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第6話 外出しようとしたけど、回り込まれてしまいました
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教会に戻った私は、大神官ドルネディアスによって寝室に案内されました。
「今日からここがテレネシア様のお部屋になります。我が家だと思って、自由におくつろぎください」
教会内の客室が、私の部屋になったみたい。
それはいいんだけど、そちらのの殿方はどなたかしら?
「ああ、紹介しましょう。彼は今日付けでテレネシア様の護衛騎士に任命された、バルクです」
バルクと呼ばれたその護衛騎士は、無愛想にペコリと会釈をしてくる。
「彼は教会の守衛も兼ねています。テレネシア様をくれぐれも丁重に扱うようにと陛下から申し付けを受けたので、兼任で護衛騎士になってもらうことになりました」
余計なことを……!
今夜にでも城に忍び込んで、規格外の神器の『女神陽光珠』を奪ってやろうと思っていたのに、見張りをつけられてしまった。
それでも、一人くらいならどうにでもなる。
なにせ私は、最強の吸血姫なんだから。
そうして時刻は、夜になりました。
ヴァンパイアの時間です。
日中の明るい青空よりも、月夜の暗闇のほうが私にはよく見える。
「まだ人間が寝るには早い時間だけど、もう出かけても平気でしょう」
一応、扉の外を確認してみます。
少しだけ開いたドアの隙間から、廊下に立っている護衛騎士の姿が見えました。
まさか今夜は、寝ないで私の警護をする気!?
封印から目覚めたばかりだから、何かあった時のためにと心配されているのかもしれない。
その気持ちは嬉しいけど、今は嬉しくはないのだ。
こうなったら、正体をバラして城に攻め込む?
いえ、万が一失敗した時のために、まだ正体は明るみにしないほうがいいはず。
このまま秘密裏に行動するのが一番です。
奥から新たな人影が見えたところで、静かに扉を閉めます。
「となると、あの方法しかないわね」
真正面から外へ出られないのであれば、他の場所から出ればいい。
幸い、この部屋には窓がある。
闇夜に飛んで行けば、誰にも気づかれず教会から城へと移動できるのだから。
「こんなのコウモリに変化すれば、簡単なことよ」
私たちヴァンパイアは、魔法の力でコウモリの姿になることができる。
これで、人間の国ともおさらばね。
──コンコンコンコン。
扉から、ノック音が聞こえた。
誰か来たみたい。
「夜分に申し訳ありません。昼間のお礼がしたくて、テレネシア様にご挨拶したいのですが」
女の声だ。
てっきりあの護衛騎士が来たのかと思ったけど、違ったみたい。
とはいえ、ここで邪魔されては、せっかくのチャンスが水の泡。
勇者に付き合って封印された、あの過去は忘れられない。
だから悪いけど、お客人は無視させてもらうわよ!
──《血蝙蝠変化》
魔法を使用した瞬間、バタンという音と同時に全身を打つような痛みが走った。
私が床に倒れたという事実に気が付くまで、数秒かかりました。
「え、どう、して…………?」
なんで私、倒れたの?
体がまったく、動かない。
──これってまさか、魔力切れ?
確認するために、自分の唇を噛みます。
わずかに流れた自分の血を、ごくりと飲み込む。
私は自分の血を飲むことで、血の成分から残りの魔力量を知ることができるのだ。
【魔力量 1/100%】
いつの間にか、ほとんどなくなってる!
これは倒れるのもうなづけるわ。
1000年もの間封印されていた私は、封印石の中で仮死状態になっていました。
だというのに、残されていたわずかな魔力を、昼間の騒動で使い切ってしまった。
だから限界が訪れたのだ。
魔力をすぐ回復するには、人間の血を飲むしかない。
肉を食べて栄養を摂取したり、寝て休めば回復もするけど、それでは時間がかかるからね。
とはいえ、この場に人間の血はない。
このままじゃ私、ここで干からびちゃう……!
最強の吸血姫である私が、餓死するなんて信じられない。
それに魔力量が0%になって、それが続けば命も危ない。
せっかく封印から解けたのに、このまま死ぬなんてあんまり。
「だ、誰か…………誰でもいいから、助けて」
「失礼いたします!」
扉が開いた。
さっき扉をノックしていた女の子だ。
そういえば鍵を閉めるのを忘れていたのを、思い出す。
「テ、テレネシア様!? 大丈夫ですか!」
部屋に入ってきたのは、十代半ばくらいの少女でした。
おそらく私の声が外まで聞こえたのでしょう、助かった。
でもこの子、どこかで見覚えがあるような。
「大変、テレネシア様の顔が真っ白! まさか昼間にわたくしを助けたせいで、貧血になってるの?」
そうだ、あの時の人間だ!
ヘルハウンドに体を噛み千切られて、私が治療してあげた公爵令嬢。
元気になったみたいで良かった。
でも、私が良くない。
た、助けて……。
「テレネシア様、今すぐお医者様を呼んできます!」
「…………ま、待ちなさい」
医者なんて呼ばれたら、私が人間ではないことがすぐにバレてしまうじゃない。
そうしたら最後。
動けない私はあの国王の元へと連れていかれ、『女神陽光珠』で消滅させられてしまう!
そんなの、いや!
「こっちに、来て……」
公爵令嬢を手招きします。
倒れた私を救護するように、彼女は顔を近づけてくる。
「よくお聞きなさい。あなたの助けが、必要なの」
「テレネシア様はわたくしの命の恩人です、ですから何なりと申し付けてください」
この子のこの反応、もしかして、いけるんじゃないの?
何を言って良いみたいだし、ちょっとでいいから血を飲ませてもらうことが可能かもしれない。
少しでも魔力が回復すれば、チャンスはある。
このままここで餓死するよりは、よっぽどいい!
「そ、そう? それじゃあ、ちょっと驚くかもしれないけど、いいかしら?」
「わたくしはテレネシア様のためなら、この身を捧げる覚悟があります。恩義には恩義を、それが我がダルウィテッド公爵家の家訓ですから」
「感謝するわ。それじゃあ単刀直入に言うけど……あなたが欲しいの」
「テレネシア様のためだったらなんなりと…………て、えぇ?」
公爵令嬢が目を見開きながら、こちらを凝視している。
驚くのはわかるけど、私には余裕がない。
細かい説明や直接的な表現は控えて、正体がバレない程度に端的に言わせてもらいます。
「あなたのその体が必要なの。私はあなたが欲しい。だから私に、すべてを委ねてくれる?」
そう言いながら、私は彼女の首に手を回した。
こう抱き着けば、もう逃げられまい。
「あわわわわ! テ、テレネシア様、わたくし告白されるのも、そういうことをするのも、は、初めてでして……!」
「いいから体から力を抜いて、リラックスして。そう、深呼吸するの」
大きく息を吸っている彼女の首筋に、狙いを定める。
良いところのご令嬢なだけあって、健康そうな綺麗な肌をしています。
私はあなたの命の恩人なんだし、ちょっとくらいはいいよね。
命を救った相手からしか、血は飲まない。
それが私の、吸血姫としての流儀。
「大丈夫、ちょっとだけだから。あまり痛くはしないから」
「テレネシア様、わたくしを所望していただくのは嬉しいのですが、なにぶん経験がないもので、なにをどうしていいか……」
「安心しなさい。あなたは私のなすがままになっていれば、それで問題ないわ」
公爵令嬢の頭を、優しく撫でてあげる。
それで安心したのか、彼女の緊張が少しだけ和らいだ。
今が好機。
もう我慢できない!
「じゃあ、いただきます」
──かぷり。
「え?」という、公爵令嬢の困惑する声が聞こえてくる。
「なんか首がチクリとしたのですが、もしかして唇で吸われてる…………ということは、これがあの噂の、キスマークというやつですか!?」
目を閉じながら、公爵令嬢がうっとりとしている。
その姿が、妙に色っぽくてちょっと興奮してしまいました。
もしかして、血を吸っているのに気が付いていない?
そんな鈍感なことあるのかな。
吸っている私が言うのもなんだけど、さすがに気が付きそうなものです。
昼間に大量出血した後遺症かしら。
ちょっと心配だけど、正体がバレないのであればそれで良しとしましょう。
「なんだか血が抜かれて頭がフラフラするような感覚がします。もしや、これが恋……つまりわたくは今夜、テレネシア様にこの身と純潔を……!」
な、なぜか喜んでる!
