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第1話 最強の吸血姫なのに封印されました
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この日、私は魔王との戦いに勝利しました。
「魔王ともあろう者が惨めなものね。吸血姫であるこの私に手を出すからこうなるのよ」
世界中の人間たちを大虐殺しただけでなく、あまつさえこの私を手に入れようとした悪逆魔王。
世界最悪の魔王と恐れられた相手が、廃墟となった城で満身創痍となり地面に触れ伏しています。
「これで最期よ。さようなら、魔王さん」
魔王にとどめの一撃をしようとした瞬間。
突然、場違いな声が聞こえてきました。
「ここが魔王の城か~。ラスボスがいるにしては随分とボロボロだな」
「やっぱりゲームの設定とはちょっと違うんじゃないのかしら。用心したほうがいいわ」
「女神様にもらったチートスキルがあるのに、何を怯えてるんだ。俺に任せておけ」
私と魔王の前に、突如として三人の人間が現れました。
大きな盾を構えた大男、魔法の杖を持った小柄な女、そして金色の剣を持った青年。
「聖剣……まさか勇者?」
人間の国に、勇者と呼ばれる者が現れたことは聞いていた。
異世界からやって来たその勇者たちは、見たこともない珍妙な力を使ってくるという噂です。
そんな勇者が、私に敵意を向けながら決めポーズをする。
「そこの女、お前も魔王の仲間だな。俺の聖剣の錆になるといい──《聖裁剣撃》!」
魔王の仲間だなんて誤解ですと私が言う前に、勇者の聖剣から黄金色の光線が放たれる。
聖剣の魔力に触れた廃城が、瞬くまに消えていきました。
触れた者をすべて消滅させる聖剣。
これまで、何人もの魔族を葬ってきた、恐るべき武器です。
でも、それは普通の魔族相手なら。
私には、そんなもの効かない。
「ば、バカな…………俺の聖剣が効かないなんて」
「私をその辺の有象無象と一緒にするなんて、不敬なことだと理解しなさい」
ヴァンパイアの王族の吸血姫たるこの私に、そんな魔力の光は無意味。
強いとはいえ、それは魔族や人間の中ではのことなのだから。
「これから魔王にとどめを刺すところなの。邪魔だから、坊やたちは引っ込んでなさい」
自分の血を操り、紅色の魔剣を生み出します。
──《血破剣》
剣の衝撃波によって、勇者たちが吹き飛んでいく。
「女神のチートスキルの大盾が壊れた!?」
「ゲームでこんな技、一度も見たことないんですけど!」
「せっかく異世界に転生したのに、もう死ぬなんてあんまりだ……」
えぇ、勇者よっわ。
あの大盾、粉々になっちゃったんですけど。
人間にしては強いはずなのに、まさかここまで貧弱だとは思わなかった。
やっぱり人間種は弱いわね。
「ちょっとやりすぎたわ。貧弱な種族とはいえ、このままか弱い人間が死んでしまうのも可哀そうよね」
魔王にとどめを刺す前に、ひと仕事するとしましょう。
自分でやったことだけど、ここまで酷いことをするつもりはなかったの。
それに魔王の仲間だと誤解されたままなのも気に食わないしね。
地面に倒れている勇者たちの元へと移動すると、彼らの体に手をかざします。
「《血肉再生》」
勇者たちの体から、赤い血がコポコポと沸騰していきます。
そうして吹き飛ばされていた手足の傷口が、ゆっくりと再生していきました。
その光景を、魔王が静かに見つめていました。
さっきまで死にかけだったはずなのに、しばらく放置していたせいで喋るくらいの力を取り戻したのでしょう。
震える声で、こんなことを言ってきます。
「それがヴァンパイアにしか使えない紅血魔法の奥義か。死にかけの人間を治癒するとは、恐れ入った」
「あなたに恐れ入れられてもねえ」
魔王に褒められても、別に嬉しくはない。
でも、賛美の言葉として受け取ってあげてもいいでしょう。
「勇者の腕も生えてきたし、これで元通りね。人間だからといって、さすがに殺すのは可哀だから」
私のことを博愛主義者だと言う仲間のヴァンパイアがいた。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
人間を助ける吸血姫なんて、私くらいしかいないのだから。
「さて、勇者たちはこれで大丈夫でしょう。邪魔者はいなくなったことだし、そろそろ魔王にとどめを刺させてもらうわ」
紅血魔法で創った魔剣を握りしめ、魔王の首筋へと切先を向ける。
やっと魔王の命を絶つことができる。
ここまで長かった。
そう思ったのも束の間、またしても場違いな声が廃城に響きます。
「え、俺、生きてる……まさか、あなたが治してくれたのですか?」
勇者だ。
早々に意識を取り戻した勇者が、また私と魔王の間に割り込んで来た。
しかも私に向かって感謝の言葉を述べる始末。
人間に礼を言われても、別に嬉しくはない。
でも、賛美の言葉として受け取ってあげてもいいでしょう。
「そこの人間。ここは危ないから、早くお家に帰って大人しくしていなさい」
「そ、その美しい顔、月夜に輝く銀髪、そして紅の瞳……ま、まちがいない、ゲームの通りだ。あなたは聖女様ですね!!」
金色の聖剣を手にする勇者がポカンとしながら、アホそうな顔をこちらに向けていた。
──せ、聖女??
