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第一章 吸血鬼の王
人生初キスは突然に
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言われた通り、夕食会場へと来た。中にはフリードだけでなく、恐らく吸血鬼かと思われる者たちが2~30人はいる。だが、彼らはみな執事服やらメイド服やらを着ているので、きっとこの屋敷の使用人だろう。
料理はバイキング形式になっており、執事服で髭がよく似合ってる老紳士に、入るなり皿を渡された。
種類は様々で海鮮、肉、パスタなどバラエティに富んでいる。ローストビーフのようなものが目に付いたのでひとまずそれを取った。
それにしても周りの視線が気になる。凝視する訳ではないが、会話に紛れてチラチラとこちらの様子を見ているのが分かる。ほとんどが初対面の人しか居ないので、なんとなく居心地の悪さを感じる。一通り料理を取り終えて、フリードのとこへと向かうことにした。
「よぉ、さっきぶりだな。にしても、ここの屋敷はすげぇな。料理も風呂も」
「ああ。今夜の食事は特別だ。吸血鬼はそもそも食わずとも生きていけるが、お前の紹介も兼ねてのこの夕食パーティーだ。」
「顔合わせ的なやつか。そういやさっき風呂から出た時、ピンク髪の女の子に会ったけど、あの子も吸血鬼なのか?見当たらないけど、名前は確かリーメアとかいう―――」
そう言うとフリードは何かバツの悪そうな顔をしながら、
「……そうか」
そう一言呟いて黙ってしまった。
いかにもワケありのような顔をしていて、それ以上聞くのを一度躊躇うが、思い切って聞くことにする。
「あの子、眼が赤くなかったけど吸血鬼ってわけじゃないのか?」
「…………」
それでもなお、フリードは黙りこくったままだ。聞かれたくなさそうな雰囲気を感じ取り、慌てて話題を変える。
「あー、あれだ。例の俺につけるって言ってた教師とかってもう決まったのか?」
「……まだ推考中だ。ひとまず1週間は俺が色々と教える。護衛と世話係は明日にでも紹介しよう。」
「そいつらって、やっぱ吸血鬼か?血吸われたりしない?」
「安心しろ。ここの吸血鬼には吸わないよう命令を下してある。あと、護衛は俺直属の部下に任せるが、世話係は雇った獣人に任せるつもりだ。」
「お、おう、、獣人……」
ここに来てまた新しい情報が入って来た。獣人がいるのか、この世界には。吸血鬼がいる時点で他の種族がいても何らおかしくはない。少しワクワクしてきた。
「さて、ここらでお前の紹介をするとしようか。」
そう言い、俺の腕を掴んで、目立つところへと連れていかれる。周りの人達はそんな俺達の様子を見るやいなや、すぐに会話をやめ、こちらを凝視し始めた。
フリードは、
「知っての通り、この者、イスルギケンイチは俺の客人だ。まだ分からないことも多い。困っていたら力になってやってくれ。」
そう端的に説明し、乾杯の音頭を取って、再び食事会がスタートするのだった。乾杯のときに全員が持っていた赤い飲み物は見なかったことにする。
夕食が終わり、自室へと帰ってきた。正直お腹がいっぱいで眠気がすごい。寝る前に風呂を、と思っていたがそんな気力はもう無い。勢いのままにベッドにダイブを決め、天井を仰ぐ。
