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第二章 再来の悪夢
零れた嘆きは届かない
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終わらない夢から覚める方法。
現状では全く分からないが、ひとまず目標はソルヴァを殺すことだ。もはや正しい歴史からは外れてしまっているが、結末を同じにすればありえるかもしれない。
俺が自殺する……という選択肢はあるが、それは最終手段だ。今を足掻けるだけ足掻いて、それでも無理だったらそうする。
死ぬのは……怖い。
ソルヴァ達の行先が分からないが、方向を考えて街へ来た。たしかシャロとソルヴァが会ったのもこの街だ。そこから考えても、ここに来る可能性は高い。
手がかりが欲しい。
行く宛ては……
「シャロのお母さんの店……」
シャロはティアを含めた身内を人質にされ、裏切った。シャロをコントロールするために、きっと店の近くに味方を配置しているはず。
そう思って俺はこのレストランに来た。
良かった。母親の方は無事だ。
話しかけたいが、ソルヴァの配下の目があるかもしれない。お母さんを巻き込む訳にはいかないから、1度立ち止まる。
リスクはある。
俺が話しかけた瞬間に襲ってくる可能性もある。店の中にソルヴァ達の姿はない。
「くそ、もっと辺りを探してからの最終手段にするしかねぇか」
ひとまず立ち去り、街の様子を窺うことにした。
街にはいつもの如く、吸血鬼と獣人が入り乱れていて、人探しにはあまり向いていないような状態だ。
「ソルヴァは逃げるって言ってたから、この街に寄っていない可能性もあるよな」
だが、そうしたらシャロとティアはどうするのだろう。屋敷の中に死体はなかったから、おそらく連れていかれていると推測している。
「うーん……ん?」
何やら騒がしい。群衆がこぞって1つの建物に群がっている。
あの建物は……
看板には”奴隷市”の文字が書かれている。
「まさかッ!?」
焦りが募り、人をかき分けて無理やり建物に入る。
中はコンサート会場のようになっていて、ステージ部分には何人かの獣人が並んでいる。
「なッ!」
悪い予想は的中した。
そのステージにはシャロとティアが、メイド服ではない、麻のような服を1枚だけ羽織った状態で立たされていた。
そして、ちょうど番がきたようで、司会が説明を始める。
「なんとなんとぉ! こちらの二人の獣人、セット売りが希望だそうですぞ! 顔立ちよし、スタイルよし、おまけに2人共処女ときたもんだ! 私が欲しいくらいですぞぉ!」
そんな紹介に周囲がざわつく。下劣な視線や言葉が錯綜し、それがあまりにも不快だ。
「売り手の方は今すぐにお金が必要だそうなのでぇ、現在払える金額で競りを始めまぁぁす」
そのスタート合図と共に、次々に金額を口にする。
「どうすればいい? 今何が出来る?」
人が多く、もちろん警備員もいる。おれが暴れた所で取り押さえられるのがオチだ。
それでも……
「く、、ソルヴァがきっと出てくる筈だ。そこを狙うしかねぇ」
競りが終わるのを待ち、そこを急襲する。そこが最初で最後のチャンスだ。
少し時間が経ち、ようやく競りが終わった。
勝ち取ったのは、太った成金みたいなおっさんだ。その視線はシャロとティアの肢体に釘付けになり、はぁはぁと気持ち悪い鼻息をしている。
「では、261番さん。裏で取引相手がお待ちですので、そちらへ向かってくださいな」
「ふふ、ふひっ。そろそろ、そろそろそろ、替えが欲しいと思ってぇぇたんだよ。ふふ、ふひっ」
その男は係員に案内され、会場横の通路に入っていく。シャロ達もステージからいなくなり、サイドに隠れた。
後を追おうにも、警護があって行けない。
「……いや、なりふり構っている訳にはいかねぇよな」
これを逃す訳にはいかない。覚悟を決め、俺は行動を開始した。
通路に立っている警護は1人。不意をつけば無力化できる。
「……ん? そこのお前、とま―――」
「―――――――――雷槍!」
雷の光と共に、オーディエンスの叫び声が広がる。
会場が騒がしい。
警備員が次々に後を追って来ているのが分かる。捕まればそこでゲームオーバーだ。
「……あそこか」
先へ進むと、豪華そうな扉が見えてきた。それを蹴破って中へはいる。
「な、なななんだお前はぁ!?」
「ニンゲン!?」
「ご主人様!?」
「イスルギ!?」
ちょうど取引の真っ最中といったところか。ソルヴァとおっさんが机を隔てて向かい合っており、その机上には書類がある。
敵は6人
先手必勝で、俺の半分以上の魔力をつぎ込み、放つ。
「―――――――――雷撃!!」
