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第二章 再来の悪夢
解決法
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見慣れた場所
そして、目の前の男。
その凛とした顔には歪みが一切見られず、堂々たる立ち振る舞いでこちらの様子を窺っている。
「行くぞ」
もはや使い慣れた、雷の槍をその男にぶつける。
「ほう」
が、その轟音は呆気なく掻き消され、傷一つつかない。
そんなことな分かっている。雷槍と共に走り出した俺は、刀でその胴体を狙う。
腹、肩、脚、狙いをそれぞれバラけさせ、一心に斬り掛かるが、避けて避けて、避けられる。
ここだ……
絶対に避けられないタイミングが見えた。そこを何とか掬い上げるように、雷を纏った刀を一直線に投げる。
「……は?」
俺が放ったはずの刀が、勢いそのまま横を通り過ぎていく。
馬鹿げた話だが、俺が飛ばした刀をデコピンで弾いたのだ。その行動が受け止められなくて、結果隙を晒すことになった。
「ぐぁッ」
とてつもない速さで接近し、脚で顔を打ち抜かれた。当然その動きに反応出来るわけもなく、体は慣性に倣って宙を舞った。
「くそ……」
届かない。ソルヴァさえ1人で殺せない俺に、それより遥かに強い男を殺せる訳がないのだ、あらためてその壁を実感する。
「魔法の射出スピード、威力が上がったな。魔力効率も前より格段に良くなっている。相手が俺でなければダメージを与えることができるだろう」
この男に悪気はない。ただ、事実を言っているに過ぎないのだ。が、現実はやはり受け止めきれない。
俺はこの男と敵対するのだ。
ロナンの、シリアの、ヘルドの恨みを俺が引き受け、復讐を果たさなくてはならない。
うまくいかないかもしれない。なんなら、ほぼ100%無理だろう。
そうだとしても、恨み続けることに意味がある。
それが今の俺の生きる理由なのだから……
――――――――――――――――――――
夜になると必ず悪夢を見る。
それは以前と全く変わらず、俺が死ぬまで終わることは無い。
全てを捨て、恨みを持ったまま立ち向かい、そして死ぬ。
死の恐怖と、夢から覚める条件が俺の頭をぐちゃぐちゃにして、正常な思考を奪う。
ある種、洗脳にも似たように思えるが、そんなことを深く考えられる余裕などないのだ。
目的が、生きる理由が、俺の居場所がそれなのだ。
それが俺にとっての夢であり希望なのだ。
そう、それがきっと正しい
俺は間違ってない
それでも、あの悪夢によって心が擦り切れているのは事実だ。擦り切れて、張り裂けそうで、どうしようもなく怖い。
もう……死にたくない……
そんな俺の願いを嘲笑うかのように、何度も何回も飛ばされて、殺されて、それが繰り返される。
俺は現実で1度も死なないまま、夢の中で何十、何百、何千と死に続けた。
そんな中、一つの解決法を見つけた。
それは―――
「ご主人様、まだ寝ないのですか?」
「悪い、これだけやっちゃいたいから先寝ててくれ」
俺が寝る時、最近いつも添い寝をしてくれている。だが、それには何の意味もない。寝れば結局悪夢に魘されるだけだ。
それならいっそ、寝なければいい。寝ないと宣言すれば心配されるだろうから、あくまでバレないように、だ。
眠気は因子を稼働させれば感じない。疲れは溜まるが、その苦しみに耐えればいいだけだ。死ぬよりよっぽどいい。
こうして、俺の不眠生活が始まる。
――――――――――――――――――――
勉強をしたり、魔法の練習をしたりしているといつの間にか辺りが明るくなっていた。
「お……はようございます。起きてたんですか?」
「おはよ。ちょっと目が覚めたから朝風呂行ってたんだよ」
「そう……ですか」
もちろん嘘だ。
あの世界に送られないように、死なないように俺は昨日から寝ていない。
