28 / 54
第28話 竜天女の伝承
しおりを挟む
思わぬ形で、これから私が目指すべきイメージが固まりました。
国王となったアイザックを支える、妻になる。
初代国王のパートナーだった、竜天女のように。
竜に嫁入りしたという、竜天女のことがもっと知りたい。
私のように、彼女も竜に魅了された人物だったのかな。
「ねえアイザック。もっと竜天女のことを教えて」
「……竜天女は元々、この地を治めていた豪族の姫だったらしい。その後、俺の先祖である初代国王がこの地にやってきて、二人は出会った。そうしてジェネラス竜国を建国したんだ」
竜天女は、初代国王と並んで建国の英雄としてジェネラス竜国では非常に人気があるらしい。
人族を排している竜人族たちも、竜天女の話には夢中になるのだとか。
「竜天女で有名な逸話とえば、竜木を竜に与えたことだ。おかげで竜は力を手に入れ、強大な存在になった」
「それまで竜は、強い存在じゃなかったってこと?」
「この地にやって来る前に、竜はなんらかの理由で力を失っていたらしい。弱っていたところを、竜天女に助けられたとされている」
弱り切ったアイザックの姿をイメージします。
ずぶ濡れになった野良犬のようなアイザックが家にやって来たら、絶対に介抱しちゃう自信があるわね。
「竜天女が発見した竜木の葉には、竜にとって栄養源となるものが多く含まれていた。おかげで竜たちは力を取り戻し、いまの姿となったという伝説になっている」
「竜天女は、竜の生活の向上に貢献したんだ。もしかして、私みたいに研究者だったのかな……」
「可能性はあるな。事実、竜天女が竜へと授けた物は多い。そうして現在の、竜と人の文化が混ざり合ったジェネラス竜国が誕生したわけだ」
竜天女が国母としての先輩であるのと同時に、竜研究の先輩でもあったなんて。
なんだか憧れちゃうね!
「それにしても、少し変わった伝承よね。他国の建国神話よりは真実味があるけど」
「他国の建国神話のような作り話というよりは、実際にあった出来事なのだろう。事実、竜木は存在する。ルシルが会議室で飲んだ竜茶は、その竜木の葉から作られたものだ」
「竜木から竜茶が……」
竜の力の源となった竜木。
それを飲んだことで、私は倒れたのね。
人族である私が竜に受け入れられなかったみたいになっていそうで、なんだか第二王子派が喜んでいる顔が見えるわ。
「竜天女は竜と人を繋ぐ存在だ。俺はルシルにこの時代の竜天女になって欲しいと願っている」
「婚約式の蒼竜のドレスには、そういう意味が込められていたのね」
竜天女が、竜である初代国王と結婚した時の衣装が、蒼竜のドレスなのだとか。
アイザックは神話になぞらえて、私という婚約者の正当性をみんなに示したのだ。
あの竜天女の再来だぞ、と。
「私、知らぬ間にアイザックに助けられていたみたいね」
もしも蒼竜のドレスがなければ、外からやって来た私への反発はもっと大きかったことでしょう。
婚約式があそこまでスムーズに進んだのは、アイザックの作戦のおかげでもあるということね。
「いいや、あれはルシルの手柄だ。みんな、ルシルに見惚れていたからな」
「お世辞はいいわよ。ドレスが素敵だったから、きっとそのおかげよ」
「そんなことない。ルシルの美しさは俺が保証しよう」
なんだかアイザックが、前よりも積極的になった気がする。
私のことを褒め殺しにしようとしているわ!
それに、スキンシップも激しくなっている。
「ちょっとアイザック……触るのはいいけど、そういうのはまた今度にしてね……」
「いいや、我慢できない」
「私は病み上がりなんだから、それまで我慢して」
「……わかった」
待てと命じられた忠犬のように、アイザックの動きが止まった。
か、かわいい!
