異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
52 / 138
第三章 王立学校

間接的告白

しおりを挟む
「おっす、ただいま」

「おかえりなさい、ご主人様」

「遅かったじゃねぇか……ん、その子は?」

「あー、えっと—――」

「ボクは雷鳴鬼。イスルギと契約した使い魔だよ」

「まぁ、そういうことだ」

「どういうことだよ……」

 流石に適当すぎたか。でも別に間違ってはいない。

「簡単に説明するとだな―――」

 ひとまず受かってからのくだりを一通り説明した。

「なるほど……それでその子と契約するに至ったと」

「ああ、仲良くしてやってくれ」

「ええ、もちろんです。自己紹介がまだでしたね。わたくしはシャロといいます」

「アタシはティアだ。よろしくな」

「うん、よろしくねぇ」

 なんて説明するか考えていなかったが、すんなり事が進んでよかった。

「ところで……シャロとティアは健一の愛人か何かかい?」

「違ぇよ!!」

「えぇぇ、でも君のこの子達に対する気持ちはまさに―――」

「ちょっと黙っててくれる!?」

 心が繋がっていることの弊害が早速出た。

「そ、その話詳しく聞いてもいいですか!?」

 シャロが雷鳴鬼から出た言葉を聞き逃さず、食いついてくる。

「えーっとねぇ、今健一が考えてることはー」

「待て待て待て! おい、心を読むな!」

 厄介。あまりにも厄介だ。と、ここで一つの疑問が浮かぶ。なぜ、雷鳴鬼は俺の中に入っていないのに心が読めるのだろうか。

「それは多分、ついさっきまで君の中にいたからだよ」

 俺の脳内の疑問に答える。完全に頭の中を覗かれているらしい。

「親和性が高いって話はさっきしただろう? その副産物だと思っていい」

「つまり、俺はお前を中に入れなくても心が読まれるってことか!?」

「そゆことー。でも、時間経過で段々聞こえなくなってくるみたい。20分くらいかな、もう分からないや」

「まぁまぁ長いじゃねぇか……」

 その間は無心にならなきゃいけないな。邪なことを考えでもしたら、きっと馬鹿にされて言いふらされそうだ。

「それで、さっきご主人様がシャロ達のことをどう考えていたか教えてもらってもいいですか?」

「えーと……なんだっけ?」

 どうやら雷鳴鬼は記憶力がポンコツらしい。まぁ自分の名前を忘れるくらいだしな。

「あー! 今ボクをバカにしたね!?」

「して……ないぞ?」

 おかしい。もう繋がりは途切れているはずなのにどうしてわかる?

「ぼんやりとしてるだけで、大まかな感情はまだ感じ取れるんだからね!」

「な、なんてめんどくさい……」

 まさに厄介の擬人化だ。本当は雷鳴鬼なんてのじゃなくて、厄介鬼とかなんじゃないか?

「あ!  またバカにしたね!?  怒ったぞ! 君の心を丸裸にしてやる!」

「おい、ちょっ!」

 怒りのままに光の粒子となった雷鳴鬼が俺の体に入ってくる。それをどうにか手で追い払おうとするが、そんなこと関係なしに皮膚へ完全に染み込んだ。

『さぁ、健一。二人のことを想像するんだ』

『考えない……俺は何も考えないぞ……』

『ははっ、無駄無駄。無意識までは思い通りにできないからね。ほら、もうわかっちゃった』

『なぁッ!!』

 解析はすぐに終わり、雷鳴鬼が表に出てくる。

「わかったよ。健一は———んぐっ!」

「い、言わせねぇぞ」

 咄嗟に口を手で覆い、なんとか言葉を遮るのだが、

「———ッ!?」

「いいですよ、ティア。そのまま押さえていてください」

「おいティア! やめてくれ!」

「悪いな、イスルギ。でも、仕方のないことだ」

 羽交い締めにされ、身動きが封じられる。じたばたして抜け出そうとするが、ティアの力に手も足も出ず、何をすることもできない。なんでこんなに力が強いんだよ。

「さぁ、雷鳴鬼さん。遠慮なく教えて下さい」

「しゃ、シャロもほら! こういうのって良くないだろ!? 人の心を読んでさ―――」

「いつまでも先延ばしにするご主人様が悪いんですよ」

「うっ!」

 的確に俺の痛いところを突いてくる。シャロ達にもはや説得は効かない。ならば、

「雷鳴鬼! さっきのことは謝る! だからよせ!」

「ごめんね、健一。でも、君の後押しをした方が都合がいいんだ」

 最後の砦もあっさり陥落した。

「それで、どうでしたか?」

「やめろぉぉぉぉぉ!」

「健一はね、君たちにとんでもないくらいの好意を抱いているよ」

「あぁ……」

 自分の恥部を見られたような……いや、それよりも恥ずかしい。なんの罰ゲームなんだ?

「好意って言葉じゃ足らないくらいかな。間違いなく心の底から愛していると言ってもいい」

 終わった。爆発しそうなくらい顔が熱い。表には出さなかった思いが次々と他人の口から語られる。

「そして、その裏に隠れているのは尋常じゃない程の独占欲さ。正直ドン引きレベルだよ」

「な……」

 俺ですら自覚のなかった裏の部分まで事細かく言ってのける。
 俺が……ドン引きレベルの独占欲を……?

「まぁ、ざっとこんな感じかな」

「な、なんてことを……」

 本当になんてことしてくれたんだ。このポンコツ厄介鬼は。
 それにしても、二人の反応がない。聞いたんなら何かコメントくらいはしてほしいのだが、

「おい、シャロ?」

「……」

 黙ったまま微動だにしない。

「てぃ、ティア?」

「い、今こっち向くな!」

「ぐへっ!」

 力いっぱい突き飛ばされて地面に激突する。俺が一体何をしたというのだ。聞いたのはそっちじゃないか。

「あ」

「え?」

 突き飛ばされた先でシャロと目が合う。途端にいつものシャロからは想像できないくらい顔が真っ赤になった。

「な、なんでそんな……」

「み、見ないでください!」

「がぁっ!」

 容赦なく電撃が俺に飛んできて、意識が刈り取られた。

 これも全部あいつのせいだ。あのポンコツ厄介鬼め……覚えていやがれ……

 薄れゆく意識のなか、俺は確かな恨みを抱いてそのまま気絶した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...