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突然やってきたお客様

4.

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「もし聞いたことを他言したら、あんたも、あんたの家族もどうなるか分からないぞ」

「あの、何も聞いていませんので…」

「そうか、それなら良い」


そう言って水嶋マネージャーはいなくなった。やっとの思いでバックヤードに入った私は、そこにへなへなと座り込んでしまった。


(倉田支配人の死には、水嶋マネージャーが関係しているのか? でも、さっき聞いたことを誰かに話したとして、誰が信じてくれる……? 信頼していた倉田支配人もいない、ちゃんとした証拠もない。それに、あれでは脅しじゃないか)


徐々に、恐怖から怒りに変わってきた。

みんなから慕われていた倉田支配人を死に追いやった、あんな奴がいる所では働きたくない。
二度と顔も見たくない…!!


私は後日、辞表を提出して、ホテル・ザ・クラウンを去った。あの日聞いたことは、もう墓場まで持って行こう……そう決めて。

 
***


青木様の話を聞いて、私は体が震え出しそうだった。話しをしていた青木様は、途中から泣き出していた。

私も泣きたい気持ちに駆られたが、仕事中ということもあって理性で押さえつけた。

 
「青木様……お話しいただいて、ありがとうございます」

「あの時、水嶋マネージャーの脅しに屈せず、何かできることを探せば良かったのかもしれない…と今でも夢に見ることがあって、ずっと後悔していたんだ…。今さら17年前のことを話しても仕方ないのに、こんな話をしてすまない」

「いえ、私は父の死の真相に近づくことができて、良かったです。ずっと一人で抱えてこられたんですね……」


それを聞いた青木様は、肩を震わせて嗚咽しながら泣いていた。17年もの間、ずっしりと重い十字架を背負って生きてきたのか……と悲しい気持ちになる。青木様が落ち着くのを少し待った。


「あの、青木様にはご負担をかけたくないのですが、念の為ご連絡先を伺っておいても宜しいでしょうか?」

「あぁ、もちろんだよ。生い先短い爺さんの連絡先なんて、聞かれることもないけど、一応携帯電話はまだ持っているんだ。家族との連絡用にね」
 

そう言って、近くにあったメモ用紙にお互い電話番号を記して交換した。そして私は青木様にお礼を告げ、客室課のオフィスに戻っていった。


***


オフィスに戻ってきても、青木様の言葉を思い出して、少しボーッとしていた。今日はフロントからの電話も少なくて本当に良かった。


「倉田、なんかあった?」


突然、上司である庄司さんから話しかけられる。


「あーーそれが……庄司さん、青木さんっていう男性のメイドさんがいらっしゃったのって、知ってますか?」

「青木さんって、随分前じゃないか? 覚えてるよ、なかなかやる気のあるおじさんだなぁって印象だったけど。その青木さんがどうした?」

「今1206に連泊されているんですけど、私の父のことを話していて……」


庄司さんがピクッと反応する。そう、庄司さんにとっても父は元上司なのだ。


「それ、詳しく教えてくれる?」


そう言って、客室課支配人用の個室に通される。青木様に言われた話を庄司さんにはそのまま伝えた。
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