アイザックの正体が竜だとはわかっていても、かわいいと思わずにはいられない。
──竜天女も、竜に対してかわいいとか思っていたのかな。
「竜天女……一度、会ってみたかったわね」
「…………だが、竜天女には不幸な逸話もある……一応知っていたほうがいいから教えるが、竜天女は若くして亡くなったんだ」
さっきまで甘い雰囲気を漂わせていたアイザックが、急に真面目な顔になります。
「ルシル、気を悪くしないで聞いてほしい。竜天女が若くして命を落としたことで、そのせいでジェネラス竜国では人族の寿命は短くなったという神話もあるんだ」
「神話のせいで、人族の寿命が短くなる……合理的でないし、そんなことあるわけないわよね?」
「もちろん合理的ではないから、真実ではないだろう。だが事実、この国の人族は大陸の人族よりもひ弱なんだ」
そのせいで、体力のある竜人族が最も発言力を持っている。
現に、城で働いている人族は、ドラヘ商会のブラッド以外に見たことがない。
「竜天女は竜木を竜に授け、竜茶を発明した。その代償として命を落とし、この国の人族がひ弱になった──まあ、あくまで言い伝えだ」
竜木と竜茶、そして竜天女。
私は、竜茶を飲んだことで、生死をさまよった。
竜天女も、竜茶を作ったことで命を落としたと伝わっている。
私が倒れたことと、何か関係があるのかな。
偶然とも思えるけど、それだけの情報があれば調査してみる価値は十分ある。
だって私は、研究者なんだから!
竜茶──少し、調べてみてもいいかもしれないわね。
国王となったアイザックを支える、妻になる。
初代国王のパートナーだった、竜天女のように。
竜に嫁入りしたという、竜天女のことがもっと知りたい。
私のように、彼女も竜に魅了された人物だったのかな。
「ねえアイザック。もっと竜天女のことを教えて」
「……竜天女は元々、この地を治めていた豪族の姫だったらしい。その後、俺の先祖である初代国王がこの地にやってきて、二人は出会った。そうしてジェネラス竜国を建国したんだ」
竜天女は、初代国王と並んで建国の英雄としてジェネラス竜国では非常に人気があるらしい。
人族を排している竜人族たちも、竜天女の話には夢中になるのだとか。
「竜天女で有名な逸話とえば、竜木を竜に与えたことだ。おかげで竜は力を手に入れ、強大な存在になった」
「それまで竜は、強い存在じゃなかったってこと?」
「この地にやって来る前に、竜はなんらかの理由で力を失っていたらしい。弱っていたところを、竜天女に助けられたとされている」
弱り切ったアイザックの姿をイメージします。
ずぶ濡れになった野良犬のようなアイザックが家にやって来たら、絶対に介抱しちゃう自信があるわね。
「竜天女が発見した竜木の葉には、竜にとって栄養源となるものが多く含まれていた。おかげで竜たちは力を取り戻し、いまの姿となったという伝説になっている」
「竜天女は、竜の生活の向上に貢献したんだ。もしかして、私みたいに研究者だったのかな……」
「可能性はあるな。事実、竜天女が竜へと授けた物は多い。そうして現在の、竜と人の文化が混ざり合ったジェネラス竜国が誕生したわけだ」
竜天女が国母としての先輩であるのと同時に、竜研究の先輩でもあったなんて。
なんだか憧れちゃうね!
「それにしても、少し変わった伝承よね。他国の建国神話よりは真実味があるけど」
「他国の建国神話のような作り話というよりは、実際にあった出来事なのだろう。事実、竜木は存在する。ルシルが会議室で飲んだ竜茶は、その竜木の葉から作られたものだ」
「竜木から竜茶が……」
竜の力の源となった竜木。
それを飲んだことで、私は倒れたのね。
人族である私が竜に受け入れられなかったみたいになっていそうで、なんだか第二王子派が喜んでいる顔が見えるわ。
「竜天女は竜と人を繋ぐ存在だ。俺はルシルにこの時代の竜天女になって欲しいと願っている」
「婚約式の蒼竜のドレスには、そういう意味が込められていたのね」
竜天女が、竜である初代国王と結婚した時の衣装が、蒼竜のドレスなのだとか。
アイザックは神話になぞらえて、私という婚約者の正当性をみんなに示したのだ。
あの竜天女の再来だぞ、と。
「私、知らぬ間にアイザックに助けられていたみたいね」
もしも蒼竜のドレスがなければ、外からやって来た私への反発はもっと大きかったことでしょう。
婚約式があそこまでスムーズに進んだのは、アイザックの作戦のおかげでもあるということね。
「いいや、あれはルシルの手柄だ。みんな、ルシルに見惚れていたからな」
「お世辞はいいわよ。ドレスが素敵だったから、きっとそのおかげよ」
「そんなことない。ルシルの美しさは俺が保証しよう」
なんだかアイザックが、前よりも積極的になった気がする。
私のことを褒め殺しにしようとしているわ!