よし、全員に当たった。そう思った次の瞬間、火球が俺めがけて飛んできた。
「がぁッ!」
それが直撃し、壁に吹っ飛ばされる。
「ニンゲン風情がしゃしゃるんじゃねぇよ」
ソルヴァには防がれたようだ。あの大声が耳に響いてくる。
他の奴らはまだ痺れていて動けなさそうだ。
「2人共……にげ……ろ」
俺がソルヴァを抑えれば、二人は逃げ出せる。それさえできれば、この世界の俺は死んでも構わない。
「はッ。馬鹿だな、お前。こいつら二人にはもう奴隷契約が済んでいる。逃げたくてもにげられないのさ」
「く……そ……」
誤算だった。俺は奴隷の契約について詳しく仕様を知らない。それが仇となった。
「奴隷になった2人はもう、解放されないだろうな。見た目は良いからきっと死ぬほど使われて壊れちまうぜ? 笑えるだろ」
俺が聞きたくないことを的確に言ってくるこの男に、心底腹が立つ。
「だま……れ……」
「こんなことなら処女だけでも取っとけば良かったなぁ、ご主人様?」
「ころ……してやる……」
「あ?」
「お前を……絶対……殺してやる」
100%の俺の心からの憎悪が、形をもって吐き出される。それを嘲笑うかのようにソルヴァはニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、自身の髭を触りながら、
「くく、お前には何もできねぇよ。殺す必要もないが、生かす必要もねぇな」
ソルヴァは火球を再び作り出し、俺に向ける。先程の衝撃で体が動かない。
「やめろ! イスルギに手を出すんじゃねえ!」
「ご主人様を傷つけないでください!」
ボロボロの状態の2人が、自らのことを顧みずに俺の命乞いをする。
その姿が俺には痛くて痛くて、どうしようもなかった。
「んーん。嫌だね」
2人の願いを真っ向から打ち砕き、火球が光を纏い放たれる。
俺の体はその熱をもって、意識と共に爆裂した。
――――――――――――――――――
「……うそだろ?」
悪夢はまだ覚めない。
それどころか最悪を更新して再び俺に牙を向けてくる。
周りを見渡すと、吸血鬼と獣人がそこらを歩いている。
そう、今はきっと街についたタイミングだ。
メアもシルバーも、ロイドでさえもう手遅れだ。
「夢なら……覚めてくれよぉ」
嘆きは届かず、無常にも時間が過ぎていく。
最終手段であった死が通用しなかったのだ。
やはり、やるしかない。
俺自身の手でソルヴァを殺すしかないのだ。
それがこの連鎖を断ち切る一縷の望みだと信じて。
現状では全く分からないが、ひとまず目標はソルヴァを殺すことだ。もはや正しい歴史からは外れてしまっているが、結末を同じにすればありえるかもしれない。
俺が自殺する……という選択肢はあるが、それは最終手段だ。今を足掻けるだけ足掻いて、それでも無理だったらそうする。
死ぬのは……怖い。
ソルヴァ達の行先が分からないが、方向を考えて街へ来た。たしかシャロとソルヴァが会ったのもこの街だ。そこから考えても、ここに来る可能性は高い。
手がかりが欲しい。
行く宛ては……
「シャロのお母さんの店……」
シャロはティアを含めた身内を人質にされ、裏切った。シャロをコントロールするために、きっと店の近くに味方を配置しているはず。
そう思って俺はこのレストランに来た。
良かった。母親の方は無事だ。
話しかけたいが、ソルヴァの配下の目があるかもしれない。お母さんを巻き込む訳にはいかないから、1度立ち止まる。
リスクはある。
俺が話しかけた瞬間に襲ってくる可能性もある。店の中にソルヴァ達の姿はない。
「くそ、もっと辺りを探してからの最終手段にするしかねぇか」
ひとまず立ち去り、街の様子を窺うことにした。
街にはいつもの如く、吸血鬼と獣人が入り乱れていて、人探しにはあまり向いていないような状態だ。
「ソルヴァは逃げるって言ってたから、この街に寄っていない可能性もあるよな」
だが、そうしたらシャロとティアはどうするのだろう。屋敷の中に死体はなかったから、おそらく連れていかれていると推測している。
「うーん……ん?」
何やら騒がしい。群衆がこぞって1つの建物に群がっている。
あの建物は……
看板には”奴隷市”の文字が書かれている。
「まさかッ!?」
焦りが募り、人をかき分けて無理やり建物に入る。
中はコンサート会場のようになっていて、ステージ部分には何人かの獣人が並んでいる。
「なッ!」
悪い予想は的中した。
そのステージにはシャロとティアが、メイド服ではない、麻のような服を1枚だけ羽織った状態で立たされていた。
そして、ちょうど番がきたようで、司会が説明を始める。
