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第17話 竜国での婚約式
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「アイザック・ジェネラス王太子殿下、並びにルシル・ウラヌスご令嬢のご入場です」
私とアイザックが会場へと入ると、中にいる人たちの視線がいっせいにこちらへ向きました。
アイザックへは歓迎と郷愁の視線が。
そして私へは、異分子を観察するような視線が向けられます。
──まるで値踏みされているみたいね。
人族である私があまり歓迎されていないのはわかっている。
でも、そんなの気にしない。
だってこういう視線には、慣れているから。
「ルシル様、こちらへ」
「ありがたく存じます、アイザック様」
アイザックのエスコートを受けながら、会場の中心へと進んでいきます。
遠くから注がれる視線は止みません。
あまり刺激しないようにということでよそ行きの対応をすることになったのだけど、たしかにその必要はありそうね。
ほら、あそこの人たちなんて想像通りのことを喋っている。
「あれが例の人族か」
「鱗無しのくせして、アイザック殿下の婚約者になるとは分不相応だ」
「嘆かわしい。王の妃は代々竜人族が勤めてきたというのに」
「神竜族の妃となるのは、やはり竜人族でなければ」
「だが見ろ、蒼竜のドレスを着ているぞ」
「竜天女様にでもなったつもりか」
「ここは竜国だ、どうせ人族が馴染むことなんてできやしないさ」
「人族の女じゃ、もって一か月がいいところだろう」
やはり人族だからと、あまり良い印象を持たない者がいるみたい。
ブラッドが話していたとおりね。
けれども、これくらいどうってことない。
竜人族の感情が人族を排するものなら、必ずそれには理由がある。
それを解明することも、ここでの竜研究の一つのテーマにしてもいいかも。
そう考えると、あの人たちの話をもっと聞きたい。
むしろ竜人族の特有のあの鱗を触らせてほしいし、そのまま研究対象として協力してほしい!
「いろいろと聞きたいことがあるから、ちょっとインタビュー させてもらえないかしら?」
私が強がっているのだと勘違いしたのでしょう。
そんな私をみかねたアイザックが、耳元でアイザックが囁いてきます。
「ルシル、気を悪くしないでほしいのが」
「別に気にすることなんてないわ。初めて見る生物が相手となると、野生の動物はこうやってこちらを警戒するものだから」
秘境のような場所でフィールドワークする際に、野生の動物やモンスターと遭遇することがある。
彼らと出会うと、人の生息地域にいる動物たちとは違った反応を見せることがありました。
秘境に住んでいる彼らは、人間という二足歩行の生物を見たことがない。
そのためこちらに気が付くと、「あれはなんだろう?」という顔をしながらこちらを見てくることがあるのだ。
野生動物を観察する側である研究者が、逆に観察されてしまう。
そんな状況を、私は何度も経験したことがある。
「そういえばフィールドワーク以外に、カレジ王国の舞踏会でも似たようなことがあったわね」
「あれはルシルがドレスじゃなくて白衣を着たまま舞踏会に参加したから、みんな驚いていたんだよ」
「失礼ね。私が白衣のまま舞踏会に参加するような女に見えるかしら?」
「まったく見えないけど、ルシルという研究者のことを俺はよく知っているよ」
私とアイザックは、目を合わせながらニコリと笑みを浮かべ合います。
──白衣の件は置いておいて。
「それにしても、このドレスは素敵ね。惚れ惚れしちゃうわ」
「蒼竜のドレスを着こなすなんて、さすがは俺のルシルだ」
「もう……まだ婚約式なんだから、正式にアイザックのものになったわけじゃないのよ」
私たちの結婚式はまだ先なのだから。
「だが、注意しないとな。こんなに美しいルシルを見たら、奪いたくなる輩が増えてしまうかもしれない」
「人族だからと距離を置かれているから、そういうことは起きないと思うけど」
「そうかな……ほら、耳を澄ましてみろ」
すると周囲からこちらを観察する竜人族たちの声が、私たちにまで聞こえていることに気が付きます。
「あれが噂のルシル令嬢か? 想像とまったく違うぞ?」
「ボサボサの髪の根暗な研究者って聞いていたが、どうなってるんだ?」
「まさか別人か? あんなに綺麗な女性が、研究者だなんて信じられない」
「蒼竜のドレスをあんなに着こなす人族がいるなんて驚きだわ」
「あんなに美人な人族は初めて見たぞ」
「是非ともお近づきになってみたいな」
「ルシル様の髪も美しいわ」
「ドレスの装飾品も相当な物ばかりよ。あんなふうに着こなしてみたいわね」
「アイザック殿下とお似合いね」
「俺の予想通り、ルシルの第一印象はなかなかなものみたいだぞ」
「……まだ化けの皮が剥がされていないだけよ」
竜研究一筋なところを、ここの人たちは誰も知らないから。
「ルシルは凄いな。姿を見せただけで、竜人族たちの気持ちをこうも変えてしまうなんて」
「ちょ、ちょっと、アイザック!?」
アイザックが私の首筋に触れました。
そして彼の顔が、私の首元に近付いて……!