思えば、さっきは気を緩めすぎていた気がする。仮にも奴は、フリードは俺の恩人達を殺したのだ。俺を助けたと言っていたが、それが嘘の可能性も十分にある。
だが、村人達が俺を利用するつもりだったことを否定することも出来ない。結局は時間をかけて見極めなければならないのだ。
もし、奴が俺を騙しているのならば、それが分かった時は―――
「刺し違えてでも殺す……か。できるのかな、俺に」
そんな一つの結論を思い描きながら俺は眠りに落ちた。
翌日
朝食を自室で済ませ、フリードの部屋へと向かう。
朝食は、昨日の老紳士がわざわざ持ってきてくれた。興味本位で吸血鬼の食事事情を聞いたら、やっぱり食事は取らなくても生きていけて、あくまで各々の好みらしい。
「吸血鬼の食事っていったら、人間の血だよな……っと、ここがあいつの部屋か」
扉をノックすると中から、
「入れ」
そう一言返ってきたので、入ることにする。
「おお~、意外と手狭だなぁ。」
中は本やら資料やらがあり、個人の部屋と言うよりかは、応接室のような印象を受ける。フリードは奥の椅子に座っていたが、手前のソファに腰掛け、俺にも正面に座るように促した。
「さっそく訓練を始めよう、と言いたいところだが、因子についてもう少し詳しく話しておこうと思う」
「たしかそれのおかげで言葉とかが分かるんだったよな」
「ああ。今はまだその程度しか効果を発さないが、適合率をあげていけば出来ることは増える。お前はそれで適合率49%を目指してほしい。」
「49%って、なんかキリ悪くね?どうせなら50%とかもっと高くても良いんじゃねぇか?」
「いや、49%だ。50%以上になると、人間の感知に引っかかる」
「バレたら即殺処分ってところか、おっかねぇな」
「すぐに殺されるだけならまだ良いが、十中八九見つかれば実験や拷問にかけられるだろうな」
「怖すぎだろ!もう行きたくなくなってきたわ」
「50%を超えたらの話だ。超えなければバレることはない。」
「そんで、具体的にどうやってあげていくんだ?」
やはり吸血鬼らしく、血を吸うとかだろうか。だとしたらなんか生理的に嫌だな。
「方法は3つある。1つ目は普通に生活をする事だ。食事や睡眠などの欲求を満たすことであがっていく。」
「おお、お手軽じゃん。」
「だが、その分上がり幅もそれほど多くない。欲求に対する満足度が高ければ高いほどあがっていくが、それだけだと足りぬな」
さすがに食っちゃ寝だけ、という訳にはいかないのか。怠惰を貪る生活という淡い期待は早々に潰えた。
「んで、2つ目は?」
「能力を使うことだ。手っ取り早いのは体を切断して、自己再生で治すことだが―――」
「嫌に決まってんだろ!!馬鹿なんじゃないの!!??」
「少なくとも、今は擦り傷を治すくらいしか再生能力はない。やるならもっと後だ」
「やらないからな!!絶対に!」
冗談じゃない。この世界にきて、腕1本、足2本失ったことがあるが、とてもじゃないが耐えられる痛みじゃなかった。二度とあんな思いは御免だ。
「さて、3つ目だがこれは1回しか効果がない。そして、適合率が高くなるにつれ効果が下がる。やるなら今だ。」
「おお、じゃあちゃっちゃとやっちゃおうぜ。で、何するんだ?痛いのは嫌だぜ?」
「俺が直接、因子に働きかける。そこに立ってくれ」
言われるがままに立つと、フリードは俺の肩に手を乗せる。
「目をつぶれ。準備はいいな?」
言われた通り目をつぶるが、準備ってなんのことだ?