「なんとなんとぉ! こちらの二人の獣人、セット売りが希望だそうですぞ! 顔立ちよし、スタイルよし、おまけに2人共処女ときたもんだ! 私が欲しいくらいですぞぉ!」
そんな紹介に周囲がざわつく。下劣な視線や言葉が錯綜し、それがあまりにも不快だ。
「売り手の方は今すぐにお金が必要だそうなのでぇ、現在払える金額で競りを始めまぁぁす」
そのスタート合図と共に、次々に金額を口にする。
「どうすればいい? 今何が出来る?」
人が多く、もちろん警備員もいる。おれが暴れた所で取り押さえられるのがオチだ。
それでも……
「く、、ソルヴァがきっと出てくる筈だ。そこを狙うしかねぇ」
競りが終わるのを待ち、そこを急襲する。そこが最初で最後のチャンスだ。
少し時間が経ち、ようやく競りが終わった。
勝ち取ったのは、太った成金みたいなおっさんだ。その視線はシャロとティアの肢体に釘付けになり、はぁはぁと気持ち悪い鼻息をしている。
「では、261番さん。裏で取引相手がお待ちですので、そちらへ向かってくださいな」
「ふふ、ふひっ。そろそろ、そろそろそろ、替えが欲しいと思ってぇぇたんだよ。ふふ、ふひっ」
その男は係員に案内され、会場横の通路に入っていく。シャロ達もステージからいなくなり、サイドに隠れた。
後を追おうにも、警護があって行けない。
「……いや、なりふり構っている訳にはいかねぇよな」
これを逃す訳にはいかない。覚悟を決め、俺は行動を開始した。
通路に立っている警護は1人。不意をつけば無力化できる。
「……ん? そこのお前、とま―――」
「―――――――――雷槍!」
雷の光と共に、オーディエンスの叫び声が広がる。
会場が騒がしい。
警備員が次々に後を追って来ているのが分かる。捕まればそこでゲームオーバーだ。
「……あそこか」
先へ進むと、豪華そうな扉が見えてきた。それを蹴破って中へはいる。
「な、なななんだお前はぁ!?」
「ニンゲン!?」
「ご主人様!?」
「イスルギ!?」
ちょうど取引の真っ最中といったところか。ソルヴァとおっさんが机を隔てて向かい合っており、その机上には書類がある。
敵は6人
先手必勝で、俺の半分以上の魔力をつぎ込み、放つ。
「―――――――――雷撃!!」
よし、全員に当たった。そう思った次の瞬間、火球が俺めがけて飛んできた。
「がぁッ!」
それが直撃し、壁に吹っ飛ばされる。
「ニンゲン風情がしゃしゃるんじゃねぇよ」
ソルヴァには防がれたようだ。あの大声が耳に響いてくる。
他の奴らはまだ痺れていて動けなさそうだ。
「2人共……にげ……ろ」
俺がソルヴァを抑えれば、二人は逃げ出せる。それさえできれば、この世界の俺は死んでも構わない。
「はッ。馬鹿だな、お前。こいつら二人にはもう奴隷契約が済んでいる。逃げたくてもにげられないのさ」
「く……そ……」
誤算だった。俺は奴隷の契約について詳しく仕様を知らない。それが仇となった。
「奴隷になった2人はもう、解放されないだろうな。見た目は良いからきっと死ぬほど使われて壊れちまうぜ? 笑えるだろ」
俺が聞きたくないことを的確に言ってくるこの男に、心底腹が立つ。
「だま……れ……」
「こんなことなら処女だけでも取っとけば良かったなぁ、ご主人様?」
「ころ……してやる……」
「あ?」
「お前を……絶対……殺してやる」
100%の俺の心からの憎悪が、形をもって吐き出される。それを嘲笑うかのようにソルヴァはニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、自身の髭を触りながら、
「くく、お前には何もできねぇよ。殺す必要もないが、生かす必要もねぇな」
ソルヴァは火球を再び作り出し、俺に向ける。先程の衝撃で体が動かない。
「やめろ! イスルギに手を出すんじゃねえ!」
「ご主人様を傷つけないでください!」
ボロボロの状態の2人が、自らのことを顧みずに俺の命乞いをする。
その姿が俺には痛くて痛くて、どうしようもなかった。
「んーん。嫌だね」
2人の願いを真っ向から打ち砕き、火球が光を纏い放たれる。
俺の体はその熱をもって、意識と共に爆裂した。
――――――――――――――――――
「……うそだろ?」
悪夢はまだ覚めない。
それどころか最悪を更新して再び俺に牙を向けてくる。
周りを見渡すと、吸血鬼と獣人がそこらを歩いている。
そう、今はきっと街についたタイミングだ。
メアもシルバーも、ロイドでさえもう手遅れだ。
「夢なら……覚めてくれよぉ」
嘆きは届かず、無常にも時間が過ぎていく。
最終手段であった死が通用しなかったのだ。
やはり、やるしかない。
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