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第33話 魔力100%のその先
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イツキは魔王フェルムイジュルクの魂と合体して、真の魔王になってしまった。
そのせいで、魔王を超越した規格外の存在になってしまったようです。
彼を止めるには、奥の手を使わないといけないかもしれない。
そのためには、私の魔力残量が鍵になります。
【魔力量 49%】
激しい戦いの連続で、半分にまで減っている。
これでは、奥の手を十分に発揮することができない。
なら、力強くで止めるしかないわ!
──《《血破剣》
驚くことに、魔王イツキは私の魔剣を親指と人差し指で防ぎました。
人間技ではない。
「まだ終わらないわ!」
──《血破双剣》!
普段使っている魔剣の二刀流です。
魔王フェルムイジュルクすらも倒すことができた、私の秘技。
でも、それもイツキには無駄でした。
「防御せよ、『魂吸創剣』」
聖剣がひとりでに宙に浮かんで、私の魔剣を防ぐ。
真の魔王となったイツキの聖剣は、手で握らなくとも自由に操ることができるようになっていたようです。
「テレネシア、お前の相手は後でしてやる。俺様は王に用事があるものでな」
『魂吸創剣』から、溶岩の膜が飛んできました。
だめだ、霧になっても避けきれない!
「んぁあっ……!」
壁に叩きつけられ、溶岩の塊に拘束されます。
しまった、動けない!
「そこで大人しく待っていろ。俺様が『女神陽光珠』を持ってくるまでな」
失敗した!
これじゃイツキを止めることはできない。
それでも、諦めるわけにはいかないのだ。
このままだと、王都の民はイツキに虐殺されてしまう。
ハートや、シャーロットたちも殺される。
妹のトロメアも助けることができず、なぶり殺されてしまうでしょう。
──そんなこと、させないわ!
「《血炸裂針》!」
溶岩の塊を破壊し、自由を取り戻します。
でも、もう遅い。
イツキの姿は、もう見えないのだから。
「このままイツキを追いかけても、私は彼を倒せるのかしら?」
最強の吸血姫といわれた私ですら、あれほどの実力者は見たことがない。
正直言って、いまの魔力量では勝てる見込みがないわ。
「いったいどうしたら……」
私が視線を下げると、背後から気配を感じました。
振り返ると、見覚えのある男が私を凝視しています。
「テレネシア様、こちらをお使いください!」
ボロスです。
元暗殺者のボロスが突然現れて、私に大きな箱を渡してきました。
「ボロス、この箱はもしかして……」
「テレネシア様のピンチかと思い、教会に取りに戻っておりました」
「まるでずっと見ていたかのようね。本当にちょうど良いタイミングだわ」
「俺はテレネシア様の護衛騎士ですからね。いつも陰からお守りしております」
そのおかげで、こうも早く対処できたわけね。
城での私に、こっそりついて来ていたようです。
そして私がピンチになると思って、わざわざ取りに行ってくれたのでしょう。
「でかしたわ、ボロス。褒めてあげますよ」
私の言葉に喜んでいるボロスから、箱を受け取ります。
これは、私のこの状況をひっくり返すだけの力を持っている物です。
箱の蓋をあけると、中から鉄のような匂いがしました。
「良い血だわ」
中には、人間の血が小袋に分けられて入っていました。
どの血からも、私への感謝の匂いがする。
「さすがテレネシア様です。あの日、教会に来た信徒たちから血を抜き取ったのは正解でしたね」
そう、これは以前、私が王都のけが人たちを治療した後に、教会にやって来た人たちからいただいた血です。
なにかできることはないかと大合唱するものだから、「また災害が起きた時のために、治療用の血を分けてください」と言ってみたの。
そうしたらみんな喜んで血を分けてくれたものだから、大量に集まってしまったの。
何かあった時のために教会で冷凍保管していたのだけど、それが役に立ったようね。
「どの血からも、私への感謝の気持ちが伝わってくる……それでも、直接飲むよりは効果が薄いみたいね」
すべての血液袋をごくりと飲み切りました。
口についた血を手で取り除きながら、魔力量を確認します。
【魔力量 79%】
かなり回復したけど、まだ足りない。
それに量はあっても、質ではハートの血と雲泥の差がある。
「ボロス、お願いがあります。ハートを呼んできてちょうだい」
