上 下
1 / 5
通勤ラッシュ

残り10分-1

しおりを挟む
澄み渡る空気、雲ひとつない青空…久々のさっぱりとした冬晴れは、かといって私の気持ちを持ち上げることもなく今日も揉みくちゃになった人と人の隙間から辛うじて覗く青色をただぼぅっと眺めながら無心で揺れに身を任せていた。


私、鈴木 茜(23歳)が毎日1時間以上かけて毎朝通勤してる某有名広告代理店は日本中のメディアを牛耳ってると言われるほどの巨大企業だ。芸能関係で仕事をしたいと思う人達には憧れの職場である。
出た大学が良かったのか、運を使い果たしたのか、面接時に周りから不評の瓶ぞこ眼鏡をやめて無理矢理コンタクトにしたのが良かったのか…とにかく超高倍率の人気ブラック企業にまさかの新卒採用されてしまったのだった。

入社してもうすぐ1年…とにかくスケジュールが過密で不規則な為どんどん脱落者も出るハードな職場ではあるが、それでもやりがいもあって最近ではやっとテレビ番組の企画の案出しなどにも関われるようになりそれなりに日々楽しく忙しく働いているわけだけど…1つ難点を挙げるとすれば…うん、そう。これ。
本当に、毎日の通勤ラッシュがとにかくやばいって事。例に漏れず今日もまた朝の通勤ラッシュ。現在絶賛全力で後ろの人に全体重を預けてしまっている情けない状況である。次に急行が止まるのは…はぁ…10分後かぁ。後ろの人には重くて迷惑だろうけど、でもこれ不可抗力なんです!こんな斜めの状態じゃ全然自力で立ちようが無いからどうか許してほしい…。そう心の中でブツブツといつも通りお詫びをしていた。

ほんとこれさえなければ最高の職場なんだけどな…
こんな激務のいわゆるブラックなのになんで私は続けられるのかっていうと、面接の時に見かけた別部署のディレクターがめちゃくちゃイケメンで、まさかの一目惚れをしてしまったからだった。23年目にして突然の初恋…今まで憧れの人は居てもこんな風に見かけただけでドキドキするような事は初めてで言葉を交わせたら今日の運勢はラッキー!なんて軽率に浮かれるくらいの恋愛初心者である。同じ部署じゃないから話すこともほぼないけど、それでも朝の挨拶などはなるべく出来るように出社時間を調整して、日々密かに元気を頂いていたのだ。
しおりを挟む

処理中です...