体力は回復しないが、因子を働かせていれば眠気はやってこない。
死ぬより全然マシだ。
1時間ほど経ってティアが朝ごはんを運んできてくれた。
その何も傷がない姿を見て、心から何かが込み上げてきたが、そっと胸にしまった。
午前は勉強、午後は訓練。
いつもと何ら変わりない日常。
それでいい、それがいい。
ゆっくりと時間をかけて方法を見つければいいのだ。
怨みの炎は消えていない。
『そうだ、恨み続けろ』
うるさい
夢での言葉がとうとう現実でも聞こえるようになった。これは俺のつくりだした幻聴……らしいが、よく分からない。
きっと俺の行動を正しいと言ってくれる存在が欲しかったのだろう。そういう意味ではあながち間違いではないな。
俺を認めて、俺を励まして、俺を必要とする。それをするのが俺自身というのはあまりにも孤独だが、仕方がないことだ。
だって俺は、
『この世界の人間じゃない』
ああ、分かってるよ
「ちょっと、何ボーッとしてるの?」
「悪い悪い、問題が分かんなくて必死に考えてただけだ」
「それなら聞いてよ、何のために先生がいるのか分かんないじゃん」
「そう……だな」
この子も俺が殺したも同然だ。
俺が見捨てた。
たとえ、それが現実じゃなかったとしても、俺の目に、脳裏に、記憶にしっかりとあの姿が焼き付いている。
それもこれも俺が逃げたせいだ。
ここでは、もう逃げない。
「――だから聞いてるの?」
「あー」
「……絶対聞いてなかったでしょ」
ぷくっと頬を膨らまして、俺の事を見つめるその少女が愛おしくて、それでいて苦しくて、それを隠すように頭を撫でた。
「なぁッ!?」
「…………」
「ちょ、ちょっと……そうすれば私が許すと思ってない?」
「そうか、ならやめるか」
嫌がるのならば仕方がない。パッと俺が手を離すと、
「ちがッ……許すからもっかい」
恥ずかしがりながら再び求められたので、言われた通りに撫でる。
これは俺の贖罪だ。
この子もいつか敵になるのだろう。
当然だ。俺の目的を知ればここにいる奴らが全員敵になる。
いつかその未来がくる。だが、それは今じゃない。
今は、ただただこの少女に触れていたいと、俺はそう思った。
――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ、くそ……まだか」
「俺を殺せたなら、この世界にもはや怖いものはないだろう。そう気に病むな」
「だ、ろうな」
毎度の如く、訓練なのだがやはり勝てない。魔法やあちらからの攻撃がない(反撃はあり)というハンデがあっても、勝負にすらなっていない。
「この前、ちょうど15%を超えたな。今は16.8%。十分な成長具合だ」
因子によって、フリードの1割の力が出せると踏んでいたのだが、どうやらそうではないらしい。
ちゃんと俺の身の丈に合った強さが提供されている。
俺らしいなと思う反面、もっと力があればという気持ちが強くなる。
強くなる……魔力量……
1番手っ取り早いのは魔法だろう。因子はもちろんだが、武器がなければ意味が無い。
実戦では魔法を連発出来ないのがネックだ。魔法を使った応用技を一つ考えているのだが、魔力量が弊害になってそれが出来ない。
魔力の上限を上げるために、よく寝てよく食べなければならないのだが、睡眠が取れない分、伸びが悪いだろう。今は別の方法に頼るしかない。
「女を抱く……か」
「どうした? ついにやる気になったのか?」
背に腹はかえられないと言ったところか。
今の俺に出来ることは少ない。出来ることを全力でやるべきではないだろうか。
俺の気持ちを無視してでもそれをするべきではないだろうか。
「相手は誰だ? シャロか? それともティアか? メア……という可能性もあるか」
「ねぇよ! 俺がメアに手を出したら犯罪だろ!」
年齢的にも見た目的にも、手を出したらお縄案件だ。てか、自分の娘の名前を出すってどんな神経してるんだ?
