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第32話 魔王イツキ
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イツキは魔王になろうとしている。
私や魔王フェルムイジュルクの封印を解いただけでなく、ニコラス王子を暴走させて世界を滅ぼさせようと企んでいた。
そしていま、ついにイツキは行動を起こしている。
世界を滅ぼすための。
おそらくイツキは私がこれまで戦ってきたどの相手よりも強い。
全盛期並みの力を持っていた魔王フェルムイジュルクを瞬殺していたのが、その良い証拠です。
しかも規格外の神器の『魂吸創剣』がかなりやっかい。
斬った相手の魂を吸い取る、一撃必殺の聖剣。
でも、私と同じ吸血姫であった妹のトロメアは、まだ魂を抜かれていない。
つまり、高位のヴァンパイアである私には、あの聖剣は一撃必殺にはならいのだ。
それなら戦いようはある。
とはいえ厄介な武器には変わりないので、まずは聖剣をイツキから奪い取ろう。
そうすれば、イツキはただの人間と変わらない強さに戻るはず。
──《血破剣》
血の魔剣を作り出し、イツキに突進します。
パワーでは負けているけど、技術は私のほうが上。
短期戦で、一気に仕留める!
「あれ、あれあれあれ! テレネシアの魔剣だ、ゲームとまたく同じだよ!」
なぜか私が戦う姿を見て感動するイツキ。
戦闘に集中しないで、どういうわけか私の体ばかり見てきます。
魔王フェルムイジュルクですら、こんなにいやらしい視線はしていなかった。
つまり──
「隙だらけよ!」
イツキの右腕を斬り落とす。
よそ見しているから悪いのよ。
「い、痛っ!!!!」
イツキが後方に跳びはねる。
そして、なぜか聖剣に話しかけます。
「ねえ、どうしよう? テレネシアに斬られちゃったよ。記念に腕をこのままにしておきたいけど、でもそれじゃ僕死んじゃうかな」
この男、気持ち悪すぎるんですが!
腕を斬り落としたのに、あんなに喜ばれたのは初めて……。
「テレネシアに斬られてこんなに嬉しんだからさ、テレネシアを斬ったらもっと楽しそうだよね! だから『魂吸創剣』、僕の右腕を創り出せ」
イツキがそう命じると、聖剣から光の粒子が溢れ出てきます。
そして彼の右腕だった場所に光が集まると、斬られたはずの腕が生えてきました。
「ねえ、驚いた? この腕は、隣国の将軍の腕なんだ。一度斬った相手なら、僕はなんでも同じ物を創り出せる能力があるんだよ」
つまりいくら傷つけても、再生してしまうわけね。
イツキを止めるには、本人を殺すか、あの聖剣を奪うかの二択しかなさそう。
「剣術ではテレネシアに勝てそうもないから、つばぜり合いにならないようにすればいいよね。溶岩をまとってしまえば、近づいただけで捕まえられるよ」
聖剣が、マグマをまとっていました。
あれは、魔王フェルムイジュルクの溶岩剣!
イツキは斬った相手の魔法も使えるというの?
「他にもね、こんなこともできるんだ!」
聖剣から、再び光の粒子が放たれます。
それらは、無数の人の形へと変化していきます。
「これは魔族狩りで皆殺しにしたオーク重騎士団だよ。こいつらはたくさん斬ったから、いくらでも創り出せるんだ!」
斬った相手の体の一部だけでなく、そのものまで生み出してしまう。
さきほどハートが教えてくれた、白衣の転生者についての噂話を思い出します。
イツキは一人で何属性も魔法が使え、一人で軍隊並みの戦力があり、死んだ者の能力も使えれば、好きなものもなんでも生み出せる。
荒唐無稽すぎて、デマだと思っていた。
でもあの噂は、すべてが真実だったのだ。
「行け、オーク重騎士団。テレネシアを捕獲しろ!」
大岩のような体格のオークたちの軍勢が、波のようにこちらへ向かってきます。
鉄のフルプレートを着る彼らは、鉄壁の防御を持っている。
そんなオークの軍勢にひき殺されれば、どんな者も肉の塊になってしまうでしょう。
でも、相手が私でなければの話ですが。
──《血霧体》
体を血の霧に変化させて、物理攻撃を無効化させます。
そして、オークたちの鎧の隙間に、血の霧が入り込む。
──《血炸裂針》!