──まさか、首にキスするつもり!?
「み、みんなが見てるわよ!」
「別に気にすることなんてない。ルシルが誰のものか、ここにいる人間にわからせる必要があるから」
独占欲を感じさせるその言葉に、胸がドクンと大きく鼓動する。
だけど、アイザックがこんなんなら、ここは私が冷静に行動しないと。
「ねえ、こういうのは、二人きりの時にしない?」
「いや、我慢できない」
「だけど、そっちのほうがメリットが多いと思うの。ここだとできることが限られているし、二人きりだと他にもいろいろとできるはずよ」
「……ルシルがそう望むなら」
アイザックの顔が、首筋から離れます。
なんとか手綱を握ることができたわね、良かった。
そうひと安心したところで、会場の一番奥へとたどり着いたことに気がつきます。
正面は一段高くなっており、そこに二つの荘厳な椅子が置いてありました。
そこに座る人物がどんな位置の者なのか、言われなくともわかってしまう。
「国王陛下、王妃陛下、ご無沙汰しております」
アイザックが二人に対してそう挨拶をしたことで、私の中の緊張度は最大限に上がりました。
気を引き締めて、前方の人物へと頭を下げます。
しっかりしなさい、ルシル。
これからアイザック以外の神竜族の竜を観察──じゃなくて、恋人のご両親へご挨拶をするんだから!
私とアイザックが会場へと入ると、中にいる人たちの視線がいっせいにこちらへ向きました。
アイザックへは歓迎と郷愁の視線が。
そして私へは、異分子を観察するような視線が向けられます。
──まるで値踏みされているみたいね。
人族である私があまり歓迎されていないのはわかっている。
でも、そんなの気にしない。
だってこういう視線には、慣れているから。
「ルシル様、こちらへ」
「ありがたく存じます、アイザック様」
アイザックのエスコートを受けながら、会場の中心へと進んでいきます。
遠くから注がれる視線は止みません。
あまり刺激しないようにということでよそ行きの対応をすることになったのだけど、たしかにその必要はありそうね。
ほら、あそこの人たちなんて想像通りのことを喋っている。
「あれが例の人族か」
「鱗無しのくせして、アイザック殿下の婚約者になるとは分不相応だ」
「嘆かわしい。王の妃は代々竜人族が勤めてきたというのに」
「神竜族の妃となるのは、やはり竜人族でなければ」
「だが見ろ、蒼竜のドレスを着ているぞ」
「竜天女様にでもなったつもりか」
「ここは竜国だ、どうせ人族が馴染むことなんてできやしないさ」
「人族の女じゃ、もって一か月がいいところだろう」
やはり人族だからと、あまり良い印象を持たない者がいるみたい。
ブラッドが話していたとおりね。
けれども、これくらいどうってことない。
竜人族の感情が人族を排するものなら、必ずそれには理由がある。
それを解明することも、ここでの竜研究の一つのテーマにしてもいいかも。
そう考えると、あの人たちの話をもっと聞きたい。
むしろ竜人族の特有のあの鱗を触らせてほしいし、そのまま研究対象として協力してほしい!