そう思った次の瞬間、俺の唇に柔らかい感触が伝わってくる。
「!?」
必死に逃れようとするが、頭を抑えられていて全く動かない。
「!!??」
抵抗虚しく、今度は舌が入ってくる。腕が腰に回されて、身動きを完全に封じられた。腕の力とは反対に、とても優しく、まるでそうあることが当然のように俺の舌に絡んでくる。口が、脳が段々と快楽に犯されてくる。思考がまとまらない。俺、キス初めてだったのに。
舌を入れられてから大体1分ほど経過して、ようやく解放された。
「はぁはぁ、急に何するんだよ!!」
「必要なことだ、男同士なら問題あるまい。喜べ、これで5%に達したぞ」
「大問題だよ!!あんま嬉しくねぇし、それに初めてだったんだぞ!もっとこう了承をだな」
「いいや、初めてではないぞ」
「は?」
「もう既に1回してある」
「いつの間に……じゃなかった、勝手にやるなよ!勝手に!!」
「因子の受け渡しには必要なことだ。そうしなければ死んでいたぞ?」
「ぐぬぬ、そう言われると何も言えねぇ、、」
「これでも配慮をした方だ。もうひとつのやり方だと、俺のせい―――」
「言わせねぇよ!?分かった分かった!もういいから、金輪際このことには触れるなよ!?」
人生初キスがディープで、しかも男で、なんなら寝てる間にとか洒落にならない。このことは忘れよう。
「それで?5%って実際何がどう変わるんだ?あんまし実感湧かないんだけど」
「傷の治りが早くなるのと、多少の身体能力上昇。後は俺が持っていた知識なんかがある程度分かるくらいだな」
「てことは、因子の適合率を上げれば勉強の方もなんとかなるって認識でいいのか?」
「ああ、そうだ。それでも限界はある。自分でもやってもらうぞ」
「ま、そう上手くはいかないか。……ところで、やっぱ俺も血とか吸いたくなるもんなのかな」
そう言って自分の口をなぞる。部分的とはいえ、吸血鬼になるのだ。ある程度覚悟するべきだろうか。
「吸血衝動のことか。……正直わからん。俺らと同じようになるか、はたまた何も起こらないか。別の形で表れることもあるかもしれない。血が吸いたくなったら言え。いつでも用意してやる」
と、ここでコンコンと扉の方からノックが聞こえてくる。
フリードがそれに対して、入室の許可を出すと、男が1人、女の子が2人入ってきた。
「ご希望通りの獣人の娘を2人連れて参りました。」
「ああ、ご苦労だった。ついでで悪いがあの2人もここに連れてきてくれ。」
「承知致しました。」
そんなやり取りをして男の方はまた部屋を出ていった。
あの男は見覚えがある。昨日俺が暴れた時に後ろから組み伏せてきた、確か「シル」と呼ばれていた男だ。動作も言葉も何もかもが機械的で、正直フリードなんかよりも怖い。
だが、今はそんなことどうでもいい。恐怖を上回る興味が俺の脳内を巡る。その原因は見てわかる通り、目の前にいる女の子二人だ。見た目は人。だが、耳が、尻尾がついている。
パッと見でネコとイヌといったところか。
ネコっぽい子は銀色のロングヘアーに紺色の目をしていて、小悪魔のような雰囲気が漂っている。イヌっぽい子は赤みがかかった茶色の、ウェーブしている髪型で茶色の目をしている。こちらは対照的に刺々しい雰囲気を感じさせる。
「お初にお目にかかります、吸血鬼の王。わたくしは灰猫族のシャロと申します。」
「犬狼族のティアだ。そこのニンゲンが依頼内容の相手か?」
「ああ、そうだ。こいつがイスルギ ケンイチだ」
「あっええと、初めまして。」
「詳しい内容は聞いていると思うが、お前達にはイスルギの身の回りの世話をしてもらう。場合によっては必要なことも、だ。その点は理解しているな?」
