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25. 将に酒を進めんとす 杯停むること莫れ
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ソフィアはハザマブルクから帰り、後宮に到着した。
「ソフィア様、こちらです」
ソフィアが帰ってきたという知らせを聞いてドミトリーが迎えにきていた。サーシャはカンラン宮で片付けをするようにお願いをして、一足先に帰らせることにした。
「ドミトリー、容態は?」
「腹部を浅く刺されただけで、ご無事です。意識はあるので、今お帰りを伝えます」
大事には至っていないようでソフィアは人心地ついた。ならば、先にマリアナと話してから行こうと考えた。用件を残してラインハルトのところに行きたくなかった。
「皇太子妃に会える?」
「は?」
「マリアナに会いに行ってくる」
先にそっちだとソフィアは皇太子妃のいたコンゴウ宮に行った。ドミトリーによると、彼女は幽閉されているらしかった。ソフィアは警備の人々をちょちょいといなしながら、ずんずんと宮内を進み、彼女がいる部屋を訪れた。
「やあ、マリアナ」
「……ソフィアさん、お久しぶりですね」
ソフィアから見たマリアナは随分スッキリしているように見えた。憑き物が落ちたのだろうと感じた。
「刺したって聞いたから飛んで戻ってきたよ」
「そうですか」
マリアナはなぜソフィアがここに来たのだろうかと意味がわからなかった。
「ハザマブルクは楽しかったですか?」
「まあね、お土産があるから、あとであげよう」
皮肉を交えたつもりだったが、雑にかわされ、マリアナはムッとした。
「あなた、何しに来たんですか?」
「可愛い後輩に会いにね」
「は?殺そうと思っていても?」
「私はね、ラーラの死も惜しく思っているタイプだよ」
「呆れた」
マリアナはソフィアに敬語を使い、笑顔を貼り付けて取り繕うことが馬鹿らしくなった。
「そういえば、殿下にラーラが私に唆されたって言ったの?」
「言ってないね」
「そう……」
「唆したとは言いきれない。ラーラさんの自己責任の部分も多少はある。あなたも呪うなんて思わなかったでしょう」
「妊娠しているときに告げ口したの。あわよくば流さないかと思ってね」
皇太子妃はできるだけ悪女と思われるような笑顔をした。ソフィアは似合わない顔をしているなと愚かしく思った。
「これは、私のお願いなんだが、これからは大人しく幽閉されててほしいんだよ」
「あら、刺客は送らないわ。お金がバカみたいにかかったのよ」
「刺客もやめてほしいが、そうじゃない」
ソフィアはニッコロ君が怪我をして悲しかったことを思い出し、刺客は迷惑だから本当にやめてほしいと感じたが、今はそれを言いにきたのではないとマリアナの目を見た。
「これから、ちょいちょい会いにいくから、是非模範囚でいてほしい」
「アハハ!あなた馬鹿じゃないの?」
「私は威勢のいい年下が好きでね」
ニヤリとソフィアは薄気味悪く笑った。マリアナは背筋が薄ら寒くなった。
「これ、お土産ね」
「なによ、これ」
「酒だよ。ヤケ酒でもしたらどうかな?」
「……え」
「たまには気を抜くのもいいでしょう。ヤケ酒にはちょっと甘いかもしれないが、味はたしかだよ」
ソフィアはワインボトルをマリアナに押し付け、マリアナから離れた。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「話があるなら次にしてね」
またねーと言って、ソフィアは立ち去った。自分の用が済んだらもうお終いとばかりに、こちらのことは構わず出て行ってしまった。
「バカじゃないの」
自分勝手過ぎるとマリアナは笑った。自然に込み上げてくる笑みだった。
「ソフィア様、こちらです」
ソフィアが帰ってきたという知らせを聞いてドミトリーが迎えにきていた。サーシャはカンラン宮で片付けをするようにお願いをして、一足先に帰らせることにした。
「ドミトリー、容態は?」
「腹部を浅く刺されただけで、ご無事です。意識はあるので、今お帰りを伝えます」
大事には至っていないようでソフィアは人心地ついた。ならば、先にマリアナと話してから行こうと考えた。用件を残してラインハルトのところに行きたくなかった。
「皇太子妃に会える?」
「は?」
「マリアナに会いに行ってくる」
先にそっちだとソフィアは皇太子妃のいたコンゴウ宮に行った。ドミトリーによると、彼女は幽閉されているらしかった。ソフィアは警備の人々をちょちょいといなしながら、ずんずんと宮内を進み、彼女がいる部屋を訪れた。
「やあ、マリアナ」
「……ソフィアさん、お久しぶりですね」
ソフィアから見たマリアナは随分スッキリしているように見えた。憑き物が落ちたのだろうと感じた。
「刺したって聞いたから飛んで戻ってきたよ」
「そうですか」
マリアナはなぜソフィアがここに来たのだろうかと意味がわからなかった。
「ハザマブルクは楽しかったですか?」
「まあね、お土産があるから、あとであげよう」
皮肉を交えたつもりだったが、雑にかわされ、マリアナはムッとした。
「あなた、何しに来たんですか?」
「可愛い後輩に会いにね」
「は?殺そうと思っていても?」
「私はね、ラーラの死も惜しく思っているタイプだよ」
「呆れた」
マリアナはソフィアに敬語を使い、笑顔を貼り付けて取り繕うことが馬鹿らしくなった。
「そういえば、殿下にラーラが私に唆されたって言ったの?」
「言ってないね」
「そう……」
「唆したとは言いきれない。ラーラさんの自己責任の部分も多少はある。あなたも呪うなんて思わなかったでしょう」
「妊娠しているときに告げ口したの。あわよくば流さないかと思ってね」
皇太子妃はできるだけ悪女と思われるような笑顔をした。ソフィアは似合わない顔をしているなと愚かしく思った。
「これは、私のお願いなんだが、これからは大人しく幽閉されててほしいんだよ」
「あら、刺客は送らないわ。お金がバカみたいにかかったのよ」
「刺客もやめてほしいが、そうじゃない」
ソフィアはニッコロ君が怪我をして悲しかったことを思い出し、刺客は迷惑だから本当にやめてほしいと感じたが、今はそれを言いにきたのではないとマリアナの目を見た。
「これから、ちょいちょい会いにいくから、是非模範囚でいてほしい」
「アハハ!あなた馬鹿じゃないの?」
「私は威勢のいい年下が好きでね」
ニヤリとソフィアは薄気味悪く笑った。マリアナは背筋が薄ら寒くなった。
「これ、お土産ね」
「なによ、これ」
「酒だよ。ヤケ酒でもしたらどうかな?」
「……え」
「たまには気を抜くのもいいでしょう。ヤケ酒にはちょっと甘いかもしれないが、味はたしかだよ」
ソフィアはワインボトルをマリアナに押し付け、マリアナから離れた。
「ちょっと待ちなさいよ!!」
「話があるなら次にしてね」
またねーと言って、ソフィアは立ち去った。自分の用が済んだらもうお終いとばかりに、こちらのことは構わず出て行ってしまった。
「バカじゃないの」
自分勝手過ぎるとマリアナは笑った。自然に込み上げてくる笑みだった。
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