「いろいろと聞きたいことがあるから、ちょっとインタビュー させてもらえないかしら?」
私が強がっているのだと勘違いしたのでしょう。
そんな私をみかねたアイザックが、耳元でアイザックが囁いてきます。
「ルシル、気を悪くしないでほしいのが」
「別に気にすることなんてないわ。初めて見る生物が相手となると、野生の動物はこうやってこちらを警戒するものだから」
秘境のような場所でフィールドワークする際に、野生の動物やモンスターと遭遇することがある。
彼らと出会うと、人の生息地域にいる動物たちとは違った反応を見せることがありました。
秘境に住んでいる彼らは、人間という二足歩行の生物を見たことがない。
そのためこちらに気が付くと、「あれはなんだろう?」という顔をしながらこちらを見てくることがあるのだ。
野生動物を観察する側である研究者が、逆に観察されてしまう。
そんな状況を、私は何度も経験したことがある。
「そういえばフィールドワーク以外に、カレジ王国の舞踏会でも似たようなことがあったわね」
「あれはルシルがドレスじゃなくて白衣を着たまま舞踏会に参加したから、みんな驚いていたんだよ」
「失礼ね。私が白衣のまま舞踏会に参加するような女に見えるかしら?」
「まったく見えないけど、ルシルという研究者のことを俺はよく知っているよ」
私とアイザックは、目を合わせながらニコリと笑みを浮かべ合います。
──白衣の件は置いておいて。
「それにしても、このドレスは素敵ね。惚れ惚れしちゃうわ」
「蒼竜のドレスを着こなすなんて、さすがは俺のルシルだ」
「もう……まだ婚約式なんだから、正式にアイザックのものになったわけじゃないのよ」
私たちの結婚式はまだ先なのだから。
「だが、注意しないとな。こんなに美しいルシルを見たら、奪いたくなる輩が増えてしまうかもしれない」
「人族だからと距離を置かれているから、そういうことは起きないと思うけど」
「そうかな……ほら、耳を澄ましてみろ」
すると周囲からこちらを観察する竜人族たちの声が、私たちにまで聞こえていることに気が付きます。
「あれが噂のルシル令嬢か? 想像とまったく違うぞ?」
「ボサボサの髪の根暗な研究者って聞いていたが、どうなってるんだ?」
「まさか別人か? あんなに綺麗な女性が、研究者だなんて信じられない」
「蒼竜のドレスをあんなに着こなす人族がいるなんて驚きだわ」
「あんなに美人な人族は初めて見たぞ」
「是非ともお近づきになってみたいな」
「ルシル様の髪も美しいわ」
「ドレスの装飾品も相当な物ばかりよ。あんなふうに着こなしてみたいわね」
「アイザック殿下とお似合いね」
「俺の予想通り、ルシルの第一印象はなかなかなものみたいだぞ」
「……まだ化けの皮が剥がされていないだけよ」
竜研究一筋なところを、ここの人たちは誰も知らないから。
「ルシルは凄いな。姿を見せただけで、竜人族たちの気持ちをこうも変えてしまうなんて」
「ちょ、ちょっと、アイザック!?」
アイザックが私の首筋に触れました。
そして彼の顔が、私の首元に近付いて……!
──まさか、首にキスするつもり!?
「み、みんなが見てるわよ!」
「別に気にすることなんてない。ルシルが誰のものか、ここにいる人間にわからせる必要があるから」
独占欲を感じさせるその言葉に、胸がドクンと大きく鼓動する。
だけど、アイザックがこんなんなら、ここは私が冷静に行動しないと。
「ねえ、こういうのは、二人きりの時にしない?」
「いや、我慢できない」
「だけど、そっちのほうがメリットが多いと思うの。ここだとできることが限られているし、二人きりだと他にもいろいろとできるはずよ」
「……ルシルがそう望むなら」
アイザックの顔が、首筋から離れます。
なんとか手綱を握ることができたわね、良かった。
そうひと安心したところで、会場の一番奥へとたどり着いたことに気がつきます。
正面は一段高くなっており、そこに二つの荘厳な椅子が置いてありました。
そこに座る人物がどんな位置の者なのか、言われなくともわかってしまう。
「国王陛下、王妃陛下、ご無沙汰しております」
アイザックが二人に対してそう挨拶をしたことで、私の中の緊張度は最大限に上がりました。
気を引き締めて、前方の人物へと頭を下げます。
しっかりしなさい、ルシル。
これからアイザック以外の神竜族の竜を観察──じゃなくて、恋人のご両親へご挨拶をするんだから!
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