13 / 54
第13話 勇気を出して……
しおりを挟む
ドラヘ城に到着した私たちは、すぐに部屋へと案内されました。
今日からここが、私たちの家になるのね。
「ここは王太子妃になるルシル専用の客間だ。他にも似たような部屋が、ざっと20はあるな」
「まさかそれ、全部私の部屋じゃないわよね?」
「もちろん。ここは王太子とその妃が住む宮だから手狭だが、俺が国王に就任すればこの四倍は広い宮殿に引っ越すことになる」
「この広さで、手狭だなんて……」
さっきから話のスケールが大きすぎて、実感が湧かない。
「これで狭いというなら、もしかしてアイザックは私の家を犬小屋かなんかと勘違いしていたんじゃなくて?」
ウラヌス公爵家はカレジ王国では血筋だけは良かったのだが、金はまったくなかった。
屋敷のほとんどは借金として取り上げられてしまったので、下級貴族よりも貧しい生活をしていたのよね。
「俺としてはルシルの近くに常にいることができて、ウラヌス邸にずっと住んでいたいと思っていたくらいだがな」
「常に近くにいるというか、私たちいつも研究室で寝泊まりしていたしね」
あれ……?
そういえば私って、毎晩研究室で寝泊まりしながら生活をしていたわよね。
しかも、それはアイザックも同じだった。
つまりここ数年は毎晩、研究室でアイザックと寝食を共にしていたことになる。
──えぇええ!?
なんだか、いま頃になって恥ずかしくなってきたのだけど!
アイザックは研究室の一番端っこで寝ていたから、同じ部屋で寝ているというイメージはまったくなかった。
だけど、研究員とその助手の関係であれば、研究室で一緒に寝泊まりするのは当たり前だと思っていた。
でも、いまの私たちは、恋人関係なわけで……。
「ねえ。私は今夜、どこで寝ればいい?」
「もちろん寝室だが」
「じゃあ、アイザックは?」
「もちろん寝室だが」
「その寝室って、まさか……?」
「同じ部屋じゃ、イヤだったか?」
アイザックが悲しそうな顔をしながら、私のことを見つめてくる。
そんな捨てられた子犬みたいな顔しても、流されないんだからね!
「……俺とルシルは将来を誓い合った仲だが、正式には婚約関係にもなっていない。ルシルが嫌だというなら、俺は別の部屋で寝よう」
しょんぼりしているアイザックを見て、私の胸が張り裂けそうになります。
なんなの、この感情は……!
独房の中で感じた、アイザックへの気持ち。
それがこの胸の痛みの正体なのだろうか。
「よく考えたら研究室ではいつも一緒だったのだし、いまさら別々で寝るなんて他人行儀よね。アイザックと別の部屋で寝てしまうと、独房生活を思い出してしまうかも」
「ルシル、そう言ってくれると嬉しいよ」
私の腰に、アイザックの手が回されます。
その動作は、これまで10年間の間に一度も行われたことのなかった動作でした。
「このまま寝室に連れて行きたいくらいだ」
「そ、それって……」
ど、どういう意味で言ってるの!?
「──コホン」
私とアイザックの視線が、この部屋にいるもう一人へと注がれました。
「二人で楽しくやっているところ悪いですけど、私もいるの忘れないでもらえますか?」
ドラッヘ商会の商会長である、ブラッドが手をあげながら存在をアピールしてきます。
そういえば、すっかり忘れていた!
