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第一章 吸血鬼の王

魔法

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「――――」

「――て――さい。」

「あ――で――よ。」

「んん。」

 誰かの声が聞こえる。

「起きてください、朝ですよ。」

「んー、」

「あ、やっと起きましたね」

 耳だ。目の前に猫耳がある。くそ、かわいいなぁ、もふもふしたい。

「あ、れ。もう朝か」

 枕元に置いてある腕時計を見ると、8時半をさしている。
 まだ眠い。確実に昨日のあれのせいだ。体と心を労るために、ここは二度寝を――

「寝たら、イタズラしちゃうかもしれませんよぉ?」

「おはよう!」

 眠気が一気に飛んでいってしまった。なんと恐ろしい目覚ましなのだろうか。

「はい、こちらが今日の衣服です。」

 そう言って、俺に着替えを渡してきた。なるほど、世話係はこんな細かい事までしてくれるのか、なんて思いつつそれを受け取り着替えようとするが、

「あのー、着替え見られるのは流石に恥ずかしいんでちょっと部屋から出ててもらえます?」

「気にしないでください。なんならお着替えも手伝いますよぉ?」

「いいよ大丈夫だよ!じゃあせめてあっち向いててくれ」

「はーい」

 うーむ、なんとも信用ならない返事だ。まぁ見られて困るなんてことはないが、なんかこう、いいように弄ばれてる感を感じる。

「はい、オーケー。着替え終わったよ、ってガン見してるじゃねぇか!」

「あら、終わったタイミングと、そちらを向いたタイミングが偶然、一緒になっただけですよぉ?」

 9割5分嘘だろうが、俺も見てたわけじゃない。完全には否定をすることが出来ない。

「はぁ、それで、朝ごはんってもう用意してくれてたりするのか?」

「ああ、ティアが今つくってくれてますので、多分もう少ししたら――」

 とここでノックが聞こえ、ティアが入ってきた。

「おーおはようさん、イスルギ。朝メシ持ってきたぞ」

「ああ、ありがとう。」

「悪いな、材料が少なくて大したもんつくれなかった。後で買い出し行ってくるから、夜はちゃんとつくるぜ。」

 大したものじゃないとは言っているが、パンとクリームシチューにスクランブルエッグや簡単なサラダなど、朝ごはんには十分すぎるくらいだ。

 朝食を食べ終えて、ティアがいれてくれた紅茶を飲み干し、今日もフリードの部屋へと向かう。

「きたか、では早速訓練所に向かうとしよう。」

 そう言って、部屋に入るなりすぐに昨日の訓練所へと連れてこられた。

「いつでもかかってこい。」

 フリードはいかにも無防備な姿をさらしているが、それに何の意味もないことは、昨日すでに学習済みだ。

「昨日の恨み、存分に晴らしてやる。」

 俺は右手で左手首を押さえ、脈拍を感じとる。段々と体が熱くなってきたので、今度は手を離し、それをどうにかキープする。

「よし、やるか。」

 体を傾け、走り出す。昨日は二歩目で思いっきり転んだが、今は上手く走れている。あれから、原因をずっと考えていた。やはり、想像通り歩幅の感覚の違いだ。
    一歩あたりの距離と滞空時間が長いので、いつものように足を出そうとすると、タイミングが早すぎて上手く走れないのだ。

