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第二章 再来の悪夢
生きる理由
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126回目
何で終わらないんだ。
俺が出来ることは全てやったはずだ。
焦りや不安、そして永久にこの夢が覚めない恐怖に晒される。
クラリスに……頼ったからか?
俺の力だけで解決したわけじゃない。違う点があるとすればそこだけだろう。
「また、一から……」
終わりが見えない。
見えなくても許されない。
悪夢が俺に寄り添って離れない。
こうして、再び終わりの見えない俺の戦いが始まった。
――――――――――――――――――――
178回目
またダメだった。
今度は目の前でシャロとティアを殺された。
俺が余計なことをしたせいだ。
挙句、俺は生きたまま全身の骨を折られ、服を剥かれて路地へ放り投げられた。
近くにいた野犬のような魔物がそれに気がつくと、一目散に飛びかかってきて、そのまま食い殺された。
――――――――――――――――――――
204回目
ダメだ。
ソルヴァと1体1の状況を何とかつくりだせたが、敵わなかった。
俺の攻撃が一切通用せず、一方的に嬲られただけだった。
魔法はもちろんのこと、格闘戦すら敵わない。俺一人ではどうしようもなかった。
――――――――――――――――――――
242回目
目が覚めた瞬間、ソルヴァと鉢合わせた。
あいつが合図をしたと同時に一斉に敵が飛びかかってきて、殴り殺された。
とんだ理不尽だ。
道行くやつらも助けてくれやしない。
――――――――――――――――――――
435回目
死にもバリエーションが無くなってきた。
似たような死を経験した気がする。
記憶が少し曖昧だ。
今回は奴隷市を破壊したのだが、すぐに警備員が出てきてその場で焼き殺された。
――――――――――――――――――――
693回目
あのクソキモイおっさんが、あろう事か二人の体を、胸を触りやがった。
到底許せるわけがない。
何とか反抗したが、俺は両腕を切り落とされた。
それでも、執念で立ち上がり、あのブタの首を噛みちぎってやった。
それで満足だ。
――――――――――――――――――――
854回目
疲れた。
ここまで投げ出さなかった自分を褒めたい。
目の前で殺されて、何度も死んで、もう沢山だ。
なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。ここは現実じゃない。誰1人助ける必要がないのに……
――――――――――――――――――――
1093回目
このループの回数は俺の弱さの証だ。
思考が正常じゃないのは理解している。
体が熱いな。
太陽は眩しすぎるし、うざい。
道行くやつらも、誰も俺を気にとめない。
無関係みたいな顔をしている。
そんな様子が、まるで世界が俺を必要としていない風に見える。
頼む、俺を見てくれ。
俺の存在を認めてくれ。
俺が生きるのを……許してくれ……
――――――――――――――――――――
×回目
もう数え無くなった。
現実ってなんなんだろうか。
俺はここにいた時間の方が長い。
ここが本当の世界なのではないのか?
俺は今まで、ただ現実逃避をしていたに過ぎないのではないか?
完全に死ねることもなく、生きる目的さえない。俺は必要とされていないんだ。
「…………もう、やめよう」
久しぶり口からでた言葉は、虚勢でも何でもなくて、ただ全てを諦めた言葉だった。
――――――――――――――――――――
全てを置いてきた。
シャロもティアも見捨て、全てを放り投げて、俺は屋敷に戻ってきた。
もう全部がいいんだ。
俺が何をした所で死ぬのがオチなんだ。
約千回以上の死がそれを証明した。
屋敷には閑散とした空気が流れている。襲撃の時に全員殺されたのだろう。
辺りに血が飛び散っていて、所々に肉塊が見える。
「ここで……暮らしていけるかな」
設備はある。食料などは考えなければならないが、何とかなるだろう。
死んでも俺は死ねない。永久に1人で暮らすしかないのだ。
仮に死ねたとしても、俺は死を選ばない。選べない。
ただ、どうしようもないくらいに死ぬのが怖いんだ。何回死んでもそれが変わることはなくて、まだ感触が体に残っていて、それを忘れることができない。
「めあ……そうだ、メアを埋めてやらねぇと」
長らく見ていなかった少女。
かつての自分の友達の名前がふと零れた。
確かこっちの部屋だったはず―――
そう思い出し、歩いていくと正面から誰か歩いてくる。
「だ、れ……」
廊下の奥から白髪の吸血鬼、レイズが歩いてきている。その顔にはあの歪んだ笑顔がなく、腕にはロイドだったモノが抱きかかえられていた。
レイズはそれをゆっくりと地面に下ろす。
「……れい―――」
呼びかけた瞬間、自分の左腕が吹っ飛んだ。
「あぇ?」
痛みが、理解と共に追いついてくる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ループの中で何度も体を失った。それでも、やはり慣れることはない。痛いものは痛いのだ。
くそッ、何でだ!?
何でまた俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!
レイズはその瞳に静かな怒りを宿し、こちらへ向かってくる。
逃げなきゃ―――
そう考えたが、俺の脳裏にあったのはメアの存在だ。
頭は外へ外へと警告するが、体が自然とある部屋へ向かう。
どうせ追いつかれて殺される。それなら死に場所は自分で決めたい。
「ここ……だ」
記憶に残っている少女の部屋。中には血が飛び散って、そのまま固まっており、中心には虫がたかっている死体がある。
遅れて、レイズも部屋に入ってきた。
ここは2階だ。それに入口は1箇所。もはや逃げ場などない。
死が近づいてきている。
窓は空いており、冷たい風が入ってきている。その風がどこか切なくて、心を締め付けるように頬をくすぐる。
「死ぬ……のか……」
幾度も経験した”死”が迫ってくる。
今回はここで終わりだ。
きっとこれも何千回の内のたった1回なのだろう。
それでも、
「俺の終わりは、俺が決める」
窓に腰掛け、そのまま背中を落とす。
当然、支えるものもない。
真っ逆さまに落ちていく。
地面が、どんどん近づいてきてそれで、
潰れる音と共に、俺はこの世界に別れを告げた。
――――――――――――――――――――
「ここ……は?」
目を開けると、そこには見覚えのある天井があった。体は横たわっていて、布団が覆いかぶさっている。
隣にはシャロが寝息を立てて目を瞑っていた。
「かえって……これたのか?」
永遠に続くかに思われたループ。それが不意に終わった。
「おれ……は……」
シャロを見捨てた。ティアを見捨てた。メアを、シルバーを、ロイドを……
「フリード……は?」
何故気が付かなかった?
あの時、フリードにどうにか連絡すれば助かったのだ。なのに何で俺はそうしなかった?
フリードさえあの時いれば2人を、いや、2人だけじゃない。メアやロイドも助けられた。屋敷にいた全員が生きれたんだ。
あの場にフリードがいれば万事解決だったんだ。
あいつがいればどうにかなって、あいつがいれば俺は死ななくて、あいつがいれば誰も殺されなくて、あいつがいれば誰も傷つかずに済んで、あいつがいればあんな目には合わなくて、あいつがいれば皆が助かって、あいつがいれば全てが上手くいったはずで、
それで……
何で……俺を助けてくれなかったんだ
そんな俺の心に寄り添うように、悪夢が囁いてくる。
『この世界で明確にやりたいことなんかないんだろ?』
『無いものだらけのお前に、俺たちは生きる理由を、意味を与えてやってるんだよ』
『復讐しろ。恨みを忘れるな。アイツらを憎んで憎んで、憎み続けて、決して許すな』
『心を傾けるな。相手に触れ合おうとするな』
『絶望を忘れるな。希望を持つな』
『それが逃げたお前の贖罪になる』
「俺の……贖罪……生きる……理由……」
胸のつかえが取れるような感覚がある。
『お前にこの屋敷の、この世界の居場所はどこにもないんだ』
「俺は……この世界の人間じゃないから……」
『ああ、そうだ。この世界に生きていていい理由が必要だろ?』
「俺は……」
『思い出せ! お前に初めて居場所をくれたのはだれだ!? そいつらを殺したのはどこのどいつだ!?』
「…………」
『あの時、立ち向かわずに逃げたのは誰だ!?』
「お……れ……」
『そうだ! お前だ!』
「俺が……殺した……」
『なら、やることは一つだろ!? なぁ!?』
「………………」
『恨んで、恨んで、恨み続けることがお前が真にやるべきことなんだよ!!』
ようやく分かった気がする。
俺がここにいる意味。生きる理由。
あの夢はずっと教えてくれていたんだ。
俺が全てを捧げる覚悟を決めるための予行練習だったのだ。
「俺の生きる理由は―――」
居場所のない。夢も何もない俺が、この世界で唯一できること。俺の目的。
「――――――復讐を……果たすことだ」
何で終わらないんだ。
俺が出来ることは全てやったはずだ。
焦りや不安、そして永久にこの夢が覚めない恐怖に晒される。
クラリスに……頼ったからか?