いま部屋にいるのは、私とアイザック、そしてドラッヘ商会の商会長であるブラッドの三人だったのよね。
「ブラッド様、あなたにも驚かされました。私の竜研究を支援してくれた理由が謎だったのだけど、いまになってやっと理解できました」
ドラッヘ商会の商会長であるブラッドが、私の前で跪きます。
「ルシル様、どうか私のことはブラッドと呼び捨てにしてください。カレジ王国では良き商売関係を築かせていただきましたが、こちらでは良き主従関係を結ばせていただきます……未来の王太子妃様」
「やはり、ドラッヘ商会が私の研究を援助してくれたのは、アイザックが理由だったのですね」
すべて、納得しました。
「私、知らないところでアイザックに助けられてばかりだったのね」
アイザックに視線を向けると、にこりと笑みを返してくれます。
「俺はルシルが自由に竜研究ができるよう、手助けをしていただけだ」
「それなのに私ったら、研究に夢中でずっと気づかなかったわ」
推しの守護竜に認知されていただけでなく、ドラッヘ商会を使って支援までされていた。
それらはすべて私のためだということくらい、わかっている。
「俺は、ルシルが好きなことをしている時の表情を見るのが好きなんだ。だからこれは全部、俺のためでもある」
腰に回されていた手に、力が入りました。
私とアイザックの体が、完全に密着する。
「ではでは、私はお邪魔みたいですから~」
「あ、ブラッド!」
ブラッドが逃げた。
ど、どうしましょう!?
この甘いムード、これまでに経験したことない雰囲気だわ。
「俺のこと、研究したいって言ってたよね。興味ない?」
「…………めちゃくちゃある!!!!」
私が処刑されそうになったあの日から、アイザックのことを考えなかったことはない。
私の頭の中は、常にアイザックのことで興味津々だった。
「私、もう我慢できないかも……だから、いいでしょう?」
「ああ、俺もそろそろ限界だ。ルシル、愛している」
「ええ、私も限界……だから」
私はアイザックの顔を両手でしっかりと押さえました。
そして目を合わせながら、勇気を振り絞って懇願します。
「言い辛いんだけど、アイザックにお願いがあるの」
「なんだい、ルシル。君のためなら、なんでもするよ」
アイザックの言葉を聞いて、胸をなでおろします。
嫌だと思われていたらどうしようかと思ったけど、これで憂いはなくなった。
「実は私、アイザックの体にも、興味があって……」
私とアイザックの関係は、いまに始まったわけではない。
だから新しい関係になったとしても、きっと大丈夫。
「お願い……私に、アイザックのことを研究させて」
今日からここが、私たちの家になるのね。
「ここは王太子妃になるルシル専用の客間だ。他にも似たような部屋が、ざっと20はあるな」
「まさかそれ、全部私の部屋じゃないわよね?」
「もちろん。ここは王太子とその妃が住む宮だから手狭だが、俺が国王に就任すればこの四倍は広い宮殿に引っ越すことになる」
「この広さで、手狭だなんて……」
さっきから話のスケールが大きすぎて、実感が湧かない。
「これで狭いというなら、もしかしてアイザックは私の家を犬小屋かなんかと勘違いしていたんじゃなくて?」
ウラヌス公爵家はカレジ王国では血筋だけは良かったのだが、金はまったくなかった。
屋敷のほとんどは借金として取り上げられてしまったので、下級貴族よりも貧しい生活をしていたのよね。
「俺としてはルシルの近くに常にいることができて、ウラヌス邸にずっと住んでいたいと思っていたくらいだがな」
「常に近くにいるというか、私たちいつも研究室で寝泊まりしていたしね」
あれ……?
そういえば私って、毎晩研究室で寝泊まりしながら生活をしていたわよね。
しかも、それはアイザックも同じだった。
つまりここ数年は毎晩、研究室でアイザックと寝食を共にしていたことになる。
──えぇええ!?
なんだか、いま頃になって恥ずかしくなってきたのだけど!
アイザックは研究室の一番端っこで寝ていたから、同じ部屋で寝ているというイメージはまったくなかった。
だけど、研究員とその助手の関係であれば、研究室で一緒に寝泊まりするのは当たり前だと思っていた。
でも、いまの私たちは、恋人関係なわけで……。
「ねえ。私は今夜、どこで寝ればいい?」
「もちろん寝室だが」
「じゃあ、アイザックは?」
「もちろん寝室だが」
「その寝室って、まさか……?」
「同じ部屋じゃ、イヤだったか?」
アイザックが悲しそうな顔をしながら、私のことを見つめてくる。
そんな捨てられた子犬みたいな顔しても、流されないんだからね!
「……俺とルシルは将来を誓い合った仲だが、正式には婚約関係にもなっていない。ルシルが嫌だというなら、俺は別の部屋で寝よう」
しょんぼりしているアイザックを見て、私の胸が張り裂けそうになります。
なんなの、この感情は……!