「はい、もちろん。十分に分かっています」
「アタシはあんまり乗り気じゃないからな。そこだけはハッキリ言っておくぞ」
「あら、ティアったら怖いんですか?」
「違うし。そういうのってもっと大事にするべきだろ。シャロはいいのか?」
「わたくしはティアと違って勤勉ですので、お仕事なら精一杯やらせていただきますよ」
「なっ!」
「どうしようが構わん。元よりそこに重点を置いていない。やる、やらないは自由だ。」
なんか俺を置いてけぼりにしてどんどん話が進んでいくので、疎外感がある。世話係って言ってたよな、仲良くできるかなぁ。
と、ここで再びノックがあり、人が入ってくる。今度は男3人。
だがしかし、その顔を見て、俺はみるみる血の気が引いていくのを感じる。
「な、なんでてめぇらがここに……」
忘れもしない。そこには、あの日村を襲い、俺の両足を切り落とした白と黒の吸血鬼が立っていた。
料理はバイキング形式になっており、執事服で髭がよく似合ってる老紳士に、入るなり皿を渡された。
種類は様々で海鮮、肉、パスタなどバラエティに富んでいる。ローストビーフのようなものが目に付いたのでひとまずそれを取った。
それにしても周りの視線が気になる。凝視する訳ではないが、会話に紛れてチラチラとこちらの様子を見ているのが分かる。ほとんどが初対面の人しか居ないので、なんとなく居心地の悪さを感じる。一通り料理を取り終えて、フリードのとこへと向かうことにした。
「よぉ、さっきぶりだな。にしても、ここの屋敷はすげぇな。料理も風呂も」
「ああ。今夜の食事は特別だ。吸血鬼はそもそも食わずとも生きていけるが、お前の紹介も兼ねてのこの夕食パーティーだ。」
「顔合わせ的なやつか。そういやさっき風呂から出た時、ピンク髪の女の子に会ったけど、あの子も吸血鬼なのか?見当たらないけど、名前は確かリーメアとかいう―――」
そう言うとフリードは何かバツの悪そうな顔をしながら、
「……そうか」
そう一言呟いて黙ってしまった。
いかにもワケありのような顔をしていて、それ以上聞くのを一度躊躇うが、思い切って聞くことにする。
「あの子、眼が赤くなかったけど吸血鬼ってわけじゃないのか?」
「…………」
それでもなお、フリードは黙りこくったままだ。聞かれたくなさそうな雰囲気を感じ取り、慌てて話題を変える。
「あー、あれだ。例の俺につけるって言ってた教師とかってもう決まったのか?」
「……まだ推考中だ。ひとまず1週間は俺が色々と教える。護衛と世話係は明日にでも紹介しよう。」
「そいつらって、やっぱ吸血鬼か?血吸われたりしない?」
「安心しろ。ここの吸血鬼には吸わないよう命令を下してある。あと、護衛は俺直属の部下に任せるが、世話係は雇った獣人に任せるつもりだ。」
「お、おう、、獣人……」
ここに来てまた新しい情報が入って来た。獣人がいるのか、この世界には。吸血鬼がいる時点で他の種族がいても何らおかしくはない。少しワクワクしてきた。
「さて、ここらでお前の紹介をするとしようか。」
そう言い、俺の腕を掴んで、目立つところへと連れていかれる。周りの人達はそんな俺達の様子を見るやいなや、すぐに会話をやめ、こちらを凝視し始めた。
フリードは、
「知っての通り、この者、イスルギケンイチは俺の客人だ。まだ分からないことも多い。困っていたら力になってやってくれ。」
そう端的に説明し、乾杯の音頭を取って、再び食事会がスタートするのだった。乾杯のときに全員が持っていた赤い飲み物は見なかったことにする。
