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第46話 竜による避難便
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サンセット子爵邸に到着して、数日後。
私とアイザックは、飛竜兵によって運ばれていく民たちを見送っています。
すでに千人以上の民が、国外へと退避しました。
この調子でいけば、サンセット子爵領周辺の地域の避難は、数日のうちに完了することでしょう。
「そういえばずっと気になっていたんだけど、なんでアイザックたちは最初からサンセット子爵邸にいたの?」
「俺とルシルの結婚式のサプライズゲストに、セシリアたちを呼ぼうと思ってたからだ」
まさか隠れて、そんなことを計画していたなんて。
でもそのおかげで、こうして迅速に避難を始められたんだから、人生なにが起こるかわからない。
そんな避難活動は、かなり順調に進んでいます。
サンセット子爵の決断は、民たちからの指示されました。
すでに、カレジ王国の民たちは、この国に未来はないと思っていたみたい。
しかも民たちは、あれだけ信仰していた女神信仰を捨て去り、いつの間にか守護竜信仰に戻っているそうです。
国が傾いたのは、代々守ってくれていた守護竜を捨てた罰。
そのことに気が付いた国民は、再度守護竜を崇めるようになっていたのだとか。
そのせいもあって、飛竜兵を扱うアイザックたちの姿を見ただけで、まるで神の使いに会ったかのような態度を取っています。
現金な人たちだけど、守護竜信仰の大切さを長年訴えてきた私としては、悪い気はしませんでした。
そんな避難活動を実行するにあたって、私たちはサンセット子爵領の職人たちと一緒に、避難用の籠を作り上げました。
避難民が入った籠を飛竜兵が持つことで、空からの移送を可能にした。
これがあれば、国境を超えることができる。
活躍したのは、飛竜兵だけではありません。
アイザックも竜の姿に戻って、民たちを国外に逃がしています。
そして使者になっていた第二王子イライアスのおかげで、隣国には急遽、避難民たちの居住区が作られました。
その居住区からジェネラス竜国への避難船が、旅立つことになる。
ジェネラス竜国は別大陸にあるというのに、その政治的な力は抜群でした。
避難民たちがジェネラス竜国へ渡るルートは、これで確保できた。
すべてが上手くいっている。
けれども、懸念することが一つだけあります。
「気になるのは、残された時間だな」
「そうね。伝承通りなら、次は……」
守護竜を失ったカレジ王国は、こうなると予言されている。
山鳴りから始まり、地震が起き、大地が割れ、川が干上がり、そして国が火に包まれる。
山が噴火しているいまが、その段階。
そして伝承では、こう続く。
『最後には人が住めなくなる暗黒の地帯となることでしょう』
そのことを思い出した瞬間、避難民を運び終わった飛竜兵が「アイザック様、急ぎお伝えしたいことが!」と、慌てたように降下してきました。
跪こうとする飛竜兵に、アイザックが指示します。
「そのままで良い。何があったか話せ」
「アイザック国王陛下に申し上げます。国境に魔物が出現しました」
魔物の出現。
それはまさに、青天の霹靂でした。
「アイザック、これって?」
「そうだ。ついに滅亡への最終段階に入ったようだ」
この情報こそ、私たちが心配していたことだったのです。
カレジ王国には、魔物がほとんど出ない。
でもそれは、この大陸では非常に珍しいことでした。
他国では頻繁に魔物が出現し、そのことが社会現象となっている。
だというのに、カレジ王国は平和そのものだった。
すべては守護竜のおかげだったのだから、守護竜を捨てたら魔物が出てくるのは自然の摂理です。
「これ、大丈夫かな? 飛竜兵の話が正しければ、魔物の数匹しか出現していないみたいだけど……」
「最初は一匹だとしても、次第に増えていき、いずれは国を覆い尽くす数となる。もはや、猶予はない」
「もう止められないのね……」
「ここまで進んだら、俺一人の力ではどうにもならない。再び守護竜になったとしても、元に戻るかどうか……」
この500年の間、守護竜が抑え尽きて災いがすべて一気に発散されるようです。
そんなの、さすがのアイザックにだってどうにもできないし、そこまで危険なところにアイザックを置き去りにすることもできません。
元々この国は、守護竜によって無理やり人の住む場所にしていただけ。
それが元に戻るだけのこと。
「魔物が出たということは、伝承の最終段階に移ったということだ。この地は、かつてないほどに荒れるだろう」
「なら、やることはひとつね」
「そうなるな。魔物どもがいつ大量発生するかわからない……俺たちに時間は残されてはいないぞ」
「ということは、この避難活動をカレジ王国内に広げればいいのね?」
「そのためには、あの場所に行くのが最も効率がいい」
アイザックは、子爵邸に飾ってある地図へと視線を移します。
どの場所を指しているのかは、見ずともわかる。
「カレジ王国の王都……そこにいる、王へ直談判しに行くのね」
「あそこは、ルシルにとっては辛い場所だろう……なんなら、ここで残っていてもいいんだぞ?」
「冗談言わないでよね。あの処刑場は、私と守護竜である黒竜様が出会った想い出の場所なのよ? むしろ聖地巡礼しに訪れたいとすら思っていたわ」
王都には、私を処刑しようとした元婚約者であるバカ王太子がいる。
またあいつに会うのは癪だけど、これもカレジ王国の民を救うためです。
久しぶりに、元婚約者の顔を拝みにいこうじゃないの!
