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第27話 白衣の転生者
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イツキは『ゲームが始まる』と言いました。
いったい何の話だろう。
そもそもゲームなんて言葉、私は知りません。
教会の本にも、どこにも書いてなかった。
それなのに、どこかで聞き覚えがあるような気がする。
なんだか、私が封印される直前に耳にしたような……。
──そうだ、あの勇者の三人組だ!
1000年前に印された時、勇者の仲間が『ゲーム』という言葉を喋っていた。
あの仲間も、異世界からの転生者だったらしい。
つまり、転生者特有の何かを表す言葉ということになる。
そう予測したところで、白衣の転生者がぐいぐいと私に質問してきます。
「君も僕と同じで転生者なの? 『セイクリッドクエスト』はどっちもプレイした?」
──セイクリッドクエスト?
いったい何の話なの。
さっぱり理解できないのだけど。
「ごめんなさい。あなたが何を言っているのか、わからないわ」
「…………なんだ、聖女もNPCかよ」
いきなり、『白衣の転生者』の態度が豹変しました。
まるで物を見るような視線で、私を見定めてきます。
エヌピーシーという言葉の意味はわからないけど、侮辱されたことだけはわかりました。
「でも聖女がNPCなら気を使う必要がないどころか、何をしても問題ないってことか。逆にラッキーかも!」
「え、ちょっと……無礼者!」
白衣の転生者が、私を抱き寄せてきました。
まるで恋人にするように、体を密着させようとしてきます。
「いいじゃん、減るもんでもないんだし。それに君、『封印の聖女』ならヒロインじゃん。ヒロインは主人公のモノだから、これくらいは当たり前だろう」
さっきから、この男が何を言っているのか理解できない。
本当に同じ言語を話しているのか、疑いたくなってしまう。
「これから忙しくなるぞ! テレネシアには、僕の仲間として一緒に来てもらうからね!」
この強引さ、まるで魔王フェルムイジュルクのよう。
私のことを物のようにしか見ていないところとか、すごく似ている。
──この男のことは、好きにはなれそうにない。
そう直感したところで、白衣の転生者が自己紹介をしてきます。
「僕の名前はオオゾラ・イツキ。日本から来たんだ」
「ニホン? そんな国、聞いたことないけど」
「異世界だからね。まあこの世界からすると、神の国みたいなものなんじゃないのかな」
神の世界。
それが本当なら、転生者がもたらす規格外の神器の力の凄さも納得できます。
そういえば教会の本には、こんなことが書いてありました。
規格外の神器によって、世界のバランスが大きく変わった。
魔族よりも、人間のほうが強くなったのだと。
それが神の力であるなら、私や魔王が封印されたあの出来事もうなづけるというものです。
「そういえば知ってる? テレネシアの封印を解いたのは、僕なんだよ!」
白衣の転生者イツキは、私の体をつかんだまま嬉しそうに喋り出します。
「ゲームの設定だと、1000年前の勇者が持っていた『聖剣の欠片』を破壊すれば、『封印石』の封印が解けるんだよ。何年もかけて探したんだけど、やっとこないだ見つけたんだ!」
それで、私と魔王の封印が解けたのね。
なぜいきなり封印が消えたのか不思議だったけど、まさか転生者のせいだったなんて。
それにしても、この男の力はとんでもない。
離れようとしても、さっきからびくともしません。
ヴァンパイアである私以上の力を持っている人間がいるなんて、信じられない。
「ヒロインの『封印の聖女』は出てきたから、あとは新たな魔王が出現すればプロローグが進みそうだよね。それなのにニコラスは死んだらしいじゃん、どうしよう」
「ニコラス王子と魔王に、なにか関係があるの?」
「そりゃ二作目の魔王は、元人間だったからね。ニコラスが魔王に変化して、世界を滅ぼしてくれると思ったんだけど、期待外れだったよ」
ニコラスが魔王に……?
