最強の吸血姫、封印から目覚めたら聖女だと誤解されてました ~正体がバレないように過ごしていたら、なぜかみんなから慕われたのですが

水無瀬

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第29話 転生者の力

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 まさか、さっそく魔王と遭遇するとは思わなかった。

 でもそのせいで、三つ巴が起きています。

 私の腕を握ったままのイツキ。
 そのイツキを攻撃しようとしてる魔王。
 そしてイツキに捕まったままの私の、三勢力です。


 白衣の転生であるイツキは、正直いってよくわからない存在だ。
 わけわからないことばかり言っているけど、この国で真っ当に生きているみたいだから、悪人ではない。

 それなら、ここで戦う相手は決まっています。
 私は、魔王フェルムイジュルクを倒す!

 ニコラス王子を使徒にして殺しただけでなく、王都を火の海にした黒幕。
 多くの人間を死に追いやった魔王を、許すことはできません。


 本来であれば、命をかけて戦うような相手です。
 でも、今回は平気。

 見たところ、魔王の魔力はそこまで回復していない。
 対して私は、それなりに復活している。

 しかも魔王は、1000年前に一度倒した相手です。
 いまさら負ける相手ではない。

 それに魔王は因縁の相手でもあります。
 だからここは、私が動かないといけない。


「イツキ、手を離しなさい!」


 私の声に反応したイツキが、とっさに距離を取りました。

 これで自由に戦える。
 魔剣を作り出し、魔王へと振りかぶります。

 ──《血破剣ブラッドブレイク


「なんの、溶岩剣ラバーソード!」


 魔王も魔剣で対応してきます。

 つばぜり合いをしながら、察しました。
 やはり魔王は、まだ力を取り戻してはいない。
 弱ったままなのだ。


「全盛期の半分くらいの力しかないんじゃないかしら。私のほうが、筋力があるみたいだけど」

「テレネシア、いったい何をした? この短期間でそこまで魔力を回復しているとは…………1000年前には、こんなことなかったのに」

 最近は、人助けをたくさんしましたからね。
 それに私と相性の良い人間が見つかって、その子が私のメイドになったのが大きい。

 魔力の回復量が他の人間の何倍もあるうえに、あの子はいくら血を抜いてもなぜか貧血にならないのだ。
 まさに逸材いつざいです。

「おかげで、こんなこともできるようになったの」

 両手で持っていた魔剣を、右手で握ります。
 そして、空いた左手に魔力を集中させ、新たな魔剣を創り出す。
 
 魔剣の二刀流。


 ──《血破双剣ブラッドツインブレイク》!


 二本の魔剣によって、魔王の肉を断ち切ります。
 初めてやってみたけど、上手くいったみたい。


「ま、また負けた、のか……朕はテレネシアには、勝てない、というわけか…………」


 私に敗れた魔王は、廊下の隅で体を縮こまらせています。
 でも、まだ諦めたわけではなかったみたい。


「こうなったら、これを使うしかない……」


 そう言いながら、魔王はオレンジ色の小さな鉱石を取り出しました。
 あれは『使徒の心臓』!

 人間を魔王の使徒にする効果があるだけでなく、魔王が摂取すれば理性を失う代わりに、能力を大幅に引き上げる効果もあったはず。


「これで朕は、もう負けることはない……!」

 ──ゴクリ。

 魔王が『使徒の心臓』を丸呑みしました。
 すぐに、体が変化する。

 灼熱の溶岩を体からあふれるだけでなく、内側の魔力も跳ね上がっています。
 ニコラス王子の時のように巨大化はしないけど、代わりに力の全てを人間の姿に圧縮していました。


「これが朕の本当の姿だ。もう誰にも負ける気がしないッ!」


 全盛期の魔王並の力を感じる。
 完全に回復しきっていない現在の私で、どこまで通用するか。


「さあテレネシア。朕のモノになるのだ」


 一瞬のうちに、魔王が私の目の前に移動してきた。
 反応できない。
 や、やられる……!

 そう思ったとき、緊張感のない声が聞こえてきます。


「勘違いしないんで欲しいんだけどさ、テレネシアは僕のヒロインなんだよ」

 魔王のお腹から、剣が生えてきた。
 いや、違う。
 イツキは魔王の背後から、剣を突き刺したのだ。


「転生者か……だが、剣で刺したくらいでは、朕は止まらん!」

「それが止まるんだよね、僕の『魂吸創剣スリピットメイクソード』なら」

 突如、異変が起きます。
 魔王の体内の魔力が、みるみるうちにイツキの剣へと吸い取られて行ったのです。


「僕の『魂吸創剣スリピットメイクソード』は、斬った相手の魂を吸い取る能力があるんだ。だから一撃でも入れれば、相手のすべてを奪うことができる」

「き、貴様ぁああ!」


 イツキが剣を引き抜く。
 人形のように動かなくなった魔王は、バタリと床に倒れました。

 ──強い。

 まさかこんなにあっさり、魔王が死んでしまうなんて……。

 白衣の転生者が、これほどの強者だとは思いもしなかった。
 おそらく全盛期の魔王以上の力を持っている。
 私でも、このイツキが相手ではどうなるかわからない。


「これで魔王フェルムイジュルクの魂はゲットだね。あとはヴァンパイアの女王を剣に吸わせれば、裏ボスの真魔王が生まれるよ!」


 イツキが、私に視線を移しました。

 まさか、私の正体がヴァンパイアだってバレてる?

