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2.憂鬱
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衝撃的な出来事を聞いてしまったせいで、昨日は一睡もできなかった。
私の心を憂鬱にさせる原因は、失恋の痛手でもなければ、嫌な相手との強制的な婚約でもない。
その二つも本来であれば悩むべき大きな問題であるが、それ以上に私の頭を悩ませている問題が他にも存在しているからだ。
(どうして、ブルーノ様なの……。こんなの、酷すぎる……)
思い出すと私は表情を歪め、掌をぎゅっときつく握りしめる。
私は初恋だけではなく、もしかしたら親友すらも失ってしまうのではないだろうか。
そう思うと、怖くてたまらなかった。
私は現在十八歳で、王立学園に通う三年生だ。
カタリーナとの出会いは、今から三年ほど前。
入学したばかりの頃だった。
偶然、廊下でぶつかってしまい、そこで初めて彼女と会話した。
普段であれば、私が王弟の息女と分かると、皆そこで逃げるように去っていく。
なぜなら、私は内気すぎるゆえに、不愛想だと周りからは勝手に恐れられているからだ。
だけど、カタリーナは違った。
その後も、私に普通に話しかけてくるし、最初は付き纏われている感じがして、とても落ち着かなかった。
しかし、次第に彼女の態度が周りとは少し違うことに気づく。
カタリーナは私には一切気を遣うような態度を見せなかった。
最初はそれに戸惑うことも多かったが、同じクラスと言うことで一緒にいる機会も増え、次第に私の心も打ち解けていった。
初めてできた同性の友達。
彼女と出会ったことで、少しづつではあるけど、私の内気な性格も直すことができているのかもしれない。
私はこの性格を直したいと思っていたので、カタリーナとの出会いに感謝していた。
この王立学園を卒業した後も、彼女との関係を続けて行きたいと思っているくらいに。
それなのに……。
(この婚約は私の意思ではなく、王家が勝手に決めたもの。カタリーナも貴族なんだし、きっと分かってくれるよね……)
カタリーナは私が幼い頃からずっとランベルトに片思いしていることを知っている。
だから、分かってもらえるはずだと私は信じることにした。
ランベルトの婚約や、私とブルーノの婚約についてはまだ公にされていない。
そのため、いくら親友であっても勝手に口外することなできなかった。
しかし、私にとってはそれが少しの猶予に思えて、僅かにほっとしていた。
少し、心の整理をする時間が欲しかった。
***
学園に到着すると、私は重い足取りで廊下を歩いていた。
幾分の猶予があるにしても、沈んだ気持ちを元に戻すほどの効果はないようだ。
「ヘレナ、おはよう」
「……っ、おはようございます、ランベルト様」
突然声をかけられて、私は反射するように顔を上げる。
そこにはランベルトが立っていて、その表情はいつも通り優しかったが、どことなく元気がなさそうにも感じた。
「少し、話がある。いいかな?」
「……はい」
私はカタリーナのことばかり頭を悩ませていたが、ランベルトを目の前にすると、急に胸の奥が抉られるように苦しくなる。
『この人とは結ばれることはない』
そう、はっきりと分かっていたからだ。
私の心を憂鬱にさせる原因は、失恋の痛手でもなければ、嫌な相手との強制的な婚約でもない。
その二つも本来であれば悩むべき大きな問題であるが、それ以上に私の頭を悩ませている問題が他にも存在しているからだ。
(どうして、ブルーノ様なの……。こんなの、酷すぎる……)
思い出すと私は表情を歪め、掌をぎゅっときつく握りしめる。
私は初恋だけではなく、もしかしたら親友すらも失ってしまうのではないだろうか。
そう思うと、怖くてたまらなかった。
私は現在十八歳で、王立学園に通う三年生だ。
カタリーナとの出会いは、今から三年ほど前。
入学したばかりの頃だった。
偶然、廊下でぶつかってしまい、そこで初めて彼女と会話した。
普段であれば、私が王弟の息女と分かると、皆そこで逃げるように去っていく。
なぜなら、私は内気すぎるゆえに、不愛想だと周りからは勝手に恐れられているからだ。
だけど、カタリーナは違った。
その後も、私に普通に話しかけてくるし、最初は付き纏われている感じがして、とても落ち着かなかった。
しかし、次第に彼女の態度が周りとは少し違うことに気づく。
カタリーナは私には一切気を遣うような態度を見せなかった。
最初はそれに戸惑うことも多かったが、同じクラスと言うことで一緒にいる機会も増え、次第に私の心も打ち解けていった。
初めてできた同性の友達。
彼女と出会ったことで、少しづつではあるけど、私の内気な性格も直すことができているのかもしれない。
私はこの性格を直したいと思っていたので、カタリーナとの出会いに感謝していた。
この王立学園を卒業した後も、彼女との関係を続けて行きたいと思っているくらいに。
それなのに……。
(この婚約は私の意思ではなく、王家が勝手に決めたもの。カタリーナも貴族なんだし、きっと分かってくれるよね……)
カタリーナは私が幼い頃からずっとランベルトに片思いしていることを知っている。
だから、分かってもらえるはずだと私は信じることにした。
ランベルトの婚約や、私とブルーノの婚約についてはまだ公にされていない。
そのため、いくら親友であっても勝手に口外することなできなかった。
しかし、私にとってはそれが少しの猶予に思えて、僅かにほっとしていた。
少し、心の整理をする時間が欲しかった。
***
学園に到着すると、私は重い足取りで廊下を歩いていた。
幾分の猶予があるにしても、沈んだ気持ちを元に戻すほどの効果はないようだ。
「ヘレナ、おはよう」
「……っ、おはようございます、ランベルト様」
突然声をかけられて、私は反射するように顔を上げる。
そこにはランベルトが立っていて、その表情はいつも通り優しかったが、どことなく元気がなさそうにも感じた。
「少し、話がある。いいかな?」
「……はい」
私はカタリーナのことばかり頭を悩ませていたが、ランベルトを目の前にすると、急に胸の奥が抉られるように苦しくなる。
『この人とは結ばれることはない』
そう、はっきりと分かっていたからだ。
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