「そうでもない。この世界の成人は一般的に15歳からだ」
「随分と早いんだな」
「国によって変わることは無い。世界の常識のようなものだ」
「この世界の常識……」
そう聞いて、自分だけが仲間はずれのような気持ちになる。それを望んでいるはずが、どこか寂しい気持ちが込み上げてくる。
「それで、誰を選ぶんだ?」
「誰も選ばねぇよ。選べない。俺にはその権利がない」
自分が求められることはない。あってはならない。
だって俺は一度見捨てたのだから。
「だから、その……なんだ。例の娼館に案内してくれよ」
口にだして言うのが恥ずかしいが、仕方ない。
「お前はそれでいいのか?」
「いいんだよ。覚悟は決めた」
「ふむ……」
てっきり即オーケーしてくれると思っていたが、想像以上に渋っている。
こいつが言い出したことなのに……
「分かったいいだろう。手配しておく。数週間待て」
「数週間って……そんな時間かかるのか?」
「どうせなら1番良いものがいいだろう? それに……」
「それに?」
「いや、何でもない。とにかくしばらく待っていろ」
「はいはい、分かったよ。ありがとな」
今すぐという訳ではなかったが、想像以上に時間がかかるようだ。それは誤算だったが甘んじて受け入れよう。
そして、目の前の男。
その凛とした顔には歪みが一切見られず、堂々たる立ち振る舞いでこちらの様子を窺っている。
「行くぞ」
もはや使い慣れた、雷の槍をその男にぶつける。
「ほう」
が、その轟音は呆気なく掻き消され、傷一つつかない。
そんなことな分かっている。雷槍と共に走り出した俺は、刀でその胴体を狙う。
腹、肩、脚、狙いをそれぞれバラけさせ、一心に斬り掛かるが、避けて避けて、避けられる。
ここだ……
絶対に避けられないタイミングが見えた。そこを何とか掬い上げるように、雷を纏った刀を一直線に投げる。
「……は?」
俺が放ったはずの刀が、勢いそのまま横を通り過ぎていく。
馬鹿げた話だが、俺が飛ばした刀をデコピンで弾いたのだ。その行動が受け止められなくて、結果隙を晒すことになった。
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とてつもない速さで接近し、脚で顔を打ち抜かれた。当然その動きに反応出来るわけもなく、体は慣性に倣って宙を舞った。
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この男に悪気はない。ただ、事実を言っているに過ぎないのだ。が、現実はやはり受け止めきれない。
俺はこの男と敵対するのだ。
ロナンの、シリアの、ヘルドの恨みを俺が引き受け、復讐を果たさなくてはならない。
うまくいかないかもしれない。なんなら、ほぼ100%無理だろう。
そうだとしても、恨み続けることに意味がある。
それが今の俺の生きる理由なのだから……
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夜になると必ず悪夢を見る。
それは以前と全く変わらず、俺が死ぬまで終わることは無い。
全てを捨て、恨みを持ったまま立ち向かい、そして死ぬ。
死の恐怖と、夢から覚める条件が俺の頭をぐちゃぐちゃにして、正常な思考を奪う。
ある種、洗脳にも似たように思えるが、そんなことを深く考えられる余裕などないのだ。
目的が、生きる理由が、俺の居場所がそれなのだ。
それが俺にとっての夢であり希望なのだ。
そう、それがきっと正しい
俺は間違ってない
それでも、あの悪夢によって心が擦り切れているのは事実だ。擦り切れて、張り裂けそうで、どうしようもなく怖い。
もう……死にたくない……
そんな俺の願いを嘲笑うかのように、何度も何回も飛ばされて、殺されて、それが繰り返される。
俺は現実で1度も死なないまま、夢の中で何十、何百、何千と死に続けた。
そんな中、一つの解決法を見つけた。
それは―――
「ご主人様、まだ寝ないのですか?」
「悪い、これだけやっちゃいたいから先寝ててくれ」
俺が寝る時、最近いつも添い寝をしてくれている。だが、それには何の意味もない。寝れば結局悪夢に魘されるだけだ。
それならいっそ、寝なければいい。寝ないと宣言すれば心配されるだろうから、あくまでバレないように、だ。
眠気は因子を稼働させれば感じない。疲れは溜まるが、その苦しみに耐えればいいだけだ。死ぬよりよっぽどいい。
こうして、俺の不眠生活が始まる。
――――――――――――――――――――
勉強をしたり、魔法の練習をしたりしているといつの間にか辺りが明るくなっていた。
「お……はようございます。起きてたんですか?」
「おはよ。ちょっと目が覚めたから朝風呂行ってたんだよ」
「そう……ですか」
もちろん嘘だ。
あの世界に送られないように、死なないように俺は昨日から寝ていない。
体力は回復しないが、因子を働かせていれば眠気はやってこない。
死ぬより全然マシだ。
1時間ほど経ってティアが朝ごはんを運んできてくれた。
その何も傷がない姿を見て、心から何かが込み上げてきたが、そっと胸にしまった。
