く燃え盛っている。友達にも、家族にも別れを言うことができなかった。特に母親には迷惑をかけた。感謝も謝罪も、親孝行さえも、何もできていない。
『お母さんは健一に無理してほしくないの。大学受験、やめてもいいんだよ?』
不登校になり、俺が塾に行けなくなった日の朝、母がかけてくれた言葉が甦ってくる。
それはきっと本心であって、それでもやっぱり俺への期待はあっただろう。
小さい頃は運動も勉強も一番だった。田舎に住んでいたこともあって、小中は同じクラスで同じメンバーだった。皆が俺の昔を知っている。テストで一番でなくても、あいつは勉強してないだけ、やればできる奴だと勝手に思われていた。
努力なしに周りからチヤホヤされるのは気持ちが良かった。だが反面、その状況が俺に努力という選択肢を奪ってしまった。ゆっくりと熟成された怠惰が俺の底に根を張り、こうも堕落した。
結局は嫌なことから逃げている自分自身のせいだって事は分かっている。けど、こうして異世界に来て、一つの目標を達成したということは、俺に確かな一歩を感じさせてくれる。成長……と言ってもいいのかわからないが、間違いなく俺にとっては大切で、かけがえのないものになった。
この世界での努力が、それによって生まれた余裕が、俺に恋愛というものを与えてくれたように思える。高校に入ってからは、いつも心のどこかで焦っていて、そんなことを考えることが出来なかったのだろう。だから恋をしなかった。だから愛がわからなかったんだ。
今は驚くくらい視界がクリアだ。向き合わなかったのは未知を恐れていただけで、迷いはない。
もう、風呂を出よう。
▷▶▷
「みんなも風呂に行ったのか?」
部屋には三人の姿がない。改めて話を、と思ったのだが……まぁ少ししたら帰って来るだろう。
試験も終わったので明日の朝にはもうチェックアウトして、とりあえずこの街とはおさらばだ。どうせ一か月後くらいには来ることになるんだし、観光はその時でいいか。
荷物を整理していると、ガチャと扉が開く音が聞こえた。
「お、おかえり……え?」
入ってくるなり電気を消された。
「しゃ、シャロ? ティア?」
暗闇に目が慣れておらず、誰が入ってきたのかも分からない。
「お、おい……返事くらい―――」
言いかけたところで、不意に強い力に押され、そのままベッドへと倒れる。
「なッ!?」
ぼんやりとだが、その姿がようやく分かる。
「ふ、二人とも……」
「イスルギ……」
「少し……話をしましょうか」
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