聖女って、誰のことかしら。
私は吸血姫だから、違うわよね。
「転生した時に聖女はいなかったから、てっきり違う転生者がまた現れるんだと思ってた。でも、まさか先に一人で魔王と戦っていたなんて!」
「な、なにを言っているの、あなた……」
──テンセイシャ?
そんな言葉、聞いたことない。
それに聖女というのは、人間にとっての救世主のような存在だったはずよね。
私とは関係ないはずだけど……。
「聖女様、俺に任せてください。女神様からもらったこの聖剣があれば、魔王なんて一瞬ですよ!」
「聖剣って、その折れている剣のことかしら」
すでに私の攻撃によって、聖剣は真っ二つに折れています。
女神、というのが誰なのかは知らないけど、あまり良い刀匠ではないようですね。
ガックリと膝をつく勇者は可哀そうだけど、それでいい。
ここは危ないから、早くここから離れなさい。
それなのに勇者は逃げようとはせずに、聖剣の柄にハマっていた透明な玉を取り出していました。
見たところ魔力がこもった宝石のほうだけど、いったい何をするのかしら。
「ま、まだだ。俺は勇者、魔王を倒す存在だ。だからこの『封印石』さえ残っていれば……女神様、俺に力をください!」
勇者が叫んだその瞬間、目がくらみました。
透明の玉が、金色の光を放ちながら輝きだしたのです。
「ま、まぶしい……!」
体がぐらりと揺れる。
浮遊感を覚えるのと同時に、全身に異変が起きます。
私の体が、縮んでいる。
まるで、あの透明な玉に吸い込まれるように。
隣で、魔王の悲鳴も聞こえた。
どうやら魔王も私と同じ状況になっているみたい。
いったい何が……。
「封印ッ!」
その勇者の言葉で、気が付いた。
たしか、あの玉のことを『封印石』と言っていたような気がする。
それってもしかして、創造神が作ったっていう、伝説の封印石のこと?
ということは……。
私、封印されるの!?!?
う、うそ、でしょう…………。
「ゆ、勇者…………助けてあげたのに、この私によくもこんな仕打ちを……!」
「え、聖女様も封印石に吸い込まれて……魔族にしか反応しないはずなのに、なんで!?」
私が最後に見えたのは、驚愕する勇者の顔でした。
この人間に邪魔をされたのは、今日だけで何度だろう。
たった一度でも優しい対応をしなければ、こんなことにはならなかったのに。
そうして私は、勇者に封印された。
────────────────
────────
────
暗闇の中に、私は閉じ込められてしまった。
それからのことは、よく覚えていない。
どれだけ眠っていたのだろう。
だが、そのとてつもなく長く感じた時間が終わるのは、一瞬のことでした。
「封印石が割れた! 封印が解かれたのだ!」
誰かの声が、聞こえる。
夢でも、見てるのかしら……。
「体が実体化した! それに今、微かにまぶたが動いたぞ。目覚めの兆候だ!」
ま、まぶしい。
なんだか光が見える。
明るいってことは、まだヴァンパイアが起きる時間じゃないはず。
むにゃむにゃ。
夜になるまで、もう少し寝かせて……。
「お目覚めください!」
うるさいわね。
もう少し寝させて……あれ、私、寝ていたの?
思い出した。
そういえば私、勇者に封印されたんじゃなかったっけ?