でもそれって、あながち間違いではないかも。
だってニコラス王子は、魔王の使徒になったんだから。
「新たな魔王が世界を滅ぼしたところで、ゲームは始まる。主人公とヒロインが登場して、世界を救うんだ! そのために僕はこの世界に転生されたと考えている」
この意味不明の話、聞き覚えがあります。
魔王フェルムイジュルクが、私と子供を作って新時代の魔王を産むとかなんとか言っていた気がする。
それに近いものがある。
「本物のテレネシアと会えたのも嬉しいよ! なにせ僕は、君のグッズを全部持ってたんだ。でもやっぱり、生身のテレネシアが一番綺麗だよ」
「私、あなたに抱かれるつもりはないの。その手、どけてくれるかしら?」
見た目は優男なのに、なんなのこの力は。
抱きついてくるこの男を、離すことができない。
もしかしたら、力の強さは魔王フェルムイジュルク以上かも。
「いやだと言いつつ、本当は僕のこと誘ってるんでしょ?」
「信じられない……こんなに礼儀がなっていない殿方は、魔王以来だわ」
「そんなに嫌がらなくていいじゃん。どうせエンディング後には、僕らは夫婦となって子供も作ってるんだから」
魔王フェルムイジュルクも同じようなことを言っていけど、なぜ子供の話をするのかしら。
そんなに私のことが好きなら、一緒に愛を育もうとか、愛しているとか、他に言うことがあると思うのだけど。
「転生者ってだけで、ここの世界のNPCの女どもは何でも僕の言うことを聞いてくれるのがいいよね。だから、ちょっとくらいいだろう?」
白衣の転生者の顔が、近づいてきます。
そう、私にキスをしようとしているのだ。
「これ以上するなら、本気で怒りますよ」
手で壁を作って、イツキの顔を防ぎます。
すると、ふと懐かしい香りが漂ってきました。
──この血の香りは、まさか?
どういうわけか、イツキの体から妹の血に似た匂いがしました。
でも、きっとこれは気のせい。
だって私の妹は、もうこの世にはいないのだから。
ヴァンパイアの一族は、私が封印されている間に滅ぼされた。
目の前の、この男の手によって……。
「テレネシアは本当に可愛いよね。気が付いた? 僕の白衣と君の髪の色、お揃いなんだよ。現実世界の僕の部屋には、君のフィギュアもあってさ」
そうだ。いまのイツキは隙だらけ。
やろうと思えば、倒すこともできるのではないかしら。
「だからね、僕と付き合わない? このままだと王女と結婚させられそうなんだけど、あんなモブキャラよりもヒロインのテレネシアのほうが好きだからさ」
念のため、自分の魔力量を確認します。
【魔力量 84/100%】
この一週間で、また魔力が回復した。
ハートからたくさん血をわけてもらっただけでなく、姉妹の仲を取り持った際にシャーロットの血も飲めたことが大きいです。
おかげで、フルパワーに近い魔力が体内に貯まっている。
これなら、現代の転生者であろうと、きっと倒せる。
そう思った瞬間でした。
「朕のテレネシアから離れろ!」
廊下の天井から、影が降りてきました。
──魔王フェルムイジュルク!
まさか向こうから姿を現すとは思ってもいなかった。
「そこのテレネシアは、朕の伴侶になる大切な存在だ。いくら転生者であろうと、この溶魔王フェルムイジュルクが許さぬ!」
「もしかしてこいつ、前作のボスキャラ!? なんでまだ生きてるんだ?」
私、魔王フェルムイジュルク、そして白衣の転生者イツキ。
まさかの三つ巴の状態になりました。
敵対する予定だった相手がすべて目の前にいることは、いろいろと手間が省けて楽になったかもしません。
でも、一つ不本意なことがあります。
それは、この争いの中心が私ということ。
この自己中な人たちは、本当になんなの?
まるで私を優勝トロフィーかなにかと勘違いしているんじゃないかしら。
私のために争うつもりなら、二人で勝手にやって欲しい。
でもその前に、やらなければならないことがあります。
魔王は、よくも王都の無関係な人間たちに手をかけましたね。
そしてイツキは、私にセクハラをしまくりました。
過ちの比重は違くとも、それはどちらも罪です。
二人とも……顔を一発、私に殴らせなさい!