オークたちの血の鎧の内側から、無数の針が飛び出てきました。
全員、血の針によって動きを停止しています。
「そ、そんな……あのオーク重騎士団が一瞬で」
私にかかれば、敵の数がどれだけいようが関係ない。
一人で一国を落とす。
それは、魔王相手に1000年前に経験済みなのだから。
「その溶岩剣も対策済みなの」
霧になったまま、イツキの背後に回り込みます。
そして1000度のマグマを放出する溶岩剣を、素手で握りました。
「耐熱耐性はそれなりにあるのよ。だって魔王フェルムイジュルクとは、何度も殺し合った仲だから」
肌の表面に、耐熱性のある薄い血の膜を作る。
そうすることで、私はマグマを触ることができるのだ。
「に、人間が、そんな耐熱性を持ってるなんて、反則だよ!」
「だから言っているでしょう、私は吸血姫。人間じゃないの」
「クッ……でも、テレネシアから近くに来てくれたのなら、逆にラッキーだよ」
イツキが聖剣で、私に斬りかかってきます。
でも、無駄です。
「そ、そんなっ! 『魂吸創剣』で斬れないなんて!」
私の体は、霧になっている。
だから剣なんて、すべて避けてしまえばいい。
ゆえに、《血霧体》は物理攻撃を無効にする。
この状態なら規格外の神器の効果を受け付けないのも、ボロスの『絶死の三連突剣』ですでに経験済みです。
「今度は私の番ね」
私は魔剣を振りかぶり、イツキの胴を薙ぎ払います。
体が真っ二つになったイツキは、鈍い音を立てながら床に落ちました。
たしかにイツキは強い。
でも、戦闘経験は、あまりなかった。
いくら5年の間に敵と戦いまくっても、それは強者ではない。
「イツキ、あなたは強い。でも、戦士ではないわ。ただの虐殺者ね」
弱者をどれだけいたぶっても、真の強者にはなれない。
イツキがやっていたのは、ただの弱い者いじめだったのだ。
それに対し、私は自分よりも強い者と何度も戦った。
そうして力をつけ、最強の吸血姫と呼ばれるまでになった。
あの1000年前のあの乱世の時代の、頂点に立ったのだ。
「私に勝つつもりなら、千年早いわよ」
念のため聖剣をイツキから奪い取って、遠くへ投げます。
これで、もう規格外の神器は使えないはず。
上半身だけになったイツキに視線を移します。
まだ息はあるようで、血を吐きながら口をもごもごさせていました。
「ぼ、僕がこんなところで……ちがう、僕は主人公に、なるんだ」
「いいえ、違うわ。あなたは主人公になりたかったみたいだけど、やっていることは真逆」
私は教会で、いろいろな本を読んだ。
もちろん小説も。
「物語の主人公はみんな、あなたみたいな人ではなかった。自分のことよりも他人を大切にする、心優しい人間たちだったわよ」
そんな彼らに、私は共感した。
自分と重ねるつもりで。
「だからイツキ、あなたは主人公じゃない。魔王よ」
世界を滅ぼす存在。
それを、この世界では『魔王』と呼ぶ。
神話の時代から、なぜかそう云い伝えられていた。
最初の魔王は、私が倒した魔王フェルムイジュルク。
そして二人目の魔王が、イツキなのだ。
「僕が、魔王……? そ、そんなわけ、ないよ。だってこの時代の魔王は、元人間で…………あれ」
そこで、イツキは何かに気が付いたように、息を呑みました。
「もしかして、僕がその魔王だったのか……?」
イツキが何かを悟った瞬間。
聖剣が輝きを放ちました。
「直接持たなくても、能力が使えるの⁉」
「そうだ、僕が魔王になればいい……!」
聖剣からオレンジ色の魂が飛び出て、イツキの体へと入っていきました。
あれは魔王フェルムイジュルクの魂。
ということは──
「これで僕…………いや、俺様は魔王と一つになった。初代魔王の体と融合したから、魔王の血も引いている。あとはヴァンパイア・クイーンを取り込めばそれで完成だな」
イツキと魔王フェルムイジュルクが融合した!