それに、スキンシップも激しくなっている。
「ちょっとアイザック……触るのはいいけど、そういうのはまた今度にしてね……」
「いいや、我慢できない」
「私は病み上がりなんだから、それまで我慢して」
「……わかった」
待てと命じられた忠犬のように、アイザックの動きが止まった。
か、かわいい!
アイザックの正体が竜だとはわかっていても、かわいいと思わずにはいられない。
──竜天女も、竜に対してかわいいとか思っていたのかな。
「竜天女……一度、会ってみたかったわね」
「…………だが、竜天女には不幸な逸話もある……一応知っていたほうがいいから教えるが、竜天女は若くして亡くなったんだ」
さっきまで甘い雰囲気を漂わせていたアイザックが、急に真面目な顔になります。
「ルシル、気を悪くしないで聞いてほしい。竜天女が若くして命を落としたことで、そのせいでジェネラス竜国では人族の寿命は短くなったという神話もあるんだ」
「神話のせいで、人族の寿命が短くなる……合理的でないし、そんなことあるわけないわよね?」
「もちろん合理的ではないから、真実ではないだろう。だが事実、この国の人族は大陸の人族よりもひ弱なんだ」
そのせいで、体力のある竜人族が最も発言力を持っている。
現に、城で働いている人族は、ドラヘ商会のブラッド以外に見たことがない。
「竜天女は竜木を竜に授け、竜茶を発明した。その代償として命を落とし、この国の人族がひ弱になった──まあ、あくまで言い伝えだ」
竜木と竜茶、そして竜天女。
私は、竜茶を飲んだことで、生死をさまよった。
竜天女も、竜茶を作ったことで命を落としたと伝わっている。
私が倒れたことと、何か関係があるのかな。
偶然とも思えるけど、それだけの情報があれば調査してみる価値は十分ある。
だって私は、研究者なんだから!
竜茶──少し、調べてみてもいいかもしれないわね。
32
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
秘密の多い令嬢は幸せになりたい
完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。
完結が確定しています。全105話。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです
もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。
この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ
知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ
しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
魅了持ちの姉にすべてを奪われた心読み令嬢ですが、この度王太子の補佐官に選ばれました!
鈴宮(すずみや)
恋愛
アインホルン侯爵家の末娘であるオティリエは他人の心を読みとる天性の能力の持ち主である。彼女は魅了持ちの姉イアマの能力により、父親や使用人たちから蔑み虐げられ、満足に食事も取れない日々を送っていた。
そんななか、オティリエはイアマとともに王宮で開かれる夜会に参加することに。そこで彼女は見目麗しく才気煥発な王太子ヴァーリックと出会う。ヴァーリックはイアマに魅了されないどころか、オティリエに対して優しい言葉をかけてくれたのだった。
そんな夢のような夜を終えた翌日、これまで以上に激しくイアマから虐げられていた彼女のもとをヴァーリックが訪れる。
「この家を出て、僕のために力を貸してほしい」
イアマの支配から逃れ自由になったオティリエ。他人の悪意にさらされず過ごせる日々に底しれぬ喜びを感じる。
なんとかしてヴァーリックの役に立ちたいと張り切るオティリエだったが、任されるのは心が読めなくてもできる普通の事務仕事ばかり。けれど、ヴァーリックは『それでいいのだ』と彼女を諭し、優しく導き続ける。そのくせヴァーリックは思わせぶりな行動ばかりとり、オティリエを大いに振り回すのだ。
そんななか、ヴァーリックの妃の座を狙うイアマが動き始め――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる