異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第三章 王立学校

ビスカ・ティスケス

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「う……ここは……」

「ようやく目を覚ましたか」

「てぃ、あ?」

「なんだ、まだ寝ぼけてんのか?」

 段々と意識がはっきりしてくる。俺はいつの間にか部屋に帰ってきたようだ。

「昨日はどんだけ飲んだんだよ……」

「どんだけって……別にそんな飲んだつもりはないんだけどな」

 精々あの少ない量を三、四杯くらいのはずだ。それだけ強い酒だったということだろうか。

「おはようございます、ご主人様。体調の方は大丈夫ですか?」

「おはよう、シャロ。頭とかも別に痛くねぇし多分大丈夫だ。少しボーっとするけど」

「念のため、今日は安静にしていてください。……それと、ついさっき試験の結果が届きましたよ」

 そう言って、シャロから封筒を渡される。それを丁寧に開け、中の紙をとりだした。

「結果は……筆記試験合格だ……」

「おお、やったな!」

「流石です!」

 結果は分かっていたようなものだが、そうだとしてもやはり嬉しい。努力が実を結んだのだ。

「ええっと、次の試験は……やっぱ明日か……」

 これも予定通りだ。どのような試験内容かは明日にならないと分からないらしい。正直、こちらの方が緊張する。

「とにかく、イスルギは今日ずっと寝てろ」

「それがいいですね。今日一日、付きっきりでお世話してあげますから」

「いや、そこは一人で寝かせてくれ……」

 謎の不調のために、今日一日は休息をとることにした。

 ▷▶▷

 遅い朝食を食べ、横になりながら虚空を眺めている。なんかあまり寝付けず、こうせざるをえないのだ。シャロもティアも部屋にいて、俺が抜け出さないように監視をしている。心配してくれるのはありがたいが、俺の信頼はどこへいったのだろうか……

 それにしても昨日のBARはなんだかんだ言って楽しかった。お酒も珍しいし、雰囲気も好きだ。場違い感は否めないが、総じて好印象だ。思わぬ出会いもあったことだしな。
 ふと、あの美人なお姉さんの顔が頭に浮かぶ。

 確か名前はビスカ——―

「……え?」

 その名前を思い出し、突如全身を貫くような寒気が走る。

 そんなはずはない。ただの偶然かもしれない。でも……

「なぁ、ティア……」

「なんだイスルギ。まだ寝てなかったのか」

「ああ……一個聞きたいことがある」

「ん?」

「十代罪人にビスカって名前の奴っていたっけか?」

 俺は罪人の名前を全て暗記している。それでも聞いたのはこの現実が受け止められないからだ。勘違いであってほしい、気のせいであってほしい。だが、そんな願いを砕くように、

「ああ、いるよ。『盲目の黒蛇』ビスカ・ティスケスのことだろ。」

 その名が二つ名と共に羅列された。

「特徴的な紫色の髪と目に、修道服を着てるらしいぜ」

「……」

 服は違う。しかし、変えようのない身体的特徴がぴったりと一致している。間違いなくあの時の女性は……十大罪人だ。俺はそう確信した。

「まずい、かもな」

 有り得る可能性としては、俺が毒を盛られたということだ。原因不明の眠気がその証拠なのだが、単に俺が酔いつぶれただけということもある。

「なんだ、どうしたんだ?」

「俺、会ったかもしれない……」

「会ったって……『盲目の黒蛇』にか?」

「ああ、昨日のBARでの話なんだけど———」

 できる限りの会話内容を思い出し、すべて話した。

「それは非常にまずいですね……」

「なんで気づかなかったんだよ!」

「いや、だって……名前聞いたの別れる前だったし……」

 あのとき疑問に思わなかったのは、きっと何かを飲まされていたからだとすると一応筋が通る。

「とにかく、急いで病院に行きましょう。遅効性の毒を飲まされていたらいけないので」

「まぁ、そうだな」

 これは完全に俺の不注意だ。まさか、あんなところで出くわすとは思っていなかったものだから、気が緩んでいた。ここはシャロの言う通り病院で診てもらうのがいいだろう。

 ▷▶▷

「うーん、別にこれと言った毒素は見つからなかったね」

「本当ですか?」

「ただ、睡眠薬の成分が少量検出されたから、眠気はそのせいだと思うよ」

「そう……ですか」

 やはりあの女性はクロだ。今回は偶々睡眠薬程度で済んだが、最悪の場合俺は死んでいた。その有り得たかもしれない未来を想像すると、恐ろしさで心臓が凍り付く。

「目付けられてないといいけどな」

「怖いこと言うなよ……」

 俺は名前しか告げていない。学校に通うということも知られてしまっているが、流石にそこへ乗り込んではこないだろう。

 一抹の不安を抱えつつ、今日はもうホテルで休むことにした。
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