「ほう、もう走れるようになったのか」

「こう見えて、陸上部だったんで、なっ!」

 フリードに近づき、右ストレートを放つ。が、容易に避けられ、足を掛けられてそのまま転んだ。

「もっと時間がかかると思っていたが、よもやこんな早いとはな」

「お褒めに預かりサンキュー、だっ!」

 立ち上がって、再び拳を下から突き上げるが、それも簡単に避けられ、今度は腹パンを決められた。

「ガハッ!」

 痛みで膝から崩れ落ちる。因子のおかげだろうか、昨日ほどは痛くないが、正直誤差な気がする。それでも、昨日はよく生身で受けたなと思う。しかも何発も。

「よし、次はそのまま治してみろ」

「言われ、なくとも」

 もう一度集中し始める。血の巡り、動きをただひたすら意識する。
 すると、みるみる痛みが引いてくる。正直怖いくらいだ。

「ふぅ、だいぶマシになったわ。そういえば今って適合率何%くらいなんだ?」

「5.5%ってとこだな、まぁ、まだまだ先は長い」

「あんな痛い思いして、たったの0.5%しか……萎えるなぁ」

「今はまだ、身体能力と回復しかやってないからな。十分体は動いていたし、次のステップに早々に入っても良さそうだな。」

「次のステップ?」

「ああ、次は魔法の行使だ。」

「おおおお!ついに!てか、やっぱ使えるのか、俺」

 異世界にきた当初は使えなくて絶望していたが、ここにきて回ってきたチャンスに胸が高鳴る。

「そんでそんで!俺は何が使えるんだ!?」

「そう慌てるな、まずは魔法の種類の説明からだ。基本魔法は全部で五種類ある。火、水、風、土、雷だ。その派生として、氷や草なんかがある。」

「あれ、回復魔法は?」

「回復魔法は特殊魔法に分類される。特殊魔法は光と闇があり、回復魔法は前者の方だ。光魔法は支援系全般、闇魔法は妨害とかだな。」

「ほうほうなるほど。そんでお前は何が使えるんだ?」

「俺は吸血鬼の王だ。全部使えるに決まってるだろう。」

   あたりまえの様にそう言ってのけるので、少々ムカつく。

「はー、すっげぇな。お前やっぱ規格外だわ。ん?てことは、そんなお前の因子を持ってる俺も――」

「ああ、おそらく全種類使えるようになるだろう。」

「マジでか!?俺の魔法使いライフは目の前じゃねぇか!!」

「だが、それはあくまで100%になればの話だ。仮に49%になったとしても、使えて2~3種類程度だろう。」

「ですよね~」

 そんな上手い話は無かった。少なくとも全種類使えるようになるには2年以上かかることになる。それに実際に上げるとなると、更に時間がかかるだろう。

「後は固有魔法も説明しておこう。」

「固有魔法?」

「別名、個人魔法だ。その名の通り、自分しか使えない魔法のことだ。誰かに教えることもできず、発現自体が稀な代物だ。」

「お前は持ってるのか、ってこうゆうのあんま聞かない方がいいのか?秘密にしなきゃいけない的な。」

「構わん。もちろん持っている。能力は不死だ。自死しない限り、永遠に生き返る。」

「また、なんともチートな能力を……」

 持ってそうだとは思っていたが、やはり期待を裏切らない男だ。と、ここで1つの可能性が生まれる。

「なら、因子を持ってる俺にも――」

「いや、それはない。これは断言できる。」

「そうですかい。」

 少し残念だが、仕方あるまい。仮にあったとしても、身に余りそうだ。

「固有魔法って、他も全部そんな馬鹿げた力ばっかなのか?」

「そんなことはない。例えば、明日の天気が分かるなんてものもある。」

「便利だけど地味だな…。強いのだとどんなのがあるんだ?」

「……以前に、ピンク髪の子と会ったって言ってたよな」

「あ、ああ。そうだけど」

 予想外の話に一瞬戸惑う。

「あの子にも実は、どれだけ離れていても話せるという固有魔法があるんだ。ワケあって今は使えないがな。」

   念話ってことか。いや、今はそれよりも女の子の話の方が気になる。

「なぁ、あの子は一体なんなんだ?使用人って訳じゃないんだろ?」

 正直、ある程度の検討はついている。だが、コイツ自身の口から聞きたい。

「……詳しくは言えない。だがもし、また会ったなら、どうか気にかけてやってくれ。名前を教えたということは、少なからず悪い印象は持っていないんだと思う。」

「それは、まぁいいけどよ……」

 フリードの顔は、今までにないほど暗く、後悔で塗りつぶされているように見えた。


「気を取り直して、っと。現状、俺は何が使えるんだ?」

「おそらく、俺が一番得意な雷魔法だろう。」

「おお!めっちゃカッコイイじゃん!」

「まずは簡単な放電からだ。今度は体の中心を意識しろ。そこから生み出すことをイメージするんだ。」

「毎度毎度、イメージだの意識だのそればっかだな……」

 文句を垂れつつも、言われた通りにする。体の中心、か。ヘソのあたりかな。そこから雷を生み出すイメージ、イメージ、イメージ……

「うーん、ん?出ないんですけど……」

「そんなことはない、単に想像力不足なだけだ。何か具体的に考えると良い。」

「具体的つったって」

 再び集中する。何かあるだろうか。そういえば家の近所の博物館にプラズマボールがあったな。触ったとこに電気がよってくるやつ。アレとかでいいのかな?
 と、それを想像した瞬間、急に熱くなってくる。

「お、おおおおお!なにか、くる!」

    体の奥底から溢れ出してくる感覚がある。次の瞬間、俺は自分の目を疑った。
 電気だ。俺の体を中心にして電気が周囲に迸っている。

「はは、すっげぇ。これが魔法か……」

    人生初の魔法だ。ワクワクしない方が難しい。童心に返ったようにはしゃいでしまう。

「で、これってどうやってとめるんだ?」

    出したはいいが、止め方がわからない。雷が次第に勢いを増していっている。

「抑えこむイメージだ。自分の中に魔力を落とし込め。」

 またイメージか。言われた通り実践する。しかし、一向に引かない。それどころかますます増している気がする。

「くそっ、制御、、できねぇ!」

 生み出された雷は無差別に辺りを蹂躙している。さっきからそれらの幾つかがフリードに直撃しているのだが、全くの無傷で、すました顔をしている。というか、見てないで助けてほしい。
 なおも、雷は発生し続けている。

「ちょっ、これ、どうにかっ」

「もう少しだ。」

「あ?何、言って――」

 言いかけた途端、雷が全て消え、俺はその場に倒れ込んだ。そして、感じたことの無いような倦怠感が襲う。

「あれだけ馬鹿みたいに魔法を出したんだ。当然の結果だな。」

「くそ、、だったら、途中で、、助けろよ。」

「これじゃあ今日はもう無理そうだな。続きは明日だ。シャロ、後は任せた。」

「はい、任されました。」

 出入口に立っていたのは見えていたが、いつの間にか俺の方まで来ていた。なんと仕事の早いことだろう。

「はいはい~、また肩貸しますねぇ」

 そう言って再び昨日と同じ構図になる。

「ちょっと今、風呂は無理そうだから部屋まで頼む。」

「承知しました~。」

 湯に浸かるくらいは出来そうだが、シャロに抵抗する気力が残っていないので後回しにすることにした。

 因子に魔力、か。非現実的すぎていまだに慣れないけど、いつかは気にせず、使いこなせるようになるのだろうか。
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