独房の中で感じた、アイザックへの気持ち。
それがこの胸の痛みの正体なのだろうか。
「よく考えたら研究室ではいつも一緒だったのだし、いまさら別々で寝るなんて他人行儀よね。アイザックと別の部屋で寝てしまうと、独房生活を思い出してしまうかも」
「ルシル、そう言ってくれると嬉しいよ」
私の腰に、アイザックの手が回されます。
その動作は、これまで10年間の間に一度も行われたことのなかった動作でした。
「このまま寝室に連れて行きたいくらいだ」
「そ、それって……」
ど、どういう意味で言ってるの!?
「──コホン」
私とアイザックの視線が、この部屋にいるもう一人へと注がれました。
「二人で楽しくやっているところ悪いですけど、私もいるの忘れないでもらえますか?」
ドラッヘ商会の商会長である、ブラッドが手をあげながら存在をアピールしてきます。
そういえば、すっかり忘れていた!
いま部屋にいるのは、私とアイザック、そしてドラッヘ商会の商会長であるブラッドの三人だったのよね。
「ブラッド様、あなたにも驚かされました。私の竜研究を支援してくれた理由が謎だったのだけど、いまになってやっと理解できました」
ドラッヘ商会の商会長であるブラッドが、私の前で跪きます。
「ルシル様、どうか私のことはブラッドと呼び捨てにしてください。カレジ王国では良き商売関係を築かせていただきましたが、こちらでは良き主従関係を結ばせていただきます……未来の王太子妃様」
「やはり、ドラッヘ商会が私の研究を援助してくれたのは、アイザックが理由だったのですね」
すべて、納得しました。
「私、知らないところでアイザックに助けられてばかりだったのね」
アイザックに視線を向けると、にこりと笑みを返してくれます。
「俺はルシルが自由に竜研究ができるよう、手助けをしていただけだ」
「それなのに私ったら、研究に夢中でずっと気づかなかったわ」
推しの守護竜に認知されていただけでなく、ドラッヘ商会を使って支援までされていた。
それらはすべて私のためだということくらい、わかっている。
「俺は、ルシルが好きなことをしている時の表情を見るのが好きなんだ。だからこれは全部、俺のためでもある」
腰に回されていた手に、力が入りました。
私とアイザックの体が、完全に密着する。
「ではでは、私はお邪魔みたいですから~」
「あ、ブラッド!」
ブラッドが逃げた。
ど、どうしましょう!?
この甘いムード、これまでに経験したことない雰囲気だわ。
「俺のこと、研究したいって言ってたよね。興味ない?」
「…………めちゃくちゃある!!!!」
私が処刑されそうになったあの日から、アイザックのことを考えなかったことはない。
私の頭の中は、常にアイザックのことで興味津々だった。
「私、もう我慢できないかも……だから、いいでしょう?」
「ああ、俺もそろそろ限界だ。ルシル、愛している」
「ええ、私も限界……だから」
私はアイザックの顔を両手でしっかりと押さえました。
そして目を合わせながら、勇気を振り絞って懇願します。
「言い辛いんだけど、アイザックにお願いがあるの」
「なんだい、ルシル。君のためなら、なんでもするよ」
アイザックの言葉を聞いて、胸をなでおろします。
嫌だと思われていたらどうしようかと思ったけど、これで憂いはなくなった。
「実は私、アイザックの体にも、興味があって……」
私とアイザックの関係は、いまに始まったわけではない。
だから新しい関係になったとしても、きっと大丈夫。
「お願い……私に、アイザックのことを研究させて」
44
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
秘密の多い令嬢は幸せになりたい
完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。
完結が確定しています。全105話。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
婚約破棄はこちらからお願いしたいのですが、創造スキルの何がいけないのでしょう?
ゆずこしょう
恋愛
「本日でメレナーデ・バイヤーとは婚約破棄し、オレリー・カシスとの婚約をこの場で発表する。」
カルーア国の建国祭最終日の夜会で大事な話があると集められた貴族たちを前にミル・カルーア王太子はメレアーデにむかって婚約破棄を言い渡した。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる