異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

文字の大きさ
上 下
43 / 138
第三章 王立学校

温泉

しおりを挟む
「じゃあ1時間後くらいでいいか?」

「そうですね、そうしましょうか」

 部屋で料理を楽しんだ俺たちは、次に大浴場へ行くことにした。ここのお風呂は有名らしく、俺は今日一テンションが上がっている。

 暖簾をくぐって中に入る。荷物が割とあり、そこそこ人が入ってそうだ。空いているスペースに物を置き、俺は服を脱いだ。

「内風呂は2個か」

 普通だが大きめの風呂が2つあり、片方は水風呂となっている。しかし、目玉はそこではない。外に待ち構えている本命にワクワクしながらまずは体を洗いに行った。

「うーん……逆に一発目から行っちゃうか」

 全身をくまなく洗った俺は、最初から露天風呂に行くことを決めた。期待を胸に扉を開く。

「お、おぉぉぉ!」

 目の前に広がるは、まるで秘境のような光景。自然豊かで、硫黄の匂いが鼻に入る。こんな都会のど真ん中でこのレベルの温泉に入れるとは、流石異世界といったところか。

 かなり奥行があって、100人くらいなら入れそうだ。少年のような昂る気持ちを鎮め、冷静に風呂と対峙する。よし、まずはつま先からゆっくりとだ。

 温度は42℃程だろう。この寒い時期にぴったりだ。肩まで浸かっていくと自然と「ふぅ」とため息が漏れる。これは俺の人生においてかなり高いランクに位置づけられる風呂だと、この数秒で確信した。

 一連の俺の流れを見て、近くにいたおっちゃんが話しかけてきた。

「坊主、えらい幸せそうな顔だなぁ」

「はは、あまりにも気持ち良かったもので」

「そりゃあそうだろ。何せ実際に湧き出てるんだからな」

「それって……ここの地下から温泉が出てるってことですか?」

「いいや、ここの地下ってよりは遠く離れた場所さ。そこから魔法で引っ張ってきてるんだよ」

「な、なるほど……」

 今までの疑問が少し解けた。理論は結局魔法頼りだった訳だ。詳細は聞いてもきっと理解出来ないだろう。

「そういや坊主は昼間の事件平気だったか?」

「昼間の事件って———」

 そう聞いて思い出す。

「十大罪人……」

「そうそう、それだ。俺は実際に見たんだぜ?」

「見たって、犯人をですか?」

「ああそうさ。燃やされた所は俺が働いてる奴隷を売ってる店なんだけどよ、いきなり現れて刀で牢を壊しやがったんだ」

「その後どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもねぇよ。刀で壁に言葉を刻んでどっかに行っちまった。背格好は丁度お前さんくらいだったな、顔は隠れてて見えなかった」

 現場に書かれた文字に今の話から考えても、クラリスという可能性は薄そうだ。彼女も犯罪者だが、正直俺はそこに疑問を持っている。

「こういう事ってよくあるもんなんですか?」

「いやぁ、こんな街中で堂々とやるなんて滅多にないと思うんだけどな。奴らの考えてることはよく分からん」

 奴隷を牢から出したという行いが俺には引っかかった。奴隷を助けた?  そう考えてしまう。

「じゃあ俺は出るわ。坊主も奴隷が欲しくなったら俺の店に来いよ。何匹が逃げられたが、上等なのは残ってるからよ」

「はは……考えときます」

 奴隷は人に非ず、ということだろうか。この世界の価値観と微妙にズレている自分がいる。俺がどうこうできる問題ではないし、それがこの世界の常識なのだ。その状態を受け入れるしかない。

「……俺は見失わないようにしないとな」

 夜空に光る星々を見つめて、俺はそう呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...