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15. プロポーズは慎重に
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キャシーはドーロン伯爵邸の居間にある革張りのソファにゆったりと座った。ソファは金を用いた過剰な装飾のある彫刻とうねりのある曲線が特徴的なデザインで、豪華で壮麗な印象を抱かせる。ソファだけではなく、この家にある家具や調度品など全てキャシーの好みで組み合わされており、もちろん値段に糸目はつけていない。
お気に入りのソファで足を組みながら、キャシーは経験の足りない頭でどうすればダニエルを手に入れられるか考えていた。
ダニエル様はお姉様に邪魔されて、キャシーの言い分を聞いてくれなくて、お姉様のことをなぜか信じ込んでキャシーを邪険にしている、ということは……。
「じゃあ、まずはお姉様から引き離さないと!」
キャシーはピカンと閃いてアランのいる部屋に向かった。
「アラン様、お願いがあるの」
「なんだい?」
アランはにこやかな顔で振り返った。キャシーのお願いを聞くことは彼のよろこびである。
「お父様とお母様にはお話ししたんだけれど……。私と別れてお姉様と結婚するフリをしてほしいの」
「何?」
アランはあのアナスタシアと夫婦の真似事でさえすることはは不愉快であった。そして、何より愛しいキャシーと離れることに想像だけでも耐え難い苦痛を感じていた。
「お姉様が分不相応にダニエル様と仲良くしていらっしゃるじゃない?弁えさせたいのよ」
「だが、僕が君と別れる必要があるのか?」
「ふふふ、ちょっとの間だけよ」
「だが……」
キャシーの言い分に辛うじて納得したが、アランは彼女と一時でも夫婦生活を断ちたくはなかった。
「私のお願い聞いてくださらないの?私を愛してない?」
キャシーはアランに縋りつき、目をうるうるさせて見つめた。
「……愛しているよ」
アランは愛しい妻を抱きしめ、柔らかな髪を撫でた。
「わかった。でも、僕たちはまた夫婦に戻れるんだよね」
アランはしかと念押しをした。
「ええ、もちろん」
キャシーはその気もないのににっこり笑いかけた。
アランはその日のお昼休みにアナスタシアの研究室に向かった。愛しいキャシーのお願い事ははすぐに行動に移しているのだ。ちなみに、仕事のサイクルが決まっている人間は同じ時間にお昼休みがある。つまり、アランやダニエルの休憩時間は同じタイミングである。
「僕と結婚しろ!!!」
アランは研究室に入るやいなや、大きな声で叫んだ。アナスタシアと当然のようにいるダニエルがうるさそうに顔を顰めた。
「嫌です!」
アナスタシアはスッパリ断り、焼きそばをほうばった。ダニエルは会話をする気がないアナスタシアに代わって、アランのあしらいをすることにした。
「君の奥方はどうするつもりだ?」
「お前の知ったことか?君のご両親は認めているんだぞ!!」
「ん~?」
アナスタシアはおいしい焼きそばに夢中になりながら、面倒なことになったなと困り果てた。
「お前のような冷たい女と結婚してやると言っているんだ!ありがたく思ってほしいものだな!!」
「へえー、そう。うるさいからどっか行ってくれないか」
ダニエルは有無を言わさず、アランを転移魔法でここら辺職場じゃないかなぁというところに飛ばした。正しいかどうかはわからない。結婚しろという言葉は聞き捨てならなかったようだ。
「冷たい女ね……。そういえば、妹さんも似たようなこと言っていたな」
アラン達の態度を棚に上げてよく言えたものだとダニエルは憤った。アナスタシアが冷たい女ではないとダニエルはよく知っていた。
「前に、彼からもらったものを妹に奪われたことがあったんです。それをアレはもらったと伝えたらしくて……。それ以来、冷たいとか人間じゃないとか言ってきますね」
「へえ、そうなんだ」
アナスタシアはアランとキャシーのフォローをしたようだ。家族としての情があるのだろうか。
ダニエルはアナスタシアが妹やアランに干渉される度に少しずつ疲弊しているように感じていた。よりによって結婚とアランが言い出すとは思わず、ひどく動揺していた。このままではいけないとダニエルを焦らせた。
「あの、アナスタシアさん、俺と結婚しない?」
「え?」
ダニエルはアナスタシアに跪いて、プロポーズをした。
「あんな奴らともう付き合わなくて済むよ。少なくとも今よりはね」
ダニエルはアナスタシアが彼女の家族に煩わされる姿を見たくなかった。今まではなあなあで済んでいたのかもしれないが、アランと結婚させようなどとしてくるということはそうもいかなくなるかもしれない。
「そもそも、俺がここに通い出したから、妹さんが嫉妬して面倒なことになっているんだ」
アナスタシアの手を握りしめて、申し訳なさそうにダニエルは俯いた。
「……私はダニエルさんにそんな理由で結婚してほしくありません」
アナスタシアは食べかけの焼きそばを置いた。そして、ダニエルと焼きそばを置き去りにして客室から研究室に引き籠った。