午前は勉強、午後は訓練。
いつもと何ら変わりない日常。
それでいい、それがいい。
ゆっくりと時間をかけて方法を見つければいいのだ。
怨みの炎は消えていない。
『そうだ、恨み続けろ』
うるさい
夢での言葉がとうとう現実でも聞こえるようになった。これは俺のつくりだした幻聴……らしいが、よく分からない。
きっと俺の行動を正しいと言ってくれる存在が欲しかったのだろう。そういう意味ではあながち間違いではないな。
俺を認めて、俺を励まして、俺を必要とする。それをするのが俺自身というのはあまりにも孤独だが、仕方がないことだ。
だって俺は、
『この世界の人間じゃない』
ああ、分かってるよ
「ちょっと、何ボーッとしてるの?」
「悪い悪い、問題が分かんなくて必死に考えてただけだ」
「それなら聞いてよ、何のために先生がいるのか分かんないじゃん」
「そう……だな」
この子も俺が殺したも同然だ。
俺が見捨てた。
たとえ、それが現実じゃなかったとしても、俺の目に、脳裏に、記憶にしっかりとあの姿が焼き付いている。
それもこれも俺が逃げたせいだ。
ここでは、もう逃げない。
「――だから聞いてるの?」
「あー」
「……絶対聞いてなかったでしょ」
ぷくっと頬を膨らまして、俺の事を見つめるその少女が愛おしくて、それでいて苦しくて、それを隠すように頭を撫でた。
「なぁッ!?」
「…………」
「ちょ、ちょっと……そうすれば私が許すと思ってない?」
「そうか、ならやめるか」
嫌がるのならば仕方がない。パッと俺が手を離すと、
「ちがッ……許すからもっかい」
恥ずかしがりながら再び求められたので、言われた通りに撫でる。
これは俺の贖罪だ。
この子もいつか敵になるのだろう。
当然だ。俺の目的を知ればここにいる奴らが全員敵になる。
いつかその未来がくる。だが、それは今じゃない。
今は、ただただこの少女に触れていたいと、俺はそう思った。
――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ、くそ……まだか」
「俺を殺せたなら、この世界にもはや怖いものはないだろう。そう気に病むな」
「だ、ろうな」
毎度の如く、訓練なのだがやはり勝てない。魔法やあちらからの攻撃がない(反撃はあり)というハンデがあっても、勝負にすらなっていない。
「この前、ちょうど15%を超えたな。今は16.8%。十分な成長具合だ」
因子によって、フリードの1割の力が出せると踏んでいたのだが、どうやらそうではないらしい。
ちゃんと俺の身の丈に合った強さが提供されている。
俺らしいなと思う反面、もっと力があればという気持ちが強くなる。
強くなる……魔力量……
1番手っ取り早いのは魔法だろう。因子はもちろんだが、武器がなければ意味が無い。
実戦では魔法を連発出来ないのがネックだ。魔法を使った応用技を一つ考えているのだが、魔力量が弊害になってそれが出来ない。
魔力の上限を上げるために、よく寝てよく食べなければならないのだが、睡眠が取れない分、伸びが悪いだろう。今は別の方法に頼るしかない。
「女を抱く……か」
「どうした? ついにやる気になったのか?」
背に腹はかえられないと言ったところか。
今の俺に出来ることは少ない。出来ることを全力でやるべきではないだろうか。
俺の気持ちを無視してでもそれをするべきではないだろうか。
「相手は誰だ? シャロか? それともティアか? メア……という可能性もあるか」
「ねぇよ! 俺がメアに手を出したら犯罪だろ!」
年齢的にも見た目的にも、手を出したらお縄案件だ。てか、自分の娘の名前を出すってどんな神経してるんだ?
「そうでもない。この世界の成人は一般的に15歳からだ」
「随分と早いんだな」
「国によって変わることは無い。世界の常識のようなものだ」
「この世界の常識……」
そう聞いて、自分だけが仲間はずれのような気持ちになる。それを望んでいるはずが、どこか寂しい気持ちが込み上げてくる。
「それで、誰を選ぶんだ?」
「誰も選ばねぇよ。選べない。俺にはその権利がない」
自分が求められることはない。あってはならない。
だって俺は一度見捨てたのだから。
「だから、その……なんだ。例の娼館に案内してくれよ」
口にだして言うのが恥ずかしいが、仕方ない。
「お前はそれでいいのか?」
「いいんだよ。覚悟は決めた」
「ふむ……」
てっきり即オーケーしてくれると思っていたが、想像以上に渋っている。
こいつが言い出したことなのに……
「分かったいいだろう。手配しておく。数週間待て」
「数週間って……そんな時間かかるのか?」
「どうせなら1番良いものがいいだろう? それに……」
「それに?」
「いや、何でもない。とにかくしばらく待っていろ」
「はいはい、分かったよ。ありがとな」
今すぐという訳ではなかったが、想像以上に時間がかかるようだ。それは誤算だったが甘んじて受け入れよう。
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