婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

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第42話 イライアスの罠

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「なんでここに、竜木があるの?」


 竜木は、ジェネラス竜国にしか存在しない植物のはず。
 それがなぜ、カレジ王国の竜山にあるのか。


「竜山には何度か来たことあったけど、竜木は一度も見たことなかったわ。もしかしてこの遺跡群にしか生えていないの?」


 ここにしかないことを考えると、おそらく自生したものではなく栽培されたもの。
 それが放置された結果、野生化しているのだ。


「もしも私がカレジ王国にいたときにここを見つけられていれば、とんでもない発見だったのに!」


 私が主に調査していたのは、主に竜山のふもと付近です。
 高いところでも、標高1500メートルほどまでしか到達したことがない。
 それ以上高いところへ行くには、私の体力が足りなかったうえに、危険も大きい。

 ──未成年である私は、1000メートル以上の場所に登ることは許されなかったのよね。

 それでもみんなには内緒で、1500メートル付近まで登っちゃったけど。
 もちろん、アイザックの補助があったからこそ、できたことですとも。


「でも、いったい誰が竜木を?」

 ジェネラス竜国から竜山へ竜木を運ぶのは、並大抵の労力ではできない。
 おそらく人ではないでしょう。

 となると、可能性があるのは──


「ルシル、この家だ! 見てくれ!」


 竜から人の姿に戻ったイライアスが、私を呼びます。

 その家は巨大な遺跡群と比べると、小さな建物でした。
 こぢんまりした、一軒家。
 そんな印象を受けました。


「ここがジェネラス竜国の初代国王と竜天女が暮らした、別邸だ!」

「別邸? どういうことですか?」

「初代国王と竜天女は、この場所で暮らしたことがあったんだよ。この地域一帯を鎮める、守護竜としてね」


 イライアスは、知っているんだ。
 私が知らない、竜天女たちの話を。


「初代国王と竜天女がここに住んでいた……ということは、竜木をここで栽培したのも、竜天女たちってこと?」

「そのとおり。二人はここで暮らしながら、カレジ王国があるこの地を鎮めたんだ」

「二人はなんでそんなことを……?」

「カレジ王国を人の住む場所にするためさ。それが盟約だからね」


 カレジ王国とジェネラス竜国の盟約。
 それは初代国王と竜天女の時代からあったのね。

 つまり竜山に点在していた遺跡は、彼らの住居。
 もしくは祭礼用の建物もあったから、それを使ってこの地を災いを鎮めていたのでしょう。


「そしてここは、僕たちの新居でもある。ルシル、ここで暮らそう!」

「……なにを言っているの?」

「約束しただろう? 君のお友達を助ける条件……それは僕と、ここで一緒に暮らすことさ」

「バカ言わないでちょうだい。そんなことするわけないでしょう? 私はここに住むつもりはないわ」


 信じられない。
 イライアスは、私を助けるつもりは、最初からなかったんだわ。


「付き合ってられないわ……帰らせてもらうわね」

「別にいいけど、どうやってここから帰るんだい?」


 イライアスの言葉を聞いた瞬間、私の足が止まりました。


「ここは険しい竜山の中腹。ドレスを着た未成年の女性が、一人で下山するには厳しいところだと思うよ」


 しまった。
 ハメられたわ!


「ルシル、君の足では、ここから地上に戻ることは不可能。ここに残るしか、道はないんだよ」

「…………最初から、私を帰さないつもりだったのね?」

「いずれは帰してあげるよ……何十年先になるかわからないけど」


 私はイライアスから離れるために、後ずさりします。
 けれどもイライアスは、少しずつ私との距離を縮めてきました。


「兄であるアイザックがジェネラス竜国の王になった。僕は負けたんだよ……そのとどめを刺したのはルシル、君さ」

「私はなにもしていないわ」

「いや、したんだよ! 竜茶に眠る竜毒を発見し、人族の英雄となったルシル。君がアイザックを王にした」


イライアスの言いたいことはわかる。
私が竜茶の真相を突き止めなかったら、おそらくアイザックはまだ王太子のままだった。


「だから、せめて好きな人だけでも手に入れたいんだ。わかるだろう?」

「わからないわよ。誰かを監禁しようと思ったことなんて、一度もないんだから」

「監禁? 怖いこと言わないでくれ。僕たちは恋人だろう? 恋人同士が一緒に暮らすことは、何も変じゃないさ」


 イライアスはイカれている。
 アイザックに王位を取られたのが、そんなに悔しかったのかしら。


「助けを呼ぼうとしても、無駄さ。こんなところ、誰も来やしない」


 背中がぶつかる。
 どうやら、壁に追い詰められてしまったみたい。


「さあ、僕と一緒にカレジ王国が滅ぶのを山の上から鑑賞しよう。そうして初代国王と竜天女のように子どもを作って、家族を作るんだ!」

「……イライアス様は、こんなことをして本当に嬉しんですか?」

「嬉しいよ、僕は君を愛してるんだ。君さえ手に入れば、もう後はどうだっていい」

「は、離してっ!」


 イライアスに手をつかまれる。
 抵抗しようとしても、力尽くで押さえつけられてしまいます。


「愛しい僕の竜天女……これからはずっと一緒だ」


 私、このままイライアスに捕まってしまうの?
 二度とこの山から出られないの?

 急いで国から出てしまったせいで、私がここにいることは誰も知らない。
 それに、罠にはまったのは私のせい。


 おとなしく、受け入れるしかないのね……。


「アイザック……」


 ごめんなさい。
 せめてもう一度、あなたに会いたかった。


 私が諦めかけた瞬間。
 地面に大きな影ができます。


 まさかと思いながら、顔を上げました。

 そして、空を飛んでいるそれから目が離せなくなります 


「また、来てくれたんだ……」


 処刑台で助けられたあの時と、まったく一緒。

 私の瞳には、黒色の巨大な竜が映っていました。


「アイザック!」

「ルシル、助けにきたぞ!」
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