異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
48 / 138
第三章 王立学校

酒の席

しおりを挟む
 少女と別れ、足早にホテルへと戻ってきた。

「ただいま」

「おかえり」

「お疲れ様です。試験はどうでしたか?」

「満点は……流石に無理だけど、まず落ちることはないと思うぜ」

 これは自信をもって言える。本当なら去年の今頃にこんなセリフを言いたかったが、あれは紛れもなく俺のせいだ。反省を生かしたということにしておこう。

「それはまた、すごい自信だな」

「あたりまえよ。なんせこれで落ちたらメアに顔向けできねぇからな」

「そしたら後は実技試験だけですね」

「そうだなぁ……」

 実技試験。これがきっと入学できるかどうかの明暗を分ける。できる限りの準備はしたのだが、

「……後は当日のコンディションを整えるだけだな」

 結果が届き、試験がある日までできることは限られてくる。それこそ、下手に練習するよりも適度に勘が鈍らないように訓練するのが最善だろう。

 しばらく経つと部屋に夕食が運ばれたのでそれを食べ、風呂に入って寝た。

 やることは変わらない。俺はいつも通りにしてればいいんだ。

 ▷▶︎▷

 筆記試験から数日後

 俺は1人で館内のBARに来ていた。2人と一緒でも良かったのだが、片方酒癖が悪いので、あえての1人だ。

 中は暗めの照明で全体的に黒を基調にした内装になっている。落ち着いた‘‘静‘‘の空間がその独特な雰囲気を醸し出し、そんなとこにいる自分が場違いに思えてくる。前の世界では未成年だったので、こういった所に来るのは初めてだ。

 ひとまずカウンター席に座り、どうやって注文するんだ?と悩んでいると、向こうの方から聞いてくれた。

「ご注文は?」

「あ、えっと……」

 メニューとか何も見当たらない。
 BARってカクテル飲むところだっけ?カクテルってなんだ?なんて謎が頭に浮かんでくる。そういえば知識とかなんも無かったわ。
 結局その場を凌ぐため、

「お、オススメで……」

 そう言って難を逃れた。

 後ろを向いて何かをしている店員を眺めながら、俺は1人で来たことを後悔していた。

 シャロだけでも誘えば良かったかな。いや、そうするとティアが可哀想だ。来てしまったものは仕方がない。

 ドキドキしながら待っていると、俺の前に緑色の液体の入った三角形のグラスが置かれた。

「こちら――の――で、――と――が元になっていまして、――が――で――の――――――――です」

「あっ……はい。ありがとうございます」

 八割以上聞き取れなかったが、勢いでそのまま返事をしてしまった。きっとこの飲み物の説明をしてくれたのだろうが、まったくもって分からない。寿限無の方がまだ聞き取れそうだ。
 そのままグラスを手に取り、眺める。深い、深い緑色で抹茶のような印象だ。

 口に近付け一口、この味は……

「……コーヒー牛乳?」

 だとすると色と味のミスマッチが甚だしいが、確かにこれはコーヒー牛乳の味がする。アルコール感はほとんどなく、とても飲みやすい。

 その不思議な味に夢中になっていると、

「隣、いいかしら?」

 横の席に大人の女性が座ってきた。

「あ、はい。大丈夫です」

 こういう出会いもあるもんなんだな、と思い俺は快く受け入れた。

「彼と同じのを」

 慣れた口調でそう注文する。常連なのだろうか?

「あなた、ここにくるのは初めて?」

 紫色の髪を耳にかけ、エロティックな雰囲気を感じさせながら聞いてくる。

「はい、ここを……というよりこの街に来るのが初めてで」

「そうなのね。観光かしら?」

「あー……いえ、王立学校の編入試験を受けに来たんです」

「ああ、あそこの……結構難しいんじゃない?」

「まぁそうですね。筆記はどうにかなったと思うんですけど、実技がどうなるか……」

「でも筆記試験ができるだけでもすごいわ。せっかくだし今日は奢ってあげる」

「いいんですか?」

「構わないわ。あなた、名前は?」

「石動健一です」

「石動君……ね。登録しとくわ」

「登録?」

「ああ、気にしないで。私少し忘れっぽいの」

 妖艶な表情で微笑みかけてくる。その大人っぽい雰囲気に飲み込まれ、思考がまるで止まってしまったかのようだ。

 その後は数十分ほど会話を楽しみ、俺は部屋に戻ることにした。

「そろそろ、部屋に戻りますね。ご馳走様です」

「もう行っちゃうの?」

「連れが心配すると思うので。すみません」

「連れって女の子かしら?」

「あぁ、まぁ……はい」

「ふうん……」

「あの、そういえばお姉さんの名前って……」

「私? 私はビスカよ。きっとまた会いましょうね」

「はい。今日はありがとうございました」

 挨拶を済ませ俺はBARを後にし、部屋へと戻った。

 それにしても綺麗な人だったな。The大人という感じで話すだけでもかなり緊張した。会話は他愛のない世間話のようなものだったが、半分以上覚えていない。アルコールのせいだろうか。

 そういえば学校の話は迂闊だったかもな。なんで酒飲んでんだって聞かれなかったことが唯一の救いだ。ああいう人はそこら辺も寛容なのだと勝手に納得する。

 ビスカさん……か。どっかで聞いたことがある気がするが、今は眠くて何も考えられない。
 また……会えるかな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...