どうしよう。
この子、変だよ!
血を吸われているだけなのに、なにか変な誤解してるみたいなんですが!
「今日からここがテレネシア様のお部屋になります。我が家だと思って、自由におくつろぎください」
教会内の客室が、私の部屋になったみたい。
それはいいんだけど、そちらのの殿方はどなたかしら?
「ああ、紹介しましょう。彼は今日付けでテレネシア様の護衛騎士に任命された、バルクです」
バルクと呼ばれたその護衛騎士は、無愛想にペコリと会釈をしてくる。
「彼は教会の守衛も兼ねています。テレネシア様をくれぐれも丁重に扱うようにと陛下から申し付けを受けたので、兼任で護衛騎士になってもらうことになりました」
余計なことを……!
今夜にでも城に忍び込んで、規格外の神器の『女神陽光珠』を奪ってやろうと思っていたのに、見張りをつけられてしまった。
それでも、一人くらいならどうにでもなる。
なにせ私は、最強の吸血姫なんだから。
そうして時刻は、夜になりました。
ヴァンパイアの時間です。
日中の明るい青空よりも、月夜の暗闇のほうが私にはよく見える。
「まだ人間が寝るには早い時間だけど、もう出かけても平気でしょう」
一応、扉の外を確認してみます。
少しだけ開いたドアの隙間から、廊下に立っている護衛騎士の姿が見えました。
まさか今夜は、寝ないで私の警護をする気!?
封印から目覚めたばかりだから、何かあった時のためにと心配されているのかもしれない。
その気持ちは嬉しいけど、今は嬉しくはないのだ。
こうなったら、正体をバラして城に攻め込む?
いえ、万が一失敗した時のために、まだ正体は明るみにしないほうがいいはず。
このまま秘密裏に行動するのが一番です。
奥から新たな人影が見えたところで、静かに扉を閉めます。
「となると、あの方法しかないわね」
真正面から外へ出られないのであれば、他の場所から出ればいい。
幸い、この部屋には窓がある。
闇夜に飛んで行けば、誰にも気づかれず教会から城へと移動できるのだから。
「こんなのコウモリに変化すれば、簡単なことよ」
私たちヴァンパイアは、魔法の力でコウモリの姿になることができる。
これで、人間の国ともおさらばね。
──コンコンコンコン。
扉から、ノック音が聞こえた。
誰か来たみたい。
「夜分に申し訳ありません。昼間のお礼がしたくて、テレネシア様にご挨拶したいのですが」
女の声だ。
てっきりあの護衛騎士が来たのかと思ったけど、違ったみたい。
とはいえ、ここで邪魔されては、せっかくのチャンスが水の泡。
勇者に付き合って封印された、あの過去は忘れられない。
だから悪いけど、お客人は無視させてもらうわよ!
──《血蝙蝠変化》
魔法を使用した瞬間、バタンという音と同時に全身を打つような痛みが走った。
私が床に倒れたという事実に気が付くまで、数秒かかりました。
「え、どう、して…………?」
なんで私、倒れたの?
体がまったく、動かない。
──これってまさか、魔力切れ?
確認するために、自分の唇を噛みます。
わずかに流れた自分の血を、ごくりと飲み込む。
私は自分の血を飲むことで、血の成分から残りの魔力量を知ることができるのだ。
【魔力量 1/100%】
いつの間にか、ほとんどなくなってる!
これは倒れるのもうなづけるわ。
1000年もの間封印されていた私は、封印石の中で仮死状態になっていました。
だというのに、残されていたわずかな魔力を、昼間の騒動で使い切ってしまった。
だから限界が訪れたのだ。
魔力をすぐ回復するには、人間の血を飲むしかない。
肉を食べて栄養を摂取したり、寝て休めば回復もするけど、それでは時間がかかるからね。
とはいえ、この場に人間の血はない。
このままじゃ私、ここで干からびちゃう……!
最強の吸血姫である私が、餓死するなんて信じられない。
それに魔力量が0%になって、それが続けば命も危ない。
せっかく封印から解けたのに、このまま死ぬなんてあんまり。
「だ、誰か…………誰でもいいから、助けて」
「失礼いたします!」
扉が開いた。
さっき扉をノックしていた女の子だ。
そういえば鍵を閉めるのを忘れていたのを、思い出す。
「テ、テレネシア様!? 大丈夫ですか!」
部屋に入ってきたのは、十代半ばくらいの少女でした。
おそらく私の声が外まで聞こえたのでしょう、助かった。
でもこの子、どこかで見覚えがあるような。
「大変、テレネシア様の顔が真っ白! まさか昼間にわたくしを助けたせいで、貧血になってるの?」
そうだ、あの時の人間だ!
ヘルハウンドに体を噛み千切られて、私が治療してあげた公爵令嬢。
元気になったみたいで良かった。
でも、私が良くない。
た、助けて……。
「テレネシア様、今すぐお医者様を呼んできます!」
「…………ま、待ちなさい」
医者なんて呼ばれたら、私が人間ではないことがすぐにバレてしまうじゃない。
そうしたら最後。
動けない私はあの国王の元へと連れていかれ、『女神陽光珠』で消滅させられてしまう!
そんなの、いや!
「こっちに、来て……」
公爵令嬢を手招きします。
倒れた私を救護するように、彼女は顔を近づけてくる。
「よくお聞きなさい。あなたの助けが、必要なの」
「テレネシア様はわたくしの命の恩人です、ですから何なりと申し付けてください」
この子のこの反応、もしかして、いけるんじゃないの?
何を言って良いみたいだし、ちょっとでいいから血を飲ませてもらうことが可能かもしれない。
少しでも魔力が回復すれば、チャンスはある。
このままここで餓死するよりは、よっぽどいい!
「そ、そう? それじゃあ、ちょっと驚くかもしれないけど、いいかしら?」
「わたくしはテレネシア様のためなら、この身を捧げる覚悟があります。恩義には恩義を、それが我がダルウィテッド公爵家の家訓ですから」
「感謝するわ。それじゃあ単刀直入に言うけど……あなたが欲しいの」
「テレネシア様のためだったらなんなりと…………て、えぇ?」
公爵令嬢が目を見開きながら、こちらを凝視している。
驚くのはわかるけど、私には余裕がない。
細かい説明や直接的な表現は控えて、正体がバレない程度に端的に言わせてもらいます。
「あなたのその体が必要なの。私はあなたが欲しい。だから私に、すべてを委ねてくれる?」
そう言いながら、私は彼女の首に手を回した。
こう抱き着けば、もう逃げられまい。
「あわわわわ! テ、テレネシア様、わたくし告白されるのも、そういうことをするのも、は、初めてでして……!」
「いいから体から力を抜いて、リラックスして。そう、深呼吸するの」
大きく息を吸っている彼女の首筋に、狙いを定める。
良いところのご令嬢なだけあって、健康そうな綺麗な肌をしています。
私はあなたの命の恩人なんだし、ちょっとくらいはいいよね。
命を救った相手からしか、血は飲まない。
それが私の、吸血姫としての流儀。
「大丈夫、ちょっとだけだから。あまり痛くはしないから」
「テレネシア様、わたくしを所望していただくのは嬉しいのですが、なにぶん経験がないもので、なにをどうしていいか……」
「安心しなさい。あなたは私のなすがままになっていれば、それで問題ないわ」
公爵令嬢の頭を、優しく撫でてあげる。
それで安心したのか、彼女の緊張が少しだけ和らいだ。
今が好機。
もう我慢できない!
「じゃあ、いただきます」
──かぷり。
「え?」という、公爵令嬢の困惑する声が聞こえてくる。
「なんか首がチクリとしたのですが、もしかして唇で吸われてる…………ということは、これがあの噂の、キスマークというやつですか!?」
目を閉じながら、公爵令嬢がうっとりとしている。
その姿が、妙に色っぽくてちょっと興奮してしまいました。
もしかして、血を吸っているのに気が付いていない?
そんな鈍感なことあるのかな。
吸っている私が言うのもなんだけど、さすがに気が付きそうなものです。
昼間に大量出血した後遺症かしら。
ちょっと心配だけど、正体がバレないのであればそれで良しとしましょう。
「なんだか血が抜かれて頭がフラフラするような感覚がします。もしや、これが恋……つまりわたくは今夜、テレネシア様にこの身と純潔を……!」
な、なぜか喜んでる!
どうしよう。
この子、変だよ!
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