私とアイザックは、飛竜兵によって運ばれていく民たちを見送っています。
すでに千人以上の民が、国外へと退避しました。
この調子でいけば、サンセット子爵領周辺の地域の避難は、数日のうちに完了することでしょう。
「そういえばずっと気になっていたんだけど、なんでアイザックたちは最初からサンセット子爵邸にいたの?」
「俺とルシルの結婚式のサプライズゲストに、セシリアたちを呼ぼうと思ってたからだ」
まさか隠れて、そんなことを計画していたなんて。
でもそのおかげで、こうして迅速に避難を始められたんだから、人生なにが起こるかわからない。
そんな避難活動は、かなり順調に進んでいます。
サンセット子爵の決断は、民たちからの指示されました。
すでに、カレジ王国の民たちは、この国に未来はないと思っていたみたい。
しかも民たちは、あれだけ信仰していた女神信仰を捨て去り、いつの間にか守護竜信仰に戻っているそうです。
国が傾いたのは、代々守ってくれていた守護竜を捨てた罰。
そのことに気が付いた国民は、再度守護竜を崇めるようになっていたのだとか。
そのせいもあって、飛竜兵を扱うアイザックたちの姿を見ただけで、まるで神の使いに会ったかのような態度を取っています。
現金な人たちだけど、守護竜信仰の大切さを長年訴えてきた私としては、悪い気はしませんでした。
そんな避難活動を実行するにあたって、私たちはサンセット子爵領の職人たちと一緒に、避難用の籠を作り上げました。
避難民が入った籠を飛竜兵が持つことで、空からの移送を可能にした。
これがあれば、国境を超えることができる。
活躍したのは、飛竜兵だけではありません。
アイザックも竜の姿に戻って、民たちを国外に逃がしています。
そして使者になっていた第二王子イライアスのおかげで、隣国には急遽、避難民たちの居住区が作られました。
その居住区からジェネラス竜国への避難船が、旅立つことになる。
ジェネラス竜国は別大陸にあるというのに、その政治的な力は抜群でした。
避難民たちがジェネラス竜国へ渡るルートは、これで確保できた。
すべてが上手くいっている。
けれども、懸念することが一つだけあります。
「気になるのは、残された時間だな」
「そうね。伝承通りなら、次は……」
守護竜を失ったカレジ王国は、こうなると予言されている。
山鳴りから始まり、地震が起き、大地が割れ、川が干上がり、そして国が火に包まれる。
山が噴火しているいまが、その段階。
そして伝承では、こう続く。
『最後には人が住めなくなる暗黒の地帯となることでしょう』
そのことを思い出した瞬間、避難民を運び終わった飛竜兵が「アイザック様、急ぎお伝えしたいことが!」と、慌てたように降下してきました。
跪こうとする飛竜兵に、アイザックが指示します。
「そのままで良い。何があったか話せ」
「アイザック国王陛下に申し上げます。国境に魔物が出現しました」
魔物の出現。
それはまさに、青天の霹靂でした。
「アイザック、これって?」
「そうだ。ついに滅亡への最終段階に入ったようだ」
この情報こそ、私たちが心配していたことだったのです。
カレジ王国には、魔物がほとんど出ない。
でもそれは、この大陸では非常に珍しいことでした。
他国では頻繁に魔物が出現し、そのことが社会現象となっている。
だというのに、カレジ王国は平和そのものだった。
すべては守護竜のおかげだったのだから、守護竜を捨てたら魔物が出てくるのは自然の摂理です。
「これ、大丈夫かな? 飛竜兵の話が正しければ、魔物の数匹しか出現していないみたいだけど……」
「最初は一匹だとしても、次第に増えていき、いずれは国を覆い尽くす数となる。もはや、猶予はない」
「もう止められないのね……」
「ここまで進んだら、俺一人の力ではどうにもならない。再び守護竜になったとしても、元に戻るかどうか……」
この500年の間、守護竜が抑え尽きて災いがすべて一気に発散されるようです。
そんなの、さすがのアイザックにだってどうにもできないし、そこまで危険なところにアイザックを置き去りにすることもできません。
元々この国は、守護竜によって無理やり人の住む場所にしていただけ。
それが元に戻るだけのこと。
「魔物が出たということは、伝承の最終段階に移ったということだ。この地は、かつてないほどに荒れるだろう」
「なら、やることはひとつね」
「そうなるな。魔物どもがいつ大量発生するかわからない……俺たちに時間は残されてはいないぞ」
「ということは、この避難活動をカレジ王国内に広げればいいのね?」
「そのためには、あの場所に行くのが最も効率がいい」
アイザックは、子爵邸に飾ってある地図へと視線を移します。
どの場所を指しているのかは、見ずともわかる。
「カレジ王国の王都……そこにいる、王へ直談判しに行くのね」
「あそこは、ルシルにとっては辛い場所だろう……なんなら、ここで残っていてもいいんだぞ?」
「冗談言わないでよね。あの処刑場は、私と守護竜である黒竜様が出会った想い出の場所なのよ? むしろ聖地巡礼しに訪れたいとすら思っていたわ」
王都には、私を処刑しようとした元婚約者であるバカ王太子がいる。
またあいつに会うのは癪だけど、これもカレジ王国の民を救うためです。
久しぶりに、元婚約者の顔を拝みにいこうじゃないの!
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