アナスタシアは彼の弟、ジョージが兄は両親に憧れて好きな人と結婚したい考えているみたいですという言っていたことを思い返していた。両親を見て結婚に対してそのような理想を持てることは素敵だなとアナスタシアは感じている。
だからこそ、アナスタシアはダニエルに同情なんかで結婚をしてほしくなかった。
お気に入りのソファで足を組みながら、キャシーは経験の足りない頭でどうすればダニエルを手に入れられるか考えていた。
ダニエル様はお姉様に邪魔されて、キャシーの言い分を聞いてくれなくて、お姉様のことをなぜか信じ込んでキャシーを邪険にしている、ということは……。
「じゃあ、まずはお姉様から引き離さないと!」
キャシーはピカンと閃いてアランのいる部屋に向かった。
「アラン様、お願いがあるの」
「なんだい?」
アランはにこやかな顔で振り返った。キャシーのお願いを聞くことは彼のよろこびである。
「お父様とお母様にはお話ししたんだけれど……。私と別れてお姉様と結婚するフリをしてほしいの」
「何?」
アランはあのアナスタシアと夫婦の真似事でさえすることはは不愉快であった。そして、何より愛しいキャシーと離れることに想像だけでも耐え難い苦痛を感じていた。
「お姉様が分不相応にダニエル様と仲良くしていらっしゃるじゃない?弁えさせたいのよ」
「だが、僕が君と別れる必要があるのか?」
「ふふふ、ちょっとの間だけよ」
「だが……」
キャシーの言い分に辛うじて納得したが、アランは彼女と一時でも夫婦生活を断ちたくはなかった。
「私のお願い聞いてくださらないの?私を愛してない?」
キャシーはアランに縋りつき、目をうるうるさせて見つめた。
「……愛しているよ」
アランは愛しい妻を抱きしめ、柔らかな髪を撫でた。
「わかった。でも、僕たちはまた夫婦に戻れるんだよね」
アランはしかと念押しをした。
「ええ、もちろん」
キャシーはその気もないのににっこり笑いかけた。
アランはその日のお昼休みにアナスタシアの研究室に向かった。愛しいキャシーのお願い事ははすぐに行動に移しているのだ。ちなみに、仕事のサイクルが決まっている人間は同じ時間にお昼休みがある。つまり、アランやダニエルの休憩時間は同じタイミングである。
「僕と結婚しろ!!!」
アランは研究室に入るやいなや、大きな声で叫んだ。アナスタシアと当然のようにいるダニエルがうるさそうに顔を顰めた。
「嫌です!」
アナスタシアはスッパリ断り、焼きそばをほうばった。ダニエルは会話をする気がないアナスタシアに代わって、アランのあしらいをすることにした。
「君の奥方はどうするつもりだ?」
「お前の知ったことか?君のご両親は認めているんだぞ!!」
「ん~?」
アナスタシアはおいしい焼きそばに夢中になりながら、面倒なことになったなと困り果てた。
「お前のような冷たい女と結婚してやると言っているんだ!ありがたく思ってほしいものだな!!」
「へえー、そう。うるさいからどっか行ってくれないか」
ダニエルは有無を言わさず、アランを転移魔法でここら辺職場じゃないかなぁというところに飛ばした。正しいかどうかはわからない。結婚しろという言葉は聞き捨てならなかったようだ。
「冷たい女ね……。そういえば、妹さんも似たようなこと言っていたな」
アラン達の態度を棚に上げてよく言えたものだとダニエルは憤った。アナスタシアが冷たい女ではないとダニエルはよく知っていた。
「前に、彼からもらったものを妹に奪われたことがあったんです。それをアレはもらったと伝えたらしくて……。それ以来、冷たいとか人間じゃないとか言ってきますね」
「へえ、そうなんだ」
アナスタシアはアランとキャシーのフォローをしたようだ。家族としての情があるのだろうか。
ダニエルはアナスタシアが妹やアランに干渉される度に少しずつ疲弊しているように感じていた。よりによって結婚とアランが言い出すとは思わず、ひどく動揺していた。このままではいけないとダニエルを焦らせた。
「あの、アナスタシアさん、俺と結婚しない?」
「え?」
ダニエルはアナスタシアに跪いて、プロポーズをした。
「あんな奴らともう付き合わなくて済むよ。少なくとも今よりはね」
ダニエルはアナスタシアが彼女の家族に煩わされる姿を見たくなかった。今まではなあなあで済んでいたのかもしれないが、アランと結婚させようなどとしてくるということはそうもいかなくなるかもしれない。
「そもそも、俺がここに通い出したから、妹さんが嫉妬して面倒なことになっているんだ」
アナスタシアの手を握りしめて、申し訳なさそうにダニエルは俯いた。
「……私はダニエルさんにそんな理由で結婚してほしくありません」
アナスタシアは食べかけの焼きそばを置いた。そして、ダニエルと焼きそばを置き去りにして客室から研究室に引き籠った。
アナスタシアは彼の弟、ジョージが兄は両親に憧れて好きな人と結婚したい考えているみたいですという言っていたことを思い返していた。両親を見て結婚に対してそのような理想を持てることは素敵だなとアナスタシアは感じている。
だからこそ、アナスタシアはダニエルに同情なんかで結婚をしてほしくなかった。
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