俺の力だけで解決したわけじゃない。違う点があるとすればそこだけだろう。
「また、一から……」
終わりが見えない。
見えなくても許されない。
悪夢が俺に寄り添って離れない。
こうして、再び終わりの見えない俺の戦いが始まった。
――――――――――――――――――――
178回目
またダメだった。
今度は目の前でシャロとティアを殺された。
俺が余計なことをしたせいだ。
挙句、俺は生きたまま全身の骨を折られ、服を剥かれて路地へ放り投げられた。
近くにいた野犬のような魔物がそれに気がつくと、一目散に飛びかかってきて、そのまま食い殺された。
――――――――――――――――――――
204回目
ダメだ。
ソルヴァと1体1の状況を何とかつくりだせたが、敵わなかった。
俺の攻撃が一切通用せず、一方的に嬲られただけだった。
魔法はもちろんのこと、格闘戦すら敵わない。俺一人ではどうしようもなかった。
――――――――――――――――――――
242回目
目が覚めた瞬間、ソルヴァと鉢合わせた。
あいつが合図をしたと同時に一斉に敵が飛びかかってきて、殴り殺された。
とんだ理不尽だ。
道行くやつらも助けてくれやしない。
――――――――――――――――――――
435回目
死にもバリエーションが無くなってきた。
似たような死を経験した気がする。
記憶が少し曖昧だ。
今回は奴隷市を破壊したのだが、すぐに警備員が出てきてその場で焼き殺された。
――――――――――――――――――――
693回目
あのクソキモイおっさんが、あろう事か二人の体を、胸を触りやがった。
到底許せるわけがない。
何とか反抗したが、俺は両腕を切り落とされた。
それでも、執念で立ち上がり、あのブタの首を噛みちぎってやった。
それで満足だ。
――――――――――――――――――――
854回目
疲れた。
ここまで投げ出さなかった自分を褒めたい。
目の前で殺されて、何度も死んで、もう沢山だ。
なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。ここは現実じゃない。誰1人助ける必要がないのに……
――――――――――――――――――――
1093回目
このループの回数は俺の弱さの証だ。
思考が正常じゃないのは理解している。
体が熱いな。
太陽は眩しすぎるし、うざい。
道行くやつらも、誰も俺を気にとめない。
無関係みたいな顔をしている。
そんな様子が、まるで世界が俺を必要としていない風に見える。
頼む、俺を見てくれ。
俺の存在を認めてくれ。
俺が生きるのを……許してくれ……
――――――――――――――――――――
×回目
もう数え無くなった。
現実ってなんなんだろうか。
俺はここにいた時間の方が長い。
ここが本当の世界なのではないのか?
俺は今まで、ただ現実逃避をしていたに過ぎないのではないか?
完全に死ねることもなく、生きる目的さえない。俺は必要とされていないんだ。
「…………もう、やめよう」
久しぶり口からでた言葉は、虚勢でも何でもなくて、ただ全てを諦めた言葉だった。
――――――――――――――――――――
全てを置いてきた。
シャロもティアも見捨て、全てを放り投げて、俺は屋敷に戻ってきた。
もう全部がいいんだ。
俺が何をした所で死ぬのがオチなんだ。
約千回以上の死がそれを証明した。
屋敷には閑散とした空気が流れている。襲撃の時に全員殺されたのだろう。
辺りに血が飛び散っていて、所々に肉塊が見える。
「ここで……暮らしていけるかな」
設備はある。食料などは考えなければならないが、何とかなるだろう。
死んでも俺は死ねない。永久に1人で暮らすしかないのだ。
仮に死ねたとしても、俺は死を選ばない。選べない。
ただ、どうしようもないくらいに死ぬのが怖いんだ。何回死んでもそれが変わることはなくて、まだ感触が体に残っていて、それを忘れることができない。
「めあ……そうだ、メアを埋めてやらねぇと」
長らく見ていなかった少女。
かつての自分の友達の名前がふと零れた。
確かこっちの部屋だったはず―――
そう思い出し、歩いていくと正面から誰か歩いてくる。
「だ、れ……」
廊下の奥から白髪の吸血鬼、レイズが歩いてきている。その顔にはあの歪んだ笑顔がなく、腕にはロイドだったモノが抱きかかえられていた。
レイズはそれをゆっくりと地面に下ろす。
「……れい―――」
呼びかけた瞬間、自分の左腕が吹っ飛んだ。
「あぇ?」
痛みが、理解と共に追いついてくる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ループの中で何度も体を失った。それでも、やはり慣れることはない。痛いものは痛いのだ。
くそッ、何でだ!?