 ヴァンパイアの女王を剣に吸わせればとか言ってるし、間違いない。
 どういうわけか、イツキは私の正体を知っているのだ。


「ねえテレネシア。ヴァンパイアってさ、なんで不死身なんだろうね?」


 いつ攻撃されてもいいように身構えていると、イツキがそんなことを尋ねてきます。


「僕の『魂吸創剣スリピットメイクソード』でもね、ヴァンパイアの魂は吸えなかったんだよ。さっきの魔王とちがって、どうやらヴァンパイアは弱点への攻撃しか通じないみたい」

 その代わり、私たちヴァンパイアには明確な弱点がいくつか存在している。
 それを突かれると、あっけなく死んでしまうのだ。

 でも、ヴァンパイアの王族であれば別。
 ほとんどの弱点を克服しているので、めったに死ぬことはない。

 それこそ、ヴァンパイア特効の規格外の神器チートアイテムである、『女神陽光珠ゴッドサンライト』でもないと。


「いまから国王の所に行って、『女神陽光珠ゴッドサンライト』をもらってくるよ。テレネシアも一緒にどう?」


 イツキの無邪気そうな笑顔からは、私を殺そうとする気配はありませんでした。
 もしかして、私がヴァンパイアだと気が付いていない?

 それならどうして、ヴァンパイアを殺す武器をもらおうとしているんだろう。

「……わかったわ」

 イツキの手を取る。
 そして、二人で並んで歩きながら、国王に会いに行くことにします。



 王の間に入ると、そこには二人の人間が待ち構えていました。
 国王と、大神官ドルネディアスです。

 そしてイツキは、まるで友達に会った時のように気さくな態度で手を上げます。

「王様、こんにちは! いきなりで悪いんですが、お願いがあるんですよ!」


 玉座には、初老の国王が座っていました。
 その隣には、大神官ドルネディアスが立っている。
 なにか大事な話をしていたのか、他に人は誰もいませんでした。

 私の顔を見たドルネディアスは、驚いたように声をあげます。


「イツキ様に、聖女テレネシア様……なぜあなたたちがここに?」

「僕たち、将来を誓い合った仲なんだ。それで国王陛下、『女神陽光珠ゴッドサンライト』を貰いたいんですよ。いいですよね?」


 ドルネディアスはこの国の第一王子です。
 第二王子であるニコラスが死んだいま、代わりに国王を補佐する仕事をしていてもおかしくはない。

 そうやって国に献身を示しても、ドルネディアスが報われることはなかった。
 なぜなら次期国王は、別の男がになううのだから。

 だけど国王が、次期国王となるイツキに待ったをかけます。


「『女神陽光珠ゴッドサンライト』は、代々国王のみにしか持つことは許されん。イツキ殿が我が娘と結婚し、王都なった際に渡す約束だったが」

「ええ、かたいなー。ヴァンパイアの城を落としたときに、ちょっと貸してくれたじゃないですか」

「あれは特例じゃ。イツキ殿が王になるまで、『女神陽光珠ゴッドサンライト』を渡すつもりはない」

「なら、僕は王女と結婚します。いますぐに!」


 それじゃあと手を振りながら、イツキは王の間から去っていきました。
 しかも、一人で。

 あのう、私、王の間に取り残されたのですが。
 自称恋人を置いていくのは、いいんですか?

 ──でも、これはある意味、チャンスかも。

 だってすぐそこに、目当ての物だった『女神陽光珠ゴッドサンライト』があるんだから。


 玉座へと視線を向けると、王がため息をつきました。


「まったく、イツキ殿は最近、なにやらおかしいのう。死んだニコラスと悪だくみをしていたようじゃし、なにやら不穏ふおんじゃい」

 イツキは王女と婚約しているはず。
 でもそれは、完全に国王の意思だったというわけでは、ないのかもしれません。

「本当ならドルネディアス、お前に跡を継いで欲しかったのじゃがな。いつか呪いが解けると信じて、ずっと王太子の席は空けておいたというのに」

「父上、ふがいない私のことをお許しください。イツキ殿は国を自分の物にしようと考えているような発言をしていましたが、たとえ王になれずともこのドルネディアスがそうはさせません」


 なるほどね。
 ドルネディアスは、良い人間です。

 自分を犠牲にして、民を助けようとする善の心を持っている。
 なにかを隠しているあのイツキよりも、よっぽど王にふさわしい。

 それにもしもイツキが王になれば、『女神陽光珠ゴッドサンライト』が彼の物になってしまう。
 ヴァンパイア特効を手にした彼を、私は止めることはできない。
 おそらく戦っても、敗北してしまうことでしょう。


 私はまだ、死にたくない。
 そうならないためにも、いまのうちに行動を起こします。

 この親子にちょっとだけ、力を貸してあげましょうか。


「陛下、そしてドルネディアス。お話があります」

 いきなり私が話しかけたことで、二人の視線が私に集中しました。
 ゆっくりと玉座の前へと足を動かし、こう宣言します。


「私がドルネディアスの呪いを、解いてみせましょう」


 呪いさえなければ、ドルネディアスは教会の神官ではなく、王族に戻れる。
 そうなれば、ドルネディアスの人望と第一王子という肩書によって、王位継承権は王女から第一王子へと移動するはずだ。


「私がドルネディアスを、次の王にしてみせましょう」
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