この場を切り抜けるためには、ハートが必要です。
あの子はシャーロットのメイドとしてお茶会に参加していたから、すぐにここまで来られるはず。
「私は王の間に行きます。一刻を争うから、すぐにハートを連れてきなさい!」
ボロスは音もなくこの場から消えました。
ハートを探しに行ったのでしょう。
血を飲んだことで、先ほどの戦いの傷はすべて回復しました。
私も急いで、王の間に行かないと。
でも、時間をかけ過ぎたようです。
「遅かったみたいね…………」
王の間に入ると、玉座の前で杖を手にするイツキが見えました。
そして国王とドルネディアスが、床に倒れている。
「まさか、殺したの?」
「早かったな、テレネシアよ。残念だが、こいつらはまだ殺していない。杖を奪う際に殴ったら、気絶しただけだ」
良かった、二人は死んでいないのね。
でも、最悪の状況には変わりない。
なぜならイツキは、ヴァンパイア特効の規格外の神器『女神陽光珠』を手に入れてしまったのだから。
「この杖の光は、ヴァンパイアを一撃で殺す。ヴァンパイア・ロードも、そうやって俺様が殺した」
「そう、お父様はあなたが……」
妹のトロメアがヴァンパイアの女王になっていたことで、なんとなくわかっていた。
先代の王である父はイツキに殺され、その跡を妹が継いだのだ。
「おっと、動くなよテレネシア。霧になろうが、コウモリに化けようが、『女神陽光珠』の光の前では無力だ」
魔王フェルムイジュルクの魂を吸収したことで、私の手の内はすべて筒抜けみたいね。
しかも前回、国王が『女神陽光珠』を発動したとき、私は反応すらできなかった。
あの時よりも魔力が回復したから、少しは避けられるかもしれない。
でも、それだけです。
『女神陽光珠』の攻撃をすべて避けて、部屋の端にいるイツキへと攻撃するのは至難の業。
でも、やるしかない!
「私は魔王を倒す吸血姫よ。あなたの好きにはさせないわ」
「ハハッ、残念だなテレネシア。この手でお前を抱いてやりたかったのが心残りだが、魂となったお前を食えば永遠に一緒にいられる。俺様のために、おまえは死ぬのだ」
「黙りなさい!」
──《血死鎌》
血を媒介にして大鎌を作り出す。
魔王の使徒を消滅させたときのこの技なら、遠距離からでもイツキを仕留めることができる!
──《血破一閃》!
鎌が通り過ぎた場所の空間が、血の色に割れる。
さすがのイツキも、これなら……!」
「『魂吸創剣』、空間を修復しろ」
「そ、そんな…………」
私の攻撃は、イツキの聖剣によって無効化されてしまいました。
これ以上の攻撃は、いまの私には……。
「これで最期だ、『女神陽光珠』!」
イツキの杖から、光が発射される。
あれに直撃したら、死ぬ!
──《血日傘》
咄嗟に日傘を作り出して盾にしたけど、光は日傘を貫きます。
「いやぁああああっ!」
胸の真ん中を、光が差しました。
《血日傘》のおかげで、心臓は避けた。
でもその穴は、私を消滅させようとじわじわと広がっていく。
「さ、再生、を……」
「させぬ。死ねテレネシア!」
イツキが再度、『女神陽光珠』を放ちます。
どうやら、ここまでのようね…………。
「テレネシア様!」
その声を聞いた瞬間、私の体を誰かが包み込みます。
照準を向けられていたはずの『女神陽光珠』の光は、なぜか私には当たりませんでした。
「ハート、あなたなの?」
「遅くなってしまい、申し訳ありません」
ハートが私を抱きかかえ、膝の上に私の頭を乗せました。
そして私を背中で庇うように、イツキとの直線上から私を隠します。
「あたしは人間です。だからいくら『女神陽光珠』の光を浴びようと、平気です」
イツキが放った『女神陽光珠』は、ハートによって防がれた。
ヴァンパイア特効の光は、人間にとっては無害だから。
「あたしはテレネシア様に命を救ってもらっただけでなく、生きる意味も教えてもらいました。だから今度は、あたしがテレネシア様を守ります!」
ハートは自分の服の襟を引っ張ります。
そして首筋を見せつけながら、私の口元に体を近付けました。
「テレネシア様、あたしの血を飲んでください!」
「え、ハート……なんで、あなたがそれを?」
ハートの瞳には、迷いがありませんでした。
まるで私が、何度もハートの血を吸っているのを知っているかのような反応です。
「もしかして、知っていたの?」
「……はい、テレネシア様がヴァンパイアだということも、あたしの血を毎晩飲みにベッドに潜り込んできたことも、すべて存じております」
そう、全部知っていたのね。
は、恥ずかしい!
