異世界転移に夢と希望はあるのだろうか?

雪詠

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第二章 再来の悪夢

裸の付き合い

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「今日はここまでだ。課題はまだまだ多いが、まぁ順調だろう」

「ほ、ほんとかよ……」

 ずっと動きっぱなしで疲れたなんてもんじゃない。早く風呂に入りたい。パンツの中までぐっしょりだ。

「そーだ。お前も一緒に風呂行かないか?」

「俺が?」

「ああ、そうだ。他に誰がいるんだよ」

 前々気になっていたが、こいつが風呂に入っているところを見たことがない。
 まさか入ってないということは無いだろうが、少し気になる。

「……いいだろう。では行くぞ」

「あっ、ちょっ!俺の状態考えろやっ!」

 フリードと一緒に風呂に行くことになった。

 何故そうしたかは、午前中にメアに釘を刺されたからというのもある。
 こいつと一緒なら、流石にシャロは来ないだろう。


「そういやなんでここの風呂ってこんなにデカイんだ?」

 着替えながら俺は訊く。

「特に理由はない。俺は任せたからな」

「そ、そうか……」

 以前からの謎は解消されなかった。ということは何で温泉があるのかを聞いても無意味だろう。

 それにしても、フリードの裸体がなんというか……筋肉はあるが引き締まっていて、男なのに華奢な体つきをしている。

「……何を見ている?」

「べっつにー」

 そうして、風呂に入って体を洗い、湯船に浸かった。

「お前って、いつもどのタイミングで風呂に入ってんだ?」

「俺は忙しいからな。空いた時間を見つけて適当に入っている」

「王ってのも大変なんだなぁ」

 最初の頃はフリードが王を自称しているだけだと思っていたが、最近はもうそんなことは思わなくなった。

「そういえば人間と吸血鬼って対立してんのか?前の口ぶり的にそう思ったんだけど」

 吸血鬼が人間の国に入れない理由、それは争っているから以外にないだろう考えていた。

「対立……まぁ平たく言えばそうだな。一応和解という形にはなっているが、睨み合いをしているようなものだ」

 水面下での戦いと言ったところか。

「獣人はどっちサイドなんだ?」

「人間、吸血鬼以外の種族は基本的に中立だ。どちらとも良好な関係を築いている」

「そうなのか……」

「吸血鬼が人間に負けることはない。俺がいる限り、無理に攻めてくることもないだろう」

 フリードはそう堂々と言い切る。

「なんて自信だよ、王の余裕ってやつか?」

「単に事実を言ったに過ぎない。この世界に俺に手が届く人間など数える程しかいないだろうからな」

 そう言ってフリードは不敵な笑みを浮かべる。俺目線からでもコイツに真っ向から勝てるやつがいないことは何となくわかる。

「最後に一個だけ聞いてもいいか?」

「なんだ?」

 ここで俺は、今までずっと考えていなかったことを口に出した。

「元の世界に帰る方法って、あると思うか?」

 この世界に迷い込んで、その時その時を死ぬ気で生きてきた。俺はこの世界を受け入れていた一方で、前の世界にも思いを巡らせていた。

    前の世界のことを考えなかった訳じゃない。だが、極力現実を見ないようにはしていた。

「無い。としか言えないな。正確に言えば前例がない」

「そう、か……」

 分かっていたことだが、改めて言われると何かこう、どうしようも無い無力感を感じる。
 自分はもうあの世界には帰れないのだと。

「……これはもし、の話だが――」

 そう言ってフリードは目を瞑ったまま、話す。

「――お前が全ての役割を終え、それでも前の世界に戻りたいのなら、その時は――」

 その一瞬、世界の時が止まったかに思えるほどの静寂に包まれ、言葉が紡がれる。


「――俺の命に替えても、お前を前の世界へ帰そう――」


 命に替えて、その言葉の真意は分からなかったが、俺はそれに対して何も言えなかった。


 ――――――――――――――――――――


「では先に出る」

 そう言い残してフリードは風呂を出ていった。

 俺の頭の中はさっきのフリードの言葉、前の世界、これからの事でいっぱいになり、それらが混ざりあってオーバーヒートしそうになっている。

「前の世界……」

 帰りたいかと言われれば、帰りたいかもしれない。だが、今の生活が楽しいのも事実だ。

「……出るか」

 答えは出ないが、逆上せそうなので風呂を上がった。


 自室に戻ると夕食が用意されていて、シャロとティアがいた。

「遅いですよぉ。それに先程は他の人とお風呂に入ってましたよね?」

「なんで知ってんだよ……。遅れて悪かった、ちょっと考え事してただけだ」

「ま、別にいいですけどね」

 何かを企んでそうな顔をしているが、それをそのままスルーして机に目を向ける。

「おお、今日はピザか! ティアって、こんなのも作れんだな」

「…………」

「なに、どした?」

 ティアからの返答がない。

「……んで…」

「え?」

「何でそんな、何ともなかったみたいな顔してんだよ! アタシがバカみたいじゃんか!」

 そう言われて思い出す。
 昨日のアレだ。

 確かに今朝からティアと目が合わなかったな。

「悪い悪い、ちょっと別のこと考えてたっていうか、忘れてたっていうか……」

「なぁぁぁぁ!」

「あら、ティアったら忘れられちゃってたなんて、可哀想ですねぇ。やっぱり刺激が足りなかったんじゃないですかぁ?」

「シャロうるさい!」

「本当のことですよぉ。ねぇ、ご主人様?」

「いや、シャロのアレはもう勘弁してくれ……」

 ティアのもドキドキしたが、シャロのはレベルが違う。いつ俺が襲いかかってもおかしくない。

 ふと、訓練中のフリードの言葉が甦ってくる。

    ――試験の一ヶ月前までに――

    良くない。俺にそんな勇気はないのだ。

「さ、さぁ冷めない内に食べようぜ、な?」

「はーい」

「2人とも覚えておけよ……」

 ボソッと呪詛が聞こえた気がしたが、きっと気のせいに違いない。俺は食事に手をつけ始めた。



 ――――――――――――――――――――



 3人での食事も終わり、ひとっ風呂浴びてきて寝る支度をする。

 我ながら贅沢な暮らしをしているなー、とは思うが与えられたものはフルで使うべきだろう。そうでなければ勿体ない。

 寝巻きに着替えて、部屋の明かりを消す。

 カーテンは閉まっているが、月明かりが隙間から入り込んでいるのでうっすら部屋が見渡せる。

 月は好きだ。この世界には太陽的なのが2つあるが、月は一つだ。

 しかも欠けることはなく、毎晩満月を提供してくれる。そんな月を眺める夜の時間が堪らなく好きだ。

    前の世界でも、よく見上げていたものだ。田舎だから街灯が少なく、星の輝きが空から降り注いでくるあの光景。

「……懐かしいな」

 月を見ながら物思いにふけり、眠気がきたので布団に入った。

 この世界は平均気温が低く、夜は肌寒い。そんな中で、布団でぬくぬくすると幸せな気分になる。

 リラックスしようと布団の中で手足を伸ばすと、右手に何かが当たった。

 なんだ?

 手を伸ばすと何か暖かい物がある。しかも柔らかい。

 これは――――

「くすぐったいですよぉ」

「なっ!」

 布団を剥ぐと、そこにはネグリジェ姿のシャロが、あの小悪魔のような顔でこちら見ていた。
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