夕食が終わり、自室へと帰ってきた。正直お腹がいっぱいで眠気がすごい。寝る前に風呂を、と思っていたがそんな気力はもう無い。勢いのままにベッドにダイブを決め、天井を仰ぐ。
思えば、さっきは気を緩めすぎていた気がする。仮にも奴は、フリードは俺の恩人達を殺したのだ。俺を助けたと言っていたが、それが嘘の可能性も十分にある。
だが、村人達が俺を利用するつもりだったことを否定することも出来ない。結局は時間をかけて見極めなければならないのだ。
もし、奴が俺を騙しているのならば、それが分かった時は―――
「刺し違えてでも殺す……か。できるのかな、俺に」
そんな一つの結論を思い描きながら俺は眠りに落ちた。
翌日
朝食を自室で済ませ、フリードの部屋へと向かう。
朝食は、昨日の老紳士がわざわざ持ってきてくれた。興味本位で吸血鬼の食事事情を聞いたら、やっぱり食事は取らなくても生きていけて、あくまで各々の好みらしい。
「吸血鬼の食事っていったら、人間の血だよな……っと、ここがあいつの部屋か」
扉をノックすると中から、
「入れ」
そう一言返ってきたので、入ることにする。
「おお~、意外と手狭だなぁ。」
中は本やら資料やらがあり、個人の部屋と言うよりかは、応接室のような印象を受ける。フリードは奥の椅子に座っていたが、手前のソファに腰掛け、俺にも正面に座るように促した。
「さっそく訓練を始めよう、と言いたいところだが、因子についてもう少し詳しく話しておこうと思う」
「たしかそれのおかげで言葉とかが分かるんだったよな」
「ああ。今はまだその程度しか効果を発さないが、適合率をあげていけば出来ることは増える。お前はそれで適合率49%を目指してほしい。」
「49%って、なんかキリ悪くね?どうせなら50%とかもっと高くても良いんじゃねぇか?」
「いや、49%だ。50%以上になると、人間の感知に引っかかる」
「バレたら即殺処分ってところか、おっかねぇな」
「すぐに殺されるだけならまだ良いが、十中八九見つかれば実験や拷問にかけられるだろうな」
「怖すぎだろ!もう行きたくなくなってきたわ」
「50%を超えたらの話だ。超えなければバレることはない。」
「そんで、具体的にどうやってあげていくんだ?」
やはり吸血鬼らしく、血を吸うとかだろうか。だとしたらなんか生理的に嫌だな。
「方法は3つある。1つ目は普通に生活をする事だ。食事や睡眠などの欲求を満たすことであがっていく。」
「おお、お手軽じゃん。」
「だが、その分上がり幅もそれほど多くない。欲求に対する満足度が高ければ高いほどあがっていくが、それだけだと足りぬな」
さすがに食っちゃ寝だけ、という訳にはいかないのか。怠惰を貪る生活という淡い期待は早々に潰えた。
「んで、2つ目は?」
「能力を使うことだ。手っ取り早いのは体を切断して、自己再生で治すことだが―――」
「嫌に決まってんだろ!!馬鹿なんじゃないの!!??」
「少なくとも、今は擦り傷を治すくらいしか再生能力はない。やるならもっと後だ」
「やらないからな!!絶対に!」
冗談じゃない。この世界にきて、腕1本、足2本失ったことがあるが、とてもじゃないが耐えられる痛みじゃなかった。二度とあんな思いは御免だ。
「さて、3つ目だがこれは1回しか効果がない。そして、適合率が高くなるにつれ効果が下がる。やるなら今だ。」
「おお、じゃあちゃっちゃとやっちゃおうぜ。で、何するんだ?痛いのは嫌だぜ?」
「俺が直接、因子に働きかける。そこに立ってくれ」
言われるがままに立つと、フリードは俺の肩に手を乗せる。
「目をつぶれ。準備はいいな?」
言われた通り目をつぶるが、準備ってなんのことだ?
