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3. ハンバーグは家庭の味

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 ダニエルは、たいていのことはちょっと頑張ればできると考えていた。しかし、今、世の中はそんなに甘くないとひしひし感じている。アナスタシアのバリアに手も足も出ないのだ。なんとなくわかってきたと思っても遠ざかっていくような感覚だった。
 今日も懲りずにダニエルはアナスタシアの元を訪れ、バリア破りの挑戦をしている。
「これでもだめ……?」
「私、バリアは得意なんですよ」
 アナスタシアはふふんと胸を張った。昔からよくやっていたため、バリア上手を自負していた。
「そういえば、ダニエルさんはお暇なんですか?」
 アナスタシアはダニエルがよく来ているけれど大丈夫かなと心配していた。皇太子の護衛とやらは忙しくないのかと不思議に感じている。
「えっと、今は休み時間なんだ。仕事してる時はしてるよ。の~んびりとね」
 平気平気!とダニエルは笑った。アナスタシアは本当かなと疑問に感じたが、まあいっかと他人事のように思った。
「アナスタシアさんは今何してるの?」
「今は海水を飲み水にするために、なにかできないかなぁと研究してます」
「へえー、おもしろそうだね」
「ええ、そうなんです!どんな水でも飲めたら便利ですからね」
「なるほど?」
 ダニエルはたしかに便利ではあるとは思うが、そこまでわくわくすることかなと感じ、ピンとこなかった。
「他にはどんなことしてるの?」
「他は……、かなり前から木を料理に変換する魔法を研究していますが、これがなかなか難しい」
「おいしくない感じ?」
「ええ、一応できたはできたんですが、めっちゃ木の味しかしない」
 子どもの頃から拙いながらも定期的に実験を行っていた。その積み重ねの結果、見た目はそこそこの料理ができていたが、味はひどいものだった。アナスタシアは先日試食した味を思い出し、やや気分が滅入った。
「アナスタシアさんは料理とかする?」
「したことありません」
「できる過程とか見た方がよくない?」
「……たしかにそうですね」
 アナスタシアは実際に作る過程をイメージすることはなかったため、新しい発想だと感じた。
「俺が見せようか?」
「いいんですか?」
「うん、もちろん。ここに台所はある?」
「ごめんなさい、ありません」
「じゃあ、厨房の方に行こうか」
 ダニエルがいつも使わせてもらっているところがあると言って、歩き出した。
「何作ろうかな。いつもお昼とかは何食べてるの?」
「……え?」
「もしかして、抜いてる感じかな」
「ええ、まあ、はい」
 アナスタシアは不規則な生活を送っていた。最低限の睡眠と必要な栄養をとればよいと大変不摂生で不健全な日常を邁進していた。
「好きな料理はある?」
「そうですね……」
 アナスタシアは深く考え込んだが、なかなか答えが出なかった。
「食べられない物とか嫌いな物はある?」
「いえ、特にありません」
「そっか~。お腹はどう、空いてる?」
「まあ、そこそこ」
 ならよかったとダニエルはにこにこ笑った。
「そういえば、木で何の料理作ろうと思ったの?」
「ハンバーグです」
 木もハンバーグも茶色であるため、なんとかならないかなとアナスタシアは子ども心に思ったのだった。
「へぇ、今日時間はある?」
「ええ、大丈夫です」
「じゃあ、ハンバーグを作ろうかな」
 玉ねぎとひき肉はあったはずとダニエルは冷蔵庫の中身を思い出した。そうこう話している間にダニエルが使い込んでいる厨房に着いた。
「じゃあ、やろうか」
「お手伝いしても?」
「うん。お願いね」
 ダニエルは手早く料理を始めた。
 玉ねぎをみじん切りにし、飴色になるまで炒め、しばらく置く。玉ねぎの粗熱が取れたら、肉、卵、牛乳、パン粉、ナツメグ、塩、砂糖、こしょうを加えて、ねっちゃねっちゃと混ぜ合わせる。タネが出来上がったら、作る個数分に分けて、その一つを手に取り、楕円形に軽くまとめる。そして、片手から片手へ軽く投げるようにして、タネの中の空気を抜く。最後に、タネの中央部分をへこませ、油を引いたフライパンの上にハンバーグを並べて中まで火が通るように焼く。ハンバーグソースはケチャップとソースを同じ割合で混ぜ合わせる。
「焼けたよ~」
「美味しそうですね」
 肉の匂いを感じて、アナスタシアはお腹が空いてきた。
「料理お上手なんですね」
「母の趣味が料理で、よく教えてもらっていたんだ」
「そうなんですか」
 アナスタシアは自分の母親が料理をする人なのか、趣味は何か知らなかった。
「素敵なお母様ですね」
「そうでしょ~!」
 ダニエルは母のことを侯爵夫人なのにきびきび働いてるの~と馬鹿にされることが多少あったため、アナスタシアに素敵だと言われ、嬉しく感じた。
「よし、じゃあ食べようか」
 ダニエルがそこら辺にあった綺麗な皿にハンバーグを盛り付けた。
「おいしい……」
 ナツメグの味がしっかりとあり、肉汁がジュワッと滲み出ている。アナスタシアは久しぶりに美味しいもの食べたなと思った。おいしすぎて目頭が熱くなるほどだった。
「そんなにおいしい?」
「はい!」
「そっか、ありがとう」
 アナスタシアは口角を少し上げ、感慨深そうに目を細めている。ダニエルはおいしそうに食べてもらってうれしいなぁと微笑ましく思った。いっぱい食べな~と愛おしい気分になった。
「今度、バリア破りに付き合ってもらっているお礼に、なんか作って持って行くね」
「……いいんですか?」
「もちろん、俺も料理するのは好きなんだ」
 アナスタシアさんがいなかったら俺が食べるよとダニエルはにこにこ笑った。





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