最強の吸血姫、封印から目覚めたら聖女だと誤解されてました ~正体がバレないように過ごしていたら、なぜかみんなから慕われたのですが

水無瀬

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第14話 メイドと食べる肉料理の味

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 メイドの首筋キスをします。

 はたから見たら、まるで恋人同士のよう。
 だけど、私たちは主従。
 特別な関係ではありません。


 それなのに、なぜかハートは「は、はわわわわわわ!」と、慌てていました。

 大丈夫、最初は少し痛いかもしれないけど、ほんの先っぽだけだから。すぐに慣れるから。

 子供をあやすように頭を撫でながら、ハートの目線を確認します。
 この角度なら、ハートから私の口元は見えていない。
 いまがチャンス!

 優しく、ゆっくりと、牙を突き立てる。


 ──かぷり。

 私は、ハートの血を飲んだ。
 その瞬間、吸血姫として魔法が発動する。


 吸血姫とたたえられる私は、ヴァンパイアの中でも特別な能力をいくつも持っています。
 その中の一つが、《血脈記憶ブラッドメモリー》。

 血を飲んだ対象の、名前、年齢、種族、両親、身体情報、使える魔法、ちょっとした感情など、あらゆる情報を読み取る能力です。


 ──《血脈記憶ブラッドメモリー》発動。


・名前:ハート・ブラウン
・年齢:15歳
・種族:人間
・両親:父 ヘンリー・ダルウィテッド(公爵)
     母 アメリア・ブラウン(平民)
・身体情報:身長 154cm、体重 41kg、病気なし。
・使用できる魔法:なし
・魔法適正:水魔法
・やりたいこと:シャーロットお姉様と仲良くなりたい。でも……。
・尊敬する人:封印の聖女(子供の頃からの憧れの人)
・気になる相手:テレネシア様(もしかしてテレネシア様はあたしのことを……)
・テレネシアへの感情:火傷と失った右目を治してくれた恩人であり、あたしのことを必要だと守ってくれた正真正銘の聖女様。(テレネシア様の言うことはなんでも従います!)


 他にもいろいろと情報はたくさんあるけど、不必要なものは見ていません。
 欲しい内容だけピックアップして、脳内で読み取ります。


 この父親のヘンリー・ダルウィテッド公爵という名前には覚えがある。
 たしかシャーロットの父親の公爵だったはず。
 国王に謁見えっけんした後に、「娘を救ってくれてありがとう」とお礼を言われたのだ。

 つまり、シャーロットとハートの父親は同一人物ということになる。

 ──やっぱり、シャーロットと姉妹だったのね。

 母親が違うみたいだから、腹違いの姉妹なのでしょう。

 平民として生まれたせいで、ハートは貴族の子供としては生活できなかった。
 そのせいで、本当の家族が欲しい。

 本当は、シャーロットと姉妹のように仲良くなりたい。
 お父さんの胸に抱き着きたい。

 そういった想いが血から伝わって来る。


 同時に、私に対する絶対の忠誠心も感じられました。
 尊敬してくれているみたいだし、それは嬉しい。

 なにやら勘違いもしているようだけど、ハートはまだ思春期の真っ最中です。
 そういうこともあるでしょう。


 こうやって対象の簡単な感情も読み取れる《血脈記憶ブラッドメモリー》を使えば、相手のすべてを知ることができる。

 だからこそ、確信しました。

 ハートは信頼できる相手だと。


「あのう、テレネシア様…………なんか首がチクリとして、痛いのですが」

「噛みついているから当たり前よ」

「それはいったい……どういった意味での、行為なのですか?」

「私が好きでやっているの」

「そ、そういうご趣味も、良いと思います。あたしは、受け入れますよ………でも、なんだかゾクリとするような変な感覚といいますか、なにかが吸われているような感じがするのですが?」

「もしかしたら内出血をしたのかもしれないわね」

「そ、そうですか? でもテレネシア様がおっしゃるのであれば、それが正しいですよね」


 口ではそう言っているけど、少し疑っているみたい。
 そりゃそうよね、だって血を吸われているんだから。

 こうなればある程度血を吸ったところで、証拠を隠蔽いんぺいしましょう。


血肉再生ブラッドリジェネレート》でハートの傷口を完全にふさぎます。
 噛まれた跡も、血を吸われた痕跡こんせきもない。
 完全に元通りです。


「ほら、鏡を見てみなさい。なんともないのだから、気のせいよ」

「ほ、本当ですね! なんか力が抜けるというか、本当に何かが体から出て行ったような感じがしたけど、気のせいだったんだ」


 なんとか誤魔化せたみたい。
 でも、またこの方法を使うのはちょっと危ないわね。

 今度からは、寝ているところを襲うようにしましょう。


「命令よ。明日から私と同じ部屋で寝なさい」

「えぇえ!? そ、それって、まさか……」

 ハートの顔が真っ赤になっていた。
 こんなに血が集まっていたのなら、もう少し血を抜いても良かったかもしれない。


 とはいえ、ハートのおかげで魔力が少し回復しました。

 私は自分の唇を噛んで、己の血を飲み込みます。
 《血脈記憶ブラッドメモリー》を応用することで、自分の残りの魔力量を知ることができる。

【魔力量 11/100%】

 バレないように少しだけ飲んだだけなので、回復量はこのくらいみたいです。
 でもこのまま続ければ、コウモリ化の魔法が使えるようになる。


 そうなれば、やることは一つ。


 ──城に忍び込んで、規格外の神器チートアイテムの『女神陽光珠ゴッドサンライト』を奪う!


 逃げる選択肢もあったけど、それはやめにしました。
 だって逃げても、あの規格外の神器チートアイテムがある限り、私の安寧あんねいな日々はやって来ないからです。

 それに逃げるなんてこと、吸血姫である私の辞書にはありませんとも。
 国王と会った時にちょっとビビってしまったのは、忘れました。


 真正面から奪いに行っても、『女神陽光珠ゴッドサンライトを使われたらひとたまりもない。
 だから、コウモリの姿で夜に忍び込んで、秘密裏に『女神陽光珠ゴッドサンライト』を奪うのです。

 万が一戦闘になっても、コウモリ化できるほど魔力が回復すれば、なんとかなるでしょう。
女神陽光珠ゴッドサンライト』さえ使わせなければいいのだから。


 それまではこうして、正体を隠して聖女のフリをしながら、魔力回復に努めます。
 そのためにも、ハートには頑張ってもらわないといけません。


「ハート、今日からあなたに肉料理を振舞います。あなたはちょっとせているから、それでもっと肉をつけなさい」

「もしや、あたしが公爵家ではあまり食事を取っていなかったことを知って……テレネシア様はなんてお優しいのでしょうか!」


 ハートの外見から予想はしていたけど、《血脈記憶ブラッドメモリー》でよくわかりました。
 この子はちょっとやせ型みたい。

 だからこのまま血を吸い続けていたら、ハートが貧血で倒れてしまう。
 私のためにも、ハートには精をつけてもらわないと困るんだから。



 そうして夕食の時間になりました。

 大神官ドルネディアスにお願いをして、今日からハートの食事に肉料理を増やしてもらいました。
 私が聖女として行った『笑顔で手を振る』仕事の寄付金の分を、食事代に回してもらったの。

「こんなにたくさんお肉を食べたのは、生まれて初めてです……!」


 そう言って涙を流すハートを見ていると、ある感情が浮かんできます。

 ──こういうのも、わるくないのかも。

 人間のメイドを一から育てる。
 そういった楽しみ方もあるのだと、私は初めて知りました。


「あのう、テレネシア様……」

「どうしたの、ハート。そんなに改まっちゃって」

 ハートがもじもじしながら、小さな声で私を呼んできます。
 いったいどうしたんだろう。

 もしかして、お肉が口に合わなかったの?


「あたしのお肉、なぜか凄い量があるんです。だからテレネシア様も、一口いかがですか?」

 ハートはまだ成長期です。
 なので私の食事はこれまで通りで、新たに稼いだ分はすべてハートの食事を豪華にすることだけに使いました。
 そのせいで、私の食事よりも肉の量は多くなっていたのです。

「お、おすそ分け、です……」

 食事中のこういった行為は、高貴なるテーブルではあまりよろしくはない。
 ですが、いまの私はただの人間の聖女。
 だから、少しくらいはしたないことをしても、いいですよね。

「ありがとうハート。今日はその気持ちを受け取りますが、明日からはハートがすべて食べるのですよ」


 ハートはお肉を私の口の前まで運びます。

「テレネシア様、お口をこうやってお開けください。あーん」

「あ、あーん?」

 ──パクリ。

 もぐもぐ。
 なんかいま、ハートに食事を補助してもらった気がするのですが。


「あたしが子供の頃、よくお母さんにこうやってもらったんです。頑張ったお礼にって…………だからあたしからテレネシア様への、お礼です」


 なぜかとても嬉しそうな笑顔で、ハートは私の顔を見ながらこう言います。


「あたしをテレネシア様のメイドにしていただき、ありがとうございます!」


 たかが肉料理を手配しただけで命を助けたわけでもないのに、こんなに他人から感謝をされたのは久しぶりのこと。

 そして、他人にお肉を食べさせてもらうなんて行儀の悪いことをしたのは、生まれて初めて……。

 それなのに、たったこれだけの行為が、とても胸に染みました。


 ──私は良いメイド持った。



 そして私はこの日、一つのことを自分に誓いました。


 この子を一人前のメイドにする。

 それまでは何があっても、ハートを見捨てないと。
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