異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
53 / 138
第三章 王立学校

次に進むための話

しおりを挟む
「……」

「……」

「……」

「んー!  これ、美味しいねぇ」

「……」

「……」

「……」

「こっちも中々に……」

「……」

「……」

「……」

「ん?  皆食事中は話さない派かい?」

「お前……やっぱポンコツだろ」

「また言ったぁ!」

 俺含めシャロとティアの間には何とも気まずい空気が流れている。鈍感なのかわざとなのか、このポンコツ厄介鬼は死んだ空気の中で食事の感想を1人で話し続けている。

「でも、元はと言えば健一が悪いんだろ?  待たせるなんて男らしくないぞー」

「うるせぇ!  分かってるよ!」

 それにしたってタイミングってのがあるだろう。試験が終わったら真剣に考えようとしてたのだが、まさか終わった日にそれがあるとは思っていなかった。しかも間接的な告白とか本当に……もう……

「はぁ……どしよ」

「まぁまぁ。あ、それもらうね」

「おい、俺の肉!」

 それからもシャロとティアは一言も喋らず、結局俺と雷鳴鬼の会話のみが部屋に響いて食事を終えた。

「えぇーと、俺は風呂に入ってくるけど3人はどうします?」

「……少し話したい事があるので先に行って下さい」

「あ、はい」

 一体何を話すのかすごい気になるが、混ぜてなんて口が裂けても言えない。なんならこの空気からさっさと退散したい。

「じゃあボクも―――」

「雷鳴鬼さんは残ってください」

「え、でも―――」

「いいですね?」

「は、はい……」

 シャロは平坦な口調で言ってのけるが、かえってそれが謎の威圧感を増してる。ふざけた態度の雷鳴鬼がこんなにも圧倒されてるのがその証拠だ。

 仕方なく1人でトボトボとお風呂へと向かった。

 ▷▶︎▷

「はぁぁぁぁ……」

 今日はどっと疲れた。そういえば帰ってきてから試験の事なんてちっとも話さなかったな。別に褒めてもらうためだとか、そんなことのためにやっていた訳ではないが、全くないのは少し寂しい。
 だって勉強と同じくらい、いや、それよりも力を入れていたのだ。まぁ、帰ったらフリードが「よくやった」くらい言いそうだし、それでいいんだけどさ。

 熱々の露天風呂に肩まで浸かりながら空を見上げる。今日は雲がなく満点の星空だ。星座のことはあまり知らないが、この世界にも星の名前とかあるのだろうか。

 視界に映る星々は全てが一等星に思えるくらいの光を発している。幻想的で綺麗な一つひとつの輝きが湯に降り注ぎ、曇った心が安らぐ。その中でもやはり月が一際目立っていて、そこはかとない懐かしさを感じさせる。

 地球への未練は無くなったわけではない。確かに心の奥に存在し、小さく、それでいて強く燃え盛っている。友達にも、家族にも別れを言うことができなかった。特に母親には迷惑をかけた。感謝も謝罪も、親孝行さえも、何もできていない。

『お母さんは健一に無理してほしくないの。大学受験、やめてもいいんだよ?』

 不登校になり、俺が塾に行けなくなった日の朝、母がかけてくれた言葉が甦ってくる。

 それはきっと本心であって、それでもやっぱり俺への期待はあっただろう。

 小さい頃は運動も勉強も一番だった。田舎に住んでいたこともあって、小中は同じクラスで同じメンバーだった。皆が俺の昔を知っている。テストで一番でなくても、あいつは勉強してないだけ、やればできる奴だと勝手に思われていた。

 努力なしに周りからチヤホヤされるのは気持ちが良かった。だが反面、その状況が俺に努力という選択肢を奪ってしまった。ゆっくりと熟成された怠惰が俺の底に根を張り、こうも堕落した。

 結局は嫌なことから逃げている自分自身のせいだって事は分かっている。けど、こうして異世界に来て、一つの目標を達成したということは、俺に確かな一歩を感じさせてくれる。成長……と言ってもいいのかわからないが、間違いなく俺にとっては大切で、かけがえのないものになった。

 この世界での努力が、それによって生まれた余裕が、俺に恋愛というものを与えてくれたように思える。高校に入ってからは、いつも心のどこかで焦っていて、そんなことを考えることが出来なかったのだろう。だから恋をしなかった。だから愛がわからなかったんだ。

 今は驚くくらい視界がクリアだ。向き合わなかったのは未知を恐れていただけで、迷いはない。

 もう、風呂を出よう。

 ▷▶▷

「みんなも風呂に行ったのか?」

 部屋には三人の姿がない。改めて話を、と思ったのだが……まぁ少ししたら帰って来るだろう。

 試験も終わったので明日の朝にはもうチェックアウトして、とりあえずこの街とはおさらばだ。どうせ一か月後くらいには来ることになるんだし、観光はその時でいいか。

 荷物を整理していると、ガチャと扉が開く音が聞こえた。

「お、おかえり……え?」

 入ってくるなり電気を消された。

「しゃ、シャロ? ティア?」

 暗闇に目が慣れておらず、誰が入ってきたのかも分からない。

「お、おい……返事くらい―――」

 言いかけたところで、不意に強い力に押され、そのままベッドへと倒れる。

「なッ!?」

 ぼんやりとだが、その姿がようやく分かる。

「ふ、二人とも……」

「イスルギ……」

「少し……話をしましょうか」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...