異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第二章 再来の悪夢

蛇足⑦ 石動健一

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 辺りはすっかり暗い。だが雲ひとつなく、月は煌々と輝いている。

 ベランダで夜風に当たりながら、俺は覚悟を決めていた。

「俺は……理性で感情を制することのできる男なんだ……」

 冷たい風が頬をくすぐり、湯で火照った体を慰めるかのようにゆっくりと冷やしていく。いい感じにクールダウン出来た。部屋へ戻ろう。

「もう寝ますか?」

「ああ、そうするよ」

「言っとくけど、命令されたからで仕方なくだからな!」

「分かってるって」

 この無駄にでかいベッドは、本当はこうする事を見越してフリードが用意したのではないだろうか。そう考えると「余計なことしやがって」という気持ちでいっぱいになる。

 明かりを消して3人で布団に入る。触れずとも、気配や温度が伝わってきてなんかこう、モヤモヤする。

 そういえば俺、多人数で寝るの得意じゃなかったな。
 修学旅行とかで友達と寝るときも、自分が最後に寝ていた。友人の家に泊まって夜通し遊んだ時もそうだった。夜更かしを楽しんでいたというのもあるのだが、一番最後に寝ることが殆どだった気がする。
 理由は明確ではないのだが、おそらく感覚的なものだ。寝ようと思えば寝れるのだが、何となく嫌、という感じなのだ。

「……ん?」

 左腕に何か感触がある。これは―――

「ちょっ、シャロ!  やめろって!」

「あら、腕を組んでるだけですよぉ?」

「な、何やってんだよ!」

「ティアも一緒にどうです?  もう一方の腕が空いてますよ?」

「…………」

「おいシャロ、今日は流石に控えろって」

「そうは言っても、満更じゃないんでしょう?」

「あっ、おい!」

 シャロの手がそのまま良くない方向へと伸び、触られる。

「それは本当に、だめ、だって……」

「ふふ、体は正直ですねぇ」

「や、やめ―――」

 突如、反対側へ引っ張られた。右腕には柔らかくて温かい、まるで枕のような感触が伝わってくる。

「こっ、これはお前らが変なことしないように見張るためだからな!」

「てぃ、ティア!?」

「…………」

 恥じらいも相まって俺の琴線を刺激する。頭には悶々とした感情が巡り、思考の主導権を握り始めている。

「あら、ティアったら大胆ですねぇ」

「う、うるさい!」

 これはまずい。非常にまずい。シャロだけならまだギリギリ寝るまで耐えれたかもしれない。でも、これは流石に無理だ。
 尋常じゃないほど臨戦態勢に入っている。数分前の俺の決心はどこへやら。けれども生理現象なので仕方ないとも言える。

 かくなる上は、だ。

「……2人とも一瞬だけ離してくれ。トイレに行ってくる」

 そう言うと両腕が解放され、あれが出来るようになった。その一瞬できた隙を有効活用する。

「じゃ、おやすみな」

 そんな挨拶と共に俺は自身へ雷撃を放ち、無理やり意識を刈り取った。

「ご主人様!?」
「いするぎ!?」

 すぐに意識を飛ばせるからとはいえ、痛いものは痛い。これは自分への戒めだ。



 ▷▶︎▷



 ここはどこだ?

 視界がはっきりとしない。それに何も聞こえず、何の感覚もない。声すらでない。

 何かに吸い寄せられてる?

 ただの直感だが、確かにそう感じた。

 微かに見える幾千もの光が降り注ぎ、その中の一つが俺に直撃した。

 だんだんと視界がはっきりしてきて、2人の男女が目に映る。

 あれは―――

『お前、名前は?』

『ボクの名前は雷鳴鬼だ。それ以上でも、以下でもない』

『ないってことか? それだと困らねぇのか?』

『ああ、困らないね。でも、前に名前があった気がする』

『気がする?』

『はは、ボクには記憶がないんだ。気づいたらこうして呼び出されてた』

『うーん……じゃあ俺が思い出すの手伝ってやるよ。俺が名付ける……ていうのは流石にあれだしな』

『キミ、面白いね』

『馬鹿にしてる?』

『違う違う、気に入ったってことだよ。契約に従い、キミを主と認めよう。これから宜しくね、健一』

『ああ、よろしく。雷鳴鬼』

 あれは俺だ。
 もう1人は誰か分からない。この儀式場のような所にも見覚えがない。

 これは何の光景だ?



 ▷▶︎▷



「ふぁぁ」

 朝の光と共に俺は眠りから覚めた。

「特に何も見なかったな」

 前のような悪夢はなかった。気がついたら既に朝だったのだ。やはり考えすぎだったのか。

 それにしても……

「何か見た気がすんだよなぁ」

 夢の記憶は忘れやすいと言うが、何かを見たという感覚はある……気がする。それが何かが思い出せない。

「ま、魘された訳じゃないし平気だろ」

 こうして、俺の何気ない一日が再び始まるのだった。
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