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第22話 1000年ぶりの魔王との再会

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 魔王フェルムイジュルク。
 1000年前に、世界を滅ぼしかけた男。

 そんな相手に、再び決闘を挑もうとする。

 けれども、なぜか力が入らない。
 いったいどうして……。


「テレネシアよ、顔が真っ青だぞ。貧血にでもなったのか?」

 ──貧血?
 ま、まさか!

 唇を噛んで、自分の血を飲み込みます。

【魔力量 3/100%】


 暗殺者ボロス、そして魔王の使徒。
 激しい戦闘の連続で、私の魔力は尽きていました。


「朕はこの時を待っていた。テレネシア、お前が弱体化するのをな」

「だからあなたは、ニコラス王子を使徒にしたのね」

「いかにも。あの人間は、良いように踊ってくれた。朕が一方的に利用していることに気が付かずにな」


 ニコラス王子を魔王の使徒にして、私にぶつける。
 きっと、私が魔力を回復しきっていないことも、知っていたのでしょう。
 同時に、私が魔王の使徒を倒すことも計算のうちだった。

 なぜなら、使徒と戦ったことで、私が魔力切れで倒れることを予想していたから。


「これで、私を倒したつもり?」

「もちろんそのつもりだ。朕はお前を手に入れ伴侶とするためなら、なんだってする」


 1000年前も、魔王はこうやって告白してきた。
 だから断ったら、魔王は腹いせに人間の国を滅ぼした。

 それからだった。
 世界が滅びに向かったのは。

 か弱い人間たちを救うために、私は全力であらがった。
 私のせいで、もう誰かが死ぬのを、見たくはなかったから。


「さあテレネシアよ、最強の吸血姫よ。朕との子供を産み、我らの新たな魔王を誕生させよう!」


 訳の分からないことを言ってくるのは、昔と変わらない。
 でも、魔王の姿はかなり変わっていた。


「もしかして、あなたも私同様に、力を失っているんじゃないの?」


 大男であった悪逆魔王が、こんなに小柄こがらになっているのはおかしい。
 突き抜けるような覇気も感じない。
 まるで、小さな猛獣のよう。


「この二週間で貯めた魔力は、ニコラス王子を使徒にするのに使ったのでしょう。それで人間を襲い、魔力を回復するつもりだった。違う?」

「その通りだ……だが、朕は使徒を使い、魔力を回復させてもらったぞ。テレネシア、お前とは違ってな」


 街が蹂躙じゅうりんされたことで、人々は恐怖を覚えた。
 その恐怖こそ、魔王の魔力のみなもととなる。

 血を飲まないと魔力を回復できない私とは違い、魔王は暴れた分だけすぐに力を取り戻してしまうのだ。


「朕の魔力は回復したが、思ったよりも集まらなかった。ゆえに、邪魔が入る前にさらうとしよう」


 魔王がこちらに近付いてくる。
 それなのに、動けない。

 ここまでなの……!


「《聖障壁ホーリーウォール》!」


 突如、私と魔王の間に、光の障壁が出現します。
 この魔法は、前にも見たことがある。
 たしか、大神官ドルネディアスが使っていた、聖魔法!


「テレネシア様、ご無事ですか? 助太刀すけだちに参りました!」


 教会での対応を終えたのでしょう。
 大神官ドルネディアスが、私の元へと走ってきました。

 そういえばヘルハウンドが教会を襲った時も、彼は身をていして守ろうとしていた。
 自分よりも、他人のほうが大事な男なのでしょう。


 ──王族のくせに、変わっている。

 まるで、私みたい。
 でも、助かったわ。


「ドルネディアス、感謝します。ですが、用心しなさい、あそこにいるのが魔王です」

 その魔王は、ドルネディアスの《聖障壁ホーリーウォール》の前で立ち止まったままだった。

 本来の魔王であれば、こんな魔法は片手で破壊できる。
 それなのに、近寄ろうとしない。

 もしかして……!


「魔王、あなた嘘をついているわね」


 たしかに、人々の恐怖によって魔力は回復したのでしょう。
 でも、それはほんの少しだけ。

 魔法を使う人間と戦うほどの余力は、残ってはいないのだ。
 おそらく、魔力残量は私と大して変わらない。


「クッ、テレネシア、お前が来るのがもっと遅ければ、使徒は街中の人間を虐殺できたのだ」


 魔王の使徒が暴れ出してから、私はすぐに現場に駆けつけた。
 そのおかげで、被害は最小限にとどまっていたみたい。

「だが、たかが神官一人くらい、いまの朕でもなんとなかる」

 魔王が《聖障壁ホーリーウォール》に手をかざす。

 その時でした。

 いつの間にか、魔王の背後に黒装束の男が立っていたのです。


「テレネシア様に敵対するのであれば、容赦ようしゃはしない」

 暗殺ギルドのボロスが、魔王の喉元に短剣を突き立てていました。

 ──ボロス、助けに来てくれたんだ!

 住人の避難誘導を指示したはずだけど、そっちはもう終わったのでしょう。
 ドルネディアスだけでなく、ボロスも助っ人に来てくれた。

 いまはそれが、何よりも助かる。
 それにその行為が、とても嬉しかった。


「この男、まだ生きていましたか…………ですが、これでは朕の分が悪い」

 魔王の体から、瘴気しょうきあふれ出しました。
 逃げるつもりです。


「離れて、ボロス!」

 人間があの瘴気に触れれば、ただでは済まない。
 ボロスは魔王から距離を置くことができたけど、その時にはすでに魔王の姿は消えていました。


「また会いに来るぞ、朕のテレネシアよ」

 そう言い残して。


 私は大神官ドルネディアスとボロスに向けて、頭に浮かんだ言葉を言います。


「二人とも、ありがとう。おかげで助かりました」


 誰かに命を助けてもらうのは、久しぶりのこと。
 それが人間相手であれば、初めてのことかもしれない。


「テレネシア様はこの国にとっての英雄です。助けるのは当たり前ではないですか」
 と、言ったのがドルネディアス。


「あなたは俺の命の恩人です。これまで暗殺一筋でしたが、やっと過ちに気づきました。俺はこれから、これまであやめた人の数だけ、人助けをしたいと思います」
 そう、心を入れ替えたのがボロスでした。


 ボロスはとげが抜けたように、清々しい顔をしている。
 きっと彼は、もう罪を犯すことはない。
 なんとなく、そう思いました。


「それなら二人とも、もう少し手伝ってください。民を助けますよ」


 魔王の使徒は、撃破した。
 裏で操っていた魔王も、すでに去っている。

 あとは、魔王の使徒が壊した街の復興と、けが人の救助です。


 時刻は深夜。
 火事のせいで視界がよくなっているとはいえ、人間では夜目が効かない。

 だから、夜も昼間と同じように見ることができる、私が頑張らないと。


「さあ、二人とも行きますよ。一人でも多くの者を助けるのです!」
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