婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬

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第31話 竜茶の真実

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 私が人族の居住区を視察をしてから、一週間後。

 今日は久しぶりに、アイザックと会いました。


 アイザックは、私が倒れていた三日間ずっと看病をしてくれた。
 つまりその間、アイザックは仕事を放棄していたの!

 そのせいでとんでもないくらい仕事が溜まっていたみたいで、いまは寝る間も惜しんで政務に取り掛かっている。
 おかげでアイザックとまともに顔を合わせるのが一週間ぶりになってしまいました。

 軽く話したり、廊下ですれ違ったりとかは何度かあったんだけど、ゆっくり話す機会はそれこそ一週間ぶりです。

 だからなのでしょう。
 私の研究室にやって来たアイザックが、探るように尋ねてきます。


「ルシルは先週、法務庁に行ったらしいな」

「あら、よく知っているわね」

「法務庁の長官が俺に教えてくれたんだ。俺の婚約者が、妙な資料を所望したと……で、これがその書類か?」

「ええ、この国の人口推移のデータよ」


 ジェネラス竜国の法務庁では、全国民の人口の統計だけでなく、種族ごとの詳細なデータをまとめている。

 さすがはジェネラス竜国、ここまできちんとした情報を管理しているなんて、大国だと認めざるを得ない。
 故郷のカレジ王国であれば、ここまで詳細なデータを入手することはできなかったはずね。


「それで、何かわかったのか?」

「うん。現国王である陛下が竜茶の自由流通を解禁した25年前から、ある種族の人口が急激に減少しているの」

「まさかそれは……」

「人族よ」


 25年前から、人族の、それも未成年の死亡率が急増している。
 同時に、お年寄りの死亡率も増えていた。

 この変化により、ジェネラス竜国の人族の数は急激に減少の道をたどっていました。

 だというのに、竜人族の人口はまったく変わっていない。
 むしろ死亡率は減少し、長生きをする竜人族が爆増しています。


「25年前から人族の寿命は短くなり、死亡率は増えている。その反対に竜人族の寿命は長くなって人口も増加の傾向にあるの。これ、なんでだかわかる?」

「両種族の結果は違うが、その発生した時期は25年前から……まさか、竜茶の自由流通か?」

「そのまさかよ」


 25年前、お城の竜人族しか飲むことができなかった竜茶が、全国民の口へと届くようになった。

 その竜茶には、竜の力を増幅させる効果があると建国神話に書かれていた。
 竜の血を受け継ぐ竜人族の寿命が長くなったのは、国民が竜茶を飲むようになったから。

 そして人族は、その反対の運命をたどっている。

 となれば、竜茶が人族に与える影響はおのずと想像できるわけで……。



「だからルシルは、研究室に籠って竜茶の研究をしているのか」

「竜茶だけでなく、竜木についてもね。いろいろと調べているの」


 私の竜研究分野の幅は、多岐にわたる。

 生態研究、歴史研究、伝承などの竜民俗学研究のようなフィールドワーク中心の調査だけでなく、実験などの科学的な技術を使った生物研究や化学分析の研究も得意としています。

 これもすべては、研究一族として名高いウラヌス公爵家に生まれたおかげです。
 知識を吸収して学ぶ場は、幼少のころから至るところにあった。

 そしていま実験しているのは、そういった科学的な知見を必要とする研究です。

 竜茶の成分情報を抽出して、その正体を明らかにしようとしているの。


「竜茶はこの国の象徴的な文化の一つだ。それをいまさら研究して、どうするつもりだ?」

「どうしても知りたいことがあるの。とても大事なことを……あともう少しでわかりそうなのよ」

「もしかして、ルシルが竜茶を飲んで倒れたことに関係があるのか? あれは俺も調査をしているが──」

「よし、できたわ!」


 測定器から抽出された情報を、紙に書き写します。

 竜茶の成分が、すべて明らかになった。
 予想通りの成分反応がでたことで、私は天をあおぎました。


「ルシル、何かわかったのか?」

「ええ……できれば違っていて欲しかったけど、やっぱりそうだったのね…………」


 法務庁に行って人口のデータを見た時から、そうではないかと思っていた。

 この推測ができたのは、私自身が竜茶を飲んで、生死を彷徨さまよったから。
 おかげで臨床実験のようなことができたから、いまでは倒れて良かったと思っている。


「アイザック、お願いがあるの……いますぐに人族への竜茶の下賜を中止して」

「なぜだ? 竜茶を飲むことが日常の楽しみだっていう国民も多いのに」

「それは竜人族の話でしょう? 人族はダメなの」


 私は机の上に置いてある竜木の葉へと視線を向けます。
 これが、すべての原因なのだ。


「竜茶の材料である竜木の葉にはね、毒があるの……竜には効かない毒が」

「なんだって!?」

「竜木の葉には、竜の力を増幅させる力があると建国神話に書かれていたわよね。その竜を強くさせる成分こそ、人族には毒になる物質なのよ」


 竜木の葉から抽出した成分による、実験も行った。

 弱っていた地竜に竜木のエキスを与えると、すぐに元気になった。
 だけど竜以外の生物に竜木のエキスを与えた場合、どれも悲惨な結果にしかならなかった。


 実はこのエキスを、私は再び摂取してみたの。
 竜茶の時よりも、かなり少量だけど。

 その結果、竜以外の生物たちと同じ症状が出ました。

 私がいま生きているのは、私が人間という比較的大きな生物だから。
 小型の生物では、少量でも致死量になることがわかりました。

 おそらく人族でも、体の小さな子どもや、免疫力の低下したお年寄りでは、竜茶を飲んだら耐えることはできないでしょう。
 今年成人する私ですら、竜茶一杯であんなことになったのだから。


「竜茶を人族が飲むと、毒を体内に摂取してしまうの。私が倒れたのは、それが原因だったのよ」


 私は竜研究をするために、竜以外の生物に関する知識も多く持っている。
 その中に、コアラという哺乳類の生物がいます。

 南方の大陸に生息するコアラは、ユーカリという植物の葉を主食にしている。
 だけどそのユーカリの葉には、毒があるのだ。

 コアラにはユーカリの毒を解毒できる消化器官を持っている。
 おかげで毒にやられる心配はない。

 つまり竜木と竜は、そのユーカリとコアラに似た関係だったようです。

 竜木の葉の毒を解毒できる消化器官をもつ、竜や竜人族であれば、飲んでも問題ない。
 むしろそのエキスは、竜の力となるので健康になる。

 そのせいで、これまで誰も竜木の葉に毒があるなんて気づかなかったのでしょう。


 しかも竜木があるのは、この大陸だけ。
 輸出も制限をかけているため、竜茶が海外に運ばれる心配はない。

 だからこの問題がおおやけになることは、これまで一度もなかったのだ。


「竜茶は竜にとっては嗜好品しこうひんだけど、人にとっては毒でしかないの……だからいますぐ、竜茶の下賜をストップさせて。これ以上、犠牲者が出る前に!」
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