「目が開いたぞ!」
「……え?」
み、見えない。
久しぶりに光を目にしたせいか、なにも見えないわ。
「ご無事でなによりです」
私の手を誰かが取った。
そのまま、体を起き上がらせてくれる。
どうやら私は、ずっと寝ていたみたい。
こうやって無事に目覚めることができたということは、封印が解けたってこと?
──や、やった!
きっと、ヴァンパイアの仲間の誰かが、私を救い出してくれたのでしょう。
そうでなければ、私の目覚めをこうやって喜んでくれるはずがない。
まだ目は見えないけど、周囲からは「本当に良かった」「奇跡だ!」「お目覚めになってくれて感動です」といった祝福の声が聞こえてくる。
すすり泣いて涙を流している気配のする者さえいた。
おそらく、王女である吸血姫の私が復活したことが、なによりも皆の悦びとなったのでしょうね。
私の手を握る者も、嗚咽を漏らしながら喜んでいるようですし。
「ああ、なんて喜ばしいことなんだ。みな、聖女様のお目覚めをお待ちしておりましたよ!」
──え、聖女様?
私、吸血姫だけど。
「聞き間違いかしら。聖女って、誰のことかしら?」
「もちろんあなた様のことでございます。もしかして封印の影響で記憶が錯乱しているのでしょうか」
目が慣れてきた。
すると、そこにいる者が吸血姫ではなく、人間であることを悟ってしまう。
「ま、まさか……」
視覚が戻ったことで、周囲の情景がきっかりと見えてくる。
白色を基調とした大きな建物に、私は存在していました。
ヴァンパイアのことを一切考えていない、ステンドガラスがたくさん散りばめられている建物です。
漆黒の黒色がベースで、窓も少ない吸血姫の王宮とは大違い。
これじゃ日光に当たって、火傷してしまう。
それだけではない。
私の周囲で嬉し泣きしていた者たちは、ヴァンパイアではなかった。
なんとこいつらは、人間だったのだ──!
「私が、聖女…………?」
え、なにそれ!?
どどどど、どういうこと?
吸血姫の私が、聖女??
よくわからないけど、情報を整理するとこういうことかしら……。
封印から目覚めたら、なぜか人間の聖女だと勘違いされているんですけど!!!!
「魔王ともあろう者が惨めなものね。吸血姫であるこの私に手を出すからこうなるのよ」
世界中の人間たちを大虐殺しただけでなく、あまつさえこの私を手に入れようとした悪逆魔王。
世界最悪の魔王と恐れられた相手が、廃墟となった城で満身創痍となり地面に触れ伏しています。
「これで最期よ。さようなら、魔王さん」
魔王にとどめの一撃をしようとした瞬間。
突然、場違いな声が聞こえてきました。
「ここが魔王の城か~。ラスボスがいるにしては随分とボロボロだな」
「やっぱりゲームの設定とはちょっと違うんじゃないのかしら。用心したほうがいいわ」
「女神様にもらったチートスキルがあるのに、何を怯えてるんだ。俺に任せておけ」
私と魔王の前に、突如として三人の人間が現れました。
大きな盾を構えた大男、魔法の杖を持った小柄な女、そして金色の剣を持った青年。
「聖剣……まさか勇者?」
人間の国に、勇者と呼ばれる者が現れたことは聞いていた。
異世界からやって来たその勇者たちは、見たこともない珍妙な力を使ってくるという噂です。
そんな勇者が、私に敵意を向けながら決めポーズをする。
「そこの女、お前も魔王の仲間だな。俺の聖剣の錆になるといい──《聖裁剣撃》!」
魔王の仲間だなんて誤解ですと私が言う前に、勇者の聖剣から黄金色の光線が放たれる。
聖剣の魔力に触れた廃城が、瞬くまに消えていきました。
触れた者をすべて消滅させる聖剣。
これまで、何人もの魔族を葬ってきた、恐るべき武器です。
でも、それは普通の魔族相手なら。
私には、そんなもの効かない。
「ば、バカな…………俺の聖剣が効かないなんて」
「私をその辺の有象無象と一緒にするなんて、不敬なことだと理解しなさい」
ヴァンパイアの王族の吸血姫たるこの私に、そんな魔力の光は無意味。
強いとはいえ、それは魔族や人間の中ではのことなのだから。
「これから魔王にとどめを刺すところなの。邪魔だから、坊やたちは引っ込んでなさい」
自分の血を操り、紅色の魔剣を生み出します。
──《血破剣》
剣の衝撃波によって、勇者たちが吹き飛んでいく。
「女神のチートスキルの大盾が壊れた!?」
「ゲームでこんな技、一度も見たことないんですけど!」
「せっかく異世界に転生したのに、もう死ぬなんてあんまりだ……」