何でまた俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!
レイズはその瞳に静かな怒りを宿し、こちらへ向かってくる。
逃げなきゃ―――
そう考えたが、俺の脳裏にあったのはメアの存在だ。
頭は外へ外へと警告するが、体が自然とある部屋へ向かう。
どうせ追いつかれて殺される。それなら死に場所は自分で決めたい。
「ここ……だ」
記憶に残っている少女の部屋。中には血が飛び散って、そのまま固まっており、中心には虫がたかっている死体がある。
遅れて、レイズも部屋に入ってきた。
ここは2階だ。それに入口は1箇所。もはや逃げ場などない。
死が近づいてきている。
窓は空いており、冷たい風が入ってきている。その風がどこか切なくて、心を締め付けるように頬をくすぐる。
「死ぬ……のか……」
幾度も経験した”死”が迫ってくる。
今回はここで終わりだ。
きっとこれも何千回の内のたった1回なのだろう。
それでも、
「俺の終わりは、俺が決める」
窓に腰掛け、そのまま背中を落とす。
当然、支えるものもない。
真っ逆さまに落ちていく。
地面が、どんどん近づいてきてそれで、
潰れる音と共に、俺はこの世界に別れを告げた。
――――――――――――――――――――
「ここ……は?」
目を開けると、そこには見覚えのある天井があった。体は横たわっていて、布団が覆いかぶさっている。
隣にはシャロが寝息を立てて目を瞑っていた。
「かえって……これたのか?」
永遠に続くかに思われたループ。それが不意に終わった。
「おれ……は……」
シャロを見捨てた。ティアを見捨てた。メアを、シルバーを、ロイドを……
「フリード……は?」
何故気が付かなかった?
あの時、フリードにどうにか連絡すれば助かったのだ。なのに何で俺はそうしなかった?
フリードさえあの時いれば2人を、いや、2人だけじゃない。メアやロイドも助けられた。屋敷にいた全員が生きれたんだ。
あの場にフリードがいれば万事解決だったんだ。
あいつがいればどうにかなって、あいつがいれば俺は死ななくて、あいつがいれば誰も殺されなくて、あいつがいれば誰も傷つかずに済んで、あいつがいればあんな目には合わなくて、あいつがいれば皆が助かって、あいつがいれば全てが上手くいったはずで、
それで……
何で……俺を助けてくれなかったんだ
そんな俺の心に寄り添うように、悪夢が囁いてくる。
『この世界で明確にやりたいことなんかないんだろ?』
『無いものだらけのお前に、俺たちは生きる理由を、意味を与えてやってるんだよ』
『復讐しろ。恨みを忘れるな。アイツらを憎んで憎んで、憎み続けて、決して許すな』
『心を傾けるな。相手に触れ合おうとするな』
『絶望を忘れるな。希望を持つな』
『それが逃げたお前の贖罪になる』
「俺の……贖罪……生きる……理由……」
胸のつかえが取れるような感覚がある。
『お前にこの屋敷の、この世界の居場所はどこにもないんだ』
「俺は……この世界の人間じゃないから……」
『ああ、そうだ。この世界に生きていていい理由が必要だろ?』
「俺は……」
『思い出せ! お前に初めて居場所をくれたのはだれだ!? そいつらを殺したのはどこのどいつだ!?』
「…………」
『あの時、立ち向かわずに逃げたのは誰だ!?』
「お……れ……」
『そうだ! お前だ!』
「俺が……殺した……」
『なら、やることは一つだろ!? なぁ!?』
「………………」
『恨んで、恨んで、恨み続けることがお前が真にやるべきことなんだよ!!』
ようやく分かった気がする。
俺がここにいる意味。生きる理由。
あの夢はずっと教えてくれていたんだ。
俺が全てを捧げる覚悟を決めるための予行練習だったのだ。
「俺の生きる理由は―――」
居場所のない。夢も何もない俺が、この世界で唯一できること。俺の目的。
「――――――復讐を……果たすことだ」
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