ハートには知られていないという優越感に浸りながら飲んだあの血も、ハートのベッドに潜り込んで頭を撫でながら飲んだあの血も、その時に私が必ずしている「いつもありがとうね」という感謝の意味を込めたほっぺたへのチューも、すべて知られていたというの!?!?
「は、ハート、あれは、その、誤解で……」
「あたしはもう誤解していません。テレネシア様がヴァンパイアだろうと、あたしにとっては世界一の聖女様ですから!」
そう言って、ハートは私の口に、自分の首筋を当てます。
「だから、飲んでください! テレネシア様が元気でないと、あたしは嫌なんです!」
ハートはずっと、わかっていながら黙って私に血を飲ませていた。
どうやら私は、本当に良いメイドを持っていたようです。
「ありがとうハート。いただくわね」
柔らかなハートの肌に、鋭利な牙を立てます。
──かぷり。
ひと飲みで、意識が覚醒します。
──かぷり。
もうひと飲みで、全身の細胞が活性をあげる。
──かぷり。
三度目で、今度は胸の傷が治り始めます。
──かぷり、かぷり、かぷり。
ごくごくと血を飲むと、体から紅色の魔力が溢れていました。
「テレネシア様!? これはいったい……」
「どうやら私たちは、本当に相性が良いみたいね」
完全回復です。
むしろ、それ以上。
ハートの血が私に馴染みすぎて、許容量を超えているのだ。
そのせいで、外まで魔力が溢れている。
消滅するはずだった体も、すでに完治していました。
信頼できる相手からの血は、回復量が大幅に上がる。
いまの私とハートの絆は、想定以上だったみたい。
【魔力量 120%】
100%を超えたのは、これが初めて。
そのせいか、かつてないほどの力が漲っています。
「これなら使えるわね、奥の手が」
100%の魔力状態でしか使えない、私の奥の手。
奥の手なのに、一度戦闘をしてからは使用することができないせいで、これまでほとんど使う機会がなかった。
でも、今日は違う。
100%を超える120%の魔力量のせいで、普段の限界すらも超える力を得る!
──《血全覚醒》!
体に貯めていた血の魔力をすべて解放し、それを一瞬に濃縮した力に変化させる。
短時間だけ、私は通常時の数倍の力を手に入れることができるの。
それが私奥の手、《血全覚醒》。
「魔王イツキ。いまの私は、あなたよりも強いわ」
だから、これで終わりにしましょう。
最強の吸血姫として、私はあなたを──魔王を、倒す!
そのせいで、魔王を超越した規格外の存在になってしまったようです。
彼を止めるには、奥の手を使わないといけないかもしれない。
そのためには、私の魔力残量が鍵になります。
【魔力量 49%】
激しい戦いの連続で、半分にまで減っている。
これでは、奥の手を十分に発揮することができない。
なら、力強くで止めるしかないわ!
──《《血破剣》
驚くことに、魔王イツキは私の魔剣を親指と人差し指で防ぎました。
人間技ではない。
「まだ終わらないわ!」
──《血破双剣》!
普段使っている魔剣の二刀流です。
魔王フェルムイジュルクすらも倒すことができた、私の秘技。
でも、それもイツキには無駄でした。
「防御せよ、『魂吸創剣』」
聖剣がひとりでに宙に浮かんで、私の魔剣を防ぐ。
真の魔王となったイツキの聖剣は、手で握らなくとも自由に操ることができるようになっていたようです。
「テレネシア、お前の相手は後でしてやる。俺様は王に用事があるものでな」
『魂吸創剣』から、溶岩の膜が飛んできました。
だめだ、霧になっても避けきれない!
「んぁあっ……!」
壁に叩きつけられ、溶岩の塊に拘束されます。
しまった、動けない!
「そこで大人しく待っていろ。俺様が『女神陽光珠』を持ってくるまでな」
失敗した!
これじゃイツキを止めることはできない。
それでも、諦めるわけにはいかないのだ。
このままだと、王都の民はイツキに虐殺されてしまう。
ハートや、シャーロットたちも殺される。
妹のトロメアも助けることができず、なぶり殺されてしまうでしょう。
──そんなこと、させないわ!
「《血炸裂針》!」
溶岩の塊を破壊し、自由を取り戻します。
でも、もう遅い。
イツキの姿は、もう見えないのだから。
「このままイツキを追いかけても、私は彼を倒せるのかしら?」
最強の吸血姫といわれた私ですら、あれほどの実力者は見たことがない。
正直言って、いまの魔力量では勝てる見込みがないわ。
「いったいどうしたら……」
私が視線を下げると、背後から気配を感じました。
振り返ると、見覚えのある男が私を凝視しています。
「テレネシア様、こちらをお使いください!」
ボロスです。
元暗殺者のボロスが突然現れて、私に大きな箱を渡してきました。
「ボロス、この箱はもしかして……」
「テレネシア様のピンチかと思い、教会に取りに戻っておりました」
「まるでずっと見ていたかのようね。本当にちょうど良いタイミングだわ」
「俺はテレネシア様の護衛騎士ですからね。いつも陰からお守りしております」
そのおかげで、こうも早く対処できたわけね。
城での私に、こっそりついて来ていたようです。
そして私がピンチになると思って、わざわざ取りに行ってくれたのでしょう。
「でかしたわ、ボロス。褒めてあげますよ」
私の言葉に喜んでいるボロスから、箱を受け取ります。
これは、私のこの状況をひっくり返すだけの力を持っている物です。
箱の蓋をあけると、中から鉄のような匂いがしました。
「良い血だわ」
中には、人間の血が小袋に分けられて入っていました。
どの血からも、私への感謝の匂いがする。
「さすがテレネシア様です。あの日、教会に来た信徒たちから血を抜き取ったのは正解でしたね」
そう、これは以前、私が王都のけが人たちを治療した後に、教会にやって来た人たちからいただいた血です。
なにかできることはないかと大合唱するものだから、「また災害が起きた時のために、治療用の血を分けてください」と言ってみたの。
そうしたらみんな喜んで血を分けてくれたものだから、大量に集まってしまったの。
何かあった時のために教会で冷凍保管していたのだけど、それが役に立ったようね。
「どの血からも、私への感謝の気持ちが伝わってくる……それでも、直接飲むよりは効果が薄いみたいね」
すべての血液袋をごくりと飲み切りました。
口についた血を手で取り除きながら、魔力量を確認します。
【魔力量 79%】
かなり回復したけど、まだ足りない。
それに量はあっても、質ではハートの血と雲泥の差がある。
「ボロス、お願いがあります。ハートを呼んできてちょうだい」
この場を切り抜けるためには、ハートが必要です。
あの子はシャーロットのメイドとしてお茶会に参加していたから、すぐにここまで来られるはず。
「私は王の間に行きます。一刻を争うから、すぐにハートを連れてきなさい!」
ボロスは音もなくこの場から消えました。
ハートを探しに行ったのでしょう。
血を飲んだことで、先ほどの戦いの傷はすべて回復しました。
私も急いで、王の間に行かないと。
でも、時間をかけ過ぎたようです。
「遅かったみたいね…………」
王の間に入ると、玉座の前で杖を手にするイツキが見えました。
そして国王とドルネディアスが、床に倒れている。
「まさか、殺したの?」
「早かったな、テレネシアよ。残念だが、こいつらはまだ殺していない。杖を奪う際に殴ったら、気絶しただけだ」
良かった、二人は死んでいないのね。
でも、最悪の状況には変わりない。
なぜならイツキは、ヴァンパイア特効の規格外の神器『女神陽光珠』を手に入れてしまったのだから。
「この杖の光は、ヴァンパイアを一撃で殺す。ヴァンパイア・ロードも、そうやって俺様が殺した」
「そう、お父様はあなたが……」
妹のトロメアがヴァンパイアの女王になっていたことで、なんとなくわかっていた。
先代の王である父はイツキに殺され、その跡を妹が継いだのだ。
「おっと、動くなよテレネシア。霧になろうが、コウモリに化けようが、『女神陽光珠』の光の前では無力だ」
魔王フェルムイジュルクの魂を吸収したことで、私の手の内はすべて筒抜けみたいね。
しかも前回、国王が『女神陽光珠』を発動したとき、私は反応すらできなかった。
あの時よりも魔力が回復したから、少しは避けられるかもしれない。
でも、それだけです。
『女神陽光珠』の攻撃をすべて避けて、部屋の端にいるイツキへと攻撃するのは至難の業。
でも、やるしかない!
「私は魔王を倒す吸血姫よ。あなたの好きにはさせないわ」
「ハハッ、残念だなテレネシア。この手でお前を抱いてやりたかったのが心残りだが、魂となったお前を食えば永遠に一緒にいられる。俺様のために、おまえは死ぬのだ」
「黙りなさい!」
──《血死鎌》
血を媒介にして大鎌を作り出す。
魔王の使徒を消滅させたときのこの技なら、遠距離からでもイツキを仕留めることができる!
──《血破一閃》!
鎌が通り過ぎた場所の空間が、血の色に割れる。
さすがのイツキも、これなら……!」
「『魂吸創剣』、空間を修復しろ」
「そ、そんな…………」
私の攻撃は、イツキの聖剣によって無効化されてしまいました。
これ以上の攻撃は、いまの私には……。
「これで最期だ、『女神陽光珠』!」
イツキの杖から、光が発射される。
あれに直撃したら、死ぬ!
──《血日傘》
咄嗟に日傘を作り出して盾にしたけど、光は日傘を貫きます。
「いやぁああああっ!」
胸の真ん中を、光が差しました。
《血日傘》のおかげで、心臓は避けた。
でもその穴は、私を消滅させようとじわじわと広がっていく。
「さ、再生、を……」
「させぬ。死ねテレネシア!」
イツキが再度、『女神陽光珠』を放ちます。
どうやら、ここまでのようね…………。
「テレネシア様!」
その声を聞いた瞬間、私の体を誰かが包み込みます。
照準を向けられていたはずの『女神陽光珠』の光は、なぜか私には当たりませんでした。
「ハート、あなたなの?」
「遅くなってしまい、申し訳ありません」
ハートが私を抱きかかえ、膝の上に私の頭を乗せました。
そして私を背中で庇うように、イツキとの直線上から私を隠します。
「あたしは人間です。だからいくら『女神陽光珠』の光を浴びようと、平気です」
イツキが放った『女神陽光珠』は、ハートによって防がれた。
ヴァンパイア特効の光は、人間にとっては無害だから。
「あたしはテレネシア様に命を救ってもらっただけでなく、生きる意味も教えてもらいました。だから今度は、あたしがテレネシア様を守ります!」
ハートは自分の服の襟を引っ張ります。
そして首筋を見せつけながら、私の口元に体を近付けました。
「テレネシア様、あたしの血を飲んでください!」
「え、ハート……なんで、あなたがそれを?」
ハートの瞳には、迷いがありませんでした。
まるで私が、何度もハートの血を吸っているのを知っているかのような反応です。
「もしかして、知っていたの?」
「……はい、テレネシア様がヴァンパイアだということも、あたしの血を毎晩飲みにベッドに潜り込んできたことも、すべて存じております」
そう、全部知っていたのね。
は、恥ずかしい!
ハートには知られていないという優越感に浸りながら飲んだあの血も、ハートのベッドに潜り込んで頭を撫でながら飲んだあの血も、その時に私が必ずしている「いつもありがとうね」という感謝の意味を込めたほっぺたへのチューも、すべて知られていたというの!?!?
「は、ハート、あれは、その、誤解で……」
「あたしはもう誤解していません。テレネシア様がヴァンパイアだろうと、あたしにとっては世界一の聖女様ですから!」
そう言って、ハートは私の口に、自分の首筋を当てます。
「だから、飲んでください! テレネシア様が元気でないと、あたしは嫌なんです!」
ハートはずっと、わかっていながら黙って私に血を飲ませていた。
どうやら私は、本当に良いメイドを持っていたようです。
「ありがとうハート。いただくわね」
柔らかなハートの肌に、鋭利な牙を立てます。
──かぷり。
ひと飲みで、意識が覚醒します。
──かぷり。
もうひと飲みで、全身の細胞が活性をあげる。
──かぷり。
三度目で、今度は胸の傷が治り始めます。
──かぷり、かぷり、かぷり。
ごくごくと血を飲むと、体から紅色の魔力が溢れていました。
「テレネシア様!? これはいったい……」
「どうやら私たちは、本当に相性が良いみたいね」
完全回復です。
むしろ、それ以上。
ハートの血が私に馴染みすぎて、許容量を超えているのだ。
そのせいで、外まで魔力が溢れている。
消滅するはずだった体も、すでに完治していました。
信頼できる相手からの血は、回復量が大幅に上がる。
いまの私とハートの絆は、想定以上だったみたい。
【魔力量 120%】
100%を超えたのは、これが初めて。
そのせいか、かつてないほどの力が漲っています。
「これなら使えるわね、奥の手が」
100%の魔力状態でしか使えない、私の奥の手。
奥の手なのに、一度戦闘をしてからは使用することができないせいで、これまでほとんど使う機会がなかった。
でも、今日は違う。
100%を超える120%の魔力量のせいで、普段の限界すらも超える力を得る!
──《血全覚醒》!
体に貯めていた血の魔力をすべて解放し、それを一瞬に濃縮した力に変化させる。
短時間だけ、私は通常時の数倍の力を手に入れることができるの。
それが私奥の手、《血全覚醒》。
「魔王イツキ。いまの私は、あなたよりも強いわ」
だから、これで終わりにしましょう。
最強の吸血姫として、私はあなたを──魔王を、倒す!
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