えぇ、勇者よっわ。
あの大盾、粉々になっちゃったんですけど。
人間にしては強いはずなのに、まさかここまで貧弱だとは思わなかった。
やっぱり人間種は弱いわね。
「ちょっとやりすぎたわ。貧弱な種族とはいえ、このままか弱い人間が死んでしまうのも可哀そうよね」
魔王にとどめを刺す前に、ひと仕事するとしましょう。
自分でやったことだけど、ここまで酷いことをするつもりはなかったの。
それに魔王の仲間だと誤解されたままなのも気に食わないしね。
地面に倒れている勇者たちの元へと移動すると、彼らの体に手をかざします。
「《血肉再生》」
勇者たちの体から、赤い血がコポコポと沸騰していきます。
そうして吹き飛ばされていた手足の傷口が、ゆっくりと再生していきました。
その光景を、魔王が静かに見つめていました。
さっきまで死にかけだったはずなのに、しばらく放置していたせいで喋るくらいの力を取り戻したのでしょう。
震える声で、こんなことを言ってきます。
「それがヴァンパイアにしか使えない紅血魔法の奥義か。死にかけの人間を治癒するとは、恐れ入った」
「あなたに恐れ入れられてもねえ」
魔王に褒められても、別に嬉しくはない。
でも、賛美の言葉として受け取ってあげてもいいでしょう。
「勇者の腕も生えてきたし、これで元通りね。人間だからといって、さすがに殺すのは可哀だから」
私のことを博愛主義者だと言う仲間のヴァンパイアがいた。
もしかしたら、そうなのかもしれない。
人間を助ける吸血姫なんて、私くらいしかいないのだから。
「さて、勇者たちはこれで大丈夫でしょう。邪魔者はいなくなったことだし、そろそろ魔王にとどめを刺させてもらうわ」
紅血魔法で創った魔剣を握りしめ、魔王の首筋へと切先を向ける。
やっと魔王の命を絶つことができる。
ここまで長かった。
そう思ったのも束の間、またしても場違いな声が廃城に響きます。
「え、俺、生きてる……まさか、あなたが治してくれたのですか?」
勇者だ。
早々に意識を取り戻した勇者が、また私と魔王の間に割り込んで来た。
しかも私に向かって感謝の言葉を述べる始末。
人間に礼を言われても、別に嬉しくはない。
でも、賛美の言葉として受け取ってあげてもいいでしょう。
「そこの人間。ここは危ないから、早くお家に帰って大人しくしていなさい」
「そ、その美しい顔、月夜に輝く銀髪、そして紅の瞳……ま、まちがいない、ゲームの通りだ。あなたは聖女様ですね!!」
金色の聖剣を手にする勇者がポカンとしながら、アホそうな顔をこちらに向けていた。
──せ、聖女??
聖女って、誰のことかしら。
私は吸血姫だから、違うわよね。
「転生した時に聖女はいなかったから、てっきり違う転生者がまた現れるんだと思ってた。でも、まさか先に一人で魔王と戦っていたなんて!」
「な、なにを言っているの、あなた……」
──テンセイシャ?
そんな言葉、聞いたことない。
それに聖女というのは、人間にとっての救世主のような存在だったはずよね。
私とは関係ないはずだけど……。
「聖女様、俺に任せてください。女神様からもらったこの聖剣があれば、魔王なんて一瞬ですよ!」
「聖剣って、その折れている剣のことかしら」
すでに私の攻撃によって、聖剣は真っ二つに折れています。
女神、というのが誰なのかは知らないけど、あまり良い刀匠ではないようですね。
ガックリと膝をつく勇者は可哀そうだけど、それでいい。
ここは危ないから、早くここから離れなさい。
それなのに勇者は逃げようとはせずに、聖剣の柄にハマっていた透明な玉を取り出していました。
見たところ魔力がこもった宝石のほうだけど、いったい何をするのかしら。
「ま、まだだ。俺は勇者、魔王を倒す存在だ。だからこの『封印石』さえ残っていれば……女神様、俺に力をください!」
勇者が叫んだその瞬間、目がくらみました。
透明の玉が、金色の光を放ちながら輝きだしたのです。
「ま、まぶしい……!」
体がぐらりと揺れる。
浮遊感を覚えるのと同時に、全身に異変が起きます。
私の体が、縮んでいる。
まるで、あの透明な玉に吸い込まれるように。
隣で、魔王の悲鳴も聞こえた。
どうやら魔王も私と同じ状況になっているみたい。
いったい何が……。
「封印ッ!」
その勇者の言葉で、気が付いた。
たしか、あの玉のことを『封印石』と言っていたような気がする。
それってもしかして、創造神が作ったっていう、伝説の封印石のこと?