そう思った次の瞬間、俺の唇に柔らかい感触が伝わってくる。
「!?」
必死に逃れようとするが、頭を抑えられていて全く動かない。
「!!??」
抵抗虚しく、今度は舌が入ってくる。腕が腰に回されて、身動きを完全に封じられた。腕の力とは反対に、とても優しく、まるでそうあることが当然のように俺の舌に絡んでくる。口が、脳が段々と快楽に犯されてくる。思考がまとまらない。俺、キス初めてだったのに。
舌を入れられてから大体1分ほど経過して、ようやく解放された。
「はぁはぁ、急に何するんだよ!!」
「必要なことだ、男同士なら問題あるまい。喜べ、これで5%に達したぞ」
「大問題だよ!!あんま嬉しくねぇし、それに初めてだったんだぞ!もっとこう了承をだな」
「いいや、初めてではないぞ」
「は?」
「もう既に1回してある」
「いつの間に……じゃなかった、勝手にやるなよ!勝手に!!」
「因子の受け渡しには必要なことだ。そうしなければ死んでいたぞ?」
「ぐぬぬ、そう言われると何も言えねぇ、、」
「これでも配慮をした方だ。もうひとつのやり方だと、俺のせい―――」
「言わせねぇよ!?分かった分かった!もういいから、金輪際このことには触れるなよ!?」
人生初キスがディープで、しかも男で、なんなら寝てる間にとか洒落にならない。このことは忘れよう。
「それで?5%って実際何がどう変わるんだ?あんまし実感湧かないんだけど」
「傷の治りが早くなるのと、多少の身体能力上昇。後は俺が持っていた知識なんかがある程度分かるくらいだな」
「てことは、因子の適合率を上げれば勉強の方もなんとかなるって認識でいいのか?」
「ああ、そうだ。それでも限界はある。自分でもやってもらうぞ」
「ま、そう上手くはいかないか。……ところで、やっぱ俺も血とか吸いたくなるもんなのかな」
そう言って自分の口をなぞる。部分的とはいえ、吸血鬼になるのだ。ある程度覚悟するべきだろうか。
「吸血衝動のことか。……正直わからん。俺らと同じようになるか、はたまた何も起こらないか。別の形で表れることもあるかもしれない。血が吸いたくなったら言え。いつでも用意してやる」
と、ここでコンコンと扉の方からノックが聞こえてくる。
フリードがそれに対して、入室の許可を出すと、男が1人、女の子が2人入ってきた。
「ご希望通りの獣人の娘を2人連れて参りました。」
「ああ、ご苦労だった。ついでで悪いがあの2人もここに連れてきてくれ。」
「承知致しました。」
そんなやり取りをして男の方はまた部屋を出ていった。
あの男は見覚えがある。昨日俺が暴れた時に後ろから組み伏せてきた、確か「シル」と呼ばれていた男だ。動作も言葉も何もかもが機械的で、正直フリードなんかよりも怖い。
だが、今はそんなことどうでもいい。恐怖を上回る興味が俺の脳内を巡る。その原因は見てわかる通り、目の前にいる女の子二人だ。見た目は人。だが、耳が、尻尾がついている。
パッと見でネコとイヌといったところか。
ネコっぽい子は銀色のロングヘアーに紺色の目をしていて、小悪魔のような雰囲気が漂っている。イヌっぽい子は赤みがかかった茶色の、ウェーブしている髪型で茶色の目をしている。こちらは対照的に刺々しい雰囲気を感じさせる。
「お初にお目にかかります、吸血鬼の王。わたくしは灰猫族のシャロと申します。」
「犬狼族のティアだ。そこのニンゲンが依頼内容の相手か?」
「ああ、そうだ。こいつがイスルギ ケンイチだ」
「あっええと、初めまして。」
「詳しい内容は聞いていると思うが、お前達にはイスルギの身の回りの世話をしてもらう。場合によっては必要なことも、だ。その点は理解しているな?」
「はい、もちろん。十分に分かっています」
「アタシはあんまり乗り気じゃないからな。そこだけはハッキリ言っておくぞ」
「あら、ティアったら怖いんですか?」
「違うし。そういうのってもっと大事にするべきだろ。シャロはいいのか?」
「わたくしはティアと違って勤勉ですので、お仕事なら精一杯やらせていただきますよ」
「なっ!」
「どうしようが構わん。元よりそこに重点を置いていない。やる、やらないは自由だ。」
なんか俺を置いてけぼりにしてどんどん話が進んでいくので、疎外感がある。世話係って言ってたよな、仲良くできるかなぁ。
と、ここで再びノックがあり、人が入ってくる。今度は男3人。
だがしかし、その顔を見て、俺はみるみる血の気が引いていくのを感じる。
「な、なんでてめぇらがここに……」
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