いったい何の話だろう。
そもそもゲームなんて言葉、私は知りません。
教会の本にも、どこにも書いてなかった。
それなのに、どこかで聞き覚えがあるような気がする。
なんだか、私が封印される直前に耳にしたような……。
──そうだ、あの勇者の三人組だ!
1000年前に印された時、勇者の仲間が『ゲーム』という言葉を喋っていた。
あの仲間も、異世界からの転生者だったらしい。
つまり、転生者特有の何かを表す言葉ということになる。
そう予測したところで、白衣の転生者がぐいぐいと私に質問してきます。
「君も僕と同じで転生者なの? 『セイクリッドクエスト』はどっちもプレイした?」
──セイクリッドクエスト?
いったい何の話なの。
さっぱり理解できないのだけど。
「ごめんなさい。あなたが何を言っているのか、わからないわ」
「…………なんだ、聖女もNPCかよ」
いきなり、『白衣の転生者』の態度が豹変しました。
まるで物を見るような視線で、私を見定めてきます。
エヌピーシーという言葉の意味はわからないけど、侮辱されたことだけはわかりました。
「でも聖女がNPCなら気を使う必要がないどころか、何をしても問題ないってことか。逆にラッキーかも!」
「え、ちょっと……無礼者!」
白衣の転生者が、私を抱き寄せてきました。
まるで恋人にするように、体を密着させようとしてきます。
「いいじゃん、減るもんでもないんだし。それに君、『封印の聖女』ならヒロインじゃん。ヒロインは主人公のモノだから、これくらいは当たり前だろう」
さっきから、この男が何を言っているのか理解できない。
本当に同じ言語を話しているのか、疑いたくなってしまう。
「これから忙しくなるぞ! テレネシアには、僕の仲間として一緒に来てもらうからね!」
この強引さ、まるで魔王フェルムイジュルクのよう。
私のことを物のようにしか見ていないところとか、すごく似ている。
──この男のことは、好きにはなれそうにない。
そう直感したところで、白衣の転生者が自己紹介をしてきます。
「僕の名前はオオゾラ・イツキ。日本から来たんだ」
「ニホン? そんな国、聞いたことないけど」
「異世界だからね。まあこの世界からすると、神の国みたいなものなんじゃないのかな」
神の世界。
それが本当なら、転生者がもたらす規格外の神器の力の凄さも納得できます。
そういえば教会の本には、こんなことが書いてありました。
規格外の神器によって、世界のバランスが大きく変わった。
魔族よりも、人間のほうが強くなったのだと。
それが神の力であるなら、私や魔王が封印されたあの出来事もうなづけるというものです。
「そういえば知ってる? テレネシアの封印を解いたのは、僕なんだよ!」
白衣の転生者イツキは、私の体をつかんだまま嬉しそうに喋り出します。
「ゲームの設定だと、1000年前の勇者が持っていた『聖剣の欠片』を破壊すれば、『封印石』の封印が解けるんだよ。何年もかけて探したんだけど、やっとこないだ見つけたんだ!」
それで、私と魔王の封印が解けたのね。
なぜいきなり封印が消えたのか不思議だったけど、まさか転生者のせいだったなんて。
それにしても、この男の力はとんでもない。
離れようとしても、さっきからびくともしません。
ヴァンパイアである私以上の力を持っている人間がいるなんて、信じられない。
「ヒロインの『封印の聖女』は出てきたから、あとは新たな魔王が出現すればプロローグが進みそうだよね。それなのにニコラスは死んだらしいじゃん、どうしよう」
「ニコラス王子と魔王に、なにか関係があるの?」
「そりゃ二作目の魔王は、元人間だったからね。ニコラスが魔王に変化して、世界を滅ぼしてくれると思ったんだけど、期待外れだったよ」
ニコラスが魔王に……?