ということは……。
私、封印されるの!?!?
う、うそ、でしょう…………。
「ゆ、勇者…………助けてあげたのに、この私によくもこんな仕打ちを……!」
「え、聖女様も封印石に吸い込まれて……魔族にしか反応しないはずなのに、なんで!?」
私が最後に見えたのは、驚愕する勇者の顔でした。
この人間に邪魔をされたのは、今日だけで何度だろう。
たった一度でも優しい対応をしなければ、こんなことにはならなかったのに。
そうして私は、勇者に封印された。
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暗闇の中に、私は閉じ込められてしまった。
それからのことは、よく覚えていない。
どれだけ眠っていたのだろう。
だが、そのとてつもなく長く感じた時間が終わるのは、一瞬のことでした。
「封印石が割れた! 封印が解かれたのだ!」
誰かの声が、聞こえる。
夢でも、見てるのかしら……。
「体が実体化した! それに今、微かにまぶたが動いたぞ。目覚めの兆候だ!」
ま、まぶしい。
なんだか光が見える。
明るいってことは、まだヴァンパイアが起きる時間じゃないはず。
むにゃむにゃ。
夜になるまで、もう少し寝かせて……。
「お目覚めください!」
うるさいわね。
もう少し寝させて……あれ、私、寝ていたの?
思い出した。
そういえば私、勇者に封印されたんじゃなかったっけ?
「目が開いたぞ!」
「……え?」
み、見えない。
久しぶりに光を目にしたせいか、なにも見えないわ。
「ご無事でなによりです」
私の手を誰かが取った。
そのまま、体を起き上がらせてくれる。
どうやら私は、ずっと寝ていたみたい。
こうやって無事に目覚めることができたということは、封印が解けたってこと?
──や、やった!
きっと、ヴァンパイアの仲間の誰かが、私を救い出してくれたのでしょう。
そうでなければ、私の目覚めをこうやって喜んでくれるはずがない。
まだ目は見えないけど、周囲からは「本当に良かった」「奇跡だ!」「お目覚めになってくれて感動です」といった祝福の声が聞こえてくる。
すすり泣いて涙を流している気配のする者さえいた。
おそらく、王女である吸血姫の私が復活したことが、なによりも皆の悦びとなったのでしょうね。
私の手を握る者も、嗚咽を漏らしながら喜んでいるようですし。
「ああ、なんて喜ばしいことなんだ。みな、聖女様のお目覚めをお待ちしておりましたよ!」
──え、聖女様?
私、吸血姫だけど。
「聞き間違いかしら。聖女って、誰のことかしら?」
「もちろんあなた様のことでございます。もしかして封印の影響で記憶が錯乱しているのでしょうか」
目が慣れてきた。
すると、そこにいる者が吸血姫ではなく、人間であることを悟ってしまう。
「ま、まさか……」
視覚が戻ったことで、周囲の情景がきっかりと見えてくる。
白色を基調とした大きな建物に、私は存在していました。
ヴァンパイアのことを一切考えていない、ステンドガラスがたくさん散りばめられている建物です。
漆黒の黒色がベースで、窓も少ない吸血姫の王宮とは大違い。
これじゃ日光に当たって、火傷してしまう。
それだけではない。
私の周囲で嬉し泣きしていた者たちは、ヴァンパイアではなかった。
なんとこいつらは、人間だったのだ──!
「私が、聖女…………?」
え、なにそれ!?
どどどど、どういうこと?
吸血姫の私が、聖女??
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封印から目覚めたら、なぜか人間の聖女だと勘違いされているんですけど!!!!
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