アレキサンドライト

片岡倫

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早起き

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あくる日の朝、彼が目を覚ましたときには彼女は昨日の本を読み進めていた。
「おはよう」
「......」
「早起きさんなんだね」
「......」
無視しているのかと思ったが、本を読む事に集中している事に気づいた。その眼差しはやはり綺麗で、彼は数分の間そのまま見つめ続けた。そこで異変に気づいたのか、彼女はようやく彼がに気づいた。
「おはよう」
「おはよう......」
挨拶だけ交わすと、また本を読む体制に入ってしまった。
「その本、面白い?」
「全く」
「ならどうしてそんなに真剣に読んでるんだい?」
「私の勝手でしょ」
少し強めの口調で返された僕はそこで本に対する質問をやめざるを得なかった。
「それにしても早起きさんだね」
「あなたが遅いだけ」
彼は苦笑いを浮かべた。
「あら、2人とも起きてたんですね。おはようございます。」
次に何の話をしようかと考えている間に、看護師さんがやって来た。
「おはようございます、安西さん。」
「おはようございます。」
どうやらアカネはこの看護師さんを知っているようだ。
「あなたが昨日この部屋に入った石川翠くんだね。初めまして。担当の安西です。」
優しい笑みを浮かべた安西さんが彼にそう告げた。人柄が顔に出ているのか、いかにも優しそうな人だ。
「初めまして。よろしくお願いします。」
軽く頭を下げてそう返した。
「隣の花宮茜さんも私の担当なので2人一緒に問診しますね。」
それから数分の間、今の気分はどうだとか昨日はよく眠れたかなんて質問が続いた。話しているうちに、段々緊張も薄れていた。
「はい、終わりです。私は他の仕事に戻るんだけど、アカネちゃん。この後ミドリくんに病院の中を案内してあげてくれない?」
今まで本を読みながら質問に答えていたアカネは眉間にシワを寄せて安西を見つめた。
「なんで私が」
「同じ部屋だから」
満面の笑みで見つめられ、ため息をついたアカネは渋々本を置いた。
「それじゃあ、よろしくね。」
そう言い残して、安西は部屋を出ていった。
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