でもそれって、あながち間違いではないかも。
だってニコラス王子は、魔王の使徒になったんだから。
「新たな魔王が世界を滅ぼしたところで、ゲームは始まる。主人公とヒロインが登場して、世界を救うんだ! そのために僕はこの世界に転生されたと考えている」
この意味不明の話、聞き覚えがあります。
魔王フェルムイジュルクが、私と子供を作って新時代の魔王を産むとかなんとか言っていた気がする。
それに近いものがある。
「本物のテレネシアと会えたのも嬉しいよ! なにせ僕は、君のグッズを全部持ってたんだ。でもやっぱり、生身のテレネシアが一番綺麗だよ」
「私、あなたに抱かれるつもりはないの。その手、どけてくれるかしら?」
見た目は優男なのに、なんなのこの力は。
抱きついてくるこの男を、離すことができない。
もしかしたら、力の強さは魔王フェルムイジュルク以上かも。
「いやだと言いつつ、本当は僕のこと誘ってるんでしょ?」
「信じられない……こんなに礼儀がなっていない殿方は、魔王以来だわ」
「そんなに嫌がらなくていいじゃん。どうせエンディング後には、僕らは夫婦となって子供も作ってるんだから」
魔王フェルムイジュルクも同じようなことを言っていけど、なぜ子供の話をするのかしら。
そんなに私のことが好きなら、一緒に愛を育もうとか、愛しているとか、他に言うことがあると思うのだけど。
「転生者ってだけで、ここの世界のNPCの女どもは何でも僕の言うことを聞いてくれるのがいいよね。だから、ちょっとくらいいだろう?」
白衣の転生者の顔が、近づいてきます。
そう、私にキスをしようとしているのだ。
「これ以上するなら、本気で怒りますよ」
手で壁を作って、イツキの顔を防ぎます。
すると、ふと懐かしい香りが漂ってきました。
──この血の香りは、まさか?
どういうわけか、イツキの体から妹の血に似た匂いがしました。
でも、きっとこれは気のせい。
だって私の妹は、もうこの世にはいないのだから。
ヴァンパイアの一族は、私が封印されている間に滅ぼされた。
目の前の、この男の手によって……。
「テレネシアは本当に可愛いよね。気が付いた? 僕の白衣と君の髪の色、お揃いなんだよ。現実世界の僕の部屋には、君のフィギュアもあってさ」
そうだ。いまのイツキは隙だらけ。
やろうと思えば、倒すこともできるのではないかしら。
「だからね、僕と付き合わない? このままだと王女と結婚させられそうなんだけど、あんなモブキャラよりもヒロインのテレネシアのほうが好きだからさ」
念のため、自分の魔力量を確認します。
【魔力量 84/100%】
この一週間で、また魔力が回復した。
ハートからたくさん血をわけてもらっただけでなく、姉妹の仲を取り持った際にシャーロットの血も飲めたことが大きいです。
おかげで、フルパワーに近い魔力が体内に貯まっている。
これなら、現代の転生者であろうと、きっと倒せる。
そう思った瞬間でした。
「朕のテレネシアから離れろ!」
廊下の天井から、影が降りてきました。
──魔王フェルムイジュルク!
まさか向こうから姿を現すとは思ってもいなかった。
「そこのテレネシアは、朕の伴侶になる大切な存在だ。いくら転生者であろうと、この溶魔王フェルムイジュルクが許さぬ!」
「もしかしてこいつ、前作のボスキャラ!? なんでまだ生きてるんだ?」
私、魔王フェルムイジュルク、そして白衣の転生者イツキ。
まさかの三つ巴の状態になりました。
敵対する予定だった相手がすべて目の前にいることは、いろいろと手間が省けて楽になったかもしません。
でも、一つ不本意なことがあります。
それは、この争いの中心が私ということ。
この自己中な人たちは、本当になんなの?
まるで私を優勝トロフィーかなにかと勘違いしているんじゃないかしら。
私のために争うつもりなら、二人で勝手にやって欲しい。
でもその前に、やらなければならないことがあります。
魔王は、よくも王都の無関係な人間たちに手をかけましたね。
そしてイツキは、私にセクハラをしまくりました。
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