そのせいで、イツキの体が再生していました。
しかもそれだけではなく、魔王フェルムイジュルクの力をすべて奪ったようで、体格が一回り大きくなっています。
優男に見えた少年は、いまや歴戦の勇者といった要望に変化していました。
そのせいで、性格も変わってしまっているようです。
「あぁ、そういうことか、すべてを悟ったぞ。魔王フェルムイジュルクもテレネシアと結婚するつもりだったんだな。ということは本物のヴァンパイア・クイーンはさっきの奴隷女じゃなくて、テレネシア……お前だったわけだ」
魔王と融合したことで、記憶を共有したのでしょう。
私の正体についても、詳しく知ってしまったようでした。
「私が聖女でなくヴァンパイアだとわかったのなら、もう興味もなくなったかしら?」
そうであればいい。
なにせイツキの私への執着は、気持ち悪いを通り越して怖いくらいなのだから。
「いいや、大ありだ。お前が本物のヴァンパイア・クイーンなら、俺様と一緒になる運命だからな。だからこっちに来て一つになれ、俺様たちがゲームの裏ボスになるんだ!」
「また意味のわからないことを……」
とはいえ、彼をまた止めるのにはかなりの労力が必要でしょう。
なにせ、転生者であるイツキと魔王フェルムイジュルクが合体したのだ。
正直言って、見たこともないほどの尋常ならざる力を感じます。
イツキはすでに、私よりも強くなっている。
「だが俺様の聖剣をもってしても、テレネシアは殺せない。なら、アレを使えばいい!」
イツキは、私の後ろの方へ視線を向けました。
その先には、王の間がある。
国王とドルネディアスがまだいるはずだけど、おそらくイツキが欲しいのはその二人ではない。
王が持っている、規格外の神器だ。
「『女神陽光珠』を使えば、ヴァンパイアなど瞬殺だ」
「そう……でも、行かせないわ」
私は元々、『女神陽光珠』を奪うつもりでいました。
ヴァンパイアを殺す光を放つあの武器は、あまりにも危険すぎる。
だから、誰にもあの杖は奪わせない。
「あの『女神陽光珠』はね、私が奪う予定だったの。だからあなたには、手出しさせないわ」
イツキを倒して妹を救い、『女神陽光珠』を奪う。
そのためには、出し惜しみなんてしていられない。
「こうなったら、奥の手を使うしかないようね」
私や魔王フェルムイジュルクの封印を解いただけでなく、ニコラス王子を暴走させて世界を滅ぼさせようと企んでいた。
そしていま、ついにイツキは行動を起こしている。
世界を滅ぼすための。
おそらくイツキは私がこれまで戦ってきたどの相手よりも強い。
全盛期並みの力を持っていた魔王フェルムイジュルクを瞬殺していたのが、その良い証拠です。
しかも規格外の神器の『魂吸創剣』がかなりやっかい。
斬った相手の魂を吸い取る、一撃必殺の聖剣。
でも、私と同じ吸血姫であった妹のトロメアは、まだ魂を抜かれていない。
つまり、高位のヴァンパイアである私には、あの聖剣は一撃必殺にはならいのだ。
それなら戦いようはある。
とはいえ厄介な武器には変わりないので、まずは聖剣をイツキから奪い取ろう。
そうすれば、イツキはただの人間と変わらない強さに戻るはず。
──《血破剣》
血の魔剣を作り出し、イツキに突進します。
パワーでは負けているけど、技術は私のほうが上。
短期戦で、一気に仕留める!
「あれ、あれあれあれ! テレネシアの魔剣だ、ゲームとまたく同じだよ!」
なぜか私が戦う姿を見て感動するイツキ。
戦闘に集中しないで、どういうわけか私の体ばかり見てきます。
魔王フェルムイジュルクですら、こんなにいやらしい視線はしていなかった。
つまり──
「隙だらけよ!」
イツキの右腕を斬り落とす。
よそ見しているから悪いのよ。
「い、痛っ!!!!」
イツキが後方に跳びはねる。
そして、なぜか聖剣に話しかけます。
「ねえ、どうしよう? テレネシアに斬られちゃったよ。記念に腕をこのままにしておきたいけど、でもそれじゃ僕死んじゃうかな」
この男、気持ち悪すぎるんですが!
腕を斬り落としたのに、あんなに喜ばれたのは初めて……。
「テレネシアに斬られてこんなに嬉しんだからさ、テレネシアを斬ったらもっと楽しそうだよね! だから『魂吸創剣』、僕の右腕を創り出せ」
イツキがそう命じると、聖剣から光の粒子が溢れ出てきます。
そして彼の右腕だった場所に光が集まると、斬られたはずの腕が生えてきました。
「ねえ、驚いた? この腕は、隣国の将軍の腕なんだ。一度斬った相手なら、僕はなんでも同じ物を創り出せる能力があるんだよ」
つまりいくら傷つけても、再生してしまうわけね。
イツキを止めるには、本人を殺すか、あの聖剣を奪うかの二択しかなさそう。
「剣術ではテレネシアに勝てそうもないから、つばぜり合いにならないようにすればいいよね。溶岩をまとってしまえば、近づいただけで捕まえられるよ」
聖剣が、マグマをまとっていました。
あれは、魔王フェルムイジュルクの溶岩剣!
イツキは斬った相手の魔法も使えるというの?
「他にもね、こんなこともできるんだ!」
聖剣から、再び光の粒子が放たれます。
それらは、無数の人の形へと変化していきます。
「これは魔族狩りで皆殺しにしたオーク重騎士団だよ。こいつらはたくさん斬ったから、いくらでも創り出せるんだ!」
斬った相手の体の一部だけでなく、そのものまで生み出してしまう。
さきほどハートが教えてくれた、白衣の転生者についての噂話を思い出します。
イツキは一人で何属性も魔法が使え、一人で軍隊並みの戦力があり、死んだ者の能力も使えれば、好きなものもなんでも生み出せる。
荒唐無稽すぎて、デマだと思っていた。
でもあの噂は、すべてが真実だったのだ。
「行け、オーク重騎士団。テレネシアを捕獲しろ!」
大岩のような体格のオークたちの軍勢が、波のようにこちらへ向かってきます。
鉄のフルプレートを着る彼らは、鉄壁の防御を持っている。
そんなオークの軍勢にひき殺されれば、どんな者も肉の塊になってしまうでしょう。
でも、相手が私でなければの話ですが。
──《血霧体》
体を血の霧に変化させて、物理攻撃を無効化させます。
そして、オークたちの鎧の隙間に、血の霧が入り込む。
──《血炸裂針》!
オークたちの血の鎧の内側から、無数の針が飛び出てきました。
全員、血の針によって動きを停止しています。
「そ、そんな……あのオーク重騎士団が一瞬で」
私にかかれば、敵の数がどれだけいようが関係ない。
一人で一国を落とす。
それは、魔王相手に1000年前に経験済みなのだから。
「その溶岩剣も対策済みなの」
霧になったまま、イツキの背後に回り込みます。
そして1000度のマグマを放出する溶岩剣を、素手で握りました。
「耐熱耐性はそれなりにあるのよ。だって魔王フェルムイジュルクとは、何度も殺し合った仲だから」
肌の表面に、耐熱性のある薄い血の膜を作る。
そうすることで、私はマグマを触ることができるのだ。
「に、人間が、そんな耐熱性を持ってるなんて、反則だよ!」
「だから言っているでしょう、私は吸血姫。人間じゃないの」
「クッ……でも、テレネシアから近くに来てくれたのなら、逆にラッキーだよ」
イツキが聖剣で、私に斬りかかってきます。
でも、無駄です。
「そ、そんなっ! 『魂吸創剣』で斬れないなんて!」
私の体は、霧になっている。
だから剣なんて、すべて避けてしまえばいい。
ゆえに、《血霧体》は物理攻撃を無効にする。
この状態なら規格外の神器の効果を受け付けないのも、ボロスの『絶死の三連突剣』ですでに経験済みです。
「今度は私の番ね」
私は魔剣を振りかぶり、イツキの胴を薙ぎ払います。
体が真っ二つになったイツキは、鈍い音を立てながら床に落ちました。
たしかにイツキは強い。
でも、戦闘経験は、あまりなかった。
いくら5年の間に敵と戦いまくっても、それは強者ではない。
「イツキ、あなたは強い。でも、戦士ではないわ。ただの虐殺者ね」
弱者をどれだけいたぶっても、真の強者にはなれない。
イツキがやっていたのは、ただの弱い者いじめだったのだ。
それに対し、私は自分よりも強い者と何度も戦った。
そうして力をつけ、最強の吸血姫と呼ばれるまでになった。
あの1000年前のあの乱世の時代の、頂点に立ったのだ。
「私に勝つつもりなら、千年早いわよ」
念のため聖剣をイツキから奪い取って、遠くへ投げます。
これで、もう規格外の神器は使えないはず。
上半身だけになったイツキに視線を移します。
まだ息はあるようで、血を吐きながら口をもごもごさせていました。
「ぼ、僕がこんなところで……ちがう、僕は主人公に、なるんだ」
「いいえ、違うわ。あなたは主人公になりたかったみたいだけど、やっていることは真逆」
私は教会で、いろいろな本を読んだ。
もちろん小説も。
「物語の主人公はみんな、あなたみたいな人ではなかった。自分のことよりも他人を大切にする、心優しい人間たちだったわよ」
そんな彼らに、私は共感した。
自分と重ねるつもりで。
「だからイツキ、あなたは主人公じゃない。魔王よ」
世界を滅ぼす存在。
それを、この世界では『魔王』と呼ぶ。
神話の時代から、なぜかそう云い伝えられていた。
最初の魔王は、私が倒した魔王フェルムイジュルク。
そして二人目の魔王が、イツキなのだ。
「僕が、魔王……? そ、そんなわけ、ないよ。だってこの時代の魔王は、元人間で…………あれ」
そこで、イツキは何かに気が付いたように、息を呑みました。
「もしかして、僕がその魔王だったのか……?」
イツキが何かを悟った瞬間。
聖剣が輝きを放ちました。
「直接持たなくても、能力が使えるの⁉」
「そうだ、僕が魔王になればいい……!」
聖剣からオレンジ色の魂が飛び出て、イツキの体へと入っていきました。
あれは魔王フェルムイジュルクの魂。
ということは──
「これで僕…………いや、俺様は魔王と一つになった。初代魔王の体と融合したから、魔王の血も引いている。あとはヴァンパイア・クイーンを取り込めばそれで完成だな」
イツキと魔王フェルムイジュルクが融合した!
そのせいで、イツキの体が再生していました。
しかもそれだけではなく、魔王フェルムイジュルクの力をすべて奪ったようで、体格が一回り大きくなっています。
優男に見えた少年は、いまや歴戦の勇者といった要望に変化していました。
そのせいで、性格も変わってしまっているようです。
「あぁ、そういうことか、すべてを悟ったぞ。魔王フェルムイジュルクもテレネシアと結婚するつもりだったんだな。ということは本物のヴァンパイア・クイーンはさっきの奴隷女じゃなくて、テレネシア……お前だったわけだ」
魔王と融合したことで、記憶を共有したのでしょう。
私の正体についても、詳しく知ってしまったようでした。
「私が聖女でなくヴァンパイアだとわかったのなら、もう興味もなくなったかしら?」
そうであればいい。
なにせイツキの私への執着は、気持ち悪いを通り越して怖いくらいなのだから。
「いいや、大ありだ。お前が本物のヴァンパイア・クイーンなら、俺様と一緒になる運命だからな。だからこっちに来て一つになれ、俺様たちがゲームの裏ボスになるんだ!」
「また意味のわからないことを……」
とはいえ、彼をまた止めるのにはかなりの労力が必要でしょう。
なにせ、転生者であるイツキと魔王フェルムイジュルクが合体したのだ。
正直言って、見たこともないほどの尋常ならざる力を感じます。
イツキはすでに、私よりも強くなっている。
「だが俺様の聖剣をもってしても、テレネシアは殺せない。なら、アレを使えばいい!」
イツキは、私の後ろの方へ視線を向けました。
その先には、王の間がある。
国王とドルネディアスがまだいるはずだけど、おそらくイツキが欲しいのはその二人ではない。
王が持っている、規格外の神器だ。
「『女神陽光珠』を使えば、ヴァンパイアなど瞬殺だ」
「そう……でも、行かせないわ」
私は元々、『女神陽光珠』を奪うつもりでいました。
ヴァンパイアを殺す光を放つあの武器は、あまりにも危険すぎる。
だから、誰にもあの杖は奪わせない。
「あの『女神陽光珠』はね、私が奪う予定だったの。だからあなたには、手出しさせないわ」
イツキを倒して妹を救い、『女神陽光珠』を奪う。
そのためには、出し惜しみなんてしていられない。
「こうなったら、奥の手を使うしかないようね」
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